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19話.リーシャの主治医になったよ

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 私達はリビングに移動して話を再開させた。
 腹の探り合いをする気は無い。
 「正直に答えて下さい。私達は王女様が、虐待を受けてると思ってます。事実なら、医術師として見過ごす訳にはいきません」
 憤慨したのは意外な事にお妃様だった。
 「なんて事を言うの、あの娘は私達の宝です!虐待だなんて…そんな惨い事を、する訳がありません」
 「何故、虐待していると思ったのか、理由を聞かせなさい」
 今度は王弟が問いかけて来た、案外冷静な人なのかな?
 「何故放置してるんですか?あの程度のケロイド、宮仕えなら簡単に治せたと思いますけど?」
 「あの程度?」
 王弟が眉間に皺をよせた。
 「偶にいるんですよ。看病してる自分に酔いしれ、完治させずに大切な人を傷つける、奇矯な奴が」
 「それは、どう言う…」
 「誰が奇矯だ!私達が今まで何の努力もせずに、リーシャが苦しんでいるのを、傍観していたとでも言いたいのか!」
 うっわ…この王子、王弟の言葉無視して横やり入れて来たよ。
 「傍観も何も、事実でしょう?治せる物も治さず放置してるんですから」
 「知った口を聞くな!帝国の聖女だって癒せなかったのだぞ!」
 「へ~、やっぱ聖女様が癒せなかったって噂は、事実なんだ…」
 王子はハッとして、一瞬気まずそうな顔をした。
 勢い余って噂が真実だってばらすとか…だっさ!
 冷静さを取り戻したのか、俯いちゃったわ。
 「宮仕え達だって、真骨注いでリーシャの治療に当たって来たのだ。私だけならともかく、忠誠を誓った彼らを、愚弄して欲しくない」
 「ほんとに忠誠誓ってんですか?私には真骨注いで、怠慢してるようにしか、見えないんですけど?」
 「まだ言うか!たかが初級資格を取った位で、知ったような事を。口を慎め!」
 「たかがって何?こっちだって真剣なんですけど!目の前に救える患者がいたら、ほっとける訳ないでしょうが!」
 「お待ちなさい、今救えると…」
 「いい加減な事を!リーシャを引き合いに出してまで、私の気を惹きたいのか!」
 お妃様の言葉迄遮って、王子はドンっと、両拳をダイニングテーブルに叩き付け、かち割った!
 お茶を出してたから、テーブルの上のティーセットが滑り落ち、見事に全部割れたよ!
 ずっと我慢してたのに…
 私の怒りが沸点を超えた、許せない!
 「あんたね~!何、破壊してんのよ!そのテーブルも、ティーセットも、ご先祖様が大事にしてた奴なんだよ。せっかく淹れてくれたお茶まで零して、自分が何したか、分かってんのかボケッ! 
 人ん家に、侍女だの護衛だのってゾロゾロ連れて来て、でっかい顔してっけどさ!どんだけお金使わせる気なのよ?こちとら金の生る木持ってる暇人じゃないんだ、いい加減にしろっ!」
 「はっ!とうとう本性を出したか。お前の浪費に比べたら、この程度痛くも痒くもないだろっ」
 「何言ってんだよ、くそ王子!そりゃあんた達から見たら小銭程度かもしんないけどね、こちとらその小銭稼ぐのだって、必死なんだよ!」
 「まるで自分が稼ぎ頭みたいな口の利き方じゃないか、僕が何も知らないとでも、思っていたか?それとも辺境伯が付いていると思っての狼藉か?」
 「お爺様は関係ないでしょうがっ!」
 「関係ないだと?態々リッデルに迄頼み込んで、学園へ通えるようにして貰っただろう」
 「それこそ、あんたと何の関係も無いでしょーが!」
 「大ありだろう!卒業まで大人しくしていれば、黙って娶ってやったのに。僕会いたさに待ち切れず、学園迄押しかけようなど!学び場は、お前の遊び場ではないのだぞ!」
 「さっきから何言ってんの?頭湧いてんの?」
 「お前こそいい加減にしろ!身寄りの無い従姉妹を、奴隷代わりにこき使うなど!鬼畜にも劣る蛮行、恥を知れ!」
 今なんつった?クレアの事、奴隷呼ばわりしたよね?
 も~う我慢ならない!腕の一本でも落とさないと、気が済まない!
 マジックボックスから、愛刀を出そうとした私の腕を掴んだのは、お母様だった。
 「そこまで!」
 気が付けば、王弟夫妻も能面みたいな笑顔を張り付けて、固まってた。
 「ティア…超えちゃいけない一線と言う物を理解しなさい。一族揃って城門に首を捧げるつもりか?」
 「やり過ぎました、ごめんなさい…」
 お母様に言われて、急激に頭が冷えた。
 ここは素直に謝るしかない…悔しいけど正論だわ。
 「王子、私達の耳にも王都での悪評は届いてる。それを確かめもせず間に受けて、私の娘を愚弄するのは止めて頂きたい」
 「それは…感情を押さえられなかった、未熟さ故の失態、以後気を付けよう」
 へ~ばかだと思ってたけど、ちゃんと反省出来るんだ。
 深呼吸してから、うざ王子が語り出した。
 「信じられない気持ちは分かるが、私は学園を卒業したら必ず迎えに来る。カルティア以外を妃にする気は一切無い。不安だと言うのなら、今この場で正式な婚約を結び、婚姻の日取りを決めても良い」
 何処のカルティアさんの話だよ?あんたの婚姻なんて、殊更興味無いわぁ~勝手にやってくれ!
 「王子、仮婚約の事を、ティアは知らない。話してないからな」
 「え、お母様?仮婚約って何?」
 「あ~…ははっ」
 笑って胡麻化した!
 「「話して無いのか?」」
 固まってた王弟が復活して、うざ王子とハモった。
 だから、何の話だよ!
 「ねぇ…」
 クレアが深刻な顔をしてる。
 「身寄りの無い奴隷って誰の事?」
 えっ???クレアの事だよね?
 常に一緒にいる従姉妹って他にいないじゃん?侮辱されたと思ったんだけど違った???
 「ティアと何時も一緒にいるの私だけど… 身寄りあるし… こき使われてないし… 誰の事言ってんの?」
 珍しくクレアが饒舌だ!これは…うざ王子への抗議だ、変な言い掛かり付けるなって事かな?分かり難いよクレアさん…
 「それは、きちんと確認もせず言葉が過ぎた…」
 うざ王子がしどろもどろになってる、クレアの怒気にやられてやんの(笑)
  「カルティア、リーシャを助ける事が出来るの?あの娘を救う手立てを、貴方は持っているの?教えて頂戴、あの娘は助かるの?」
 いきなり両手握られたからビックリしたよ!
 お妃様が縋るような目で見つめて来る…
 クレアをチラッと見たけど、やっぱ…しかめっ面で頷いてる。
 これは、何かあるんだろな~
 「体内は…詳しく確認してないので、分かりませんが。頭部だけなら…気になる事もありますけど、直ぐにでも綺麗にしてあげたいと思ってます」
 そう、左目がねぇ…無かった場合は義眼使えばいっかな?
 「ぐえっ」
 思案してたらお妃様に抱き締められたよ!
 食堂でも思ったけど、この人見た目に寄らず怪力じゃね?苦しんだけど!!!
 「貴方は女神だわ!」
 女神じゃなくて亡霊になりそうです、離して欲しい。
 「ルミア、離れなさい」
 王弟が助けてくれなかったら、窒息してたかも!
 見た目詐欺、恐るべし…
 「カルティアよ、その言葉に嘘偽りは無いのか?私達は何度も失望して来た。戯言に付き合える程、寛容にはなれんぞ」
 王弟の失望なんかに、興味無いんだわ。
 「ねぇ…」
 「何?クレア」
 「カルテ見たい」
 「そだね、今迄何してたのか、気になるよね!」
 「聞いているのか?子供の遊びに…」
 「カルテね、カルテが見たいのね、他には何が必要かしら」
 王弟の言葉をぶった切って、お妃様が身を乗り出して来た。
 面倒臭い奴ら相手にするより、ずっと話し易いな。
 「出来れば明日の朝、体内の状態を確認させて欲しいです。それと、主治医からも話を聞きたいです」
 「分かったわ、明日の朝ね、主治医は今連れて来るわね」
 「待って下さい。こちらから伺ます、その時にカルテも見たいので」
 「そうね、そうしましょう、付いてらっしゃい」
 私達を逃がすまいとしてるかのように、医術師達が滞在してる部屋の前までやって来た。
 歩くの早いな~そして、当然の様に王弟も、うざ王子も付いて来た。
 突然の訪問に、驚く宮仕え達。
 テーブルには、カルテが広げてあった。
 王女様の今後を、話し合っていたんだって!
 お妃様から話を聞いた彼らは訝しそうに私達を見たけど、医術師の初級資格書を見せたら、ちゃんと説明はしてくれた。
 ちょっとここで、以前話してた初級では何故駄目なのか、説明を挟もう。
 医術師や、薬術師にも階級がある。
 初級から始まり中級・上級と来て、最高峰は特級と呼ばれる。
 初級は何処の領地でも、資格取得の為の試験を受ける事が出来るし、実績は関係無い。
 師匠に就いて、教えを請えば良いのだ。
 その変わり、資格証明書を発行した領地でしか、術師として認められない。
 他領で医療行為を行ったり、独自に開発した薬剤を持ち出す事は、禁じられてるのだ。
 つまり領地外に出たければ中級以上の試験を受け、医術師若しくは薬術師としての免許を、国から取得しなければならないのだ。
 当然だが実績も必要になる。
 人の命を預かるのだから、当然と言えば…そうなのかもしんないけど?
 やはり、王立学園の卒業生じゃなくてもよくない?って気持ちは拭えない。
 だって私達は領地から出たいんじゃなくて、自分達の技術を、お爺様の領地で活かしたいだけなんだもの!
 親戚なんだから、その辺大目に見てくれても、良さそうなもんだけどさ。
 世の中そう甘くはないって事なのよ。
 そして今、目の前に居る偉そうな医術師と、薬術師の階級は特級だ。
 王族の主治医になるんだから、それなりの実績と経験がなけりゃ無理でしょ?
 なのにだ、このカルテふざけてんの?
 聖女様が癒せなかったので手術しました…それは分かる。
 ケロイドが成長するので、手術続行は困難…て、まぁ何かあったんだろね?
 予期せぬ事なんて、無いとは言い切れないし、一旦中止して立て直すのも、アリだろうけど…
 問題はその後の治療についてだ!
 ケロイドの成長って何?
 そこ放置してどうすんだよ!
 何故魔力暴走にばっか、拘ってんの?
 症状全然違うじゃん。
 根本正さなきゃ、悪化するの当たり前じゃないの?
 ほんとに宮殿お抱えの、医術師なの?
 基礎からやり直したら?
 私はクレアの意見が聞きたくて横を見たけど、目を見開いて固まってるよ。
 絶句してて、声も出せないんだね、分かるよ~。
 クレアが何の質問もしないって事は、こいつらアホだって、思ってる証拠だわ。
 こんなのに診て貰ってたんなら、あの状態になるのも頷ける。
 とんだ穀潰しだよ!
 一体今迄何を、学んだんだ?
 私は呆れ果ててしまったので、お妃様にお願いをしてみる事にした。
 「王女様が滞在中の間だけ、主治医の座を私とクレアに任せてください」
 「分かりました。あの娘を助けてくれるのなら、何でも相談なさい。私に出来る事があるのなら、協力は惜しみません」
 意外にあっさりだな…
 もっとひと悶着あると覚悟してたんだけど?
 「お待ちください妃殿下!この者達はまだ幼い…」
 「黙りなさい」
 宮仕え達も、一蹴か…
 付いて来た割に一言も発さない王弟と王子は?
 眉間に皺寄せてるだけだった… 
 お妃様って最強かも?
 取り合えず話は付けた、これで心置きなく治療に専念出来る!
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