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「本当にいいのか?」
「どうせこうなることはわかっていたんだろ?」
先ほどの女性体(こちらが本来の姿らしい)になった早瀬が、一条のベットで眠る須崎を食い入るように見ている。
「ただ死ぬのは嫌だからな。」
「・・・。お前達でも死ぬのは嫌なのか?」
純粋な疑問だったらしく、一条にしては珍しく目を見開いている。
「ほら、俺、不良精霊だから・・・。」
「・・・まぁ、人の意識を糧に存在しているものだからな。」
腕を組んで納得する一条を見て、早瀬はおかしそうに小さく笑った。
「さて、ではさっさとやるか。」
「あ、本体はどうする?」
今気づいたように言う早瀬に、一条は呆れた顔をする。
「枝を継ぐのにちょうどいい若木があるから、同じ場所に植えるように手配した。明日には業者が来るだろう。」
「さすがに仕事は速いな。」
「それが我が家モットーだ。」
小さく吹きだした早瀬は、ゆっくりと須崎に近寄った。
「んじゃ、たのむ。」
「ばれたら後が恐いからな。しっかり頼むぞ。」
「へーきじゃん?須崎の俺への思いは、この枝に移し変えたし、俺こいつの守護霊になるんだし・・・。なんかあって記憶が戻りかけても、意地でも思い出させない。それが、須崎に対する俺の最後の・・・思いだ。」
人であったときには須崎にしか見せなかったやわらかい微笑を浮かべながら、早瀬は一条を見た。
と、ふいに一条が右手を出した。
「お前がいてなかなか有意義な二年間だった。」
「・・・なんか、嫌ないーかただな・・・。」
(ありがとう)
手を握り返した早瀬の、口に出さなかった言葉は、きちんと伝わった。
早瀬は眠りつづける須崎に、ゆっくりと最後の口付けをした。
・・・
「この桜も変わらないな・・・。」
「え?・・・もしかして、父さん緑稜学園のOBとか?」
自分のあのころよりも背が低い息子を見下ろしながら、彼は言った。
「尊敬する父親の出身校を知らないとは、情けないなぁ。」
「だって、父さん秘密主義じゃん・・・。」
少し拗ねたように頬を膨らませる息子を見て、彼は楽しそうに笑った。
「まぁ、コーチにびっしり鍛えてもらうんだな。特別厳しくしてくれって言ってあるから。」
「え?錦織コーチって父さんの・・・。」
「元チームメートだ。」
大きく一歩下がって、息子は涙目になった。
「ここでも父さんを引き合いに出されるわけ!?・・・僕の人生お先真っ暗かも・・・。」
現役天才GKを父に持つ息子は、これでなかなか辛いらしい。
「錦織なら贔屓はしないだろ?それに、俺はGKだが、お前はMFだろ?」
「そーだけど・・・。」
拗ねる息子を尻目に、彼は花が舞い散る木を見上げた。
「・・・?なんか、思い出があんの?」
「ん?」
「この桜の木。」
彼はちょっと遠い目をして答えた
「いつも願掛けをしていたんだ。桜に名前をつけて、こうやって。」
そう言って彼は木の幹に額を当てた。
「今日一日見守っていてくださいってな。」
「・・・名前って?」
「お前と同じだよ。」
「晃?」
頷く父を尻目に、自分の名前の由来を知った少年は、ちょっと落ち込みながらもその木を見て、そっと幹に手を当ててみた。とても大きくて守ってくれている気がする。
気分はずいぶんよくなった。
「さて、そろそろ母さんが待ちくたびれてるぞ。この学校の守護神への挨拶は終わり。行くぞ!」
「あ、まってよ、父さん!フェイントはずるいよ!!!」
二人が走り去ると、木の上に座る十八歳くらいの少年の姿をしたものが優しく笑った。彼は二人が走っていったほうに向かって空をすべると、父親と息子に語りかけた。
(俺はずっとお前達を見守っているよ・・・)
「どうせこうなることはわかっていたんだろ?」
先ほどの女性体(こちらが本来の姿らしい)になった早瀬が、一条のベットで眠る須崎を食い入るように見ている。
「ただ死ぬのは嫌だからな。」
「・・・。お前達でも死ぬのは嫌なのか?」
純粋な疑問だったらしく、一条にしては珍しく目を見開いている。
「ほら、俺、不良精霊だから・・・。」
「・・・まぁ、人の意識を糧に存在しているものだからな。」
腕を組んで納得する一条を見て、早瀬はおかしそうに小さく笑った。
「さて、ではさっさとやるか。」
「あ、本体はどうする?」
今気づいたように言う早瀬に、一条は呆れた顔をする。
「枝を継ぐのにちょうどいい若木があるから、同じ場所に植えるように手配した。明日には業者が来るだろう。」
「さすがに仕事は速いな。」
「それが我が家モットーだ。」
小さく吹きだした早瀬は、ゆっくりと須崎に近寄った。
「んじゃ、たのむ。」
「ばれたら後が恐いからな。しっかり頼むぞ。」
「へーきじゃん?須崎の俺への思いは、この枝に移し変えたし、俺こいつの守護霊になるんだし・・・。なんかあって記憶が戻りかけても、意地でも思い出させない。それが、須崎に対する俺の最後の・・・思いだ。」
人であったときには須崎にしか見せなかったやわらかい微笑を浮かべながら、早瀬は一条を見た。
と、ふいに一条が右手を出した。
「お前がいてなかなか有意義な二年間だった。」
「・・・なんか、嫌ないーかただな・・・。」
(ありがとう)
手を握り返した早瀬の、口に出さなかった言葉は、きちんと伝わった。
早瀬は眠りつづける須崎に、ゆっくりと最後の口付けをした。
・・・
「この桜も変わらないな・・・。」
「え?・・・もしかして、父さん緑稜学園のOBとか?」
自分のあのころよりも背が低い息子を見下ろしながら、彼は言った。
「尊敬する父親の出身校を知らないとは、情けないなぁ。」
「だって、父さん秘密主義じゃん・・・。」
少し拗ねたように頬を膨らませる息子を見て、彼は楽しそうに笑った。
「まぁ、コーチにびっしり鍛えてもらうんだな。特別厳しくしてくれって言ってあるから。」
「え?錦織コーチって父さんの・・・。」
「元チームメートだ。」
大きく一歩下がって、息子は涙目になった。
「ここでも父さんを引き合いに出されるわけ!?・・・僕の人生お先真っ暗かも・・・。」
現役天才GKを父に持つ息子は、これでなかなか辛いらしい。
「錦織なら贔屓はしないだろ?それに、俺はGKだが、お前はMFだろ?」
「そーだけど・・・。」
拗ねる息子を尻目に、彼は花が舞い散る木を見上げた。
「・・・?なんか、思い出があんの?」
「ん?」
「この桜の木。」
彼はちょっと遠い目をして答えた
「いつも願掛けをしていたんだ。桜に名前をつけて、こうやって。」
そう言って彼は木の幹に額を当てた。
「今日一日見守っていてくださいってな。」
「・・・名前って?」
「お前と同じだよ。」
「晃?」
頷く父を尻目に、自分の名前の由来を知った少年は、ちょっと落ち込みながらもその木を見て、そっと幹に手を当ててみた。とても大きくて守ってくれている気がする。
気分はずいぶんよくなった。
「さて、そろそろ母さんが待ちくたびれてるぞ。この学校の守護神への挨拶は終わり。行くぞ!」
「あ、まってよ、父さん!フェイントはずるいよ!!!」
二人が走り去ると、木の上に座る十八歳くらいの少年の姿をしたものが優しく笑った。彼は二人が走っていったほうに向かって空をすべると、父親と息子に語りかけた。
(俺はずっとお前達を見守っているよ・・・)
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