超人だと思われているけれど、実は凡人以下の私は、異世界で無双する。

紫(ゆかり)

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1章 出会い

13話.貧乏貴族

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 マルコ達は長い廊下を歩いていた。
 客間もだったが、余計な物は一切置かれていない。
 重厚な造りだが、何処もかしこも流行遅れだ。
 今時このような屋敷に住んでいる貴族がいた事に、ルイフォードは驚きを隠せない。
 屋敷自体は小さくも大きくもなかったが、建て替えた方が良いのでは?と思う程古びている。
 王都では、貧乏貴族と噂されていたが、事実だったのだと思う。
 使用人の数も足りているようには思えないが、掃除は行き届いている。
 出された茶やお菓子も宮殿の物より美味しく感じた。
 窓から外を眺めると正門には門番も立っておらず…
 屋敷内にも警護をしている者は見当たらない。
 庭は綺麗に手入れされているが、気持ちを和ませる草花ではなく、薬草や野菜が植えられている。
 客をもてなす気が無いのだと、誰もがそう考えるだろう。
 ポータルから降り立った時には、家畜の声すら聞こえていたのだ。
 馬小屋なら何処の貴族邸にもあるだろうが、それは見当たらない。
 代わりに牛や豚、鶏が放し飼いにされていたのだ。
 人工的に造られたとは思えない程大きな池もあったが、そこでは野鳥が気持ち良さそうに泳いでいた。
 気になったのは、大きな滑り台のような物…終着点は池の中にある。
 あれは何の為に造られた物なのだろうか?
 思案しながら、車椅子を押すマルコの後ろを、ルイフォードも付いて来ていた。
 マルコは機嫌よく鼻歌を歌っているが、ルイフォードにはよく分からない旋律に聞こえる。
 そして何かを思い出したかのように、今夜はご馳走だのピーちゃんは可愛いだのと、リシャーナに話しかけてもいた。
 だがリシャーナから返事など来る筈もなく、その事を気にする素振りすら無かった。
 独り言?と、鼻歌を繰り返しながら歩いているうちに、目的の場所へ着いたようだ。
 「リーシャのお部屋はここだよ」
 マルコが案内した部屋には、宮殿から連れて来た宮仕えが既に待機していた。
 荷物も綺麗に整頓されている。
 王女に用意された部屋にしてはかなり質素だと思うが、どの部屋も似たり寄ったりであった。
 家具を買い揃える余裕さえ無いのかと思う程に…
 ここへ来る迄に幾つか部屋の前を通ったが、全て扉が開け放たれており、中の様子が丸見えになっていたのだ。
 そのどの部屋よりも、更にここは家具が少なかった。
 侍女達が案内された時には、既にこの状態だったと言う。
 他の屋敷では、邪魔な家具を移動させる等、大変な思いをしていた。
 その手間が省けただけではなく、車椅子でも不自由のない配置になっていた事で、宮仕え達は家主の気遣いに感動していたのだ。
 ルイフォードも蔑ろにされて来た妹が、ここへ来て初めて客人として扱われた事に感動した時。
 部屋へ入るなり、マルコは術式も、詠唱も無く魔術を使った。
 リシャーナの身体がふわりと宙に浮き、ソファーに移動する。
 ルイフォードはまたもや驚愕し、言葉を失いマルコを凝視した。
 もう緊張はしていないのだろう。
 ご挨拶をして良いかと尋ね返事を待たず、同意を得たとばかりに先程と同様…
 大きく息を吸い込み、目をぎゅっとつむり、唇を尖らせて…
 「ん~~~~~~~~~~~~~~~~~っま!」
 と、言った。
 「「「「!?」」」」
 今度は宮殿から連れて来た宮仕え達が、一斉に驚愕した。
 そんな周りの様子など、全くお構いなしに話しかける。
 「リーシャまたね~おやすみだよ」
 マルコはしたり顔で侍女を呼ぶと、鼻歌を歌いスキップしながら出て行った。
 ルイフォードは意味が分からず、眉間に皺を寄せる。
 部屋の前で控えていた侍女が入って来た。
 「マーサと申します」
 年配の女性が深く頭を垂れ挨拶する。
 彼女はリシャーナが滞在中、お手伝いをするよう仰せつかったと言う。
 「あれは何なのだ?」
 ルイフォードは伯爵邸の侍女に尋ねたが…
 にっこりと微笑むだけで、彼女も良く分からないようだった。
 「こちらはカルティア様がブレンドした茶葉です。旅の疲れを癒し、寝付きを良くする物です。」
 そう言って缶に入った茶葉をスプーンで一匙すくい、掌に乗せ目の前で口に含んで見せた。
 毒は入っていませんと、行動で示したのだ。
 リシャーナ付きの侍女が茶葉を受け取る。
 マーサは、何かあったら呼んで欲しいと告げ、部屋を出て行った。
 この屋敷には、鬱陶しい程に纏わり付く輩がいない。
 これもまた、気遣いなのだろうと、ルイフォードは感じていた。
 「私も茶を貰おう」
 何度も信じられない光景を目の当たりにした事で、婚約者候補の名前が出た事にすら、気付かない。
 心がかき乱されていたルイフォードは、一刻も早く茶を飲み落ち着きたかった。
 そしてリシャーナの横に腰かけようとして、再び目を見張る。
 先程も一瞬の出来事で、魔術を使った事に気付くのが遅れた。
 だがそれだけだと思っていたのに。
 ソファーとリシャーナの間には、水のクッションが敷かれていたのだ。
 心地よく座れる様、配慮したのか?
 まさか…ゴクリと、ルイフォードは喉を鳴らす。
 魔術も剣術も得意だと自負していたが、その自信が揺らぎ崩れ去る音が聞こえる気がした。
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