がんばれ勇者くん

うさのり

文字の大きさ
上 下
26 / 33
第四章

魔法使いと眠る姫1

しおりを挟む
建物の前に来ると、誠二はその大きさに圧倒された。

「でけー・・・。」

「そんなことないよ?首都の城のほうがずっと大きいし結界もあるからね。襲撃されたら、ここだとひとたまりもないよ。」

「そうだな。ここはあくまで別邸だから、設備が整っていない。
城にいるよりも、何倍も危険だな。」

それでもサッカーグラウンドよりも大きそうな建物だ。生まれてから3LDKのマンションで生活してきた誠二には、十分に大きな城に見える。

「こんなとこでだらだらしててもしかたないよ。さっさと入ろ、誠二君。」

・・・

玄関を開けて中に入ると、大きなホールになっていた。
目の前には左右に分かれた階段が二階の踊り場で一つになるように弧を描いている。左右には廊下が続き、目の前の階段の中央には大きな扉があった。
屋敷の中には、気配はあるが人は一人も見えなかった。

「ディヤイアンちゃん。
君たちの仲間も呪いをかけられたみたいなことを最初に言ってたけど、本当はどうなの?」

何故か声を潜めて、誠二はディヤイアンに耳打ちした。彼女は少しだけ首を傾げた。

「そんなことは言ってないよ?」

「え?」

「わたしは、君の所に来たのはわたしたちだけだって言ったはずだよ?
ちなみに、ほかの人たちはそこいらで見てるよ。なかなか見れないからね、国交のない地球人だなんてね。」

(えーっと、動物園のライオン・・・よりぱんだ?)

誠二はちょっと情けなくなった。

「そんな顔しないでよ。大丈夫とって食べたりしないからさ。
さて、誠二君。お腹はすいていない?」

ディヤイアンがそんなことを言ったので、誠二の腸が反応を起こした。

ぐきゅるるるるる・・・

誠二は真っ赤になって俯いた。

「では、先に食事だな。準備はできてるようだ。」

エクーディアがホールを進み、階段の間にある大きな扉を開くと、美味しそうな匂いが漂ってきた。


そこは、大きな机が中央にあり、その周りには椅子が並んでいる部屋だった。
そして、机の上には様々な料理が並べられていた。
エクーディアは中央の椅子を引き、誠二を呼んで座らせると、自分もその隣に座った。

「では、ディヤイアン。給仕を頼む。一人で食べると不安になるかもしれないからね。」

そう言うと、エクーディアはグラスに桜色の液体を注ぎ、誠二の前に置いた。

「どうした?食べないのか?」

椅子に座って固まっている誠二を見て、エクーディアが不思議そうに聞いた。ディヤイアンはすでに隣の部屋に消えている。

「食べないのかって・・・。お姫様は?」

おそるおそる聞くと、エクーディアは少し首をかしげて答えた。

「呪いを解いてくれるのだろう?
それなら心配は要らない。魔法使いの狙いは君だとディヤイアンは話しただろう?」

「でも、早く起こしたほうが・・・。」

「ゲストを空腹のままにしていたことがわかったら、姫は確実に怒られるだろう。だから大丈夫だ。」

「そうそう。それに、自分の世界に帰るんなら、飲んで食べて楽しんだほうがいいでしょ?」

いい匂いと湯気が立ち上る大皿を持って、いつのまにか戻ってきていたディヤイアンは笑顔で言った。
腹をくくった誠二は、食事を楽しむことに決めた。実際に腹はめちゃくちゃすいていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】蓬莱の鏡〜若返ったおっさんが異世界転移して狐人に救われてから色々とありまして〜

月城 亜希人
ファンタジー
二〇二一年初夏六月末早朝。 蝉の声で目覚めたカガミ・ユーゴは加齢で衰えた体の痛みに苦しみながら瞼を上げる。待っていたのは虚構のような現実。 呼吸をする度にコポコポとまるで水中にいるかのような泡が生じ、天井へと向かっていく。 泡を追って視線を上げた先には水面らしきものがあった。 ユーゴは逡巡しながらも水面に手を伸ばすのだが――。 おっさん若返り異世界ファンタジーです。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

処理中です...