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1章 出会い

4話.オルテンシア一族は引き籠り

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 お茶を飲んで一息付いた頃、私はお父様に頼んでた事の、進捗状況を聞いてみた。
 「王立学園への推薦状を書いてくれる親戚は、見つかったかな?」
 お父様が口の中に放り込もうとしてたクッキーは、行き場を無くした。
 「探してはいるんだけどね。如何せん私達は面倒臭がりが多いから、態々遠い王都まで勉強しに行こうとか、考えないんだよね…」
 困ったねと、眉を八の字にして、持っていたクッキーを口に放り込む。
 「でしょうね。私だって目的が無かったら王都まで出向いて、学園に通おうとかって思わないもん」
 半ば不貞腐れて、得体のしれないお菓子に手を出した。
 面倒臭いなら行かなければ良いと思うけど、私達は免許が欲しいのだ。
 医術師にしろ薬術師にしろ、上級試験を受ける為の必須条件が、【王立学園の卒業生】なんだもの。
 誰がそんなふざけた決まり事を作ったんだよって、文句の一つでも言ってやりたい。
 そりゃ途方もない学費を払えば、問題無いんだろうけど…
 そんなお金ある筈が無い!貴族が皆お金持ちだと思わないで欲しいよ。
 だから私達は学費免除の特待生制度を、何が何でも利用したいの!
 その条件がスカウトを待つか、学園の卒業生である親戚から、この子優秀だよ~って!
 紹介状を書いて貰うかの二択しかないなんて無情過ぎる。
 スカウトって何?領地から出た事もない私達の存在を気にしてくれる人なんて、いる訳がなかろうて。
 縋る思いで親戚を頼ったけど、井の中の蛙大海を知らず、無駄な抵抗だったらしい。
 オルテンシアって皆、面倒臭がりで興味の無い事からは、逃げたもん勝ってスタイルなのよ。
 でもそれじゃ、読み書き計算が出来ない人ばっかになっちゃうじゃない?
 それだけが理由じゃないとは思うけど。
 ご先祖様は遠い王都迄行かずとも、領地内で学習出来る学校を造ったの。
 お陰様で領民がみ~んな、仲良く領地から出ない、引き籠りになっちゃった。
 お父様の方は諦めて、私はお母様をチラリと見る。
 「探してくれた?」
 「あ~…」
 顎に人差し指を当てて、天井のシミを探してるわ。
 ダメだ、この仕草をしてるって事は、全く持って何も考えてない証拠だもの。
 溜息が出そうになった時、背後から声がした。
 「探し物か?」
 そう言いながら空いてる席に座ったのは…
 母の父親で・北の辺境伯で・ソードマスターで・国一番の剣士で・私の呪術の師匠でもある。
 「お爺様!」
 渡りに船とばかりに聞いてみた。
 「王立学園への推薦状を、書いてくれる親戚を探してたんだけど、誰かいないかな?」
 「王都へ行きたいのか?推薦状が欲しいならわしが書いてやるぞ」
 お爺様が卒業生じゃない事は知ってる。
 オルテンシア程じゃないけど、領地外の事には全く興味が無いらしい…
 これは、北国に住む人々の、習性なのかと思うレベルだ。
 だけどうちは別!娘の嫁ぎ先だし、辺境伯領の中にあるから、何かと気にかけて来てくれるのだ。
 学園の卒業生じゃなきゃダメだと言う事を告げたら。
 そうなのか?と言って、顎を自身の手で弄んでる、何か考え事をしてる時のしぐさだ。
 そしてお爺様は、お母様を見た。
 「ルディア、リッデルには頼んでないのか?」
 「え?」
 お母様は暫し、お爺様と見つめ合ってた。
 「まさかとは思うが…兄の事を忘れてはいないだろうな?」
 お母様は沈黙の後、左の掌を右手の拳でひとつポンっと叩いた。
 「ああ!今の騎士団長は兄様だったか?」
 「騎士団長では無い!近衛騎士団長だ!馬鹿めっ」
 お爺様はいつになったら区別が付くんだ?って、呆れ果てた顔で溜息を付いてた。
 お母様はそんな事等まったく気にしてないみたい。
 私達に向かって、見つかって良かったな、と言って笑った。
 え?ちょっと待って?リッデルって誰??? 
 産まれてこの方、お母様から兄の話は聞いた事が無いぞ~どゆ事?
 辺境伯家は複雑な事情を抱えてるのでは?って思ってたけど…
 お母様が嫁いで来たから、弟が次期辺境伯かと思ってたら違った。
 じゃあ、その子供?って思ったんだけど。
 次期辺境伯として教育されてる、世継ぎの従兄はなんと!叔父様の子では無かった。
 ずっと聞いてはいけない話かと思ってモヤモヤしてたのよ。
 この際だから、直接お爺様に聞いちゃっても良いのでは?と、考えてたらクレアに先を越された。
 「辺境伯の隠し子?」
 ド直球だなぁ…
 盛大に紅茶を噴出したのは、お父様だった。
 「クレア!そこは繊細な話だからっ」
 そいやお父様にも聞いた事あったけど、なんか軽くごまかされてたな?
 やっぱ聞いちゃいけない話だった?
 尊敬してたお爺様に隠し子がいるなんて、滅茶苦茶ショックなんですけど!
 「お婆様はこの事実を、知ってるのかな?世の中知らない方が、幸せな事もあるよね…」
 私はお婆様の事を考えて、胸の内に秘めた方が良いと決心した。
 「何を言っとるんだ?わしはヴァレリア一筋だ、婚外子などおらん」
 ヴァレリアとは、お婆様の事。
 周りから疑惑の目を向けられたお爺様は、リッデルに会えば分かると言ってた…
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