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16話.ポーション中毒

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 カルティアと、クレアナが帰宅した。
 屋敷に入ると漂う薬剤の臭いが鼻をつく。
 「何この臭い…」
 「どしたの?」
 「ポーション中毒者が来たのかも?」
 「えっ!」
 ポーション中毒者とは。
 傷や病が癒されて行く時の感覚に快楽を覚え、自傷行為を繰り返し、ポーションを乱用してしまう病の事である。
 長期間使用を続けると頭痛や眩暈、吐き気等が現れ始め、体臭に薬剤の匂いが少しずつ混ざる様になって行く。
 その為、毎日傍に居る者は気付き難く、他者から指摘される事が多い。
 完全な中毒状態になると、意識混濁を起こす為、注意が必要となる。
 カルティアは薬術師だ。
 日頃から薬草や薬剤に触れている事もあり、人一倍嗅覚が敏感になっていた。
 伯爵邸で雇われている者達の、健康状態は全て把握している。
 薬物中毒の恐ろしさは、嫌と言う程語って来た。
 「使用人じゃないな…」
 考えられるのは、客人として王都から来た王弟一行の誰かだろうと、カルティアは結論付けた。
 「ご飯行こ~」
 クレアナは、急を要する程では無いと、判断したようだ。
 二人は、身体に付いた汚れを叩き落とし、ダイニングへと急ぐ。
 患者は後で探す事にし、晩餐の席に着いた。
 「マルコはまだなの?」 
 何時もなら、いの一番に座っている弟の姿が、無い事に気付く。
 「王女殿下と遊んでたから、一緒に来るんじゃないかな?」
 先に来ていた伯爵が答える。
 「そうなんだ」
 「マルコは、王女に求婚したのさ」
 カルティアと、クレアナは驚きで伯爵夫人を凝視した。
 「「見たかった~」」
 出迎えを、サボらなければ良かったと後悔したが、後の祭りである。
 すると、今度はクレアナが気付いた。
 「え?近づいて来る…」
 「ねぇ、お父様もお母様も気付いてるよね?」
 カルティアの問いに、伯爵夫妻は頷いた。
 「誰?」
 夫妻は曖昧な笑みを浮かべる。
 「もう直ぐ分かるよ」
 伯爵は眉を下げて、困ったような表情になった。
 知っていながら、教えてくれなかったと、言う事は…
 カルティアは、あたりをつける。
 その時車椅子を押したまること、王弟一家が入って来た。
 カルティアとクレアナは、リシャーナを見て愕然とする。
 そして…
 「ちょっと席外します」
 カルティアは、クレアナの腕を掴んで、ダイニングを出て行った。

 ダイニングには重苦しい空気が漂う。
 先程迄、まることリシャーナの楽し気な光景を見ていただけに、落胆も大きかったのだ。
 やはり、王都での噂は本当だったのか?
 ルイフォードは深い溜息を付き、王弟は不機嫌を隠そうともせずに告げた。
 「不敬罪に問うつもりは無い。晩餐を始めよう」
 しかし、伯爵は王弟の言葉に異を唱える。
 「我が家では、食事は皆で楽しくをモットーにしております。それを破る様な子達ではありませ ん。何か考え合っての行動、もう少しお待ち下さい」
 許しを請うどころか選択肢を与えない伯爵の物言いに、王弟は侮蔑の眼差しを向けるも、沈黙を以て了承した。
 娘が娘なら、親も親だな…苦言を呈したい衝動を、腹の奥に仕舞い込む。
 何故なら、マルコとリシャーナが、楽しそうにしていたからだ。
 「息子に救われたな」
 王弟は腹の中で呟いた。
 「リーシャ、良かったね。僕の姉上は凄いんだ!どんな怪我でも治っちゃう」
 何の疑いも無く、マルコは姉が治してくれると信じていた。
 リシャーナは思った。
 二人が向けた視線は、何時も他者から向けられている物とは、明らかに違った。
 醜い姿に恐怖していると言うよりも、何故その姿で甘んじているのかと…
 好奇の目に晒され続けたリシャーナは、人の機微に敏感になっていたのだ。
 もしかしたら、何か救える手立てがあるのかもしれない。
 マルコの自信に満ちた瞳が、それを裏付けているように見えたリシャーナは、淡い期待を胸に抱く。
 せめて、感謝の気持ちだけでも伝える事が出来たなら…
 「すぐ、元気になるからね」
 ニカっと笑顔を向けるマルコに、リシャーナも心の笑顔で返す。
 この時の声が届いていたのなら、王弟もルイフォードも考えを改める事が、出来たかもしれない…
 しかし、家族に対する思いが人一倍強い二人には、カルティアの行動や娘を庇う伯爵の物言いが許し難く。
 受け入れられない程、怒りに満ちてしまっていた。
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