超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。

紫(ゆかり)

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1章 出会い

40話.ゴーレムを顕現させたい

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 戦場を見下ろしたら、案の定西の国と揉み合いしてる。
 カバジェロ発見!
 私は目玉に言い聞かせる。
 「いい、絶対ポチから降りないでよ、分かった?」
 「ティアに言われた通り、戦場がどのような状況なのか、しっかりこの眼に焼き付けるよ」
 目玉が頷いたのを確認して、ポチから飛び降りた。
 そしてカバジェロの前に立つ。
 戦場に突然大型の、それもドラゴン級の魔力を持った獣が現れた事で、敵陣は大混乱のようだ。
 ポチの咆哮は大地を揺るがし、風を巻き起こす。
 天災ってやつだ、敵陣営が木の葉の様に、吹き飛ばされてく。
 「ティア嬢!突然目の前に降って来るとワ…貴方はやはり、僕の女神っグヘッ」
 私は鳩尾に一発くらわした。
 流石腐っても辺境伯軍の一員、不意を突いた渾身の一撃だったけど、たいしたダメージを与えられなかった。
 「見事な一撃、癖になりそウ」
 超絶悔しいんですけど!
 敵を裁きながら、前髪をかき上げウットリしてる姿が、余計ムカつく
 腹立つな…
 「宝石を元の状態に戻して!こいつらは、私が倒しておくから、宜しく~」
 そう言って、首根っこを掴んで、天高く放り投げた。
 「ま、待ってェェェェェ…」
 なんか悲鳴が聞こえたけど?
 ポチがちゃんと受け止めてくれたから、大丈夫だね。
 カバジェロのスキルは再生だ。
 宝石なんて再生出来るか知らんけど、他に直せそうな人、思いつかなかったんだもの。
 前に目玉が壊したティーセットとテーブルは、こいつが直してくれた。
 そしてここは、戦場のど真ん中!
 突如目の前に現れた小娘に、敵さんは騒然となるよね~
 「見縊られては困るなぁ、本気で相手して貰うよ」
 私は愛刀を取り出して、暴れまくった。
 ついでに魔術の練習もしとく?
 「森羅万象、この世界に干渉する者達に告ぐ。我が魔力を対価とし、その偉大なる力を貸し与えよ。開け!『土の門』」
 淡いオレンジ色の術式が浮かび上がった。
 フフン(ドヤ顔) 私は愛刀を振り回しながらでも、術式を発動出来る位には、成長したのだ。
 遠目には…
 お爺様のゴーレムが暴れてるわね、私も出してみるかな。
 「荘厳なる大地の支配者よ 今こそ顕現する時 闇に染まりし物を蹴散らせ!『ゴーレム』」
 戦場に大きな亀裂が入る…
 「あっ!」
 味方も敵も関係なく、落ちてったわ!
 やってしまった、やっぱ難しいなぁ。
 まぁ、いっか~
 ポチが落ちた人を吸い上げてくれてる。
 よ~し!
 気を取り直して、もっかい詠唱する。
 また亀裂が入っただけ、なんで~
 やっぱ戦場だから、集中力に欠けてるんかな?
 三度目の正直には、ならなかった…
 「ティア、領地を穴だらけにするでない」
 お爺様が、見かねてこっちにやって来たわ。
 「だって~ゴーレム出したいんだもの」
 「フッハッハッハ~ 穴を掘りたいなら、国境の向こうにしてくれ」
 「は~い、行って来ます」
 私は、国境の向こうに奈落を作りまくったよ。
 結局ゴーレムは、一度も顕現してくんなかった…がっくし。
 敵さんが撤退したけど、今日はここで野営するって。
 「ティア、丁度良かったわい。来たついでじゃ、物資を調達してくれんかの?」
 「は~い、お爺様」
 皆、暫く辺境伯領に戻れてないんだって。
 私は、必要な物をマジックボックスから出してあげた。
 木箱2個分では収まり切れない量の、食材やら薬剤やらが出て来るけど、誰も気にしない。
 どうして誰も気にしないのかって?
 実は辺境伯家の物資庫と、マジックボックスを繋げてんのだ。
 あっちの物資庫が空にならない限り、無尽蔵に持って来れるんだよ。
 そんな事をやってたら、カバジェロが降りて来た。
 「いや~宝石の再生は初めてですガ、美しい物を愛でると、気持ちも癒されますネ」
 なんかウットリしてる。
 こいつ変人だけど、出来る奴なのだ。

 変人はほっといて、お爺様に挨拶してからポチに飛び乗って、次はミラ伯母様の所に来た。
 さっき再生して貰った宝石を渡して、魔力を入れて貰う。
 薬草の話をしながら片手間にやってるけど、これ凄い難しんだよ、魔力もいっぱい使うしね。
 伯母様を疲れさせちゃう前にお別れして、今度はルーク叔父様の所に戻って来た。
 次はなんだ!って警戒されたけど、宝石見せたら安心して魔力入れてくれた。
 お妃様、結構持ち歩いてたんだね…
 叔父様が疲れた~って言うから、屋敷に戻って来た。
 残りはお父様に託す。
 え~やった事無いよ?って言いながら、ちゃんと魔力入れてる辺り、やっぱオルテンシアなんだなぁって思った。
 私にはこの血を引き継げなかったようだ…
 夕食前には、全ての宝石に魔力を入れる事が出来た。
 目玉は驚き過ぎて、もう言葉も出ないらしい。
 ちゃんと持ち主に返してねって言って渡したら、今度は申し訳なさそうに、別の宝石を持って部屋に来た。
 砕けた宝石が再生しただけでも驚きだったけど、魔力石になった事で、王弟夫妻は驚愕してたって。
 魔力石にどんな力が宿ったかまでは、分からない。
 鑑定スキルでもあれば別だけど…
 そこまで頼む時間が、今日は無かった。
 「これは、その…リーシャの宝石なのだ。火傷で着飾れなくなっても、侍女達が常に持ち歩いていた様で…頼む!厚かましい事を言うが、魔力を入れて貰いたい」
 ペコっと頭を下げて、宝石箱を差し出されたけど…
 「私に渡されても困るんだけど…」
 「そうだな…すまない。無理を言った」
 しょんぼりして、戻ろうとした目玉の腕を掴んだ。
 「クレアに聞いてみよう。私は破壊する自身しかないけど、クレアなら魔力入れられるよ」
 「そうなのか?」
 二人でクレアの部屋に来たら、何やら取り込み中だったけど、片手間で魔力入れてくれた。
 「終わった」
 想像通り、宝石箱の中の宝石を、全部魔力石にしてくれた。
 「ありがとう。クレアの魔力コントロールも素晴らしいな、礼は必ずする、待っていてくれ」
 「要らない」
 そう言ってクレアは又、何かに没頭し始めた。
 やっぱ凄いなぁ…
 私だってオルテンシアなのに、何だか悲しくなって来たよ。
 部屋へ戻る途中、大事にリーシャの宝石箱を持ち、嬉しそうに歩いてる目玉の肩を掴んだ。
 「目玉!あんたは宝石持ってないの?もしかして、お妃様が破壊した宝石の中に、あんたのもあったの?」
 「ブローチや、カフスなら持って来ているが…」
 突然の問いかけに驚きつつも答えてくれたけど、何故か言い淀む。
 「持ってるなら貸して!私も練習する」
 「そうか、宝石箱をリーシャに返したら、僕の宝石を持って部屋を訪ねるよ」
 「いや、一緒に行くわ」
 「分かった。けど、宝石は返さなくて良いからね」
 「え?返すよ、借りた物はちゃんと返すから、安心して」
 目玉は首を横に振った。
 本当は、クレアにあげるつもりだったらしい。
 宝石に魔力を入れられる魔術師って希少なんだって。
 だから依頼料って凄くお高いみたいでさ、目玉はそこまでお小遣い持ってないから、宝石で代用しようと考えてたみたい。
 それを私が奪ってしまった訳だ。
 また王都での悪評が増えるねって言ったら、そんな噂は立たないって笑ってた。
 今回お妃様が破壊した宝石の中には王弟のも入ってたらしくて、一個でも魔力石になればお釣が来る位の価値があったんだと。
 宝石ってそんなお安いの?って聞いたら、そんな訳ないだろう!って語られてしまった…
 ですよね~
 目玉に借りたこの宝石さんは、壊しちゃいけないと思うから、ポチの中で練習したよ。
 何度も、何度も失敗しながらね。
 これを、片手間で出来る様になるまで、頑張った!
 誰にも褒めて貰えないのが悲しいけど… 
 出来る様になったのは、素直に嬉しい!
 宝石貸してくれた目玉に感謝だな。
 明日は早朝にここを立つって言ってたから、寝る前に渡しに行った。
 「目玉~起きてる?」
 転移で扉の前に来たら、相変わらず護衛が驚いてる。
 「お…オルテンシア伯爵令嬢がいらっしゃいました」
 結局最後まで、慣れてはくれなかったのね(笑)
 「あんた達とも明日でお別れだね。ドアの前で突っ立ってる姿が見れなくなるのは、ちょっと寂しいわ」
 「あ、ありがとうございます。伯爵邸での訓練、決して無駄には致しません。王都へ戻っても精進致します」
 扉が開いたので、借りた宝石を渡そうと思ったんだけど、クレアと山分けして欲しいって言われた。
 道中不安だから、あんたの為にやったんだって言ったら、滅茶苦茶喜んでくれたから、私も嬉しくなったよ。
 頑張った甲斐があった。
 今朝の出来事は王弟にも、お父様にも報告済みだけど、日程の変更はしないんだって。
 容疑者?魔物だったけど、捕まえたし、取り除いた呪詛も封印して王弟に渡してある。
 襲われた目玉も元気だから、問題無いって判断したみたい。
 明日マルコ泣くだろなって思ったら、ちょっと憂鬱になったけど、仕方ないよね。
 初恋は失恋する物だっ!て、誰かが言ってた気がする。

 翌朝、案の定マルコは大泣きしたけど…
 それ以上に、リーシャのが凄かった!
 鼓膜破れるかと思ったわ。
 それだけじゃなかったよ。
 ポチが居なかったら、多分、焼け野原になってた。
 火属性が凄いのは知ってたけど、あの状態で王都迄帰るのは無理だわ。
 いや~なだめるの大変だった。
 王都が嫌だってより、学校に通えなくなるのが嫌だったみたい。
 だから、エリザベスに転移術式を刻んであげた。
 うちのポータル限定だけどね、これで何処からでも帰って来れるよ。
 戻る時は、送ってってあげなくちゃならないけど。
 王都に着いたら、あっちのポータルとも繋がる様に、術式を刻みに行かなきゃならなくなった。
 こうでもしなきゃ、帰ってくれそうになかったんだもの。
 今更だけどあの魔力量を見たら、リーシャが洗脳されなくて、本当に良かったって思う。
 そして目玉が狙われたって事は身分云々もだけど、もっと違う理由もあるんだろなって思った。
 王弟は必ず礼をするって帰ってったけど、お父様は勘弁してくれって呟いてたのを、私は知ってる。
 別に礼が欲しくてやった訳じゃないけどね。
 ちなみに、滞在費はちゃっかり貰ってた(笑)
 越冬用の食料がだいぶ減っちゃったんだよ、王弟一行に食事を出してたからさ。
 術式刻みに王都へ行った時にでも、買って来ようと思ってる。
 
 「リーシャ、そろそろ帰らないと、晩餐の時間に間に合わないよ?」
 私達は今、ピーちゃんと絶叫ごっこをしてる。
 大空をクルクルと回転しながら、飛んでるドラゴンの背中でリーシャに話しかけたけど…
 多分聞いてないな。
 仕方ないからピーちゃんに頼んで、リーシャを落として貰った。
 「ぎゃはははははは~~~~~」
 「わ~い」
 一応王女様なのよ?
 あなた…
 そんなんで、王都に帰って生きてけるか、お姉ちゃんは心配だよ。
 落ちて来たマルコとリーシャをポチで受け止めて、宿泊先へ送り届けるのが、最近の日課であった。
 領主館前では、目玉が出迎えてくれてる。
 「いつもすまない。一緒に晩餐でも…」
 「遠慮するわ、また明日ね~」
 私は即効、断るよ。
 当たり前じゃん、お貴族様は嫌いなのだ。
 「リーシャ~また明日あそぼ~ね~」
 「おやすみなさい、マルコ様、お姉さま」
 マルコはブンブン手を振って、リーシャもそれに応えてる。
 あれから転移する魔物も、集団行動する魔物にも出くわしてない。
 たまにお爺様の所へ邪魔しに行くけど、私の日常に大きな変化は無かった。
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