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初めまして由海広です 前編
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「んん…。」
窓から差し込む眩しい朝日に
目をやられ、仕方なく眉にシワを
寄せて目を覚ました。
優沢由海広32歳。
お茶が好きな、白髪に目を背けたい
ごく普通の一般会社の課長だ。
「んー…んん?…。…っ。」
寝返りを打って、身体中の
キスマークに目を落とし一人顔を
赤くして恥ずかしがる。
スーツでギリギリ見えないけど…っ、
際どい場所や気持ちよくて弱いとこに
重点的に目印をつけられている。
「もー…。」
ふてくされたふりをして、
隣で規則正しく寝息を立てる恋人を
そっと見つめる。
彼は心地良さそうにすうすうと
眠っている。
左藤燃夏くん。
私にはもったいない、若くて
かっこいい青年。まだ22歳。
なのに夜はとってもベテランだ。
シーツの下で惜しげもなく
バランスの取れた肉体美が外気に
さらされている。
「……ふふ、」
「んぅ…。」
赤茶の髪の毛を指ですいて撫でる。
くすぐったそうに身をよじる姿が
とてもかわいい。
時計に目をやると、まだ早い。
二度寝も出来る時間だ。
ゆっくりしよう。
彼から背を向けてタバコに火をつけ、
煙で肺を満たす。
口からぷかぁと紫煙を吐き出した。
ふと、昨日は眠る前に
昔を思い出していた。
別に嫌なことがあったわけではない。
きっかけは忘れたけど一度考え出すと
途中で止められなくなった。
あまりいい思い出がないから、
眠れなくなると思っていたけど…
いつの間にか夢を見ていたようだ。
君と初めて出会って話して…
付き合うまでの長い、長い夢だったと
思う。
目を閉じればまだ覚えている。
まず…なんだっけ。
そうそう、眠る前にモカくんと
出会う前の自分のことを思い出して
いたんだっけ。
『「優沢さん、まだ結婚しないの?」
「え?まだ独り身?結婚しないの?」
「結婚してないの?え?なんで?」
一年前、既婚者の多い部署では
度々同じ質問をされてきた。
その度に私は好奇の眼差しで見られ、
苦笑いするしかなかった。
31歳…。結婚してるのが当たり前の
年齢になってしまうのか…。
老いを感じてますます背筋を
丸めていた。
…元々あがり症だった。
人と話せばおどおどして汗をかく。
声は小さく、話せばどもる。
それでも男友達は数人いた。
私を友人の一人と受け入れてくれる
ありがたい友達だった。
しかし…高校生の時にあることが
起きた。
ニキビ面で肩幅があるのに
痩せている。
そんな私は異形だったのだろう。
初めはクラスの女子の一人だった。
「優沢って女を意識しすぎでキモい」
面と向かって言われて驚いた。
苦しさに塞がれて声が出なかった。
「キャハハ頭の中ヤルことで
いっぱいだから母国語しか
話せないんじゃないの~?」
「なにソレウケル。」
「なにソレキモい。」
「ちょ、近づかないで不愉快。」
「あ、あ…あの、あ、いや…。」
そんなことはない、
そんなことなかった。
しかし説明しようと焦れば焦るほど
どもり、避けられる。
歩けば笑い声が絶えない。
私の声なんて聞こえない。
どこにもない。
言葉につまり、何も言えなくなった。
口がキツく縫い合わされたようだ。
今、あの時の彼女たちを
恨むことなんてないが学校中の女子に
軽蔑されるようになってから
私は女性限定で全く話せなくなった。
それは私の心がヨワイせいだ。
不器用な自分が悪いんだ。
情けない自分が大嫌いだった。
友人たちは過去の思い出になった。
誰とも連絡を取っていない。
記録にさえ残っていない。
十年ほど経過した今は男性なら
普通に話せる。
取引先の相手が女性だった場合は…
なんとか口をゆっくり動かして、
脂汗を垂らしながらも
「仕事だから」と割り切って
会話することはできる。
日常会話なんてとてもじゃないけど
無理だ。
話しかけることが出来ない仕事場の
女性に「差別的だ」と嫌われていたが
「私はあがり症」と認識してもらうと
少し、同情してくれるようになった。
気を遣わせて申し訳ない。
私が出来損ないなばかりに。
申し訳ない。
罪悪感を感じるほどに胸が痛む。
口はますます重く閉ざされていった。
迷惑掛けてることに引け目を
感じていた。
だから、自分なりに精一杯努力して
仕事だけはこなしてきた。
他人の仕事をいくつも掛け持ちした。
私にはそれしか出来ない。
それくらいの価値しかない人間だ。
そして、いつの間にか課長になった。
男として達成感はあったが
「少しは迷惑かけなくて済む」という
安堵でいっぱいだった。
何かを成し遂げても努力しても
拭えない劣等感。
弱虫な自分が好きじゃなかった。
「女嫌い」の定着した私が女性から
声を掛けられることは絶対ない。
私からだって絶対声を掛けられない。
同性の部下も同情で優しいばかり。
…女性が嫌いな訳では決してはない。
話しかけることも出来ない私が悪い。
私の心が弱いだけ。私が異常なせい。
だけど私のメンタル面は仕事には
関係ない。
自分の仕事を淡々とこなす日々。
当たり障りのない会話の繰り返し。
否定しない褒め言葉でどうにか
乗り切っていたが、歳を取ると
どうしても…結婚の話がいつでも
まとわりついてきた。
若いときはそんなになかったけど…。
恋人の話もない私はいつもいつでも
沢山の人から質問攻めされていた。
私の心がもっと鋼のように強くて
固くて傷がつかなければいいのにな。
何度も理想の自分に憧れた。
結局「何も変われない」のが
自分なんだ。
自分から意識を改善出来ない。
特待の誰かではない女性に怯え、
被害者意識の強い惨めなイキモノが
私だ。
それなら誰からも、愛されないのは。
『仕方がない。』
そう思うことで自分を納得させた。
淹れたてのお茶がひどく苦く
感じたのをよく覚えている。
ちびちび味わったものだ。』
…なんだか過去に浸っていると
意識がぼやけてきたようだ、眠い…。
冷えてきたので布団の中に潜り込む。
隣に眠る彼の暖かさを感じると、
より鮮明に昔を思い出せる気がする。
眠る前もこうやって無理やり寝たっけ。
それから…彼のことを…考えた…ら…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
…そうだ、あの日午後は取引先との
話があった。それに間に合うように
いつも通りの仕事をしていた。
社会の歯車からはみ出さないから。
許されたかった。
誰でもいいから許して欲しかった。
普通じゃなくてごめんなさい。
普通に出来なくてごめんなさい。
心が弱くてごめんなさい。
毎日何度も何度も、唱えたっけ。
負い目を流したくて、
お茶を飲み干した。
それが…始まりの日。
※訂正期間
おまけイラスト↓
つづきます→
窓から差し込む眩しい朝日に
目をやられ、仕方なく眉にシワを
寄せて目を覚ました。
優沢由海広32歳。
お茶が好きな、白髪に目を背けたい
ごく普通の一般会社の課長だ。
「んー…んん?…。…っ。」
寝返りを打って、身体中の
キスマークに目を落とし一人顔を
赤くして恥ずかしがる。
スーツでギリギリ見えないけど…っ、
際どい場所や気持ちよくて弱いとこに
重点的に目印をつけられている。
「もー…。」
ふてくされたふりをして、
隣で規則正しく寝息を立てる恋人を
そっと見つめる。
彼は心地良さそうにすうすうと
眠っている。
左藤燃夏くん。
私にはもったいない、若くて
かっこいい青年。まだ22歳。
なのに夜はとってもベテランだ。
シーツの下で惜しげもなく
バランスの取れた肉体美が外気に
さらされている。
「……ふふ、」
「んぅ…。」
赤茶の髪の毛を指ですいて撫でる。
くすぐったそうに身をよじる姿が
とてもかわいい。
時計に目をやると、まだ早い。
二度寝も出来る時間だ。
ゆっくりしよう。
彼から背を向けてタバコに火をつけ、
煙で肺を満たす。
口からぷかぁと紫煙を吐き出した。
ふと、昨日は眠る前に
昔を思い出していた。
別に嫌なことがあったわけではない。
きっかけは忘れたけど一度考え出すと
途中で止められなくなった。
あまりいい思い出がないから、
眠れなくなると思っていたけど…
いつの間にか夢を見ていたようだ。
君と初めて出会って話して…
付き合うまでの長い、長い夢だったと
思う。
目を閉じればまだ覚えている。
まず…なんだっけ。
そうそう、眠る前にモカくんと
出会う前の自分のことを思い出して
いたんだっけ。
『「優沢さん、まだ結婚しないの?」
「え?まだ独り身?結婚しないの?」
「結婚してないの?え?なんで?」
一年前、既婚者の多い部署では
度々同じ質問をされてきた。
その度に私は好奇の眼差しで見られ、
苦笑いするしかなかった。
31歳…。結婚してるのが当たり前の
年齢になってしまうのか…。
老いを感じてますます背筋を
丸めていた。
…元々あがり症だった。
人と話せばおどおどして汗をかく。
声は小さく、話せばどもる。
それでも男友達は数人いた。
私を友人の一人と受け入れてくれる
ありがたい友達だった。
しかし…高校生の時にあることが
起きた。
ニキビ面で肩幅があるのに
痩せている。
そんな私は異形だったのだろう。
初めはクラスの女子の一人だった。
「優沢って女を意識しすぎでキモい」
面と向かって言われて驚いた。
苦しさに塞がれて声が出なかった。
「キャハハ頭の中ヤルことで
いっぱいだから母国語しか
話せないんじゃないの~?」
「なにソレウケル。」
「なにソレキモい。」
「ちょ、近づかないで不愉快。」
「あ、あ…あの、あ、いや…。」
そんなことはない、
そんなことなかった。
しかし説明しようと焦れば焦るほど
どもり、避けられる。
歩けば笑い声が絶えない。
私の声なんて聞こえない。
どこにもない。
言葉につまり、何も言えなくなった。
口がキツく縫い合わされたようだ。
今、あの時の彼女たちを
恨むことなんてないが学校中の女子に
軽蔑されるようになってから
私は女性限定で全く話せなくなった。
それは私の心がヨワイせいだ。
不器用な自分が悪いんだ。
情けない自分が大嫌いだった。
友人たちは過去の思い出になった。
誰とも連絡を取っていない。
記録にさえ残っていない。
十年ほど経過した今は男性なら
普通に話せる。
取引先の相手が女性だった場合は…
なんとか口をゆっくり動かして、
脂汗を垂らしながらも
「仕事だから」と割り切って
会話することはできる。
日常会話なんてとてもじゃないけど
無理だ。
話しかけることが出来ない仕事場の
女性に「差別的だ」と嫌われていたが
「私はあがり症」と認識してもらうと
少し、同情してくれるようになった。
気を遣わせて申し訳ない。
私が出来損ないなばかりに。
申し訳ない。
罪悪感を感じるほどに胸が痛む。
口はますます重く閉ざされていった。
迷惑掛けてることに引け目を
感じていた。
だから、自分なりに精一杯努力して
仕事だけはこなしてきた。
他人の仕事をいくつも掛け持ちした。
私にはそれしか出来ない。
それくらいの価値しかない人間だ。
そして、いつの間にか課長になった。
男として達成感はあったが
「少しは迷惑かけなくて済む」という
安堵でいっぱいだった。
何かを成し遂げても努力しても
拭えない劣等感。
弱虫な自分が好きじゃなかった。
「女嫌い」の定着した私が女性から
声を掛けられることは絶対ない。
私からだって絶対声を掛けられない。
同性の部下も同情で優しいばかり。
…女性が嫌いな訳では決してはない。
話しかけることも出来ない私が悪い。
私の心が弱いだけ。私が異常なせい。
だけど私のメンタル面は仕事には
関係ない。
自分の仕事を淡々とこなす日々。
当たり障りのない会話の繰り返し。
否定しない褒め言葉でどうにか
乗り切っていたが、歳を取ると
どうしても…結婚の話がいつでも
まとわりついてきた。
若いときはそんなになかったけど…。
恋人の話もない私はいつもいつでも
沢山の人から質問攻めされていた。
私の心がもっと鋼のように強くて
固くて傷がつかなければいいのにな。
何度も理想の自分に憧れた。
結局「何も変われない」のが
自分なんだ。
自分から意識を改善出来ない。
特待の誰かではない女性に怯え、
被害者意識の強い惨めなイキモノが
私だ。
それなら誰からも、愛されないのは。
『仕方がない。』
そう思うことで自分を納得させた。
淹れたてのお茶がひどく苦く
感じたのをよく覚えている。
ちびちび味わったものだ。』
…なんだか過去に浸っていると
意識がぼやけてきたようだ、眠い…。
冷えてきたので布団の中に潜り込む。
隣に眠る彼の暖かさを感じると、
より鮮明に昔を思い出せる気がする。
眠る前もこうやって無理やり寝たっけ。
それから…彼のことを…考えた…ら…
ーーーーーーーーーーーーーーーー
…そうだ、あの日午後は取引先との
話があった。それに間に合うように
いつも通りの仕事をしていた。
社会の歯車からはみ出さないから。
許されたかった。
誰でもいいから許して欲しかった。
普通じゃなくてごめんなさい。
普通に出来なくてごめんなさい。
心が弱くてごめんなさい。
毎日何度も何度も、唱えたっけ。
負い目を流したくて、
お茶を飲み干した。
それが…始まりの日。
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