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26話.学校
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オルテンシア伯爵領へ来て三日目の早朝
ルイフォードは戸惑っている。
昨夜遅くに、カルティアが先触れも無く、部屋に訪れたのだ。
転移で、部屋の中に迄入って来なかった事は、褒めてやろうと思う。
他の令嬢と同じく、気を惹く為に何をして来るのか警戒したが。
左目が欲しいと言われ、絶句した。
リーシャを出しにして、心を奪う呪術でも掛けるつもりかと?
そんな事をせずとも、カルティアがルイフォードの妃になる事は、決定している。
本人がそれを知らず、愚行に走っているのなら、教えるべきではないのか?
しかし伯爵夫妻は、カルティアが婚約者候補になっている事を、話す気は無いと言っていた。
あの娘はそれを、望んでいないと…
王弟も、ルイフォードも、理解出来ないでいる。
昨夜は何を期待したのか?
リシャーナの為にと言われ、左目を渡してしまった。
してやられたと、今更後悔しても遅い。
カルティアが、初級呪術師だと言う事も、知っている。
媒体を使って掛ける呪術は全て禁術扱いだが、彼女がそれを知らない筈がない。
ならば何故?
目玉を何に使う?
昨夜は確かに己の意思で、左目を抉り取った。
声も出せない程の激痛だったが、リシャーナの苦しみに比べたら、些末な事。
同じ隻眼になる事で、苦しみを分かち合えるなら、それも本望とさえ思ったのだ。
しかし、カルティアはそれを許さなかった。
ルイフォードを叱責しただけではなく、失った筈の左目が、何事も無かったかの様に再生されていた。
痛みも消えている。
幻覚を見ていたのかと疑ったが、真っ赤に染まった左手と衣服が、これはたった今起きた現実だと物語っていた。
顔面めがけ乱暴にかけられたポーションは、その効能を遺憾なく発揮した。
宮殿で使われている上級ポーションでは、欠損した部位を再生させるのは不可能。
ならば、カルティアが持って来たポーションは、一体何処から仕入れた物なのか?
何故国に報告されていないのか?
故意に秘匿するのは謀反だが、この地で作られている物ならば…
認可されていない物を、領外へ持ち出す事は禁止されている。
まさかただの初級資格取得者が、優れた物を作り出す等、あるのだろうか?
粗悪品が出回らない様配慮した法が、仇になっているのか?
だとしたらカルティアは…
純粋に、上級薬術師免許取得の為、学園へ通う決断をした?
ルイフォードは、ここに来て初めて、己の羞恥を自覚したのだ。
あのポーションを誰が作ったのか明確にしたいが、左目の事はまだ王弟に知られてはならない。
ルイフォードは複雑な心情のまま、リシャーナの部屋に来た。
ルーク・オルテンシアが、検査に来ると報告があったからだ。
本気で形成手術を、行うつもりなのか?
検査風景は何度も見たが、最低でも1時間は要していた。
だが、ここの医術師達は皆、本当に診たのかと疑う程に早い。
カルテに結果を書き込みながら、ルークは告げる。
準備が整い次第、首から上を先に行い、術後の経過を見てから次を考えると…
当たり前の様に淡々と説明をし、役目が終わると速やかに部屋を後にした。
王族相手に何も要求して来ない彼らに、言い表せない感情を抱く。
ここの者達は皆、何者なのだ?
今度はリシャーナを、学校へ連れて行くと言う。
何故父上は了承したのだ?
昨日の茶会は、人数も少なく特別な物になった。
だが、不特定多数の子供が集まる学校に行けば…
真相を確かめるべく、朝食後カルティアを待ち伏せたが。
言葉を選んでいるうちに、逃げられてしまった。
致し方なくルイフォードは今、伯爵邸で所持している古びた馬車に乗っていた。
隣にはリシャーナが、向かえにはマルコが座った。
リシャーナの前にはクレアナが座り、しきりに窓を眺め何かを警戒しているのか、落ち着きがない。
30分程で目的地に着くと、馬車の周りに人だかりが出来る。
勝手に扉を開けたのは、御者では無く子供だ。
マルコも、クレアナも気にせず馬車から降り、何時もの様にリシャーナを車椅子に座らせる。
下は4歳位か?上は10歳位なのか?
年齢も性別も、身分も違う子供達が通う学校。
皆笑顔で、好き勝手な事を語っているが、不愉快な言動は一切無い。
賑やかな集団は、マルコに付いて歩き出し、校舎の中へと入って行く。
「ここは…なんなのだ?」
ルイフォードの呟きに答えてくれたのは、クレアナだった。
「学校」
クレアナは、集団の後ろから付いて行く。
ルイフォードは、欲しかった答えを貰えなかったが、黙ってそれに習う。
校舎の中でも、リシャーナは人気者で、昨日会ったばかりの子供達も居る。
授業内容は驚く程レベルが高く、教えている教師も、素晴らしい人物だった。
ここでマルコの部屋にあった、パズルを思い出す。
もっと年齢に合った物を、預けるべきではないのか?と、思ったのだが。
この水準なら、あのパズルをマルコが完成させるのも、時間の問題であったなと考えていた。
クレアナは校舎の中でも、しきりと窓の外を気にしている。
「何か気になる事でもあるのか?」
「近衛が隠れてる」
ルイフォードは驚き息を飲む、全く気が付いて無かったのだ。
「何処に居る?何故分かった?」
クレアナは場所を示すだけで、答える事はしなかった。
確かに指示した方向で、近衛が待機していた。
彼もまた、気付かれるとは思っていなかったらしく、動揺しているのが見て取れた。
父上の命令か?と、ルイフォードは思う。
伯爵領の学校は、午前中で終わる。
無事に帰宅したルイフォードは、王弟に学校での様子を、報告するのであった。
ルイフォードは戸惑っている。
昨夜遅くに、カルティアが先触れも無く、部屋に訪れたのだ。
転移で、部屋の中に迄入って来なかった事は、褒めてやろうと思う。
他の令嬢と同じく、気を惹く為に何をして来るのか警戒したが。
左目が欲しいと言われ、絶句した。
リーシャを出しにして、心を奪う呪術でも掛けるつもりかと?
そんな事をせずとも、カルティアがルイフォードの妃になる事は、決定している。
本人がそれを知らず、愚行に走っているのなら、教えるべきではないのか?
しかし伯爵夫妻は、カルティアが婚約者候補になっている事を、話す気は無いと言っていた。
あの娘はそれを、望んでいないと…
王弟も、ルイフォードも、理解出来ないでいる。
昨夜は何を期待したのか?
リシャーナの為にと言われ、左目を渡してしまった。
してやられたと、今更後悔しても遅い。
カルティアが、初級呪術師だと言う事も、知っている。
媒体を使って掛ける呪術は全て禁術扱いだが、彼女がそれを知らない筈がない。
ならば何故?
目玉を何に使う?
昨夜は確かに己の意思で、左目を抉り取った。
声も出せない程の激痛だったが、リシャーナの苦しみに比べたら、些末な事。
同じ隻眼になる事で、苦しみを分かち合えるなら、それも本望とさえ思ったのだ。
しかし、カルティアはそれを許さなかった。
ルイフォードを叱責しただけではなく、失った筈の左目が、何事も無かったかの様に再生されていた。
痛みも消えている。
幻覚を見ていたのかと疑ったが、真っ赤に染まった左手と衣服が、これはたった今起きた現実だと物語っていた。
顔面めがけ乱暴にかけられたポーションは、その効能を遺憾なく発揮した。
宮殿で使われている上級ポーションでは、欠損した部位を再生させるのは不可能。
ならば、カルティアが持って来たポーションは、一体何処から仕入れた物なのか?
何故国に報告されていないのか?
故意に秘匿するのは謀反だが、この地で作られている物ならば…
認可されていない物を、領外へ持ち出す事は禁止されている。
まさかただの初級資格取得者が、優れた物を作り出す等、あるのだろうか?
粗悪品が出回らない様配慮した法が、仇になっているのか?
だとしたらカルティアは…
純粋に、上級薬術師免許取得の為、学園へ通う決断をした?
ルイフォードは、ここに来て初めて、己の羞恥を自覚したのだ。
あのポーションを誰が作ったのか明確にしたいが、左目の事はまだ王弟に知られてはならない。
ルイフォードは複雑な心情のまま、リシャーナの部屋に来た。
ルーク・オルテンシアが、検査に来ると報告があったからだ。
本気で形成手術を、行うつもりなのか?
検査風景は何度も見たが、最低でも1時間は要していた。
だが、ここの医術師達は皆、本当に診たのかと疑う程に早い。
カルテに結果を書き込みながら、ルークは告げる。
準備が整い次第、首から上を先に行い、術後の経過を見てから次を考えると…
当たり前の様に淡々と説明をし、役目が終わると速やかに部屋を後にした。
王族相手に何も要求して来ない彼らに、言い表せない感情を抱く。
ここの者達は皆、何者なのだ?
今度はリシャーナを、学校へ連れて行くと言う。
何故父上は了承したのだ?
昨日の茶会は、人数も少なく特別な物になった。
だが、不特定多数の子供が集まる学校に行けば…
真相を確かめるべく、朝食後カルティアを待ち伏せたが。
言葉を選んでいるうちに、逃げられてしまった。
致し方なくルイフォードは今、伯爵邸で所持している古びた馬車に乗っていた。
隣にはリシャーナが、向かえにはマルコが座った。
リシャーナの前にはクレアナが座り、しきりに窓を眺め何かを警戒しているのか、落ち着きがない。
30分程で目的地に着くと、馬車の周りに人だかりが出来る。
勝手に扉を開けたのは、御者では無く子供だ。
マルコも、クレアナも気にせず馬車から降り、何時もの様にリシャーナを車椅子に座らせる。
下は4歳位か?上は10歳位なのか?
年齢も性別も、身分も違う子供達が通う学校。
皆笑顔で、好き勝手な事を語っているが、不愉快な言動は一切無い。
賑やかな集団は、マルコに付いて歩き出し、校舎の中へと入って行く。
「ここは…なんなのだ?」
ルイフォードの呟きに答えてくれたのは、クレアナだった。
「学校」
クレアナは、集団の後ろから付いて行く。
ルイフォードは、欲しかった答えを貰えなかったが、黙ってそれに習う。
校舎の中でも、リシャーナは人気者で、昨日会ったばかりの子供達も居る。
授業内容は驚く程レベルが高く、教えている教師も、素晴らしい人物だった。
ここでマルコの部屋にあった、パズルを思い出す。
もっと年齢に合った物を、預けるべきではないのか?と、思ったのだが。
この水準なら、あのパズルをマルコが完成させるのも、時間の問題であったなと考えていた。
クレアナは校舎の中でも、しきりと窓の外を気にしている。
「何か気になる事でもあるのか?」
「近衛が隠れてる」
ルイフォードは驚き息を飲む、全く気が付いて無かったのだ。
「何処に居る?何故分かった?」
クレアナは場所を示すだけで、答える事はしなかった。
確かに指示した方向で、近衛が待機していた。
彼もまた、気付かれるとは思っていなかったらしく、動揺しているのが見て取れた。
父上の命令か?と、ルイフォードは思う。
伯爵領の学校は、午前中で終わる。
無事に帰宅したルイフォードは、王弟に学校での様子を、報告するのであった。
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