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閑話(おまけ)
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ある晴れた昼下がりのこと。
明里のバイト先ではランチタイムが終わり店内はゆったりとしたムードが漂っていた。まかないを食べようと明里は用意されたプレートを持って店内の仕切られたスペースに向かうと、そこにはすでに先客がいた。
「明里ちゃんも休憩?」
「あ、はい、お邪魔してもいいですか?」
「あぁ、ごめん。どうぞどうぞ」
明里を見ると辰巳はテーブルの上を片付けてスペースをあけてくれた。机の上にはまかないのプレートと、プリントアウトした紙がたくさん広げられていた。休憩中にもかかわらず辰巳は卒論の作業をしているようだった。
「やっぱり卒論大変そうですね……?」
「うーん、そういう学部に入っちゃったからね。明里ちゃんはないんだっけ?」
「はい、卒論はないんですけど、研究発表はあるので……。それが卒業課題みたいなものですけど」
明里の通う大学の社会学部では卒論提出はない。というのも、卒論提出の時期が年明けということもあり、そこで気が抜けて単位を落とす人が年々増えていたからだと言う。ならば後期の授業に研究発表をしてそれを卒論相当に当てようということになっていた。そういう学部は増えているらしい。
「そういえば、灯くんとはどう? うまくいってる?」
「あ……その節は、ご迷惑をおかけしました」
「いいよいいよ。うまくいってるなら何より。それに、灯くん、よく一人でここに来てたしねぇ」
「えっ?」
「あれ、知らなかった?」
「初耳です……」
いつだったか明里が遊びに来て、と誘った時に灯は時間ができたらと答えていた。それなのにここに来ていただなんて。それに、来ていたなら明里と会っていたとしてもおかしくないはずた。
「明里ちゃんには知られたくなかったのかなぁ」
「あ、だから先輩もしかして……」
「そう。話しかけられた時に「あ、この子は」ってわかったんだよね。ちょっと面白い子だったから覚えてて」
そう笑った辰巳の口から語られてきたのは灯がここに来ていた時の様子だった。
『いらっしゃいませ。ただいまの時間全席禁煙ですがよろしいですか?』
『あ、はい』
辰巳が接客をしたのは一人の男子大学生だった。どこか疲れた表情をしていたがしきりに店内をキョロキョロと見渡していた。まだ夕方のカフェタイムの時間だったため席は好きなところを選んでもらってかまないと告げると、灯は店の端っこに座ったのだという。
『ご注文がお決まりになりましたらお呼びください』
水とおしぼりをテーブルの上に置いてメニューを差し出すと、最初はそのメニューをじっと見つめていた。けれど、しばらくするとそのメニューに突っ伏すようにして寝ていたのだ。
『お客さま、大丈夫ですか? ご気分でも悪いのでしたら……』
『カフェラテ、ください』
肩を揺すって起こすと、注文をして、また机に突っ伏してしまったのだと言う。
「あれほど疲れた学生見たことなかったからね。幸い混んでなかったし、そのままにしておいたんだけど」
「それは……またご迷惑を……」
「いやいや、灯くんもお会計の時にものすごい勢いで謝ってたから、悪い子じゃないんだろうなぁとは思ったしね」
「そう言ってもらえると……ありがたいです……」
明里は恐縮しきりでまかないのプレートに手を伸ばした。辰巳はそんな様子の明里を見ながらふっと笑みを漏らしてしまう。
(面白いのは明里ちゃんもだけどね――)
あのときは好きだと思っていたのに今では妹のように感じていた。
辰巳はうらやましいなぁと思いながら、今は前の前の論文に集中しようと、レポート用紙に視線を落としたのだった。
明里のバイト先ではランチタイムが終わり店内はゆったりとしたムードが漂っていた。まかないを食べようと明里は用意されたプレートを持って店内の仕切られたスペースに向かうと、そこにはすでに先客がいた。
「明里ちゃんも休憩?」
「あ、はい、お邪魔してもいいですか?」
「あぁ、ごめん。どうぞどうぞ」
明里を見ると辰巳はテーブルの上を片付けてスペースをあけてくれた。机の上にはまかないのプレートと、プリントアウトした紙がたくさん広げられていた。休憩中にもかかわらず辰巳は卒論の作業をしているようだった。
「やっぱり卒論大変そうですね……?」
「うーん、そういう学部に入っちゃったからね。明里ちゃんはないんだっけ?」
「はい、卒論はないんですけど、研究発表はあるので……。それが卒業課題みたいなものですけど」
明里の通う大学の社会学部では卒論提出はない。というのも、卒論提出の時期が年明けということもあり、そこで気が抜けて単位を落とす人が年々増えていたからだと言う。ならば後期の授業に研究発表をしてそれを卒論相当に当てようということになっていた。そういう学部は増えているらしい。
「そういえば、灯くんとはどう? うまくいってる?」
「あ……その節は、ご迷惑をおかけしました」
「いいよいいよ。うまくいってるなら何より。それに、灯くん、よく一人でここに来てたしねぇ」
「えっ?」
「あれ、知らなかった?」
「初耳です……」
いつだったか明里が遊びに来て、と誘った時に灯は時間ができたらと答えていた。それなのにここに来ていただなんて。それに、来ていたなら明里と会っていたとしてもおかしくないはずた。
「明里ちゃんには知られたくなかったのかなぁ」
「あ、だから先輩もしかして……」
「そう。話しかけられた時に「あ、この子は」ってわかったんだよね。ちょっと面白い子だったから覚えてて」
そう笑った辰巳の口から語られてきたのは灯がここに来ていた時の様子だった。
『いらっしゃいませ。ただいまの時間全席禁煙ですがよろしいですか?』
『あ、はい』
辰巳が接客をしたのは一人の男子大学生だった。どこか疲れた表情をしていたがしきりに店内をキョロキョロと見渡していた。まだ夕方のカフェタイムの時間だったため席は好きなところを選んでもらってかまないと告げると、灯は店の端っこに座ったのだという。
『ご注文がお決まりになりましたらお呼びください』
水とおしぼりをテーブルの上に置いてメニューを差し出すと、最初はそのメニューをじっと見つめていた。けれど、しばらくするとそのメニューに突っ伏すようにして寝ていたのだ。
『お客さま、大丈夫ですか? ご気分でも悪いのでしたら……』
『カフェラテ、ください』
肩を揺すって起こすと、注文をして、また机に突っ伏してしまったのだと言う。
「あれほど疲れた学生見たことなかったからね。幸い混んでなかったし、そのままにしておいたんだけど」
「それは……またご迷惑を……」
「いやいや、灯くんもお会計の時にものすごい勢いで謝ってたから、悪い子じゃないんだろうなぁとは思ったしね」
「そう言ってもらえると……ありがたいです……」
明里は恐縮しきりでまかないのプレートに手を伸ばした。辰巳はそんな様子の明里を見ながらふっと笑みを漏らしてしまう。
(面白いのは明里ちゃんもだけどね――)
あのときは好きだと思っていたのに今では妹のように感じていた。
辰巳はうらやましいなぁと思いながら、今は前の前の論文に集中しようと、レポート用紙に視線を落としたのだった。
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