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初めまして由海広です 前編続き
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とても寒い日の外出だった。
中年の由海広は会社を出て五分で
温かい緑茶を恋しがり体を震わせ、
コートの口を閉じた。
それでも午後の取引に間に合うように
早足で街中を歩いていく。
こちらの取引先は男性が担当者だから
安心して一人で仕事に向かえる。
出来るだけ他人に迷惑掛けたくない。
それが大人のあたりまえだから。
まるでロボットのように堅苦しい
気分で、重苦しい気持ちで
目的地への到着を急いだ。
余裕をもって取引先の会社に着いた。
白くなったスーツの肩に乗った霜を
手の平でぱっぱと払う。
受付で取り次ぎを待ち、いつもの階へ
案内してもらう。手慣れたものだ。
見慣れた部署の扉をノックして開け、
担当者と慣れた挨拶を交わして
ソファーで寛ぐと、ふと見慣れない
人物と目が合った。
固い表情の赤茶の頭髪をした青年。
緊張して表情が凍りついているが、
男の私から見ても格好いい。
イケメンだ。
こういう人はいっぱいモテて、
大好きな恋人がいるんだろうなぁと
心の中でちょっぴりヤキモチ。
担当者がにこやかな笑顔で振り返り、
彼を前に出し、紹介してくれた。
「失礼、こちらは左藤です。
新人ですが、ちゃんとしています。
優沢さんには申し訳ないのですが…
今回の商品のご説明はこの者に一任
させて貰ってもよろしいですか?」
「左藤です!よろしくお願いします!」
ハキハキした礼儀正しいお辞儀。
第一印象はずっと良くなった。
立ち上がり、軽くお辞儀をする。
「もちろんです。お願いします。」
ぱあっ、と子犬のような笑顔を
見せた左藤くんと名刺を交換した。
「ゆさわ…うみひろさんですねっ!」
ん?
「こらっ!左藤!ユミヒロさんだ!
すみません優沢さん、失礼しました。」
「す、すみませんっ…!」
萎縮した彼が慌てて謝った。
取引先二人が頭を深々下げた。
「いえ、よく間違えられるんです。
大丈夫です、気にされないで下さい。
海って呼ばれる方が好きなんですよ。」
初めて挨拶する人にこうやって
説明するのは慣れたものだ。
いつものことだった。
「……っ。」
すると青ざめた表情だった左藤くんが
きょとんと目を丸くした。
そして思い出したように背筋を伸ばす。
「あっ、おれ…僕っ、事前に
ちょっとお話聞いてて、
お茶がお好きなんですよね?
有名なお茶をご用意したんです。」
そう言ってぱたぱたと机の間を縫って
走って行き、そして元気良くお盆を
持って戻ってくる姿は、ちょっと…
取ってこい、してるみたいで可愛い。
癒される…。はっ…!つい。
相手に失礼になってしまうな。
頭を左右に振って邪念を消して
反省した。
「こちらのお茶が、料理店を経営する
友人が一番おすすめするーー」
私の目の前で彼は何かに躓いた。
ひっくり返ったお盆は宙をしばらく
舞い、直接状の私の顔面に命中して
鈍い音を立てた。
「んぶっ!」
そして趣ある湯飲みに入っていた
であろう熱湯を丸ごと受け止めた。
「あつっ…!!」
「…!!!!!」
「なんてことをしてるんだ左藤!!
誰か濡れタオル持ってきてくれ!」
担当者の金切り声を聞いた部署内が
一斉に騒然とする。
「あ、あ…っ。」
顔と膝とが同時に痛くて内心
悶えていたが顔をしかめるだけで
堪える。
転んだ左藤くんは今にも気絶しそうに
真っ青になっていた。
それを見たら痛がってられない。
その間、冷やしタオルを借りて
足を冷やす。
担当者が何度も謝罪してくれた。
「すみません、本当にすみません。
おいこら、左藤!謝罪しなさい!!」
「あっ…!すみません!すみません!
本当に…っ本当にすみません!!」
左藤くんはそのまま土下座をした。
ぎょっとして手を左右に振る。
「大丈夫、大丈夫ですから。
そんなに掛かってませんよ。」
じんじん痛む膝を押さえ、
笑顔を見せた。
土下座を止めるように促すが
左藤くんの腕がカタカタ震えてる。
痛くても別に怒ってなんかないのに。
わざとじゃないことは分かっている。
私なんかに謝らせるのはなんだか
申し訳ない気分になってきた。
つづきます→
中年の由海広は会社を出て五分で
温かい緑茶を恋しがり体を震わせ、
コートの口を閉じた。
それでも午後の取引に間に合うように
早足で街中を歩いていく。
こちらの取引先は男性が担当者だから
安心して一人で仕事に向かえる。
出来るだけ他人に迷惑掛けたくない。
それが大人のあたりまえだから。
まるでロボットのように堅苦しい
気分で、重苦しい気持ちで
目的地への到着を急いだ。
余裕をもって取引先の会社に着いた。
白くなったスーツの肩に乗った霜を
手の平でぱっぱと払う。
受付で取り次ぎを待ち、いつもの階へ
案内してもらう。手慣れたものだ。
見慣れた部署の扉をノックして開け、
担当者と慣れた挨拶を交わして
ソファーで寛ぐと、ふと見慣れない
人物と目が合った。
固い表情の赤茶の頭髪をした青年。
緊張して表情が凍りついているが、
男の私から見ても格好いい。
イケメンだ。
こういう人はいっぱいモテて、
大好きな恋人がいるんだろうなぁと
心の中でちょっぴりヤキモチ。
担当者がにこやかな笑顔で振り返り、
彼を前に出し、紹介してくれた。
「失礼、こちらは左藤です。
新人ですが、ちゃんとしています。
優沢さんには申し訳ないのですが…
今回の商品のご説明はこの者に一任
させて貰ってもよろしいですか?」
「左藤です!よろしくお願いします!」
ハキハキした礼儀正しいお辞儀。
第一印象はずっと良くなった。
立ち上がり、軽くお辞儀をする。
「もちろんです。お願いします。」
ぱあっ、と子犬のような笑顔を
見せた左藤くんと名刺を交換した。
「ゆさわ…うみひろさんですねっ!」
ん?
「こらっ!左藤!ユミヒロさんだ!
すみません優沢さん、失礼しました。」
「す、すみませんっ…!」
萎縮した彼が慌てて謝った。
取引先二人が頭を深々下げた。
「いえ、よく間違えられるんです。
大丈夫です、気にされないで下さい。
海って呼ばれる方が好きなんですよ。」
初めて挨拶する人にこうやって
説明するのは慣れたものだ。
いつものことだった。
「……っ。」
すると青ざめた表情だった左藤くんが
きょとんと目を丸くした。
そして思い出したように背筋を伸ばす。
「あっ、おれ…僕っ、事前に
ちょっとお話聞いてて、
お茶がお好きなんですよね?
有名なお茶をご用意したんです。」
そう言ってぱたぱたと机の間を縫って
走って行き、そして元気良くお盆を
持って戻ってくる姿は、ちょっと…
取ってこい、してるみたいで可愛い。
癒される…。はっ…!つい。
相手に失礼になってしまうな。
頭を左右に振って邪念を消して
反省した。
「こちらのお茶が、料理店を経営する
友人が一番おすすめするーー」
私の目の前で彼は何かに躓いた。
ひっくり返ったお盆は宙をしばらく
舞い、直接状の私の顔面に命中して
鈍い音を立てた。
「んぶっ!」
そして趣ある湯飲みに入っていた
であろう熱湯を丸ごと受け止めた。
「あつっ…!!」
「…!!!!!」
「なんてことをしてるんだ左藤!!
誰か濡れタオル持ってきてくれ!」
担当者の金切り声を聞いた部署内が
一斉に騒然とする。
「あ、あ…っ。」
顔と膝とが同時に痛くて内心
悶えていたが顔をしかめるだけで
堪える。
転んだ左藤くんは今にも気絶しそうに
真っ青になっていた。
それを見たら痛がってられない。
その間、冷やしタオルを借りて
足を冷やす。
担当者が何度も謝罪してくれた。
「すみません、本当にすみません。
おいこら、左藤!謝罪しなさい!!」
「あっ…!すみません!すみません!
本当に…っ本当にすみません!!」
左藤くんはそのまま土下座をした。
ぎょっとして手を左右に振る。
「大丈夫、大丈夫ですから。
そんなに掛かってませんよ。」
じんじん痛む膝を押さえ、
笑顔を見せた。
土下座を止めるように促すが
左藤くんの腕がカタカタ震えてる。
痛くても別に怒ってなんかないのに。
わざとじゃないことは分かっている。
私なんかに謝らせるのはなんだか
申し訳ない気分になってきた。
つづきます→
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