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第三章
閑話・上司と部下
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部屋の中では押し殺した笑い声が聞こえる。
「笑わないで下さいよ、師匠。こっちだって大変なんですからね。」
少し拗ねたように言う人物は、自分の師に向かってじと目を向けた。
「いや、あまりにも『勇者』くんが可愛くてね。」
まだ笑いが止まらない上司に、部下は手に持つ小さな黄色い立方体の、情報を記憶させた魔術媒体を押し付けた。
上司は部下が作ったそれを、早速展開し、情報を確認した。
「健康状態は良好。好奇心旺盛で感情の起伏が激しい。そんなところは、ユンスウ様とほぼ一緒ですね。」
「からかうと面白いところが、特にね。」
笑いながら、上司は展開した情報を次々と確認し、すぐに立方体を部下に返した。
「なかなかいいじゃないか。後は、口説き落とすだけかな?」
記憶媒体を受け取った弟子は、それをウエストポーチに入れた。
「それが問題ですって・・・。まぁ、前例が無いわけじゃないですけど・・・。
ユンスウ様の場合、周りがうるさいですよ?」
「それは本人にがんばってもらおう。・・・まぁ、無理だろうがね。」
「・・・?何がですか?」
部下が首を傾げると、上司は楽しそうに笑った。
「そのうちわかるよ。地球での彼の生活を見てみるといい。すぐにわかるから。」
「そんな余裕なんて無いですよ。突然呼び出されて、二人で慌てて駆けつけたらこれですからね。
怒ってましたよ?それはもう。横にいるのが怖いくらいに・・・。」
「それは、きちんとフォローをしなければならないね。」
(どんなフォローだか・・・。)
心の中で呟いた部下は、義理の兄弟に同情しつつ、ため息をついてから地面に方膝をついた。長身の上司は二歩ほど下がってそれを見守った。
「・・・手伝ってくださらないんですか?」
「弟子を信頼しているからね。」
小さく肩を落とした部下は、諦めたように首を振り、右手をかざして口の中で呟いた。すると彼の足元に、銀色の魔法陣が浮かび上がった。
「あぁ、そうだ。エクーに言っておいてくれないかい?愛してるよって。」
「ご自分でどーぞ。誠二君の国のことわざのように馬に蹴られたくないので。」
「それは邪魔をした場合だろう?手伝ってくれるなら、馬だって喜んでくれるはずだよ。」
「僕はごめんです。照れたエクーが可愛いとおっしゃるんでしょうけど、そんなことになったら誠二君が本気で怯えます。傍から見ると、無表情になるだけですからね。
それに、何があったって、師匠が目の前にいなければ、照れたり怒ったりする、師匠にとって可愛い顔なんてしないでしょ?
後は、心話で突然奇襲をかけないでくださいよ!
その時も、フォローするのは僕なんですからね!!!」
額に怒りマークを浮かばせた部下は、一応尊敬している自分の師匠をキッと睨みつけた。
「では、今から会いに行くか・・・。」
「よ~し~て~く~だ~さ~い~~~!」
腕を組んで本気で考え出した師匠に、部下は泣き顔になって叫んだ。
「それって、一番たちが悪いですよ!!そんなに僕に、ダメージを与えたいんですか!?」
「ほら、陣が崩れたよ。もっと集中しなきゃ。」
「誰のせいですか!」
部下は一つ大きく深呼吸すると、口の中で呪文を唱えた。
「あぁ、朝一番で報告に来るようにエクーに言っておいてくれないか?
それなら、エクーも許してくれるだろう?」
弟子は呪文を唱えながら、師匠を見て小さく頷いた。数秒後、その場から消えた。
残った上司は笑いながら転送室を後にした。
「笑わないで下さいよ、師匠。こっちだって大変なんですからね。」
少し拗ねたように言う人物は、自分の師に向かってじと目を向けた。
「いや、あまりにも『勇者』くんが可愛くてね。」
まだ笑いが止まらない上司に、部下は手に持つ小さな黄色い立方体の、情報を記憶させた魔術媒体を押し付けた。
上司は部下が作ったそれを、早速展開し、情報を確認した。
「健康状態は良好。好奇心旺盛で感情の起伏が激しい。そんなところは、ユンスウ様とほぼ一緒ですね。」
「からかうと面白いところが、特にね。」
笑いながら、上司は展開した情報を次々と確認し、すぐに立方体を部下に返した。
「なかなかいいじゃないか。後は、口説き落とすだけかな?」
記憶媒体を受け取った弟子は、それをウエストポーチに入れた。
「それが問題ですって・・・。まぁ、前例が無いわけじゃないですけど・・・。
ユンスウ様の場合、周りがうるさいですよ?」
「それは本人にがんばってもらおう。・・・まぁ、無理だろうがね。」
「・・・?何がですか?」
部下が首を傾げると、上司は楽しそうに笑った。
「そのうちわかるよ。地球での彼の生活を見てみるといい。すぐにわかるから。」
「そんな余裕なんて無いですよ。突然呼び出されて、二人で慌てて駆けつけたらこれですからね。
怒ってましたよ?それはもう。横にいるのが怖いくらいに・・・。」
「それは、きちんとフォローをしなければならないね。」
(どんなフォローだか・・・。)
心の中で呟いた部下は、義理の兄弟に同情しつつ、ため息をついてから地面に方膝をついた。長身の上司は二歩ほど下がってそれを見守った。
「・・・手伝ってくださらないんですか?」
「弟子を信頼しているからね。」
小さく肩を落とした部下は、諦めたように首を振り、右手をかざして口の中で呟いた。すると彼の足元に、銀色の魔法陣が浮かび上がった。
「あぁ、そうだ。エクーに言っておいてくれないかい?愛してるよって。」
「ご自分でどーぞ。誠二君の国のことわざのように馬に蹴られたくないので。」
「それは邪魔をした場合だろう?手伝ってくれるなら、馬だって喜んでくれるはずだよ。」
「僕はごめんです。照れたエクーが可愛いとおっしゃるんでしょうけど、そんなことになったら誠二君が本気で怯えます。傍から見ると、無表情になるだけですからね。
それに、何があったって、師匠が目の前にいなければ、照れたり怒ったりする、師匠にとって可愛い顔なんてしないでしょ?
後は、心話で突然奇襲をかけないでくださいよ!
その時も、フォローするのは僕なんですからね!!!」
額に怒りマークを浮かばせた部下は、一応尊敬している自分の師匠をキッと睨みつけた。
「では、今から会いに行くか・・・。」
「よ~し~て~く~だ~さ~い~~~!」
腕を組んで本気で考え出した師匠に、部下は泣き顔になって叫んだ。
「それって、一番たちが悪いですよ!!そんなに僕に、ダメージを与えたいんですか!?」
「ほら、陣が崩れたよ。もっと集中しなきゃ。」
「誰のせいですか!」
部下は一つ大きく深呼吸すると、口の中で呪文を唱えた。
「あぁ、朝一番で報告に来るようにエクーに言っておいてくれないか?
それなら、エクーも許してくれるだろう?」
弟子は呪文を唱えながら、師匠を見て小さく頷いた。数秒後、その場から消えた。
残った上司は笑いながら転送室を後にした。
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