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二人でお出掛け
しおりを挟む今泉と下校した日から数日後、俺たちは早速二人で出かけることを決めた。正直社交辞令くらいでなんとなく実現する可能性はほぼないもんだと思っていた。だって、俺が逆の立場なら相手次第では有耶無耶にしているはずだ。もちろん相手が今泉なら地を這ってでも行くけど。
そして、今日がその日だ。集合は今泉の家の最寄りの駅。ここで合流してまた電車で移動すると言った具合だ。
俺自身非常に気合が入っている。外はかなり暑いのにも関わらずおしゃれのために重ね着までしている。本当だったらシャツ一枚とかがいい。
時間もかなり早く着いた。10時集合なのに9時過ぎにいるのだから相当早いだろう。遅刻したくない。待たせたくない。という思いと過度な気合いでこうなってしまった。
集合場所の駅は特質何かあるわけではない。少しあたりを見渡せば民家ばかりと言った具合だ。流石に早すぎるためコンビニで涼みつつアイスや飲み物を買う。
日陰で涼みながらアイスを食べ切りゴミを処理して駅の方に戻ってみれば今泉とちょうど会った。
「え、三枝くん?おはよう」
「おはよう。えってなにさ」
「早くない?」
現在時刻は9時30分を過ぎたくらい。十分に今泉も早い。
「気合い入りすぎちゃって、そういう今泉も早いじゃん」
「そうだけど…」
今泉は俺があまりに早いことが気がかりなようだが、今の俺にはそんなことはどうでもいい。
「可愛い」
「…っ」
「可愛いが過ぎてる。取り締まりたい」
「恥ずかしいからやめて!」
私服の今泉が新鮮で可愛い。思わず息を呑んだ。
「三枝くんこそ、かっこいいよ」
「そう?ありがとう」
ちょっとスカしたけどすごく嬉しい。
予定より早く集まったけれどとりあえず移動することにした。
目的地までは電車で30分ほど乗った後地下鉄に乗り換えて3駅とかそこらだったはずだ。
電車は空いているし、クーラーが効いていて涼しい。俺と今泉はガラガラだが間を空けずに横並びで座った。
お互い何も言わずそう座ったが肩の当たるこの距離はなかなかくるものがある。ただ動揺は一つも見せずに小さな声で雑談をしながら向かった。
今日は今泉からの提案で少し前にできたというカフェにいく。そこのパンケーキが気になっていたらしい。そしたそのあとは話題になってる映画でも見ようかなんて話になっている。
「それでね。彩花がー」
「YouTubeでこの前ね」
ご機嫌に見える今泉はいつもよりも話をしてくれているような感じがする。なんだかんだ学校だとあの授業はどうだだの、課題がどうだのと言う話題がある為、今現在いつもよりもプライベートな話が多いことがそう思わせるのかもしれない。
「やっぱり早いね」
目的の店の最寄り駅まで来たが、俺たちは早く出発しここまで時間を潰すことなくやってきていたのでかなり時間に余裕がある。
「予約の時間までどうしようか」
「この辺りに本屋があるらしいからちょっと覗いてかない?」
「いいね!」
涼しい店内に入り、二人で物色する。
「三枝くんは漫画とか読むの?」
「恭弥とか颯太におすすめされた作品くらいかな」
あの二人は漫画をよく読んでいるようで、勧められては買うなり、借りるなりして読んでいる。漫画は好きだが、自ら面白い作品を探そうと考えるほどの熱量はない。
それでも、特に恭弥の活躍により世代のアニメや漫画、ゲームなんかはにわか程度にはわかるようになっている。
「そうなんだ!小説とかの方が好き?」
「たくさんは読まないけど漫画よりは読んでるかも、今泉は好きな漫画とかあるの?」
「んー、私も漫画は有名どころを知ってるかなってくらい。あっ、でもアプリで悪役令嬢物とか読んでるよ」
「悪役令嬢物?」
そう言うジャンルなのか、ヴィランが活躍するスピンオフみたいな感じなのかな?
今泉に説明してもらったら予想とは少し違ってたみたいだ。そして、本屋にきておいて一日一話無料で読める漫画アプリをダウンロードした。
「三枝くんおすすめの小説とかある?せっかくだから買おうかな」
中を練り歩きながら小説のコーナーに来た時そんな風に言われた。
「おすすめかぁ…これ面白かったよ」
平積みしてある本を一つ取り薦めてみる。でも、俺が持ってるのにわざわざ買わせるのもな。
「興味あるなら買わなくても貸すよ?」
「えー、でも悪いよ」
「読み終わって本棚に置いてあるだけだし全然いいよ」
「んー、じゃあ三枝くんのまだ読んだことない本を買うよ。読み終わったら交換っこしよ」
そう言って一冊の小説を持ってレジに向かった。
図らずも二つ読むことになっているがそれはいいのだろうか。
まだ少し早い気もしつつ本屋を後にした。二人でペースを合わせながら歩いていたら目当てのカフェの近くに着く頃にはなんだかんだちょうどいい時間だった。
「予約している三枝です」
「お待ちしておりました。ご案内いたします」
店内はほとんどの席が埋まっており、予約をしていなければ怪しかったかもしれない。
窓際の席へ案内された。
「三枝くん…どうしよう」
「どうしたの?」
メニューを開いた今泉が固まっている。
「パンケーキ食べたかったんだけど。パフェが美味しそう」
嬉しそうに困っているのがおかしくてニヤニヤしてしまう。
「じゃあ二つとも頼もうか、食べきれなかった分貰うよ」
「食べきれないなんてことはないよ」
今日一低い声で返ってくる。
「ただね。食べ切ったら後悔するんだよ」
「どうしたい?」
「両方頼む。だから両方とも半分食べて」
「わかった」
結局、目当てのパンケーキと季節のフルーツのパフェを頼むことになった。それぞれアイスコーヒーとアイスティーも頼んだ。
いざ来てみれば思ったよりもパンケーキが大きくて今泉がなんとも言えない顔をしていた。
今泉が携帯を取り出して写真を撮る。今どきの女の子らしいななんて思いながら、ホームページ見たら同じ写真ありそうという言葉を飲み込んだ。
「そういうのってSNSとかにあげるの?」
「そうする人もいるけど、私は今のところ自分の思い出用かなぁ」
「そういえば三枝くんが携帯触ってるところってあんまり見たことないね」
「そうかな?」
「うん。連絡先交換した時くらい?あんまり使わない人?」
「そんなことないと思うけどなぁ」
「でも、携帯より今泉を見ていたいとは思うかな」
「なっ…」
わかりやすく反応してくれて嬉しい。キザったらしいセリフもこうして受け止めてリアクションまでしてくれるのなら簡単に吐ける。
「た、食べよっか!」
ケーキが届くとここぞとばかりに話題を変えようと、照れている今泉に促された。
味は美味しかった。今泉は半分と言いつつなんだかんだそれより多く食べていて微笑ましかった。
「やっぱり俺も写真撮ろうかなぁ」
「食べちゃってるのに?」
「こういうものって食べる前に撮るものなの?」
「空いた皿写しても…ね?食べかけもなんか違うくない?」
「まぁでも撮っていいかな?」
「もちろんだよ!」
許可をもらったので今泉の写真を撮る。
「え、私?」
「許可とったし」
「そんなつもりじゃなかったのに」
食べている今泉の写真を撮った後に微笑ましく彼女を見ていると「カシャ」っと鳴った。
「お返し」
満足気な今泉が携帯を構えたまま目を合わせてドヤ顔をしている。
「無許可なのに」
「これでおあいこ」
すごいいちゃついてるみたいで幸せでした。
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