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2章 帝国

第53話 皇妃ってしつこいよね

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 帝国へ来て四日目の朝、大聖堂から学園へ通うのも慣れて来た。
 お婆ちゃんたちの会話は、昨日と変わらない…毎日同じ愚痴を零してるのかも?
 教師がやって来て朝礼が終わったけど、お上品が残ってたから野ブタの事を聞いてみた。
 「ねぇ、お上品皇子様。野ブタ捕まえたいんだけど、山は何処にあるのかな?帝都って、大きな建物ばっかだし、地図見てもよく分からなかったんだわ」
 「残念ですが帝都にも、近隣にも山はありません。野ブタを捕まえたいと仰いましたが、狩りがお好きなのですか」
 「好きって事はないけど…普通?」
 「そうですか。皇室所有の森林でしたら、野ブタはおりますが…今は狩猟大会の時期ではありませんし、危険な獣も放置されていますから、許可証が無ければ入れないのです」
 「許可証って、誰から貰えるの」
 「私でも出せますが、狩りの得意な護衛を、準備する時間を頂けますか」
 「え?私とクレアで行くから、護衛はいらないよ」
 「女性お二人で、危険な狩場には、行かせられません」
 「アルフレッド皇子。二人は王国から同行させている護衛より、狩りは得意です。私が保証致します」
 「そうでしたか。ルイフォード殿下が仰るのであれば…野ブタが居る場所以外からは、決して出ない様、お願いいたします」
 目玉の後押しで、迷いながらも入場許可を出してくれた。
 「「分かりました」」

 昼食を食堂から貰って、狩場に来たよ。
 森林の周りは背の高い塀に囲まれてて、入り口には騎士っぽい人が何人か居る。
 さっき貰った入場許可証を見せたっけ、凄い訝しそうな顔して、上から下までじっくり観察された。
 「「嫌な感じ」」
 入り口から初級・中級・上級者エリアの三っつに分かれてて、ブタは初級者エリアにいるみたい。
 だから、奥へは行かないようにって、術式が刻まれた念書まで取られた。

 黄色いリボンが木に結んであるから、それを目印にするみたい。
 上級者エリアには、恐ろしい魔獣が放されてるんだって…
 そんな気配は感じないけど?
 入り口付近にいれば良いって事だよね。
 夕方までに戻らない場合は、捜索隊が出るって言われたから、時間厳守でブタ捕まえるよ~

 中に入ったら石畳が敷かれた広い更地になってる所と、公園みたいにお花が綺麗に咲いてて、所々にガゼボもある。
 ここは、貴族や皇族が天幕を張る場所なんだって、入り口のおっさんが教えてくれた。
 なるほど…皇室の狩場になってるだけあって、なんか自然って感じがしないわ。

 奥へ続く道も綺麗に整備されてるし…こんな所にいるブタって野生って言うのかな?
 石畳から獣道に変わりかけた所で黄色いリボンを見つけたよ。
 この先から奥へは行っちゃ駄目なのか。
 振り返ると、遠くにまだ入り口が見えてる…範囲狭くね?

 木々の向こう側から視線を感じたので横を向いたっけ。
 「あれ?ホロケ・ウルフじゃない。なんで、こんな狭い場所にいるの」
 「ちっこいね」
 「子供じゃないね、大人の証である、飾り毛が生えてるもん」
 「そだね」
 山の中で群れを作って行動してる筈なんだけど、数頭しかいないから、狩りの為だけに連れて来られたのかな?

 この国でも、乱獲されてるんだなって分かって、悲しくなったよ。
 取り合えずブタを探して森?の中へ入った。
 雑草も短く刈り取られてるし、木も整然と植えられてる。
 黄色いリボンでぐるっと囲まれてる中に居るのは、なんか変な感じ。
 ウフルが、私達の後をついて来る。
 信頼できるって認めてくれたみたい、めんこいなぁ。
 「野ブタ発見!でも…餌貰ってるのかな?ブクブク太り過ぎじゃね」
 「あれは、美味しくない」

 「嫌な気配」
 「え?」
 ウルフ達が警戒した時、ズドーンって音よりも早く、何か塊が飛んで来た。
 咄嗟に手を出したけど、掴み損ねた?そして、痛い…
 痺れて来たし、この匂いは…
 「クレア、離れて!致死量の毒草、吸い込んだだけで、呼吸困難になる」
 「分かった」

 私の手の平を貫通して、何かの塊は近くの木にめり込んでる。
 あっという間に、大木が真っ黒に染まっちゃった。
 クレアがウルフたちを呼び寄せて、距離を取ったのを確認してから振り返ると、中級者エリア近くで奴がこっちに筒みたいなのを向けてた…
 「あれ何?」
 二個目の塊が飛んで来た、私を狙ってるの?

 今度は、上手く掴んだけど。
 掌を広げて眺めてみても、やっぱしわからん、この塊なんだろ?
 毒草の匂いもキツくなって周りの草木も枯れ始めたから、毒と一緒に掴んだ塊を、マジックボックスに仕舞った。
 「後から証拠品が無いと、狙われた事を証明出来ないもんね」

 それはそうと、分からない事は、直接本人に確かめた方が早い。
 私は、筒を向けてる奴の傍まで飛んだ。
 「ねぇ、この塊は何?その筒は、何かの魔道具?なんで私を狙うの?」
 転移で現れた私に体制を崩したみたいで、三個目の塊は空の彼方に飛んでった。
 あれ、誰かが拾ったら危険だよね?
 転移で引き寄せてから、ボックスに仕舞った。

 男はすぐに態勢を整えて、今度は短剣で、私の首元を狙って来た。
 暗殺者にしてはお粗末だな、短剣からも毒草の匂いがしてるけど、こいつ何者なんだろ。
 彼の腕を掴んで、聞いてみた。
 「ねぇ、この毒草の致死量超えてるんだけど、分かってる?あんたは耐性あんの?無いなら吸い込んだだけで、苦しむよ」
 男は私の手を凝視してた。

 「あっ!ごめん、血出てるの忘れてたわ」
 服汚しちゃったけど、いいよね?
 反対の手で、男の首元を掴んで持ち上げる。
 私のがちっちゃいんだけど、浮遊出来るから身長差は関係ないのよ。
 男の足が地面から離れかけた時、短剣がブスッと脇腹に刺ささった。
 「だから~痛いんだってば!」

 破れた服から、ジワリと血が滲んで滴り落ちる。
 「あ~あ、この服着やすかったのに、酷い事するよね。聞いてる?あんたって何者なの、なんで私を…」
 溜息が出た、また自害かよ。
 この国の人は、物騒な呪印が好きなのか?
 それに、彼は口が利けないようにされてた。
 仕方ない。

 マジックボックスからポーションを出して、ちょっとだけ飲ませてから、ポチの中で何時ものように尋問したけど…
 あの変な筒は、世界中で禁止されてる戦争用の魔道具だった
 なんだかなぁ、知らなくて良い事ばっか増えてくよ。
 「腹黒は、本当に人間なの?魔物じゃねって、疑うレベルで非道な人だわ。どしてこんな酷い事が出来るんだろ、理解出来ない」

 私は証拠隠滅して、ポチの中から出た。
 「あのさ、あんたが持ってた物、没収させてもらうから。いろいろ聞きたい事もあるし、あっちで尋問して貰ってね」
 ほんと、嫌んなっちゃう。
 私の手には負えないから、王弟に任せるよ。
 この魔道具、目玉は知ってんのかな?
 送る前に画像取っておくか、帰ったら見せてあげよ~フフン(ドヤ顔)

 「美味しそうなブタ~」
 クレアが呼んでる!
 さっきのブタは太り過ぎだったからね、他の個体を探しに行ったのは気付いてた。
 私は猛毒にだって耐性が出来てるけど、クレアはそこまで強くない。
 今回は足手纏いにならないよう、離れたついでに狩りをして来てくれたよ。

 「さっきの人は?」
 私が戻って来たから、クレアはポーションを使おうとしたけど、止めた。
 「口利けなかったし、面倒くさいから王都に送った。毒は抜いたし、傷はこのままにしておく。干し肉作ろう」
 毒がマジックボックスに入った事を知ったクレアは、脇腹の短剣を抜いて傷口を縫ってくれた。

 傷を消さなかったのは、聖女の所に行ってみようと思ったから。
 費用は、皇帝に出して貰うつもり。
 この狩場は、皇族の許可があれば入れるって聞いたし、私達は約束を守って奥には行ってない。
 だから、脅してみようと思ってる。フフン(不敵な笑み)

 簡単な治療だけして貰って、二人で野ブタを解体してたら、血だらけになっちゃった。
 プロの解体人には、まだまだ程遠い、下手くそなんだよなぁ。
 ウルフ達が傍に来て、おこぼれを待ってる。
 可哀想に痩せ細っちゃって、運動不足なんだね。
 干し肉用に必要な分だけ切り取って、残りを分けてあげた。
 「この子たち、連れて帰ろうかな?怒られちゃうかな」
 「バレなきゃ、おけ」
 「だよね!」
 彼らの食事が終わったのを見計らってから、お父様の所に送ったよ。
 【皇室専用の狩場に居た、ウルフちゃん達です。こっそり送るので、後宜しく~】これで良し。

 香草で包んだお肉を干してる間に、お昼を食べる事にしたよ。
 「痛い?」
 やっぱ気になるよね、凄い悲しそうな顔してる。
 「ちょっとね、でも平気」
 クレアは、いつも私の考えを尊重してくれるの。
 本当は、今すぐにでも治したいんだよね。
 いや、態と脇腹を刺された事にも、文句言いたいのかな?
 「何時も心配ばっかかけて…ごめんね」
 クレアに頭をチョップされた。

 戦争用の魔道具っておっかないな…私は包帯が巻かれた手を眺めてたら、お上品と目玉達が来た。
 「えっ何しに来たの?」
 「ティア!何があった、この手はどうした!」
 目玉が血相を変えて、私の手を掴んでる…痛いんだけど。
 「クレアナも、血だらけじゃないか。お前達が襲われるなんて…一体何と戦ったんだ」
 金魚も唖然としてた。
 私達は、お互いを見つめ合ってから気付いたわ。

 「女性だけで狩場へ行かせたのは、私の落ち度。きちんと、護衛をつけるべきでした」
 お上品まで、青醒めた顔しちゃった。
 「この血は、ブタを解体した時についたのだから、心配しないで」
 「ブタだと!衣服まで乱れているのは、何故だ!ブタに噛まれたとでも言うのか」
 目玉が錯乱しちゃってるよ、包帯が血で滲んで来たから引き剥がした。

 「あ~これはね…聖女様が…治してくださるかな?」
 私は、さっきあった事を報告した。
 目玉達が余計な事を言わないかハラハラしたけど、聖女様って言葉に反応して意図を汲んだらしい。
 やっと冷静になってくれたかな、痛ましそうに私を見てる。

「ところでさ、何で来たの」
「それは…どうしてかな?胸騒ぎがしたんだ」
「そうなんだ」
 それってスキルなの?目玉から、そんな能力の話は聞いた事ないけど。
 凄く心配してくれてるお上品には申し訳ないんだけど、犯人を王弟に送った事は、後で目玉にだけ報告しようと思う。
 お上品に報告するかどうかは、目玉の判断に任せる事にした。
 私達が王命を受けている事を、お上品が何処まで知っているのか、分からないからね。
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