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05.
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その日はとても天気が良くて庭の手入れをしていた。母親の趣味であるガーデニングは近所でも有名で季節ごとに庭を彩り、季節を感じさせてくれると評判だった。
メッセージを送ってから、既読がついたのは確認したものの灯から返事が来ることはなかった。本当に何を考えているのかわからない。
「あれ、明里ちゃん! 見ない間に大きくなったな」
「光くん!? 久しぶり!」
庭で母親に教わった通り花の手入れをしていると、隣の青木家の車庫に一台の車が入っていった。お客さんかな、と思い視線を向けるとそこには久々に会う人物の姿があり、明里は思わず駆け寄った。
「俺が家出てから大分たつからなぁ。明里ちゃんも灯ももう二十歳だっけ?」
「うん。成人式も終わったよ」
光は灯の八個離れている兄だ。就職を機に家を出てしまったのが六年前だから、明里たちがまだ中学生の頃だ。仕事が忙しいのか長期の休みもあまり家に帰ってくることが無かったため、明里も会うのが久々だった。
光の隣に女性の姿が見えて明里は、あ、と声をあげた。
「もしかして光くんの彼女さん……?」
「ん、あぁ、そろそろ結婚しようと思って、今日は挨拶に来てもらったんだ」
「そうなんだ、おめでとう!」
ファッション雑誌から出てきたような綺麗な女性に、明里はこんにちはと頭を下げた。するとその女性も挨拶をしてくれて、とても心が晴れやかな気持ちになった。
少し年の離れた光はよく明里の面倒も見てくれた。それこそ料理なんてあまりしたこともなかったのに、お互いの両親がいないときなど二人のためにホットケーキを焼いてくれたことだってあった。
「この子、隣の家の明里ちゃん。弟の灯とずーっと仲良しでさ。昔から結婚するってよく言ってたよな」
「あ……」
そう紹介されると光の彼女は嬉しそうに微笑んだ。彼女からすると、もしかしたら明里は義理の妹になるかもしれない人物、と取られてしまったのかもしれない。それこそ一人っ子の明里からすれば光のような義兄や彼女のような義姉ができたらこんなに嬉しいことはない。でも肝心の灯にそのつもりはないのだから、その日はやってくることはない。そう思うと逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あ、ごめんね、引き留めちゃって。せっかく実家に戻ってきたのに……」
「全然。っていうか明里ちゃんも上がってく? もう家族みたいなもんだしさ」
「えっと、あ、そうだ。お母さんと買い物行く約束してて。ごめんね」
灯の母親と父親とは顔を合わせれば挨拶をするけれど、灯と距離があることには気づいているはずだ。まさかそんな一家団欒の場に行けるはずもなく、明里はとっさに嘘をついた。嘘と言っても家の中で家事をしている母親を無理矢理連れ出せば本当になるだけの話だ。
「そっか。タイミング悪かったな。じゃあまた時間があるときに灯も入れてメシでも」
「う、うん。光くんも忙しそうだし、そんな無理しなくていいからね」
できるだけ違和感のないように遠回りに遠慮の意を伝える。
「お前らのためならいくらでも時間作るよ。じゃあな。灯のこともよろしく」
「うん、また……」
しかしその意思は伝わってはいなかったようだ。
けれど家に入って灯に会えばきっとわかるだろう。もう二年半もまともに会話すらしていない。お互いが今何に興味を持っているのか、それすらもわからないのだ。
光に本当のことが言えず「よろしく」と言われたことにも心が痛む。
だんだん、青木家との距離が開いていることに明里はさみしさを覚えた。
「お母さん、ちょっと買い物行きたいんだけど、出かけられる?」
「えぇ、今から?」
「今から!」
家の中に戻ると慌てて母親に声をかけた。大して買いたいものなどないけれどなんとなく今は家にいたくなかった。仕方がないなぁとぼやきながらも母親は重い腰をあげてくれた。昼寝している父親はそのままに明里は母親と買い物に出かけたのだった。
メッセージを送ってから、既読がついたのは確認したものの灯から返事が来ることはなかった。本当に何を考えているのかわからない。
「あれ、明里ちゃん! 見ない間に大きくなったな」
「光くん!? 久しぶり!」
庭で母親に教わった通り花の手入れをしていると、隣の青木家の車庫に一台の車が入っていった。お客さんかな、と思い視線を向けるとそこには久々に会う人物の姿があり、明里は思わず駆け寄った。
「俺が家出てから大分たつからなぁ。明里ちゃんも灯ももう二十歳だっけ?」
「うん。成人式も終わったよ」
光は灯の八個離れている兄だ。就職を機に家を出てしまったのが六年前だから、明里たちがまだ中学生の頃だ。仕事が忙しいのか長期の休みもあまり家に帰ってくることが無かったため、明里も会うのが久々だった。
光の隣に女性の姿が見えて明里は、あ、と声をあげた。
「もしかして光くんの彼女さん……?」
「ん、あぁ、そろそろ結婚しようと思って、今日は挨拶に来てもらったんだ」
「そうなんだ、おめでとう!」
ファッション雑誌から出てきたような綺麗な女性に、明里はこんにちはと頭を下げた。するとその女性も挨拶をしてくれて、とても心が晴れやかな気持ちになった。
少し年の離れた光はよく明里の面倒も見てくれた。それこそ料理なんてあまりしたこともなかったのに、お互いの両親がいないときなど二人のためにホットケーキを焼いてくれたことだってあった。
「この子、隣の家の明里ちゃん。弟の灯とずーっと仲良しでさ。昔から結婚するってよく言ってたよな」
「あ……」
そう紹介されると光の彼女は嬉しそうに微笑んだ。彼女からすると、もしかしたら明里は義理の妹になるかもしれない人物、と取られてしまったのかもしれない。それこそ一人っ子の明里からすれば光のような義兄や彼女のような義姉ができたらこんなに嬉しいことはない。でも肝心の灯にそのつもりはないのだから、その日はやってくることはない。そう思うと逆に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「あ、ごめんね、引き留めちゃって。せっかく実家に戻ってきたのに……」
「全然。っていうか明里ちゃんも上がってく? もう家族みたいなもんだしさ」
「えっと、あ、そうだ。お母さんと買い物行く約束してて。ごめんね」
灯の母親と父親とは顔を合わせれば挨拶をするけれど、灯と距離があることには気づいているはずだ。まさかそんな一家団欒の場に行けるはずもなく、明里はとっさに嘘をついた。嘘と言っても家の中で家事をしている母親を無理矢理連れ出せば本当になるだけの話だ。
「そっか。タイミング悪かったな。じゃあまた時間があるときに灯も入れてメシでも」
「う、うん。光くんも忙しそうだし、そんな無理しなくていいからね」
できるだけ違和感のないように遠回りに遠慮の意を伝える。
「お前らのためならいくらでも時間作るよ。じゃあな。灯のこともよろしく」
「うん、また……」
しかしその意思は伝わってはいなかったようだ。
けれど家に入って灯に会えばきっとわかるだろう。もう二年半もまともに会話すらしていない。お互いが今何に興味を持っているのか、それすらもわからないのだ。
光に本当のことが言えず「よろしく」と言われたことにも心が痛む。
だんだん、青木家との距離が開いていることに明里はさみしさを覚えた。
「お母さん、ちょっと買い物行きたいんだけど、出かけられる?」
「えぇ、今から?」
「今から!」
家の中に戻ると慌てて母親に声をかけた。大して買いたいものなどないけれどなんとなく今は家にいたくなかった。仕方がないなぁとぼやきながらも母親は重い腰をあげてくれた。昼寝している父親はそのままに明里は母親と買い物に出かけたのだった。
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