上 下
81 / 89
邪竜編

対決の後① ヴィンスレット視点

しおりを挟む
初めて心から愛した恋人を戦場に送り込んで自分はまだ安全な場所に留まっていることに歯痒い思いだが、指揮する人間がいなければこの戦線は崩壊しかねない。

本来俺はここに来ることは許されなかった。それもそうだろう。次期クレイス公爵家の当主という立場は俺を動きにくくする。父上にももちろん反対された。しかし、もし、もしもノエルが破れ俺のいる場所まで邪竜が来た時、どうにかできる可能性があるのは国で唯一聖獣と契約する俺だけだった。それを言うと父上も渋々俺が戦場へ出向くことを許可した。

「報告します!邪竜は何故か攻撃を放たないようです。邪竜が通った跡は厄災に見舞われて多くの異常に見舞われるとのことでしたが、形を保ち飛行を続けるのが精一杯のようです!」
「なに?邪竜は不完全だと言うことか?」
「恐らくそうかと。肉片のようなものが体から落ちるのも確認しました。しかし、邪竜教は未だ勢いが衰えません。まだ押されてはいませんが、あの異常な力にいつ押し負けてもおかしくはない状況です」
「…全軍に通達を。すまない…後少し持たせてくれ。そのために回復薬や魔道具の使用制限はなしとする!怪我人はすぐに医療テントまで運べ。勝つぞ!」
「はっ!」

現状を好転させる手立ては正直ない。邪竜の復活がこんなにも早いとは思わなかった。いや、これは言い訳だな…ノエルを信じよう。今はそれしかない。あと俺にできることといえば…

「セロ『銀狼の咆哮』」

 ーワオーーンー

セロの固有スキル『銀狼の咆哮』これは味方の能力値を上昇さるサポートスキルだ。セロとの相性にもよるが、これで戦線維持ができるといいんだが…

「報告です!現在地より北東にて、邪竜教の神官とノエル嬢が接敵し、交戦中でしたが、ルイ騎士団長が合流しそのまま神官を相手取り、ノエル嬢は邪竜へと向かったようです!そしてたった今入った報告では、ノエル嬢は接敵後なんらかの魔法によって邪竜が消滅しました!」
「邪竜が消滅?!それは本当か?」
「はい!」
「やったんだな…ノエル…確かお前は拡声魔法を持っていたな?今この戦場にいる全員に聞こえるようにできるか?」
「…少し無理をすることになりますが、やります!」
「ありがとう。邪竜が消滅したことを伝えてくれ。」

『邪竜消滅を確認!繰り返す。邪竜消滅を確認した!』

ここから戦場は少しだけ距離があると言うのに、大歓声が聞こえた。

「次は俺たちの番だ。続けて伝えてくれ」
「はい!」

『これより、掃討作戦を開始する!』

ノエルがやってくれた。邪竜という得体の知れない物への恐怖がなくなり、均衡状態だった戦場はノルシュタイン王国の有利へと変化していった。
しおりを挟む
感想 119

あなたにおすすめの小説

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

加工を極めし転生者、チート化した幼女たちとの自由気ままな冒険ライフ

犬社護
ファンタジー
交通事故で不慮の死を遂げてしまった僕-リョウトは、死後の世界で女神と出会い、異世界へ転生されることになった。事前に転生先の世界観について詳しく教えられ、その場でスキルやギフトを練習しても構わないと言われたので、僕は自分に与えられるギフトだけを極めるまで練習を重ねた。女神の目的は不明だけど、僕は全てを納得した上で、フランベル王国王都ベルンシュナイルに住む貴族の名門ヒライデン伯爵家の次男として転生すると、とある理由で魔法を一つも習得できないせいで、15年間軟禁生活を強いられ、15歳の誕生日に両親から追放処分を受けてしまう。ようやく自由を手に入れたけど、初日から幽霊に憑かれた幼女ルティナ、2日目には幽霊になってしまった幼女リノアと出会い、2人を仲間にしたことで、僕は様々な選択を迫られることになる。そしてその結果、子供たちが意図せず、どんどんチート化してしまう。 僕の夢は、自由気ままに世界中を冒険すること…なんだけど、いつの間にかチートな子供たちが主体となって、冒険が進んでいく。 僕の夢……どこいった?

理想の女性を見つけた時には、運命の人を愛人にして白い結婚を宣言していました

ぺきぺき
恋愛
王家の次男として生まれたヨーゼフには幼い頃から決められていた婚約者がいた。兄の補佐として育てられ、兄の息子が立太子した後には臣籍降下し大公になるよていだった。 このヨーゼフ、優秀な頭脳を持ち、立派な大公となることが期待されていたが、幼い頃に見た絵本のお姫様を理想の女性として探し続けているという残念なところがあった。 そしてついに貴族学園で絵本のお姫様とそっくりな令嬢に出会う。 ーーーー 若気の至りでやらかしたことに苦しめられる主人公が最後になんとか幸せになる話。 作者別作品『二人のエリーと遅れてあらわれるヒーローたち』のスピンオフになっていますが、単体でも読めます。 完結まで執筆済み。毎日四話更新で4/24に完結予定。 第一章 無計画な婚約破棄 第二章 無計画な白い結婚 第三章 無計画な告白 第四章 無計画なプロポーズ 第五章 無計画な真実の愛 エピローグ

婚約破棄後のお話

Nau
恋愛
これは婚約破棄された令嬢のその後の物語 皆さん、令嬢として18年生きてきた私が平民となり大変な思いをしているとお思いでしょうね? 残念。私、愛されてますから…

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】王女様の暇つぶしに私を巻き込まないでください

むとうみつき
ファンタジー
暇を持て余した王女殿下が、自らの婚約者候補達にゲームの提案。 「勉強しか興味のない、あのガリ勉女を恋に落としなさい!」 それって私のことだよね?! そんな王女様の話しをうっかり聞いてしまっていた、ガリ勉女シェリル。 でもシェリルには必死で勉強する理由があって…。 長編です。 よろしくお願いします。 カクヨムにも投稿しています。

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

処理中です...