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25話.お爺様、呪詛って言って!

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 朝食後、ルーク伯父様の所に行こうとしたら、何故かうざ王子に待ち伏せされてた。
 「なんすか?」
 私は、警戒心マックスになってた。
 目玉、ちゃんと復活してんじゃん!
 今更文句とか、言わないで欲しんだけど?
 「いや…その…」
 横を向いて口元に手を当てて、何やら考え込んでるから、待つの止めた。
 長くなりそうなんだもの。
 「考えを纏めてから、出直して来い!」
 私は逃げる様に空を飛んで、ルーク叔父様の所に急いだ。
 「え?ちょっ、待って…」
 うざ王子が呆気に取られて、見送ってたのは、知らない。

 研究室を覗いたら、既にお爺様が眼鏡をかけてたよ。
 転移で中に入ると、ルーク叔父様と目が合ったから「えへっ」て、可愛い子ぶって見た。
 そんな白い目で見なくてもいいじゃん。
 「ティア、クレアはどうした?一緒じゃないのか?」
 お爺様が眼鏡を外して、問いかけて来た。
 「王女様の付き添いで、学校行くの」
 「そうか…」
 「ねぇ、呪詛でしょ?呪詛だよね?呪詛って言って!」
 私はお爺様の肩を掴んで、前後に揺すったが、動く訳が無い。
 まだまだ現役のソードマスターだ、私程度の力でどうこう出来る程、落ちぶれてなかった。
 「よく分からんな~」
 何処見てるの?
 お爺様、私はここだよ!
 「ルーク叔父様は?見えた?」
 今朝の検査で確かめた筈だけど、首を横に振った。
 「クレアと同じだな。不快感があるだけで、目視は出来なかった」
 「無理も無かろう、呪術師にしか見えん物もある」
 お爺様はぼそりと呟く…それは、あれが呪詛だと言ってるようなもんよ?
 呪詛とは何かって?
 頭の毛が薄くなれ~とかって可愛い物から。
 絶対許さない!復習してやる~って物騒な物を、一括りにした呪いの事だ。
 では、どうやって呪詛を掛けるのか?
 簡単な物なら、神様に祈ればいい。
 流れ星でも構わない「禿げろ!禿げろ!禿げろ!」と、三回唱えてみよう。
 叶うかどうかは運次第?
 誰でも一度位は、経験あるよね…
 次に本気で人を呪い倒そうとして、爪だの髪だのって呪詛の媒体となる物を、集めるやつ。
 集めてるだけなら、呪詛は掛けられないんだけど…
 媒体使って、呪詛を掛ける専門職がね、結構いるんだわ。
 私達はそんな奴らを、呪詛師って言ってる。
 当然だけど、人を呪うなんて事は、禁止されてるよ。
 呪詛を掛ける為の呪術は、全部禁術扱いだし。
 呪詛師になった瞬間、罪人として指名手配もされる。
 顔も、年齢も家族構成迄、ぜ~んぶ世界中に晒されるんだ。
 そゆ呪印を、刻まれてるからね!
 捕まれば、悲惨な末路を辿る事になるから、呪詛師になんて絶対なりたくない!
 それに、呪って下さいって頼んだ人も、罪人として捕まるのだ。
 ほんっと、迷惑行為極まりないんだけど、なかなか撲滅出来ないんだよね~
 何故なら、呪詛師って元は呪術師って奴が多いらしい。
 呪術を習得する為に、禁術も習う。
 知らなければ、呪詛を祓う事が出来ないからね!
 そんで、真っ当な呪術師になりますって誓った筈なのに…
 闇落ちしたり、お金欲しさで、禁術に手を出す輩が出ちゃう。
 一度禁術に手を出したら、二度と呪印は刻めなくなるから、呪術師には戻れなくなるの。
 リスクだらけに思うけど、意外と儲かるんだって!ケッ。

 次に呪術師の説明もさせて欲しい。
 呪術を使って呪印を刻んだり、呪詛を祓ったりする人の事。
 師匠に弟子入りする時、一番最初に誓いの呪印を刻まれる。
 そんで一人前になった事が認められたら、国に登録して免許皆伝になるのだ。
 途中で挫折した場合は、覚えた事は全部綺麗さっぱり忘れさせられる。
 なら呪詛師は何故、忘れずに禁術を使えるのかって?
 それは分からん…
 呪詛師に弟子入りしたら、誓いの呪印なんて物は刻まれないだろうしね~
 お金貰って呪詛師を育ててる輩が、沢山いるんだと私は思ってる。
 当然だが私もお爺様も、真っ当な呪術師として登録済。
 意外に思うかもしんないけどさ、呪詛って結構身近にあるんだよ。
 だから妬まれたり、恨まれたりしそうな人は、先手を打ってる。
 だって嫌じゃない!
 誰が好き好んで呪われるのを、待ってると思う?
 病気になったり、怪我したり、不幸な目に会いたくないよね?
 避ける事が出来るならさ!
 呪詛返しの呪印を身に刻むって人、結構多いの。
 王族も然りだ。
 何なら、一番呪詛に掛けられる確率が高いとすら思ってる。
 だからお抱えの呪術師が、ちゃんと呪印を刻んでる筈!
 呪印は使い捨てだから、一回発動したら刻み直す必要があるからね。
 もし呪われたとしてもすぐに分かるから、そん時は呪術師に頼んで祓って貰えばいい。
 では、祓った呪詛は何処に行くか?
 呪詛師に帰って来る、倍返しになって…
 呪った筈が、逆に呪われちゃうってパターンだ。
 じゃあ、倍返しにされた呪詛を跳ね返せるか?
 それは絶対無理。
 呪詛は跳ね返した相手でも、呪われた相手でも無く、最初に掛けた者に戻るから。
 じゃあ意味無いじゃんって思うよね?
 身体張って迄やる事じゃない。
 それはそう。
 だったらなんで、呪詛師になるのか?
 やってける自身があるからだ。
 厄介な事に、術者にも力量ってのがあるんだよ。
 能力が高い者程、呪詛師になりやすい傾向があるって、お爺様が言ってる。
 つまり呪詛師の力量が、呪術師より高ければ、呪詛を祓う事が出来ないのだ。
 でもね、呪詛って必ずしも人間相手とは限らない。
 だから能力が低くても、呪詛師になれちゃう。
 実際こっちのが面倒くさいし、需要も多いのかな?
 跳ね返って来ても、問題無い呪詛ばっか掛けて来るから。
 どこぞの貴族家を没落させるだとか、農作物に被害を与えるだとか?
 そんなんばっか。
 何が楽しんだろね?
 最近商売が上手くいかないな~とか、不作が続いて食料危機だってなったら、呪術師に祓ってもらおう!
 これが一般的、誰もが知ってる知識だよ。
 だけど私が見た物は、教えられた物とは、かけ離れてたの。
 まるで、呪詛自体に意思があるかの様に…
 王女様の身体中に、触手の様な物を張り巡らせてさ、蠢いてたのだよ!
 全身に鳥肌立ったわ!
 初めて魔物見た時みたい。
 言葉では言い表せない程、信じらんない光景なのさ。
 しかも!魔力を吸い取って、成長してる様にも見えた…
 そんな事ってある?無いでしょ!
 あり得ないんだよ、何もかもが!
 だからね、ほんとに呪詛なの?って疑っちゃうレベル。
 信じたくないってのが本音だけど…
 だから、ちゃんと自分の目で見て、耳で聞いて確かめなきゃって思った。
 「お爺様!知ってる事全部教えて、あれは何?生きてるの?」
 お爺様は目を瞑り、寝た振りをした。
 ちょっと~黙秘かよ!
 まぁいい、話せない事もあるよね。
 「あれを、祓っても良いの?」
 「駄目じゃ」
 即答で来たか…危険な奴って事で決定したな。
 「………祓った瞬間、魔力暴走起こすの?」
 「………」
 寝た振りしてっけど、ちゃんと聞いてくれてるのは、知ってる。
 沈黙は肯定だよね!分かった。
 私はお爺様に次から次へと、疑問をぶつける事にした。
 「あの呪詛、魔力吸い取ってるよね?そして溜め込んでるよね?」
 「………」
 やっぱし!私の考えに信憑性が出て来たよ。
 「もしかして今は…停滞してんの?だから魔力を、溜め込んでんの?」
 「………」
 お爺様はまだ寝た振りを決め込んでる。
 「本来なら吸い取った魔力で、何かするんじゃないの?違う?」
 「………」
 なるほど…これは信じ難いが聞くしかないだろ。
 「王女様は、あれと三日三晩戦った結果、勝ったのね?」
 お爺様は天を仰ぎ、ルーク叔父様は私達のやり取りを、黙って見てた。
 「だから、洗脳されてないんでしょ?今でもあれを止めてるんだよね?首から上に触手が伸びて無いって事はさ、戦い続けてるって事じゃない?」
 「………」
 「じゃあさ、呪詛師からしたら王女様って、失敗作って事よね?まさか呪詛返しの呪印を失った後で、呪詛に抗う者がいるなんて…想定外だったんじゃない?」
 お爺様は諦めたのか、私の目をじっと見つめて来た。
 「宮仕えの呪術師が、あれを放置してるのは何故?まさか、知らない訳じゃないよね?」
 溜息付いちゃったって事は、概ね当たりって事か…
 凄く嫌な気分だ、違うって言って欲しかったのに。
 「もしかして呪術師があれを祓おうとしたら、証拠隠滅する為魔力暴走に似せて、爆発するって事?つまり、王女様一人位なら恐れる程じゃないけど…」
 私は、お爺様の目を真っ直ぐに見つめて、確信を突く。
 「呪詛を持った人が他にも居るんだね?一人が爆発したら、他の人も連鎖するの?もしかして全国に広まってる?各地で一斉に爆発したら、国が亡ぶかもしんないって事?違う?」
 「はぁ…かなわんのう」
 ここでやっと、言葉を貰えたか…お爺様は苦笑いしてる。
 「マジかよ…」
 横からはルーク叔父様の、絶望にも似た嘆きが聞こえた。
 私だってこんな事信じたくなかったけどさ、あれを見てたら考えちゃうじゃない。
 幸い?な事に、時間は沢山あるんだもの…
 「お爺様はさ、何時から知ってたの?誰から聞いたの?王女様以外で呪詛を持ってる人に会った事はあるの?」
 「勘弁してくれ」
 お爺様は困った顔をしてるだけで、詳しい事は教えてくれなかったけど、あれが呪詛の変異種だってのは分かった。
 「直接確認してみないとなぁ、どれ程の物か映像だけでは、判断出来ん」
 そうだよね…
 幾らお爺様だって、見ただけじゃどんだけ魔力を溜め込んでるのか迄は、分からないもんね。
 ルーク叔父様も、深刻な顔をしながら、思案してる。
 「しかし…相手は王族だ。いくら爺さんでも体内を覗きたいなどと言えば、警戒されないか?」
 医術師の資格を取っておけば、良かったかの?と、お爺様は呟いてた。
 体内を覗く方法かぁ…
 クレアみたいに、魔力をコントロールして、水でも飲ませる?
 土属性にそんな芸当は無理だなぁ、砂なら操れるけど…
 直接手を触れて、魔力を注ぐしか無いのかな?
 「ねぇ~なんか良い魔道具は無いの?誰にも気付かれずにさ!体内見れるやつ!」
 「おまえな~」
 なによ!叔父様は、心底呆れたって顔してる。
 「ティアよ…例えそんな魔道具があったとしても、わしは使わんぞ」
 「え~お爺様まで!」
 なんでよ!
 便利道具は、使ってこそじゃないの?
 ルーク叔父様は医術師だし、手術の補佐も頼んでるから、真っ当な理由で確認出来たんだけど…
 お爺様は、魔道具でも使わない限り無理でしょ!
 いきなり体内覗かせて下さい、なんて言ったらさ、変態扱いされちゃうじゃん!
 私だって気持ち悪いわ!
 カバジェロじゃあるまいし…………
 いや?
 まって………?
 何かあった筈………
 なんだ???
 思い出せ私!
 ほら、あれだよ………
 あれ………!
 「いや、あるわ!誰にも疑われずに、確かめる方法が!」
 「「え?」」
 私は説明したよ、やるかやらないかは、お爺様次第。
 腕を組んで黙っちゃったよ…そりゃそうだ。
 私とルーク叔父様は、お爺様を見守った。
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