超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。

紫(ゆかり)

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1章 出会い

21話.王女様の体内は最悪だった

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 翌日早朝。
 リシャーナの事が気になって眠れなかった王弟とルイフォードが、まだ眠そうな王弟妃を伴い部屋を訪れた。
 昨夜は綺麗なシャボン玉だったが、今は白濁色に変わっていた。
 当直に就いていた宮仕えの話では、時折寝返りをするかの様に、リシャーナはシャボン玉の中で動いていたと言う。
 香の煙はシャボン玉の中へ、吸い込まれて行き。
 深夜に何度か、カルティアが様子を見に来て、香を焚き直したが。
 やはりシャボン玉の中へと吸い込まれ、白濁色になってしまったと言っている。
 話を聞き終わった時、部屋中に香の煙が霧散して徐々に消えていった。
 ベッドへ視線を向けると、リシャーナはまだ眠っており、マルコがそっと布団を掛けている所だった。
 「おはよ~ございます」
 小声であいさつし、部屋を出て行こうとした所を、ルイフォードが呼び止めた。
 「部屋に戻るのか?」
 「うん!またね~」
 ぬいぐるみを抱いて、走って行くマルコの後姿を、ルイフォードは見つめている。
 あの状態で一晩寝ていた事が、信じ難かったのだ。

 「マルコ~今日ね、お茶会やろうと思うの」
 私は朝食後、マルコの部屋に来た。
 王女様の声を取り戻す為に、お友達増やそう作戦を実行してみようと考えたのだ。
 「やる~何処で~」
 「温室が良いな。お姫様はまだ、お外に出られないからね」
 「まだ駄目なの?可哀想…」
 しょんぼりとしてるね~、マルコは活発な子だから、早く外で一緒に遊びたいんだろうなぁ。
 「お姫様ね、お友達いないでしょ?」
 「僕がいるよ~」
 「お友達、いっぱい欲しくない?」
 「欲しい!」
 「でしょ?だから学校で、お友達になってくれる子を連れて来て欲しいの。お姫様が驚かないように、最初は3人位がいいかな?」
 「分かった~」
 「お茶会は一時間だけだよ、お姫様が具合悪くなっちゃうからね」
 マルコは元気よく返事をしてたし、準備もやるって張り切ってたから、任せて問題ないね。
 私は検診の為、王女様の部屋へ行く事にした。
 扉の前で、護衛が門番的な事をしてるのは謎だけど…
 部屋に入ると、クレアの診察が終わった所らしくて、まだしかめっ面だわ。
 「カルテ見せて~」
 クレアから受け取って、詳細を確認したけど、頭部は直ぐにでも治せそう。
 ただ…やっぱ核無かったかぁ
 体内は、思ってた以上に深刻だわ。
 「はいこれ」
 クレアは魔道具を渡して来た、昨夜話してた奴だ。
 これは眼鏡型で、私が見た物を記録映像として残せる、大発明品だ。
 誰が発明したのかは知らんけど…
 自称行方不明の伯父様が送って来てくれた戦利品の一つなのだ。
 ちゃんと王弟の許可も取ったよ、体内の記録大事だからね!
 私は早速クレアが気にしてた、謎の異物を確認する事にした。
 信じたくはないけど、心当たりがあったのだ。
 王女様の足元から少しずつ魔力を長し込み、隅々迄行き渡らせる。
 本日二度目の検査だから、あんま時間かけたく無かったんだけど。
 最悪だ…
 30分後、検査を終えた私にクレアが問いかけた。
 「分かった?」
 私は頷く、これでクレアも確信したのか、頷き返した。
 そして王弟達に向き合い、ルーク叔父様と相談してから、手術の日取りを決めたいと伝えた。
 この場で説明出来ない事があったからなのだけど…お妃様は何故か感激してた。
 王弟一家が我が家を訪れたのは、王女様の終の棲家にする為だったからだなんて、この時の私達はまだ知らなかった。
 だってねぇ、王都で余命宣告受けてるなんて思わないじゃん?
 外見だけならそこまで酷く見えなかったし…
 準備を整え、急ぎルーク叔父様の治療院に向かう。
 「あ!お茶会の事伝えるの忘れた…」
 「お茶会?」
 「今朝マルコに、お友達連れて来るよう頼んだんだ」
 「声の為?」
 「そう!先ずは精神を安定させてあげないとって思ったんだけど、どう思う?」
 「いいと思う~」
 王女様が言葉を失った大きな原因は、精神的な物だと検査ではっきりした。
 今回のお茶会は、そんな王女様の心を癒す為。
 支えになってくれる友人が出来たら、次は学校にも行かせてあげたい。
 同世代の子供たちと交流しながら、声を取り戻してくれたら良いなと、思っているのだ。
 治療院に来ると、叔父様は相変わらず研究室に籠ってて、小難しい顔で何かを読んでる。
 「叔父様!!!これ見て!」
 何時もなら、突然の訪問に小言を言われるんだけど…
 今日は、資料から目を離す事無く、手だけ差し出して来た。
 何真剣に読んでんだろ?
 私は叔父様に今朝撮った動画を手渡したら、固い物の感触に驚いたのか、視線を書類から手元に向けた。
 「王女様の体内映像なんだけど、今直ぐ見て!」
 「へ~、よく撮らせてくれたな」
 叔父様は早速眼鏡をかけたので、私達はドキドキしながら待った。
 クレアは此処へ来る迄に、映像内容を確認済みだ。
 30分後、眼鏡を外した叔父様の顔から、血の気が失せていた。
 「マジかよ…」
 「カルテもあるけど…」
 私がカルテを出すと、無言で受け取った…やっぱビックリするよね!
 「なるほどなぁ…」
 叔父様は一通りカルテに目を通すと、腕を組んで暫し考えてから、視線をクレアに向けた。
 「クレアは見えたのか?」
 首を横に振りながら答える。
 「嫌な感じだけ」
 今度は、私とクレアを交互に見ながら聞いて来た。
 「だろうな…この事は誰かに話してないよな?」
 「「うん」」
 私達の声がハモる。
 話せる訳ないよなって、ブツブツ独り言の用に喋った後で、私を見た。
 「明日は、僕が検査に行ってもいいか?見えないと思うが、確認したい」
 待ってました!そのつもりで此処に来たのよ。
 「そうして!お爺様にも報告するつもりだけど?お母様のがいい?」
 叔父様は難色を示した。
 「いや~ルディアは… 爺さんのが、情報持ってるんじゃないか?」
 「あんま広めるべきじゃないと思う?」
 やっぱ私達と、考える事同じかな?
 「そうだな…必要があれば爺さんが直接ルディアに話すだろうし…」
 叔父様は立ち上がり、珍しくお茶を淹れてくれた!
 マジか!
 私達は話しあった結果、王女様の首から上だけ先に、形成手術を施す事にした。
 そしてミラ伯母様にも手伝って貰おうって事になった。
 「問題は左目なんだよね~」
 「核が、ひと欠片でも残ってれば良かったんだけどな…」
 叔父様の言う通りなのよ。
 上級ポーションは、完全に失った臓器までは、再生出来ない。
 他の動物から媒体を貰って、形成するのが精一杯。
 表面的な事なら簡単なんだけど、中は複雑過ぎるのだ。
 私はどうしても、王女様を完全体にしてから、王都へ帰してあげたい。
 「右目半分こにして増やす?」
 私は、無い物強請りをしてみた。
 「ははは、右目だけ2玉になるだけだろ、笑わせんなよ」
 「だよね~」
 そうなのだ、目玉は身体から離れた時点で再生不可になる。
 くっ付いてる状態で増やしたって、どっちも右目だから意味ないんだよ。

 治療院の後は、ミラ伯母様の所に来た。
 王女様の形成手術の手伝いを、お願いする為なんだけど?
 薬草畑を見回したのに、姿が見えない…
 「何処行ったんだろ?」
 クレアが呟いた時、モンステルの森の中から、大きな火柱が上がった。
 「マーカスさんだ!行ってみよっ」
 私達はポチにまたがって、まだ黒煙が立ち上ってる付近を上空から見下ろした。
 「こっちこっち!」
 伯母様が両手をブンブン振ってたから、私達はポチから飛び降りて、走り寄った。
 「大丈夫?怪我してない?」
 「私は平気!それより魔晶石大量だよ!」
 煤だらけになりながら、火柱で焼け野原になった辺りを指さした。
 マーカスさんが、魔晶石を集めてるけど、血だらけじゃん!
 「酷い傷!何があったの?」
 「あははは、襲われちまった」
 いや…額から血が噴き出てるって!笑ってる場合じゃないでしょ!
 私はマジックボックスに保管してたポーションを、伯母様に手渡した。
 「助かったよ、ありがとね!なんか急だったからさ、手持ち使い果たしちゃって!」
 そう言いながら、マーカスさんの手当てを始める。
 私達も、魔晶石の回収を手伝いながら、事のあらましを聞いた。
 薬草を収穫してる時、突然不穏な気配を感じて森に入ったら、魔物が大量発生してたんだって!
 ほっとく訳にいかんし討伐始めたんだけど、数は多いし中級もいるしで、参ったよって笑ってた。
 「そんな事って今迄にあった?」
 私は不思議に思い聞いてみたけど…
 「初めてだよ!魔物ってさ、集団行動しないと思ってたんだけどね?」
 伯母様も首を傾げてた。
 近くで擬態してる事はあるけど、一緒に行動するなんて…おかしい。
 やっぱ森で異変が起きてるのかな?
 取り合えず、二人共無事で良かったよ!
 領地内で採れた魔晶石は、伯爵領の所有物となる為、必ずオルテンシア家で回収してる。
 回収した魔晶石は国が全て買い取ってて、売上金の一部が、採取した者に還元されるのだ。
 私はちゃんと記録を取り、伯母様に控えを渡したよ。
 親戚だけど、なあなあにはしないのだ!
 これも領主の務めだからね!
 領主は私じゃないけど…
 「あ!忘れる所だったよ。ミラ伯母様!王女様の形成手術手伝って!」
 「いいよ~いつ?」
 即答ありがたい!
 「まだ決めて無いの。首から上だけなんだけど…出来るだけ早くしてあげたいんだよね」
 「へ~。どんな様子なの?」
 私は、首から上だけ、見たまんまの説明をした。
 身体の方は、ここじゃ話せないと思ったんだよね~
 何となくだけど、誰かに見られてる気がしたから…
 私達はまだ、モンステルの森の中に居たのだ。
 「あっ!!!」
 辺りを警戒してたら、クレアが声を上げた!
 「どした!」
 伯母様もビックリしてる。
 「お茶会!」
 「そうでした!忘れてたよ、遅刻しちゃう」
 私達は伯母様達と別れて、急いで帰宅したのだった。
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