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雨の日
しおりを挟む告白から数日たった。ゆっくりではあるが前と同じくらいには今泉とも話せるようになってきていると思う。
季節は梅雨も明けようというこの頃。今日はおそらく梅雨最後の強めの雨が降っている。
「予報では夜からのはずだったんだけどな」
傘は持っているが持っているからと言って雨が降っても大丈夫と思えるわけではない。嫌なものは嫌なのだ。
部活を終えて鍵を職員室に返しにいく。先輩たちは先に帰った。俺が延長して練習をしたがったせいだ。先輩たちも「じゃあ閉めるのよろしく!」と意気揚々と帰って行った。
鍵も返し、傘をさして一人で駅に向かう。
駐輪場の方を不意に見てみれば今泉がいた。どこか上の空でぼーっとしている様子だった。
雨宿りをしているのだろうか。気がつけばそちらの方へ足を進めていた。
「今泉、お疲れ。雨宿り中?」
「あ…三枝くん。うん。傘忘れちゃって」
「でも今泉自転車通学だよね?」
「今日雨降るかもって思ってたから電車で来たんだ」
「それなのに傘忘れたの?」
「…」
まさか今泉がそんなドジをするなんて。雨のために電車にしたのに、雨とわかってるのに傘を忘れるのか。
「今泉もそういう失敗するんだね」
「私のことどう見えてるの」
「「…」」
今泉がどこか気まずそうにしている様子にどうしたらいいのかわからず、静寂が訪れる。
この際単刀直入に突っ込むしかない。
「今泉、気まずい?」
「え?……ううん!」
「傘忘れたり、ここ最近ぼーっとしてたのも俺のせい?」
「ち、違うよ!」
「本当は?」
「ちょっとだけ」
否定する声量の半分くらいの小さな声で教えてくれた。
「気にしてくれて嬉しいけど。出来ればいつも通りが嬉しいかな」
「無理だよ!」
1番大きな声で返ってきた。
俺は告白してそのことを今泉が考えてくれたり気に留めてくれるのは嬉しいけれど負担になりたかったわけじゃない。
「普通に!あー、この人私のこと好きなんだぁとか思ったらドキドキしちゃうよ!?」
返ってきたのは想像と違った。考えた末に思い悩んでいるどちらかというとネガティブな要素が強い可能性を考えていたから。
だから思わず笑ってしまった。
「あははははっ!!」
「三枝くんのせいではあるからね!」
「ごめん!でも好きなんだもん」
「ほらまた!なんだもんじゃない!」
雨音なんて気にならないくらいに今泉の声だけが聞こえる。そこから興奮気味の今泉と少し話した。
「とりあえず、迷惑じゃないってことでいいんだよね?」
「もちろん…でも悩みの一つなのは確かだよ」
興奮気味で普段よりもテンションが高く見える今泉に突っ込んだ質問がしたくなった。
「今泉は俺のこと好き?」
あの日聞けなかったこと。確かに俺は好きだと伝えたけど今泉の返答は遮ってしまった。ビビったから。
でもなんか今は自分が好意を伝えてスッキリしているからか聞きたくなってしまった。
「…っ!黙秘!」
「権利の行使を許可しましょう」
はぐらかさせてしまったが、どうやら可能性がゼロじゃない。それどころか希望しかない。
「困らせてごめんね」
「ううん。こちらこそすぐに応えられなくてごめんなさい」
雨が少し弱くなり始めた。今泉が天気予報を見ると今から1時間後さらに強くなり、あとは翌朝まで今と同じぐらいという予報だった。
「今泉は家族の迎え待ちだった?」
「んー、そのつもりだったけど期待できないかも」
「じゃあ駅まで一緒に入る?」
「いいよ、三枝くん先に帰って」
「俺と相合傘は嫌?」
「…嫌ではないです」
「じゃあ行こうよ」
今泉は諦めたように俺の傘の中に入った。
「濡れてない?大丈夫?」
「平気だよ。三枝くんももう少しこっち寄って大丈夫だよ」
「いや、今泉が濡れてないならいいよ」
「ほら、肩濡れてる」
「さっき散々濡れた後だし変わんない」
「そっかぁ…ってならないよ」
そんな感じで駅までの道を二人で歩いた。お互いがお互いに合わせるようにした結果ゆっくりとした足取りで二人の時間は長く続いた。
それでも終わりは来るもので駅に着いた。
「三枝くんありがとう」
「どういたしまして。今泉と話せて楽しかったよ」
「今度お礼するよ」
「今泉との時間でお釣り来ちゃうよ」
「またそんなことばっかり…」
小さな声で今泉は可愛く文句を言っている。でもここぞとばかりに提案をしてみることにした。
「じゃあ、今度二人で遊びに行かない?」
「え」
「それは違ったか」
「ううん!いいよ!」
「じゃあ詳しくはまた連絡するよ」
デートのお誘いは存外すんなり受け入れられた。きっと俺は当日まで寝られない。
俺と今泉は電車の方面が違うので改札を入ったあたりで別れた。
すごく楽しかった。
電車に乗り、半端に空いた席には座らず立ったまま携帯を開くとちょうど今泉から連絡が来た。
『今日はありがとう!助かりました!』
こちらこそ。と送る前に追って連絡が来た。
『野暮だと思ってしつこく言わなかったけど結局三枝くん傘からはみ出したりしてたよね?しっかりあったかくしてね』
なんだばれていたのか。傘を傾けたり今泉が濡れないことに注視した結果自分は確かに濡れていた。でも本当に髪の毛なんてまだ湿っているくらいだし、濡れる事への抵抗は俺の方がないだろう。感謝を示してくれることも、俺の配慮を受け入れてくれたこともすごく嬉しかった。
『こちらこそ、楽しかったよ!濡れるのは日常だから平気!だけどゆっくりお風呂には入ります』
『そうしてください笑』
電車に乗っている間も今泉とLINEでやりとりしながらすごせてさっきまでの時間が今も続いているようですごく心地がいい。体が芯からあったまるようだった。
『今気がついたんだけど!汗臭くなかった!?』
女の子だなぁ。
『いい匂いだったよ』
『(怒ったスタンプ)』
可愛い。
この幸せを噛み締めながら電車を降りた。最寄り駅までは母が迎えに来てくれていたのでそこからは濡れることもなく帰った。
今泉との連絡は夜まで続いて、この先も学校にいる時以外もたくさん連絡を取り合うようになれた。
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