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幸せな執事になるまでに episode 9
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インターネットというのは非常に便利だ。
世間知らずの音句だってそう感じた。
便利である故に、いくつか注意事項も
定められたけど見る分には、不自由しない。
知識だけなら読書をするよりもずっと早く
調べることが出来るんだ。
特にウ⚫キというページの情報量がすごい。
何だって知りたいことを教えてくれる。
電話を使えるだけではなくメールも送れる。
生まれて初めて電子メールを見たのは大きな
パソコンから送信されるもので感激したのに
こんな小さな板に指で触れるだけで…?
驚くばかりだ。
夜、ベッドに潜ると環路さんの提案で
八観さんともグループでメールを送り合う
仲になり、交流が深まりとっても楽しい。
環路さんが教えてくれた、「たっぷ速度」を
上げるためのミニゲームがとても面白い。
休憩の時間も携帯に夢中になっていたので
あっさり使用制限時間を設けられた。
メール確認も含め、一日二時間…。
仕事が疎かになる恐れがあるので納得だ。
誘惑に負けそうになると府梶さんが新しい
仕事を与えてくれるので携帯の件はキレイに
忘れて仕事に目一杯、集中した。
旦那様に雇用されてから二ヶ月が経つ。
以前、人目を避けて倉庫に隠れて惨めに
生き長らえ、雨に凍えて一挙一動に怯える
弱気な少年の姿は見られない。
大きな屋敷に雇われて少しずつではあるが、
任された仕事に誇りを持って真面目に
取り組む眉のキリッとした青年が働いている。
元々記憶力の良さと、真面目さに秀でた
音句を年長の府梶が上手に指導することで
見違えるほど青年は立派になっていた。
ミスをしても誰も青筋を立てて怒鳴らない。
そんな穏やかな環境が臆病な音句の才能を
伸び伸びと育ませてくれた。
最初は厳しいばかりの顔色だった府梶も
ここ数日は特に、笑顔のようなものを
浮かべて青年を認めつつあるようだった。
しかし、まだ気を許す時間ではない。
屋敷の小さな郵便受けに一通の手紙が届く。
南の島の浜辺の様子が写った潮の香りのする
綺麗な絵はがきだった。
内容は…旦那様が、そろそろ帰ってくる。
そういうものだった。
手紙は人から人へバケツリレーで伝わって
すぐに音句の耳にも届いた。
初めは分からず呆けた様子の音句だったが、
厳格を取り戻した先輩の府梶の表情を見て
大事であることを察した。
それから案の定、仕事終わりに府梶に
控え室へ来るようにと呼び出された。
明瞭ではない試練に対して掴み所のない
覚悟を決めて…部屋に入る。
「失礼します。」
心なしか声が上ずっていた。
「お疲れ様です。仕事の報告上々でした。」
「あっ、ありがとうございます。」
褒め言葉には弱く、すぐ喜びが顔に出る。
府梶さんは笑っていなかった。
「連絡はされていますね?出張されていた
旦那様がそろそろ帰っていらっしゃると。」
「はい…今朝、聞きました。」
彼らしからぬソワソワとした動きに
僕もつられて胸がざわざわ騒いでる。
オホン、と短い咳払いが静寂を裂く。
「ええ、わたしから見てもあなたの仕事は
まあまあ…。出来てる方だと評価します。
ですが覚えていますか?わたしがあなたに
任せたいのは屋敷の仕事ではなく旦那様の
専属の執事です。」
「も、もちろん覚えています!」
慌ててそう答えた。
決して忘れた訳じゃないけど、雑務が忙しく
正直に言えば「多少忘れてた」。
言い直そうか、とウソバレバレの表情で
視線を泳がせていると府梶さんが続けた。
「ご存知の通り旦那様は優しい人です。
非常にアグレッシブな部分もありますが
基本は穏やかで非力な紳士です。」
「は、はい…。」
確かに、話した時間は一日もないけれど
旦那様を体現した的確な表現に頷いた。
「しかし表向きの旦那様は大企業の会長。
付き従う人間はなるべく立派でなくては
なりません。沢山の偉人の前に姿を現す、
あなたの姿勢は旦那様の威信に関わります。
旦那様に恥をかかせるのはそれだけで重罪な
行為であることをゆめゆめ忘れぬように。」
感情のない声が、僕の胸に突き刺さる。
「じゅ、じゅうざい…っ!?」
言葉の重みだけで胸が潰れそう。
急に酸素が薄くなって息が出来なくなる。
苦しくて胃が痛くて、今にも吐きそう…!
強いストレスで、噛み合わせた歯の隙間を
カチカチ鳴らして怯えていると…。
「…なんて気にせずに普段通りしなさい。」
「………ひゃい?」
「リラックスしましたか?」
「…ひょえ?」
脳の働きが全て停止した。
府梶さんは間抜けになった僕の顔を見て
何故かニコッと笑う。
「わたしに恥をかかせるなら一生を
雑用としてこき使ってあげますから。」
「?…?…?」
なんだろう、この間の抜けた空気…?
張り詰めた緊張が一気に緩む。
「それじゃあ、お疲れ様でした。」
「……。」
部屋には一人、困惑して目を点にした
僕が残されていた。
もしかして、ここまでが作戦通りなの?
時々、府梶さんの突然の茶目っ気は、
旦那様譲りではないかと錯覚してしまう。
心臓にすごく悪い…。
お陰さまで気が緩んだけれど複雑な気持ちで
旦那様のお帰りを待つ。
休まらないことは、確かだけどこれくらいが
丁度いいかもしれないと思った。
少しだけ大人になった音句は笑顔を浮かべる
余裕さえ醸し出して、仕事に臨む。
世間知らずの音句だってそう感じた。
便利である故に、いくつか注意事項も
定められたけど見る分には、不自由しない。
知識だけなら読書をするよりもずっと早く
調べることが出来るんだ。
特にウ⚫キというページの情報量がすごい。
何だって知りたいことを教えてくれる。
電話を使えるだけではなくメールも送れる。
生まれて初めて電子メールを見たのは大きな
パソコンから送信されるもので感激したのに
こんな小さな板に指で触れるだけで…?
驚くばかりだ。
夜、ベッドに潜ると環路さんの提案で
八観さんともグループでメールを送り合う
仲になり、交流が深まりとっても楽しい。
環路さんが教えてくれた、「たっぷ速度」を
上げるためのミニゲームがとても面白い。
休憩の時間も携帯に夢中になっていたので
あっさり使用制限時間を設けられた。
メール確認も含め、一日二時間…。
仕事が疎かになる恐れがあるので納得だ。
誘惑に負けそうになると府梶さんが新しい
仕事を与えてくれるので携帯の件はキレイに
忘れて仕事に目一杯、集中した。
旦那様に雇用されてから二ヶ月が経つ。
以前、人目を避けて倉庫に隠れて惨めに
生き長らえ、雨に凍えて一挙一動に怯える
弱気な少年の姿は見られない。
大きな屋敷に雇われて少しずつではあるが、
任された仕事に誇りを持って真面目に
取り組む眉のキリッとした青年が働いている。
元々記憶力の良さと、真面目さに秀でた
音句を年長の府梶が上手に指導することで
見違えるほど青年は立派になっていた。
ミスをしても誰も青筋を立てて怒鳴らない。
そんな穏やかな環境が臆病な音句の才能を
伸び伸びと育ませてくれた。
最初は厳しいばかりの顔色だった府梶も
ここ数日は特に、笑顔のようなものを
浮かべて青年を認めつつあるようだった。
しかし、まだ気を許す時間ではない。
屋敷の小さな郵便受けに一通の手紙が届く。
南の島の浜辺の様子が写った潮の香りのする
綺麗な絵はがきだった。
内容は…旦那様が、そろそろ帰ってくる。
そういうものだった。
手紙は人から人へバケツリレーで伝わって
すぐに音句の耳にも届いた。
初めは分からず呆けた様子の音句だったが、
厳格を取り戻した先輩の府梶の表情を見て
大事であることを察した。
それから案の定、仕事終わりに府梶に
控え室へ来るようにと呼び出された。
明瞭ではない試練に対して掴み所のない
覚悟を決めて…部屋に入る。
「失礼します。」
心なしか声が上ずっていた。
「お疲れ様です。仕事の報告上々でした。」
「あっ、ありがとうございます。」
褒め言葉には弱く、すぐ喜びが顔に出る。
府梶さんは笑っていなかった。
「連絡はされていますね?出張されていた
旦那様がそろそろ帰っていらっしゃると。」
「はい…今朝、聞きました。」
彼らしからぬソワソワとした動きに
僕もつられて胸がざわざわ騒いでる。
オホン、と短い咳払いが静寂を裂く。
「ええ、わたしから見てもあなたの仕事は
まあまあ…。出来てる方だと評価します。
ですが覚えていますか?わたしがあなたに
任せたいのは屋敷の仕事ではなく旦那様の
専属の執事です。」
「も、もちろん覚えています!」
慌ててそう答えた。
決して忘れた訳じゃないけど、雑務が忙しく
正直に言えば「多少忘れてた」。
言い直そうか、とウソバレバレの表情で
視線を泳がせていると府梶さんが続けた。
「ご存知の通り旦那様は優しい人です。
非常にアグレッシブな部分もありますが
基本は穏やかで非力な紳士です。」
「は、はい…。」
確かに、話した時間は一日もないけれど
旦那様を体現した的確な表現に頷いた。
「しかし表向きの旦那様は大企業の会長。
付き従う人間はなるべく立派でなくては
なりません。沢山の偉人の前に姿を現す、
あなたの姿勢は旦那様の威信に関わります。
旦那様に恥をかかせるのはそれだけで重罪な
行為であることをゆめゆめ忘れぬように。」
感情のない声が、僕の胸に突き刺さる。
「じゅ、じゅうざい…っ!?」
言葉の重みだけで胸が潰れそう。
急に酸素が薄くなって息が出来なくなる。
苦しくて胃が痛くて、今にも吐きそう…!
強いストレスで、噛み合わせた歯の隙間を
カチカチ鳴らして怯えていると…。
「…なんて気にせずに普段通りしなさい。」
「………ひゃい?」
「リラックスしましたか?」
「…ひょえ?」
脳の働きが全て停止した。
府梶さんは間抜けになった僕の顔を見て
何故かニコッと笑う。
「わたしに恥をかかせるなら一生を
雑用としてこき使ってあげますから。」
「?…?…?」
なんだろう、この間の抜けた空気…?
張り詰めた緊張が一気に緩む。
「それじゃあ、お疲れ様でした。」
「……。」
部屋には一人、困惑して目を点にした
僕が残されていた。
もしかして、ここまでが作戦通りなの?
時々、府梶さんの突然の茶目っ気は、
旦那様譲りではないかと錯覚してしまう。
心臓にすごく悪い…。
お陰さまで気が緩んだけれど複雑な気持ちで
旦那様のお帰りを待つ。
休まらないことは、確かだけどこれくらいが
丁度いいかもしれないと思った。
少しだけ大人になった音句は笑顔を浮かべる
余裕さえ醸し出して、仕事に臨む。
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