超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。

紫(ゆかり)

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1章 出会い

14話.マルコへの思い

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 リシャーナは、お茶を飲んだ後で、ベッドに入った。
 侍女が花瓶に生けてくれたリーテンの花は、リシャーナが見える位置に置かれている。
 薔薇や百合の様な豪華さは無いが、素朴ながらも凛と気高く感じる、不思議な雰囲気を醸し出していた。
 陛下から何時も聞いていた、幼い頃から見たいと望んでいた幻の花は、想像以上に美しい。
 こんな形で夢が叶うとは思っていなかった。
 もう思い残す事は何も無いと、そう思いたかったが、マルコの姿が焼き付き頭から離れない。
 本当に嬉しかったのだ。
 泣いて喜ぶ程嬉しかったのに、リシャーナの瞳からは、涙が零れ落ちる事すら許されなかった。
 笑顔を作る事もしない、礼も言わない、ただ座っているだけの人形。
 あの男の子は、本当にこんな私を好いてくれたのだろうか?
 揶揄われているとは思えない。
 リシャーナを真っ直ぐ見つめる瞳には、慈愛が満ちていたから。
 可哀想だと思われたのだとしても、失神するどころか右手に迄触れてくれた。
 あの行動の意味は理解出来なかったけれど?
 車椅子を押し、ソファーへ座らせ花を贈ってくれ…一応プロポーズなのかな?とも思うが。
 結婚したと言っていたあの言葉は…
 多分、意味を分かっていないのだろうと考え、聞き流す事にする。
 大好きです…その言葉に、忘れていた感情を思い出す。
 もしもの事があったら、あの子は泣いてくれるのだろうか?
 初めて会った、ちょっと不思議な…
 小さな男の子…
 もう無理だと諦めていた、誰からも相手にされる事もないと思っていた。
 それなのに…新しいお友達が、出来るかもしれない。
 そんな淡い期待で胸が膨らんでいく。
 あの子になら、裏切られても構わない。
 そう思える程、心を許している事に気付かないまま。
 リシャーナは旅の疲れもあってか、直ぐに深い眠りへと落ちていった。
 ルイフォードは、妹が眠りについたのを確認してから、ソファーへと腰を下ろす。
 悪夢の日から今日までの事を、振り返っていた。
 悲しい思いばかりさせてしまった、たった一人の妹。
 あと何日、一緒に過ごす事が出来るのかと…
 念願だったリーテンの花は、ルイフォードが自ら見つけるつもりでいたが…
 マルコが持って来てしまった。
 ここに滞在する意味が無くなったのなら、早々に王都へ帰るべきなのか?
 侮蔑の目を向けて来る者達が巣くう、あの場所に…
 そこで気付く。
 ここの者達は誰も、リシャーナを蔑んだり、侮蔑していないと。
 だから人が少なかったのかと、合点がいった。
 ルイフォードは見当違いをしている事に、気付かないまま深い眠りに誘われる。
 そしてカルティアがいなかった事にも、気付いていなかったのだ。
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