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10話.ルイフォードの哀しみ
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王弟一行の旅程は順調に進んでいたが…
王弟は不愉快を隠そうともせず、案内された侯爵邸の一室で、屋敷の主に苦言を呈している。
先触れを出していたにも拘わらず、侯爵の娘がリシャーナと対面するなり、口から泡を吹き失神してしまったのだ。
大人でさえ、悲鳴をあげ失神する者がいるのだから、子供なら無理も無い。
それを分かっていたから悲劇を避ける為面会出来る者を、最低限にするよう通告していたのに、侯爵は守らなかった。
ここへ来る迄に幾つかの領地を訪問したが、何処も皆似たような失態を侵している。
娘ならルイフォードの正式な婚約者に、息子なら側近として召し抱えて貰う為に…と。
彼らが手ぐすね引き、待っていたのには理由があった。
王都から、最短でオルテンシア伯爵領へ向かう為に選んだ領地は、王族との関わりが希薄だからだ。
その為、近付きになる機会を失いたくない一心での行動が、仇となってしまった。
まさかルイフォードが常にリシャーナの傍に居る等とは、夢にも思わなかったのだろう。
侯爵の娘もまた悪評高い田舎の伯爵令嬢などより、自身の方が余程婚約者に相応しいと…
思いあがっていたのかも知れない。
王族は早い段階で婚約者を決める風習がある。
それは王族との婚約を望む者が多く、婚約者を決めないと歳の近い貴族令息や令嬢達が、自信の婚約者を決めずに待ってしまうからだ。
その結果婚期を逃してしまった者は、意図しない婚姻を結ぶ羽目になってしまう。
それを分かっていても尚、王族と言う肩書は魅力的なのだろう。
早々に婚約者を決める事は、彼らに幸せな結婚をして貰う為の、配慮でもあった。
では何故、未だルイフォードに正式な婚約者が、いないのか?
それは、相手方との取り決めの問題であった。
婚約者候補の令嬢は居るが、正式な発表はしていない。
ならばまだチャンスはあると、求婚してくる令嬢が、後を絶たないのである。
しかし、ルイフォードは頑なに拒絶した。
まだ幼子だった時、盗賊から救ってくれた恩人がいる。
その恩を仇で返す事はしない、例えどんな悪女だったとしても…
彼の孫娘と婚約し、結婚すると誓っていたのだ。
それは、王弟一家の望みでもある。
ルイフォードは、ここでもかと辟易していた。
王弟の意思に背いて迄言い寄って来る者などに、興味を示すと本気で思っているのか?と…
そしてリシャーナに、視線を落とす。
王都にいる時は、ずっと一緒にいてあげられなかった分、旅行中は傍に居ると決めていた。
「リーシャ…僕のせいで、嫌な思いをさせた。」
妹は何も言わない。
表情も変わらないが、お兄様のせいでは無いと、言ってくれている気がした。
「ごめんね」
物言わぬ妹を、そっと抱きしめて許しを乞う。
リシャーナは僅かに動く右手で、ルイフォードの体をトン…トン…と。
ゆっくり優しく触れてくれる。
ルイフォードは込み上げて来る涙を、唇を噛んで堪えた。
何故、何故リーシャなのだ!
どうして、どうして皆リーシャを拒絶する!
どんな姿になったとしても、リーシャはリーシャだ…
僕の、たった一人の、大切な妹なのに…
ルイフォードは、これから滞在する伯爵家の事を考える。
そこには、悪評まみれの婚約者候補が居る。
実際会うのは初めてだ。
噂を真に受けている訳ではないが、煙の無い所に火は立たぬ。
リシャーナを見たら、どんな反応をするのか?
口汚く罵られるのか?それでも自分は耐えられるのか?
どのみち学園で顔を会わせる事になるだろう…
卒業後は伴侶となる人だ…耐えなければ…ならない。
頭では理解していても、心が追い付いて来なかった。
ルイフォードもまだ13歳の少年なのだから。
これから会う婚約者候補に頭を悩ませるのも、仕方のない事だった。
王弟夫妻もまた、ルイフォードと同じ悩みを抱えていた。
王弟は不愉快を隠そうともせず、案内された侯爵邸の一室で、屋敷の主に苦言を呈している。
先触れを出していたにも拘わらず、侯爵の娘がリシャーナと対面するなり、口から泡を吹き失神してしまったのだ。
大人でさえ、悲鳴をあげ失神する者がいるのだから、子供なら無理も無い。
それを分かっていたから悲劇を避ける為面会出来る者を、最低限にするよう通告していたのに、侯爵は守らなかった。
ここへ来る迄に幾つかの領地を訪問したが、何処も皆似たような失態を侵している。
娘ならルイフォードの正式な婚約者に、息子なら側近として召し抱えて貰う為に…と。
彼らが手ぐすね引き、待っていたのには理由があった。
王都から、最短でオルテンシア伯爵領へ向かう為に選んだ領地は、王族との関わりが希薄だからだ。
その為、近付きになる機会を失いたくない一心での行動が、仇となってしまった。
まさかルイフォードが常にリシャーナの傍に居る等とは、夢にも思わなかったのだろう。
侯爵の娘もまた悪評高い田舎の伯爵令嬢などより、自身の方が余程婚約者に相応しいと…
思いあがっていたのかも知れない。
王族は早い段階で婚約者を決める風習がある。
それは王族との婚約を望む者が多く、婚約者を決めないと歳の近い貴族令息や令嬢達が、自信の婚約者を決めずに待ってしまうからだ。
その結果婚期を逃してしまった者は、意図しない婚姻を結ぶ羽目になってしまう。
それを分かっていても尚、王族と言う肩書は魅力的なのだろう。
早々に婚約者を決める事は、彼らに幸せな結婚をして貰う為の、配慮でもあった。
では何故、未だルイフォードに正式な婚約者が、いないのか?
それは、相手方との取り決めの問題であった。
婚約者候補の令嬢は居るが、正式な発表はしていない。
ならばまだチャンスはあると、求婚してくる令嬢が、後を絶たないのである。
しかし、ルイフォードは頑なに拒絶した。
まだ幼子だった時、盗賊から救ってくれた恩人がいる。
その恩を仇で返す事はしない、例えどんな悪女だったとしても…
彼の孫娘と婚約し、結婚すると誓っていたのだ。
それは、王弟一家の望みでもある。
ルイフォードは、ここでもかと辟易していた。
王弟の意思に背いて迄言い寄って来る者などに、興味を示すと本気で思っているのか?と…
そしてリシャーナに、視線を落とす。
王都にいる時は、ずっと一緒にいてあげられなかった分、旅行中は傍に居ると決めていた。
「リーシャ…僕のせいで、嫌な思いをさせた。」
妹は何も言わない。
表情も変わらないが、お兄様のせいでは無いと、言ってくれている気がした。
「ごめんね」
物言わぬ妹を、そっと抱きしめて許しを乞う。
リシャーナは僅かに動く右手で、ルイフォードの体をトン…トン…と。
ゆっくり優しく触れてくれる。
ルイフォードは込み上げて来る涙を、唇を噛んで堪えた。
何故、何故リーシャなのだ!
どうして、どうして皆リーシャを拒絶する!
どんな姿になったとしても、リーシャはリーシャだ…
僕の、たった一人の、大切な妹なのに…
ルイフォードは、これから滞在する伯爵家の事を考える。
そこには、悪評まみれの婚約者候補が居る。
実際会うのは初めてだ。
噂を真に受けている訳ではないが、煙の無い所に火は立たぬ。
リシャーナを見たら、どんな反応をするのか?
口汚く罵られるのか?それでも自分は耐えられるのか?
どのみち学園で顔を会わせる事になるだろう…
卒業後は伴侶となる人だ…耐えなければ…ならない。
頭では理解していても、心が追い付いて来なかった。
ルイフォードもまだ13歳の少年なのだから。
これから会う婚約者候補に頭を悩ませるのも、仕方のない事だった。
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