超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。

紫(ゆかり)

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2章 帝国

第44話 初めてのゴーレム

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 思ったより簡単に資金調達出来ちゃったので、今はお爺様の所に来てるよ。
 戦況は穏やかになってるらしいから、騎士達を交代で家に帰らせてるけど、完全に離れる事は出来ないのだ。
 西の辺境伯の所も似た様な感じらしい…
 警戒はしてるみたいだけど、相手が静かすぎて不気味だって。
 確かに…何かの準備中って感じが、しなくもない。
 それでも、小競り合いが無くなってる訳じゃないから、ちょっかい出して来るなら迎え撃つでしょ。

 私は、相変わらず敵地に深淵を掘りまくってる。
 「ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!一回だけでも、出て来てくれたって良いじゃない。そんな嫌わなくたってよくな~~~い?」
 私はでっかい声で叫んだけど、やっぱしゴーレムは顕現してくれなかった。
 「何が悪いんだ???」
 ポチの中では出せるのに…
 土属性魔術の最高峰と言われるゴーレムだ、そう簡単に操れるとは思ってなかったけど、顕現くらいは出来ると信じてたんだぞ~
 悲しいではないか…
 これでは、上級免許くれた王様に、顔向け出来ない(泣)
 目玉から連絡が来る迄、私は戦場に残り、ひたすら穴を掘りまくってた。
 クレアは、傷ついた人達の手当てを手伝ってたらしい。
 上級になったからね、他領でも医術行為が可能になったのよ。

 改良した雑草ちゃんは実験的に、野営地に敷き詰めたけど、トラブルも無く順調みたいで良い感じ♪
 そしてこれが最後のチャンスって時になってから、やっとゴーレムが顕現してくれた!!!
 戦場からは歓声があがったよ!
 敵陣からは悲鳴があがった。フフン(ドヤ顔)
 だけどコントロールが出来なくて、何故か西の国に突っ込んでったまま戻って来なかった。
 嘘でしょ…お爺様には笑われるし、騎士達からは励まされるし、複雑な心境で戦場を後にしたのだった。


 目玉達との待ち合わせ場所である、シュッド子爵邸に来たけど…
 「まだ着いてないんですか、何かトラブルがあったら連絡来ると思うんだけど、どしたのかな?」
 「到着予定は、三日後だと伺っておりますよ。ホッホッホ」
 「ええ~間違えてしまった。ごめんなさい子爵、出直して来ます」
 「いえいえ、私共は大歓迎でございます。殿下がお越しになる迄、滞在して行ってください。ここは観光地ですから、バカンスを楽しんでは如何でしょう。ホッホッホ」
 「そだね、せっかくだから、海にでも行ってみる?エグルいるかな」
 「卵!」
 「申し訳ございません。アルジェント・エグルが巣を作る絶壁がありませんので、この領地にはおりません。とほほほ」
 「「そうなんだ」」
 「それじゃ…スコーピオン・フィッシュも居ないの?」
 「おりますとも!ですが、海水浴場には入れない様結界を張っておりますので、ご安心を。遊泳禁止区域には入らない様、お願い致します。ほっほっほ」
 「「は~い」」

 「卵食べたかった」
 「絶壁が無いとは思わなかった…ガックシ」
 アルジェント・エグルとは、断崖絶壁に巣を作り、スコーピオン・フィッシュを主食にしてる海鳥だ。
 獰猛な奴らを主食にしてる位だから、当然だがエグルの気性も荒い。
 身体は、翼を広げると5m以上になる個体も居る程でっかく、銀色に輝く羽根は貴婦人の憧れらしい…
 知能は低いので、産んだ卵を、育てる事を忘れてたりもする。
 その卵は絶品で、一度食べたら病み付きになる程だ。
 私達の大好物でもある。


 卵は仕方がない、帝国にもエグルはいるだろうし、観光名所に来てみたよ。
 「お爺様の領地の東側も海だけど、南の海とは全然違うね~とっても綺麗だし、海水が緑色だってのにも感動したわ」
 「うん、綺麗」
 「砂浜って本当に真っ白なんだね。クレア見て、砂粒がヒトデの形してる。なんでこうなるのかな」
 私達はしゃがみ込んで、サラサラした砂を見てた。
 「不思議だね」
 来る途中で見たお土産屋さんにも、可愛らしい小瓶に入った砂がいっぱい売ってたよ、ヒトデの粉って言うらしい。
 足元にある砂を土産にするとか、凄いなって思ったけど、ただ飾って眺める物に興味は無いので私達はスルーした。
 だって、薬剤にはならないって言われたんだもの。

 海水浴を楽しんでる人達もいるから、ちょっと人目を避けて海の上に来た。
 クレアが足元を凍らせてくれたからね、ここで釣りをしようと思うの。
 狙うのは、スコーピオン・フィッシュ一択なのだ!
 天敵のエグルが居ないのならば、大量発生してる筈だ…

 え?ただの暇つぶしだよ。
 どっちが沢山釣るか競争すんの、領主の言葉を聞いて、バカンスを楽しむ事にしたのだ。
 結果…私の惨敗だったよ、ガックシ。
 鱗はビーズの材料になるからね、釣った魚は、そのままお父様に送った。
 だってさ、火魔術使えないんだもの…
 あっちにはリーシャが居るからね、ちゃんと綺麗に鱗だけ残して、焼き払ってくれる。

 あの子は強いよ、自分を苦しめた炎にも負けてない。
 普通大火傷したら、火を怖がるんだけどね…
 オルテンシアに来るきっかけになったから、良かったって前向きなんだよ。
 学校でも剣術や魔術を真剣に教わってるし、お母様やお父様からも教わってるんだって!
 だんだん王女様からかけ離れてってる事は、最早誰にも止められないらしい。
 目玉もだけど、いったい何を目指してんだろね?兄妹そっくしだわ。
 そして、私達が大量に魚を送って来たから、皆でビーズ作りに専念してるって!
 活気があって良い事だわって思ってたら、乱獲し過ぎてお魚さんいなくなっちゃった…
 領主は、厄介者だったスコーピオン・フィッシュが消えて、大喜びしてた。
 お礼に、ここでしか採れない薬草を大量に貰ったよ。

 
 お部屋で鼻歌混じりに新薬を考えてたら、目玉が訪ねて来た。
 「随分ご機嫌だね。何か良い事でもあったのかな」
 「領主に薬草貰ったの」フフン(ドヤ顔)
 予定通り、領主邸に着いたんだ、薬草に夢中で忘れてたわ。
 「それは良かったね、明日は早朝にここを発つよ。帝都に着くまでは、大人しくしていてね」
 不敵な笑みを浮かべて、晩餐楽しみにしているねって出てったけど…
 「私、問題起してないよね?」
 「多分…」
 クレアに聞いてみたけど、心当たりがない。

 翌日早朝、言われるがままに、馬車に乗ったよ。
 国境を超える時は検問されるからね、私達も王族一行のメンバーに入っているから、揃ってないと駄目らしい。
 そして無事国境を越えたから別行動しようとしたけど、阻止されてしまった。
 「なんでよ!こんな馬車でチンタラ走ってたら、いつ帝都に着くか、分からんでしょう」
 「帝国は、領地を通る度に、通行税を払わないといけないからね。その時に、入国許可証も確認される。国境で申請した通り揃っていないと、問題になるんだよ。だから、大人しくしていてねって、昨夜言ったよね?」
 昨日の不敵な笑みの正体は、これだったのか…

 「マジか、通行税って何」
 目玉は分かり易く説明してくれた、不法侵入もだけど、勝手に逃げ出すのも禁止なんだって。
 領民は税金払うのを義務付けられてるのに、他領から来た人が税金払わないと、不平等になるってのが理由らしい。
 「それじゃあさ、一日で幾つもの領地を移動したら、税金取られまくりじゃね?」
 「そうだね、新しく出来た制度みたいだよ。先代皇帝の時は無かったと聞いている」
 目玉は苦笑いしてた。
 何だかんだ理由付けてお金踏んだ来るのが、今の帝国のやり方なんだと。
 最低だなって思ったけど、それ以上に面倒臭い事を言われた。

 帝都に着いたら、皇族主催の歓迎会に参加しなきゃならないんだと。
 本当は王都からの道中でマナーを教えるつもりだったらしいけど、私達があっちこっち行ってて捕まらないから諦めたみたい。
 「………面倒臭いんですけど!!!ドレス持ってないし!!!」
 「大丈夫、二人のドレスはこちらで用意してある。最低限の挨拶だけ覚えてくれたのなら、後は好きにして構わないよ」
 「出たよ、爽やか王子スマイル。この顔する時は、腹に一物持ってるって、知ってるんだからね」
 あはは!じゃないのよ、ほんと勘弁して欲しい。

 帝国では貴族家じゃなくて、ちゃんとしたホテルを予約してたけど…
 「「豪華~」」
 口をポカンと開けて、見上げてしまった。
 「王族が宿泊するのだから、この程度当たり前だろ。セキュリティがしっかりしているかどうかも、確認しないとな」
 金魚の糞が目をギラギラさせてるけど、セキュリティなんて意味なくね?
 「部屋に荷物を置いたら、マナー講習をしようね」
 目玉の言葉で、白眼になったのは言うまでもない。

 それから毎日馬車で移動し、ホテルでマナー講習をすると言う、地獄のループにハマってしまった。
 「ちょっとぉ!あと何日、こんな事に付き合わなきゃならんのよ」
 当然キレるよね。
 「ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ金魚の糞!交代しよ、役割分担大事。あんたより私のがずっと護衛向きだって!今すぐここで、決着付けてもいいんだよ」
 襟首を掴んで振り回してたら、クレアに止められた。
 気が付いたら、金魚の糞が白目剥いてたよ…
 「嘘でしょ、こいつ本当に近衛騎士なの?弱くね?」

 襟首離したら、凄い咳き込みながら、意識を取り戻してた。
 「ほんと、こいつを連れて歩く意味あんの?もっと優秀な護衛がいるでしょ、何で常に一緒な訳?」
 「ハルトは僕の乳兄弟なんだよ。大切な友人でもあるから、もう少し手加減してあげて欲しいな」
 「「マジか」」
 「ルイは命に変えても護ってみせる!他人に任せられる筈がないだろう」
 「命に変えたら護れなくなるじゃん。馬鹿なの?」
 その後、取っ組み合いの喧嘩になったのは、言うまでも無い。

 素手だったけど、ボッコボコに殴ってやったら、スッキリした。
 「ストレスが溜まってたのだよ。ちゃんと手加減はしてやったから、許せ金魚」
 「ゴリラかよ…」
 大丈夫、クレアがちゃんと手当してくれたから、証拠はしっかり隠滅した。フフン(ドヤ顔)
 この日から、毎晩金魚の糞と、組み手をする羽目になったよ。
 私は軽くいなしながら、金魚に文句を言う。
 「だから何でだよ!素直に護衛の座を渡せば、済む話でしょ」
 金魚は悔しそうにしながらも、なかなか頷かない、強情だな。

 「そんな簡単に渡すものか!俺がどれ程血の滲むような努力をして来たか、お前には分からないだろう!」
 「興味の無い事なんて、知る必要なくね?こちとら弱肉強食の世界で生きて来たんだ。お前等とは、育ちが違うんだよ!」
 金魚の蹴りを交わし、軸足を払い仰向けに倒して、正拳を一発打ち込んだ。
 「ハイ、落ちた~鳩尾弱すぎじゃね?」
 クレアが持ってたポーションで治してくれてるのを、私は腕を組んで見下してた。フフン(呆れ顔)

 そんな私達の姿を、複雑そうな顔で目玉が見守ってたのを、私は知らない。
 
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