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第二章
運動と衝撃5
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「ヴィエスですか。・・・ちょっと、数が多いようですね?」
誠二に聞こえないように呟くエクーディアの言葉の後に前方から現れたのは、姿は猪と殆ど同じだが、牙が象のよう
に発達した猪より一回り小さな動物の群れだった。それがこちらに向かって走ってくる。
「仕方ないでしょ?ヴィエスは、仲間を見つけると群れる習性があるんだから。」
ディヤイアンが小声で苦笑いをすると、彼はエクーディアを見て言った。
「んじゃエクーディア。後ろは眠らすから、先頭の一匹だけよろしくね。」
「なるほど・・・。わかりました。」
エクーディアも少し苦笑いをした。それを見たディヤイアンは、右手をすっと前に出し、声を発した。
「ムヴトゥオディウムイ」
ディヤイアンが短い呪文を唱えると、先頭の動物以外がばたばたと倒れ、その一匹が孤立した。
左手で剣を抜いたエクーディアは、動物と目をあわせ、ゆっくりとそれに向かい、歩いた。
エクーディアは動物の最初の突きを右にかわし、首をはねた。まるで野菜を切り分けるかのように、たやすく。
「・・・残りはどうする?ディヤイアン。」
剣を一振りして血糊を飛ばしてから、ウエストポーチから取り出した布で軽く剣の腹を拭き、エクーディアは今までの気迫ある人物とは思えないほど柔らかい口調で尋ねた。
「・・・。しばらくすれば自然に目が覚めるだろーから、ほっとこ。
でも、血の気配は消しといたほうがいいよね。肉食動物の餌食にするのはかわいそうだしね。」
ディヤイアンは、右手をエクーディアが飛ばした動物の血痕があるほうに向けた。するとその血痕は、蒸発したかのように消えた。
「・・・っと。エクーディア?」
「ああ。そこに倒れているヴィエス以外は全部消えた。」
そう言いながら剣を鞘に戻し、それを腰の石に収納したエクーディアは誠二に近づいた。よく見ると、服には返り血さえついていなかった。
呆然として二人を見る誠二に、エクーディアはやれやれという顔をした。
「目の前で動物が死んだのを見たのは、初めてか?」
その言葉に、誠二は僅かに首を横に振った
「・・・昔飼っていた犬が・・・。老衰で・・・。」
「なるほど。」
エクーディアはそれ以上聞かずに誠二に右手を差し出した。誠二は、僅かに怯えた素振りをしたが、おとなしく右手を出してから、エクーディアの手を借りて立ち上がった。
「わたしたちが恐い?」
「・・・。」
優しいエクーディアの声に、誠二は慌てて首を横に振った。
「その・・・動物、俺たちが食べるんですよね?」
頷くエクーディアを見て、誠二は少し泣きそうな目で言った。
「それじゃぁ、ちゃんと食べてやらないといけないですよね。
・・・母さんが言ってたんですけど、肉も魚も野菜も果物も、人が食べるものは生きていたんだから、殺したぶんきちんと食べてあげないといけないって。
それが殺した生き物に対する礼儀だって・・・。」
目尻に盛りあがってきた涙を服の袖で強引に拭い、誠二は真剣な目で、先ほどエクーディアが殺した動物を見た。
「オレ、その言葉の意味、よくわかってなかった。今まで食べてたのって、全部調理済みのものばっかりだったから・・・。
でも、今ならわかる。オレ、なんかすごく悲しいし、この動物にも悪いと思うけど・・・、ちゃんと食べるよ。
オレが生きる糧になるんだし・・・、エクーディアさんはそのためにこの動物を殺してくれたんだから・・・。」
下を向いている誠二には見えなかったが、エクーディアは視線を誠二からそらして、目を瞑った。
先ほどエクーディアが殺した動物の血を抜いてから、ディヤイアンはそれを浮かせて後ろから付いてくるようにした。
彼女は、誠二の肩を優しくたたいた。
「そんなに思いつめないで。
その考えは尊いものだし、無くさないほうがいいことだろうけど、今の誠二君は自分を責めているだけだよ。
人の本能なんだから、もっと気軽でいいの。」
俯く誠二の顔を覗き込みながら、ディヤイアンは笑った。
「君たちが食事の時にいつもやっているでしょ?手を合わせて、感謝を込めて、いただきますって。
それだけで十分だよ。」
誠二は、小さく頷いた。
誠二に聞こえないように呟くエクーディアの言葉の後に前方から現れたのは、姿は猪と殆ど同じだが、牙が象のよう
に発達した猪より一回り小さな動物の群れだった。それがこちらに向かって走ってくる。
「仕方ないでしょ?ヴィエスは、仲間を見つけると群れる習性があるんだから。」
ディヤイアンが小声で苦笑いをすると、彼はエクーディアを見て言った。
「んじゃエクーディア。後ろは眠らすから、先頭の一匹だけよろしくね。」
「なるほど・・・。わかりました。」
エクーディアも少し苦笑いをした。それを見たディヤイアンは、右手をすっと前に出し、声を発した。
「ムヴトゥオディウムイ」
ディヤイアンが短い呪文を唱えると、先頭の動物以外がばたばたと倒れ、その一匹が孤立した。
左手で剣を抜いたエクーディアは、動物と目をあわせ、ゆっくりとそれに向かい、歩いた。
エクーディアは動物の最初の突きを右にかわし、首をはねた。まるで野菜を切り分けるかのように、たやすく。
「・・・残りはどうする?ディヤイアン。」
剣を一振りして血糊を飛ばしてから、ウエストポーチから取り出した布で軽く剣の腹を拭き、エクーディアは今までの気迫ある人物とは思えないほど柔らかい口調で尋ねた。
「・・・。しばらくすれば自然に目が覚めるだろーから、ほっとこ。
でも、血の気配は消しといたほうがいいよね。肉食動物の餌食にするのはかわいそうだしね。」
ディヤイアンは、右手をエクーディアが飛ばした動物の血痕があるほうに向けた。するとその血痕は、蒸発したかのように消えた。
「・・・っと。エクーディア?」
「ああ。そこに倒れているヴィエス以外は全部消えた。」
そう言いながら剣を鞘に戻し、それを腰の石に収納したエクーディアは誠二に近づいた。よく見ると、服には返り血さえついていなかった。
呆然として二人を見る誠二に、エクーディアはやれやれという顔をした。
「目の前で動物が死んだのを見たのは、初めてか?」
その言葉に、誠二は僅かに首を横に振った
「・・・昔飼っていた犬が・・・。老衰で・・・。」
「なるほど。」
エクーディアはそれ以上聞かずに誠二に右手を差し出した。誠二は、僅かに怯えた素振りをしたが、おとなしく右手を出してから、エクーディアの手を借りて立ち上がった。
「わたしたちが恐い?」
「・・・。」
優しいエクーディアの声に、誠二は慌てて首を横に振った。
「その・・・動物、俺たちが食べるんですよね?」
頷くエクーディアを見て、誠二は少し泣きそうな目で言った。
「それじゃぁ、ちゃんと食べてやらないといけないですよね。
・・・母さんが言ってたんですけど、肉も魚も野菜も果物も、人が食べるものは生きていたんだから、殺したぶんきちんと食べてあげないといけないって。
それが殺した生き物に対する礼儀だって・・・。」
目尻に盛りあがってきた涙を服の袖で強引に拭い、誠二は真剣な目で、先ほどエクーディアが殺した動物を見た。
「オレ、その言葉の意味、よくわかってなかった。今まで食べてたのって、全部調理済みのものばっかりだったから・・・。
でも、今ならわかる。オレ、なんかすごく悲しいし、この動物にも悪いと思うけど・・・、ちゃんと食べるよ。
オレが生きる糧になるんだし・・・、エクーディアさんはそのためにこの動物を殺してくれたんだから・・・。」
下を向いている誠二には見えなかったが、エクーディアは視線を誠二からそらして、目を瞑った。
先ほどエクーディアが殺した動物の血を抜いてから、ディヤイアンはそれを浮かせて後ろから付いてくるようにした。
彼女は、誠二の肩を優しくたたいた。
「そんなに思いつめないで。
その考えは尊いものだし、無くさないほうがいいことだろうけど、今の誠二君は自分を責めているだけだよ。
人の本能なんだから、もっと気軽でいいの。」
俯く誠二の顔を覗き込みながら、ディヤイアンは笑った。
「君たちが食事の時にいつもやっているでしょ?手を合わせて、感謝を込めて、いただきますって。
それだけで十分だよ。」
誠二は、小さく頷いた。
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