願い

うさのり

文字の大きさ
上 下
2 / 5

しおりを挟む
「おーい、須崎。・・・おいってば!」
ふと気が付くと、須崎は珍しく、食堂でぼーっとしていた。
いつもなら気を張って生活しているので、呼ばれた声を聞き逃すこそはなかった。
「あ?あぁ、錦織か。何の用だ?」
「・・・?どーしたんだ?何か心配事でもあんのか?」
普段は無い、集中力がかけた須崎を見て、錦織は少し心配そうに声をかけた。
「・・・いや。なんでもない。・・・何の用だ?」
いつもやっている、万民に受ける笑顔を見せながら、須崎は心の中でおやっと思った。だが、自分の何が引っかかったのかが解らず、須崎は首をひねった。
そんな須崎に、錦織はため息混じりに言った。
「これから自販機で飲物買ってくるけど、いるかって聞たんだよ。」
「あぁ。じゃぁ、アイスコーヒー。ブラックで。はや・・・」
そこまで言いかけて、須崎は自分の右側を見た。
そこには誰もいなかった。
(俺は、今、誰に問いかけようとした?)
自分の右側を凝視しながら固まる須崎を見て、錦織は不信げに眉を寄せた。
「本当にどうしたんだ?」
(・・・。俺は、いったい誰に話し掛けようとした?)
「・・・なぁ、錦織」
しばらくの沈黙の後、須崎は語りかけた。
「高等部の時、俺の同室は誰だった?」
「誰って・・・。一年の時は一人部屋だったけど、二・三年のときは、一条だったろ?どーした?ボケたか?」
(一条?本当にそうだったろうか?)
「じゃぁ、中等部では?」
「一人部屋だったじゃないか。オレや近藤がよく遊びに行ってただろ?」
首をかしげた錦織は、そのまま続けた。
「そーいえば、高等部の二年になってからは、お前よく浅野寮長んとこに空き部屋の鍵を借りに行ってただろ?三年の頃は俺が寮長だったからその頻度も上がったよな。一条が飼っているイグアナが、邪魔で勉強ができないってさ。空き部屋の一つは殆どお前の部屋になってたじゃねーか。」
(イグアナ?邪魔?俺が勉強できない・・・?)
あごに手をやり考え出した須崎に、錦織はやってられないというように肩をすくめた。
「十八歳でもう健忘症か?・・・とりあえずアイスコーヒーな。」
立ち上がった須崎は、食堂を出て行こうとする錦織を押しのけた。そのまま玄関に向かいながら、真剣な声音で言う。
「一条に確認してくる。」
「おい、コーヒーは?」
「いらない。」
錦織の声を振り切るように、須崎は廊下を駆け抜けていった。

・・・

「どうした?」
今まで毎日見ていたのと変わらない無表情で、彼の一年後輩の一条茂は自室の扉の前で彼を出迎えた。
大学の寮からここまで、一度も止まらずにダッシュをしてきた須崎は、大きく一つ深呼吸をすると、一条に詰め寄った。
「去年一年間、お前は俺と同室だったか?」
「そうだか?」
やけにあっさりと答える一条に、須崎は右手を額に当て、前髪を握り締めながら再び聞いた。
「では、一昨年は?」
「同じだ。」
打てば響くような回答に、俯いた須崎の頭の一部が反応した。
「そ・・・うだ。・・・俺が一年のときは、一人部屋・・・じゃない。」
最後の一言を呟くようにささやき、須崎は顔を上げた。
「一条。お前、確か家が陰陽師の家系・・・とか言ってたよな?」
「そうだが?」
「なら、解るはずだ。
俺の横には誰かがいた。今の俺が覚えていない誰かが。・・・あいつは今、どこにいる?」
まったく表情を変えない一条を見ながら、須崎は人前ではした事がない、辛そうな、今にも泣き出しそうな顔をした。
「俺は、あいつに会いたい・・・。苦しいんだ。胸が張り裂けそうで・・・。・・・このままだと、気が狂いそうなんだ・・・。」
扉の前の壁に背を預け、ずるずると崩れるように座り込んだ須崎を見て、一条はため息をつきながら彼を助け起こした。
「ここだと人が来る。とりあえず中へ。」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キミの次に愛してる

Motoki
BL
社会人×高校生。 たった1人の家族である姉の由美を亡くした浩次は、姉の結婚相手、裕文と同居を続けている。 裕文の世話になり続ける事に遠慮する浩次は、大学受験を諦めて就職しようとするが……。 姉への愛と義兄への想いに悩む、ちょっぴり切ないほのぼのBL。

【BL】嘘でもいいから愛したい

星見守灯也
BL
奇言(カタラ)と呼ばれる力のある世界。ミツキは友人の彼氏を好きになった。しかし彼は行方不明になり、友人は別の人と付き合い始めた。ところが四年後、その彼が帰ってきて…。 ヒナギ→リツ×ソウタ←ミツキ からの リツ×ヒナギとミツキ×ソウタ

【完結】はじめてできた友だちは、好きな人でした

月音真琴
BL
完結しました。ピュアな高校の同級生同士。友達以上恋人未満な関係。 人付き合いが苦手な仲谷皇祐(なかたにこうすけ)は、誰かといるよりも一人でいる方が楽だった。 高校に入学後もそれは同じだったが、購買部の限定パンを巡ってクラスメートの一人小此木敦貴(おこのぎあつき)に懐かれてしまう。 一人でいたいのに、強引に誘われて敦貴と共に過ごすようになっていく。 はじめての友だちと過ごす日々は楽しいもので、だけどつまらない自分が敦貴を独占していることに申し訳なくて。それでも敦貴は友だちとして一緒にいてくれることを選んでくれた。 次第に皇祐は嬉しい気持ちとは別に違う感情が生まれていき…。 ――僕は、敦貴が好きなんだ。 自分の気持ちに気づいた皇祐が選んだ道とは。 エブリスタ様にも掲載しています(完結済) エブリスタ様にてトレンドランキング BLジャンル・日間90位 ◆「第12回BL小説大賞」に参加しています。 応援していただけたら嬉しいです。よろしくお願いします。 ピュアな二人が大人になってからのお話も連載はじめました。よかったらこちらもどうぞ。 『迷いと絆~友情か恋愛か、親友との揺れる恋物語~』 https://www.alphapolis.co.jp/novel/416124410/923802748

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

エンシェントリリー

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
短期間で新しい古代魔術をいくつも発表しているオメガがいる。名はリリー。本名ではない。顔も第一性も年齢も本名も全て不明。分かっているのはオメガの保護施設に入っていることと、二年前に突然現れたことだけ。このリリーという名さえも今代のリリーが施設を出れば他のオメガに与えられる。そのため、リリーの中でも特に古代魔法を解き明かす天才である今代のリリーを『エンシェントリリー』と特別な名前で呼ぶようになった。

素直じゃない人

うりぼう
BL
平社員×会長の孫 社会人同士 年下攻め ある日突然異動を命じられた昭仁。 異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。 厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。 しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。 そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり…… というMLものです。 えろは少なめ。

Endless Summer Night ~終わらない夏~

樹木緑
BL
ボーイズラブ・オメガバース "愛し合ったあの日々は、終わりのない夏の夜の様だった” 長谷川陽向は “お見合い大学” と呼ばれる大学費用を稼ぐために、 ひと夏の契約でリゾートにやってきた。 最初は反りが合わず、すれ違いが多かったはずなのに、 気が付けば同じように東京から来ていた同じ年の矢野光に恋をしていた。 そして彼は自分の事を “ポンコツのα” と呼んだ。 ***前作品とは完全に切り離したお話ですが、 世界が被っていますので、所々に前作品の登場人物の名前が出てきます。***

【BL】記憶のカケラ

樺純
BL
あらすじ とある事故により記憶の一部を失ってしまったキイチ。キイチはその事故以来、海辺である男性の後ろ姿を追いかける夢を毎日見るようになり、その男性の顔が見えそうになるといつもその夢から覚めるため、その相手が誰なのか気になりはじめる。 そんなキイチはいつからか惹かれている幼なじみのタカラの家に転がり込み、居候生活を送っているがタカラと幼なじみという関係を壊すのが怖くて告白出来ずにいた。そんな時、毎日見る夢に出てくるあの後ろ姿を街中で見つける。キイチはその人と会えば何故、あの夢を毎日見るのかその理由が分かるかもしれないとその後ろ姿に夢中になるが、結果としてそのキイチのその行動がタカラの心を締め付け過去の傷痕を抉る事となる。 キイチが忘れてしまった記憶とは? タカラの抱える過去の傷痕とは? 散らばった記憶のカケラが1つになった時…真実が明かされる。 キイチ(男) 中二の時に事故に遭い記憶の一部を失う。幼なじみであり片想いの相手であるタカラの家に居候している。同じ男であることや幼なじみという関係を壊すのが怖く、タカラに告白出来ずにいるがタカラには過保護で尽くしている。 タカラ(男) 過去の出来事が忘れられないままキイチを自分の家に居候させている。タカラの心には過去の出来事により出来てしまった傷痕があり、その傷痕を癒すことができないまま自分の想いに蓋をしキイチと暮らしている。 ノイル(男) キイチとタカラの幼なじみ。幼なじみ、男女7人組の年長者として2人を落ち着いた目で見守っている。キイチの働くカフェのオーナーでもあり、良き助言者でもあり、ノイルの行動により2人に大きな変化が訪れるキッカケとなる。 ミズキ(男) 幼なじみ7人組の1人でもありタカラの親友でもある。タカラと同じ職場に勤めていて会社ではタカラの執事くんと呼ばれるほどタカラに甘いが、恋人であるヒノハが1番大切なのでここぞと言う時は恋人を優先する。 ユウリ(女) 幼なじみ7人組の1人。ノイルの経営するカフェで一緒に働いていてノイルの彼女。 ヒノハ(女) 幼なじみ7人組の1人。ミズキの彼女。ミズキのことが大好きで冗談半分でタカラにライバル心を抱いてるというネタで場を和ませる。 リヒト(男) 幼なじみ7人組の1人。冷静な目で幼なじみ達が恋人になっていく様子を見守ってきた。 謎の男性 街でキイチが見かけた毎日夢に出てくる後ろ姿にそっくりな男。

処理中です...