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「おーい、須崎。・・・おいってば!」
ふと気が付くと、須崎は珍しく、食堂でぼーっとしていた。
いつもなら気を張って生活しているので、呼ばれた声を聞き逃すこそはなかった。
「あ?あぁ、錦織か。何の用だ?」
「・・・?どーしたんだ?何か心配事でもあんのか?」
普段は無い、集中力がかけた須崎を見て、錦織は少し心配そうに声をかけた。
「・・・いや。なんでもない。・・・何の用だ?」
いつもやっている、万民に受ける笑顔を見せながら、須崎は心の中でおやっと思った。だが、自分の何が引っかかったのかが解らず、須崎は首をひねった。
そんな須崎に、錦織はため息混じりに言った。
「これから自販機で飲物買ってくるけど、いるかって聞たんだよ。」
「あぁ。じゃぁ、アイスコーヒー。ブラックで。はや・・・」
そこまで言いかけて、須崎は自分の右側を見た。
そこには誰もいなかった。
(俺は、今、誰に問いかけようとした?)
自分の右側を凝視しながら固まる須崎を見て、錦織は不信げに眉を寄せた。
「本当にどうしたんだ?」
(・・・。俺は、いったい誰に話し掛けようとした?)
「・・・なぁ、錦織」
しばらくの沈黙の後、須崎は語りかけた。
「高等部の時、俺の同室は誰だった?」
「誰って・・・。一年の時は一人部屋だったけど、二・三年のときは、一条だったろ?どーした?ボケたか?」
(一条?本当にそうだったろうか?)
「じゃぁ、中等部では?」
「一人部屋だったじゃないか。オレや近藤がよく遊びに行ってただろ?」
首をかしげた錦織は、そのまま続けた。
「そーいえば、高等部の二年になってからは、お前よく浅野寮長んとこに空き部屋の鍵を借りに行ってただろ?三年の頃は俺が寮長だったからその頻度も上がったよな。一条が飼っているイグアナが、邪魔で勉強ができないってさ。空き部屋の一つは殆どお前の部屋になってたじゃねーか。」
(イグアナ?邪魔?俺が勉強できない・・・?)
あごに手をやり考え出した須崎に、錦織はやってられないというように肩をすくめた。
「十八歳でもう健忘症か?・・・とりあえずアイスコーヒーな。」
立ち上がった須崎は、食堂を出て行こうとする錦織を押しのけた。そのまま玄関に向かいながら、真剣な声音で言う。
「一条に確認してくる。」
「おい、コーヒーは?」
「いらない。」
錦織の声を振り切るように、須崎は廊下を駆け抜けていった。
・・・
「どうした?」
今まで毎日見ていたのと変わらない無表情で、彼の一年後輩の一条茂は自室の扉の前で彼を出迎えた。
大学の寮からここまで、一度も止まらずにダッシュをしてきた須崎は、大きく一つ深呼吸をすると、一条に詰め寄った。
「去年一年間、お前は俺と同室だったか?」
「そうだか?」
やけにあっさりと答える一条に、須崎は右手を額に当て、前髪を握り締めながら再び聞いた。
「では、一昨年は?」
「同じだ。」
打てば響くような回答に、俯いた須崎の頭の一部が反応した。
「そ・・・うだ。・・・俺が一年のときは、一人部屋・・・じゃない。」
最後の一言を呟くようにささやき、須崎は顔を上げた。
「一条。お前、確か家が陰陽師の家系・・・とか言ってたよな?」
「そうだが?」
「なら、解るはずだ。
俺の横には誰かがいた。今の俺が覚えていない誰かが。・・・あいつは今、どこにいる?」
まったく表情を変えない一条を見ながら、須崎は人前ではした事がない、辛そうな、今にも泣き出しそうな顔をした。
「俺は、あいつに会いたい・・・。苦しいんだ。胸が張り裂けそうで・・・。・・・このままだと、気が狂いそうなんだ・・・。」
扉の前の壁に背を預け、ずるずると崩れるように座り込んだ須崎を見て、一条はため息をつきながら彼を助け起こした。
「ここだと人が来る。とりあえず中へ。」
ふと気が付くと、須崎は珍しく、食堂でぼーっとしていた。
いつもなら気を張って生活しているので、呼ばれた声を聞き逃すこそはなかった。
「あ?あぁ、錦織か。何の用だ?」
「・・・?どーしたんだ?何か心配事でもあんのか?」
普段は無い、集中力がかけた須崎を見て、錦織は少し心配そうに声をかけた。
「・・・いや。なんでもない。・・・何の用だ?」
いつもやっている、万民に受ける笑顔を見せながら、須崎は心の中でおやっと思った。だが、自分の何が引っかかったのかが解らず、須崎は首をひねった。
そんな須崎に、錦織はため息混じりに言った。
「これから自販機で飲物買ってくるけど、いるかって聞たんだよ。」
「あぁ。じゃぁ、アイスコーヒー。ブラックで。はや・・・」
そこまで言いかけて、須崎は自分の右側を見た。
そこには誰もいなかった。
(俺は、今、誰に問いかけようとした?)
自分の右側を凝視しながら固まる須崎を見て、錦織は不信げに眉を寄せた。
「本当にどうしたんだ?」
(・・・。俺は、いったい誰に話し掛けようとした?)
「・・・なぁ、錦織」
しばらくの沈黙の後、須崎は語りかけた。
「高等部の時、俺の同室は誰だった?」
「誰って・・・。一年の時は一人部屋だったけど、二・三年のときは、一条だったろ?どーした?ボケたか?」
(一条?本当にそうだったろうか?)
「じゃぁ、中等部では?」
「一人部屋だったじゃないか。オレや近藤がよく遊びに行ってただろ?」
首をかしげた錦織は、そのまま続けた。
「そーいえば、高等部の二年になってからは、お前よく浅野寮長んとこに空き部屋の鍵を借りに行ってただろ?三年の頃は俺が寮長だったからその頻度も上がったよな。一条が飼っているイグアナが、邪魔で勉強ができないってさ。空き部屋の一つは殆どお前の部屋になってたじゃねーか。」
(イグアナ?邪魔?俺が勉強できない・・・?)
あごに手をやり考え出した須崎に、錦織はやってられないというように肩をすくめた。
「十八歳でもう健忘症か?・・・とりあえずアイスコーヒーな。」
立ち上がった須崎は、食堂を出て行こうとする錦織を押しのけた。そのまま玄関に向かいながら、真剣な声音で言う。
「一条に確認してくる。」
「おい、コーヒーは?」
「いらない。」
錦織の声を振り切るように、須崎は廊下を駆け抜けていった。
・・・
「どうした?」
今まで毎日見ていたのと変わらない無表情で、彼の一年後輩の一条茂は自室の扉の前で彼を出迎えた。
大学の寮からここまで、一度も止まらずにダッシュをしてきた須崎は、大きく一つ深呼吸をすると、一条に詰め寄った。
「去年一年間、お前は俺と同室だったか?」
「そうだか?」
やけにあっさりと答える一条に、須崎は右手を額に当て、前髪を握り締めながら再び聞いた。
「では、一昨年は?」
「同じだ。」
打てば響くような回答に、俯いた須崎の頭の一部が反応した。
「そ・・・うだ。・・・俺が一年のときは、一人部屋・・・じゃない。」
最後の一言を呟くようにささやき、須崎は顔を上げた。
「一条。お前、確か家が陰陽師の家系・・・とか言ってたよな?」
「そうだが?」
「なら、解るはずだ。
俺の横には誰かがいた。今の俺が覚えていない誰かが。・・・あいつは今、どこにいる?」
まったく表情を変えない一条を見ながら、須崎は人前ではした事がない、辛そうな、今にも泣き出しそうな顔をした。
「俺は、あいつに会いたい・・・。苦しいんだ。胸が張り裂けそうで・・・。・・・このままだと、気が狂いそうなんだ・・・。」
扉の前の壁に背を預け、ずるずると崩れるように座り込んだ須崎を見て、一条はため息をつきながら彼を助け起こした。
「ここだと人が来る。とりあえず中へ。」
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