超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。

紫(ゆかり)

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2章 帝国

第42話 南の領地では

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オルキデア・ファレノプシス帝国・帝都

 皇宮内の豪奢な一室で、ルイフォードの画像を見ている親子が居る。

 「まぁ。この方が、私の夫になるルイフォード殿下なのですか?素敵なお方ですわ」
 「そうよ、貴方は皇帝の娘ですもの。高貴な者の隣に立つべきなのは、一国の主でなくては釣り合いません。貴方は王妃になって然るべきなのです」
 「そうですわね、お兄様とは結婚出来ませんし…弱小国なのは気に入りませんが、お兄様の婚約者であるローズに頭を垂れる屈辱に比べたら、些末な事ですわね」
 「貴方には皇帝の後ろ盾があるのですから、何も心配する事はありません。ただ…留学には、ルイフォードから婚約を破棄された娘も付いて来るの、忌々しい事だわ。身の程を、弁えないなんて」
 「まぁ!なんと惨めな事。私との仲睦まじい姿を、存分に見せて差し上げないといけませんわね」
 「そうよ、留学は建前で、ルイフォードは貴方を迎えに来るのですから…」

 皇帝の娘アビゲイルは、ルイフォードの王位継承権が低い事を、知らない。
 母親である皇妃から唆されて、未来の王妃になる事を、疑いもしていなかった。

 そんな娘の姿を見て、皇妃は呟く。
 『そう、貴方は国母になるの、そして私はその母。この帝国だけではなく、王国を支配するのも、この私。その為にも、ルイフォードが刃向わない様、弱小国としての立場を分からせなければならないわね…』
 



 マルス・ドメスティカ王国、シュッド子爵領地

 私達は今、帝国との国境に面してる南の観光地でバカンス…ではなく、火山道を歩いてるのだ。
 道なんて、大層な物は無いんだけどね。
 ここは活火山だからさ、今でもあちこちから火柱が上がってるし、火砕流も凄いのよ。
 普通の人は近寄らないと思う、一瞬で肺が焼けちゃうってか、身体が溶けちゃうからね。
 でもポチに乗ってれば、漏れなく守護壁が付いて来る。フフン(ドヤ顔)
 私の土蛍と、クレアの千里眼で、虹色鉱石を探してる所だよ。

 「クレア、此処にも蛍居るけど、どお?」
 「キラキラしてない」
 「そっかぁ、次行くか」
 こんな感じで、何処へ行っても上質品てのは、そう簡単には手に入らないのだよ。
 「この蛍で最後だわ、もっかい飛ばす?」
 「あった!」
 「え?」
 蛍が飛んでる場所に、視線を向ける。
 マグマが固まりかけて蟻塚みたいに隆起しながら、ポコッ・ポコッと、水玉が割れて毒素をまきちらしてる虹色鉱石の元がある。
 私はもっとキラッキラに輝いてる液状の物を想像してたんだけど、どれも茶色い泥で、皆同じに見える。
 だけどクレアが自信に満ちたドヤ顔をしてるから、上質品なんだろうなって思い、これをマジックボックスに入れたんだけど…
 見た目は大きいのに、鉱石は思ったよりちっこいぞ?

 麓に降りてから、さっき持ち帰った蟻塚モドキを取り出すと、液状ではなくしっかり固まってた。
 私は転移で、虹色鉱石だけを取り出す。
 殆どがなんの価値も無い脈石だったけど、もしかしたら使い道あるかもしんないので捨てはしない。
 「こんだけ???詐欺じゃね?」
 「ちっこいね」
 握り拳位の大きさしかないが、確かに虹色に輝いてて綺麗ではある。
 綺麗ではあるが…
 「これの何処に価値があるのかが、分からん。ただの石にしか、見えないんだが…」
 「鉱石だから、石だね」
 突っ込まれた、おっしゃる通りです。

 これを商店に持ってって買い取り幾らになるか聞いたら二束三文だった。
 「売らない」
 「そだね、鉱石返して」
 私が店主から鉱石を取り戻そうとしたら、返してくれなかった。
 「仕方ねぇなぁ。せっかく来たんだ、倍の値を付けてやるよ。大サービスだ、感謝しろよな」
 そう言って、硬貨を渡して来たんだけど、受け取る訳ないだろ!
 小娘だと思って侮りやがって、腹立つな。

 「あのさ、そんな子供の小遣い程度で、私達が納得するとでも思ってんの?あんた、虹色鉱石の価値知らないんだったら、素直に帰してよ」
 「嬢ちゃん、これは虹色鉱石じゃねぇよ。ただの石っころだ。まぁ、綺麗だからな、価値の無い物に値段付けてやったんだ、感謝しろよ」
 「へ~だったらさ、それ何処で見つけたと思ってんの?鉱石じゃないって言うならさ、その辺にゴロゴロ落ちてるんだよね?その場所教えてよ」
 「うるせぇなぁ、つべこべ言わずにさっさと帰れ。商売の邪魔だ、二度と来るな」
 そう言って、硬貨を投げ付けて来たよ。
 店の奥からは、おっかない顔をしたゴロツキが出て来て、私達を睨んでる。
 「さっさと硬貨拾って帰りな、嬢ちゃん。俺は気が短けぇんだ、長居するなら容赦しねぇよ」

 「嬢ちゃんか…厳ついおっさん総出で、お見送り?そんな脅しで泣き寝入りする程、私達はお上品じゃないんだわ」
 目の前に居た男の鳩尾を、蹴り飛ばす。
 その反動を利用して、隣に立ってた男の頬に、回し蹴りを食らわしてやった。
 クレアも、目の前に居た男の股間を蹴り飛ばしてたよ。
 口から泡吹いて倒れちゃった。
 「痛そう…」
 ちょっと同情した。
 その勢いでカウンターに上がり、店主の襟首を掴んで、絞め落としてた。

 クレアって、口数少ないから、大人しそうに見られるんだけど…
 敵に対する、情容赦が無いんだよね~
 「拘束具、欲しい」
 「はい、只今」
 私はマジックボックスから、拘束用魔道具を出して、クレアに渡した。
 「成り行きで捕まえたけど、こいつらどうする?領主邸に連れてってみる」
 床に散らばった硬貨を拾いながら聞いてみた。
 「うん、突き出そう」
 鼻の穴を膨らませながら、クレアが怒ってる。


 証拠品?として、ゴロツキと店主を、領主邸に持って来た。
 ここの領主様には、予めお父様から連絡して貰ってる。
 帝国へ行く為の資金を調達したかったから、鉱石の採掘許可が欲しかったのだ。
 虹色鉱石は採掘場所が決まってるんだけど、採りに来る人は、なかなか居ないみたい。
 だから、採れた鉱石は領地内で売るって条件付きで、簡単に許可してくれたよ。
 あんな危険地帯に入っても、良質な鉱石が採れるとは、限らないからね。
 それでも私達がここで資金を稼がないと、帝国でハッピーライフが送れなくなってしまう。
 王弟が出してくれるって言ってたんだけど、それは断った、借りは作らない主義なのだ。

 「お待たせして申し訳ありません、オルテンシア伯爵、エルピーダ伯爵。ようこそお越しくださいました、私が領主のシュッドと申します。以後お見知りおきを…ホッホッホ」
 お貴族様は嫌いだから、あんまし関わりたくなかったんだけど、ここの領主って滅茶苦茶良い人だったわ。
 ゴロツキ連中の事謝ってくれただけじゃなくて、鉱石を直接買い取ってくれるって言うし、滞在中はお部屋も貸してくれるって!
 しかもご飯付き、ヤッタ~
 素直に甘えちゃおう。

 さっそく鉱石を渡したら、固まっちゃった…
 さっきのゴロツキは護衛騎士達に連れてかれて、入れ替わる様に鑑定士が入って来た。
 じっくり鉱石を見てたかと思ったら、目がギョロって飛び出したかと錯覚する程ビックリしてた。
 そして口座は持ってるか聞かれたんだけど…ある訳ない。
 帝国で使える硬貨で換金して欲しいって言ったら、銀行員が来る迄待たされた。
 待ってる間お昼ご馳走になったり、この領地での話を聞いたよ。
 最近火山が噴火したから大規模な被害が出たらしくて、今復興作業中なんだって。
 この領地付近に上級呪術師が居ないから、祓って欲しいって頼まれた。
 呪術師って少ないからね、お賃金もウホウホなる位貰えるし、困っている人はほっとけないから引き受けたよ。

 昼食が終わる頃には、大量の硬貨が運ばれて来た。
 「「ゲッ!!!」」
 思わず仰け反っちゃったよ。
 「これ全部、帝国の硬貨?」
 「ビックリ」
 「帝国へ留学するとお聞きしたので、一年は遊んで暮らせるだけの硬貨を用意させて頂きました。後でマジックウォレットに入れて、お渡し致します。ホッホッホ」
 「「マジか」」
 「口座をお持ちでは無いと伺ましたので、残りはオルテンシア伯爵家宛に送金しておきました。こちらが控えになりますので、ご確認をお願い致します。ホッホッホ」
 「「フォッ」」
 これ…〇が幾つ付いてるの???
 「あの…こんな大金、頂く訳には…」
 「何を仰いますか!あの虹色鉱石は、大きくて良質な物です。買い取りたいと願い出る大富豪が、他国には沢山居るのですよ。受け取って頂かなければ困ります。ホッホッホ」
 ずいっと身を乗り出して力説する領主に圧倒されて、受け取ってしまったけど、いいのか?
 さっき、お高いお賃金貰ったばっかなのに…
 流石大商人、爵位をお金で買っただけあって、懐の桁が違うと思った。

 
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