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29話.魔力石ではなく、ビーズです

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 王弟一行が、我が家に来てから四日目の昼食時。
 外出から戻って来た王女様の右手首で、ビーズのブレスレットが輝いてた。
 「姉上見て!プレゼントしたの」
 マルコが嬉しそうに教えてくれる。
 ずっと外に連れ出したいと思ってたもんね、短い時間だったけど、楽しめたみたいで良かったわ。
 私も一緒に行きたかったんだよ…チクショウ
 「とっても素敵なの見つけたね!お姫様に凄く似合ってるよ」
 「うん!」フフン(ドヤ顔)
 ここで王弟がお父様に話しかけた。
 「オルテンシア伯爵、雑貨屋で売っているアクセサリーは、本当にビーズなのか?私には、魔力石を加工した物にしか、見えなかったぞ?」
 「ビーズに魔力を込めた物です。魔力石ではありません」
 王弟は眉間に皺を寄せた、お父様の言葉に納得してないみたい。
 お父様も気付いたみたいで、親切に分かりやすく説明してあげたよ。
 我が領では、魔力コントロールの練習をする時、ビーズを使うの。
 自身の魔力をビーズに流し込むんだけど、上手に出来たら魔力石と似た様な効果がある事を、ご先祖様が発見したのだ!
 魔力の籠った小さなビーズは、雑貨屋で買い取ってる。
 ちゃんとビーズ編み職人がいて、素敵なアクセサリーにしてくれるのだ。
 雑貨屋で買い取ったビーズの代金は、伯爵家で払い戻ししてるから、その分は上乗せしちゃいけない事になってる。
 だからとっても安価で、領民なら誰でも購入出来ちゃう。
 当然だけど、転売は禁止だ。
 王弟は納得したのか、次の疑問をぶつけて来た。
 「そうか…ここの領民は皆、宝石に魔力を注ぐ事が、出来ると言う事か?」
 「それは難しいと思います。スコーピオンフィッシュの鱗から出来るビーズは丈夫ですが、宝石は柔らかいですよね?砕けてしまうかと…」
 お父様は、やった事無いけど?って呟いてた。
 それはそう!
 ルビーとか、エメラルドなんて高価な物、うちには無い。
 スコーピオンフイッシュとは、大型の獰猛な肉食海水魚で、ヒレには猛毒がある。
 体内にも毒袋があるから、食用にもならないし、猟師さんは襲われるしで迷惑な奴なんだけど…
 美しい鱗は、装飾品として人気があるんだ。
 銛でも槍でも貫けない程の硬い鱗だけど、火を通すと加工し易くなる事を発見したのも、実は我が家のご先祖様なのよ~
 凄いでしょ~フフン(ドヤ顔)
 「そうか、無理か…ならば、ビーズに魔力を注ぐ遣り方は、他言無用か?」
 「本来なら教える事はしませんが、外部に漏らさないとお約束して頂けるのであれば…特別に」
 他言無用って約束を取り付けたから、昼食後は皆で身代わり守りを作る事になったよ!
 まずはテーブルの上に、色とりどりのビーズが入った箱を置きます。
 そこから片手で掴めるだけのビーズを握りしめて、壊れないように魔力を流し込む。
 上手く出来たら掌の上で、小さなビーズが一塊になってる筈…なんだけど?
 バラバラと、零れ落ちてってる…
 王弟と待ち伏せ王子のビーズは、ひとつもくっついて無かった…下手くそか!
 「これで良いのかしら?」
 お妃様の掌には、キラッキラに輝いてるビーズの塊があった!
 そうよ!ここまでじゃなくっても、何個かはくっつく筈なのよ?
 それにしてもこれは凄いぞ!
 一回で完成させるなんて、天才じゃない???
 私達は拍手喝采だ。
 次に固まってるビーズを、元の状態に戻します。
 磁石みたいに、くっついてるだけだから、簡単に崩れるのだ。
 ただ~し!
 この時気を付けなきゃならないのは、くっついてないビーズと、一緒にしない事!
 落ちたやつには、魔力入ってないからね。
 魔力入りのビーズをバラバラにしたら、今度は色合い毎に選別するよ。
 ここが一番面倒臭い作業なのだ。
 ちっこいビーズを、ピンセントで選り分けなくっちゃならない。
 輝きが強い程魔力量が多くて、上質なアクセサリーになるのです。
 お妃様のビーズはどれも満遍なく、魔力が注がれてたよ!
 魔力石に匹敵する特上品だって、お父様が言ってる。
 「これは素晴らしい!」
 お母様も大絶賛だ。
 うちの領民は、大人から子供まで、魔力と暇さえあればこれをやってる。
 ビーズアクセサリーはとっても需要が高いから、常に品薄なのだ。
 だってさ、魔物に襲われる度に、壊れちゃうんだもの…
 私とクレアも、ブレスレットを何本か、必ず付けてるよ。
 複数付けてないと、命を護り切れないからなのだ。
 お妃様は面白かったのか、次から次へと魔力を流してた。
 「妃殿下、その辺にした方が?これはかなり、魔力を消費する」
 お母様が止めに入ったよ。
 これだけキラッキラのビーズなんだもの、相当な魔力を消費してる筈よね?
 「あら、残念だわ」
 どうやら夢中になり過ぎて、魔力が枯渇しかけてたのに、気付いてなかったみたい…
 未だに魔力を込められない夫と息子を見ながら、物足りなさそうにしてたから、声をかけてみた。
 「良かったら編んでみませんか?編み図ありますよ」
 私はお妃様にビーズ編みを勧めたら、もの凄い勢いで食いついて来た!
 刺繍が好きだと言ってたし、元来器用な人なんだと思う。
 途中で王弟がコツを聞いてたんだけどね…
 針穴に糸を通す感じよ!って滅茶苦茶分かり易い表現で教えてたのに、全く出来なかった…
 何かの冗談でしょ?
 一個もくっつかないとか…
 ここまで不器用な人達を、私は見た事が無いぞ~
 お妃様も諦めたのか、夫と息子は無視してビーズ編みを楽しんでた。
 ここだけの話、ビーズに魔力を入れるのって、案外簡単なのよ。
 ただね、質の高い物を作ろうとしたら難しいの。
 この男共は、一体何を作ろうとしてんだろね?
 よく分からん人達だと思った。
 結局二人は、魔力を込める事が出来ずに終わったわ。
 凄い不本意って顔してたけど、種も仕掛けも無いから、こればっかしは実力でなんとかして下さいとしか言えない(笑)
 ついでになってしまったが、王女様の手術の日取りが決まったよ。
 学校を休みたくないって言うから、次のお休みの日に行う事にした。
 最近では毎日お友達と遊んでるからね。
 食欲も出たし、元気も出たし何時でも良かったんだけど、本人の希望が一番大事。

 そしてこの日の夕方から護衛だけでなく、何故か王弟と待ち伏せまで、訓練に参加したんだって!
 マルコに、ボッコボコにされてたみたいだけど…
 文句も言わずに、ちゃんとお母様の指導を受けてたって聞いた。
 何故お母様かって?
 それはね、女性初のソードマスターなのだよ!
 どうだ、凄いでしょう!フフン(ドヤ顔)
 前に四人師匠がいるって話をしたよね?
 呪術はお爺様、医術はルーク叔父様、薬術はミラ伯母様。
 そして、剣術の師匠がお母様なのだ!
 残念ながら魔術の師匠はいない…
 何故なら、そっちには興味がないからだ。
 生きる為に必要だったから覚えたんだけど…
 強いて言うなら、お父様が師匠になるのかな?
 とっても頼りなさそうに見えるでしょう?実際流され易いし…
 でもね、この領地だけじゃなくってお爺様の所でも!
 お父様程凄い魔術師って、会った事が無いんだ。
 お母様が押しかけ女房になる位だから、ちゃんと釣り合うだけの実力者なんだよ。
 そんな凄い二人から産まれた私は、両方の苦手を受け継いでしまった訳です。
 それでも好きこそ物の上手なれってやつで、女性最年少ソードマスターの座を狙ってるのだ。
 ちゃんとポチの中で、訓練してるんだよ?
 マルコはね、気付いてると思うけど、二人の良いとこ取り!
 お爺様が言ってたの「わしに引導を渡すのは、マルコだ」って。
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