あふれる思い

うさのり

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『僕は、体を求められた。ただそれだけだった。だから、あの二人を入れ替えたんだ。あの男が拓海の体だけを求めてるなら、拓海は生きていけないだろ?僕みたいに、あの男がいないと生きていけないくらいに愛してしまっているから。だから拓海をこっちに呼びたかったんだ。』
「植松は、どこかお前に似ているからな。」
(恋人への依存度や、精神の脆さがな・・・。)
軽くため息をついた一条は、再び問いかけた。
「それで、あの二人を引き離そうと今も思っているか?」
『・・・。』
香山は屋上の床を見た。彼には壁など関係ない。今、幸せそうに囁き合っている二人が見える。
『どんなことがあっても、どんな姿でも、お前が好きだよ・・・か。』
翔の言葉を拾い、香山は泣きそうな、それでいてほっとしたような顔を一条に向けた。
『あの二人なら、大丈夫だよね?』
「たとえ分れることになっても、大丈夫だろう。まぁ、天変地異でも起きないかぎり、その心配はないと思いたいがな。」
(そうでないともう一人の香山に植松がなってしまう可能性があるからな。)
まじめに答える一条に少し笑いかけ、香山は目を瞑った。
『じゃあ、僕がいる必要はもう無いね。』
香山はゆっくりと目を開けながら、微笑んでそう言った。
「・・・。見届けなくてもいいのか?」
少し考えてから。一条は問いかけた。
『うん。大丈夫。僕が消えても僕が持っていた本気の思いは拓海が引き継いでくれてるから。それに、あの二人なら幸せになれる・・・よね?』
懇願するかのように問いかける香山に、一条は何も言わず、僅かに頷いた。そうなってほしいと心から思いながら。
『それなら、もう思い残すことは無いよ。今までの守人がしてきたみたいに僕を消しても。・・・大丈夫。この学園を呪ったりしないから。ここには・・・幸せだった頃の思い出もあるから・・・。』
優しい笑顔の香山に、一条は呆れたような顔をした。
「霊を消すことで解決をするような三流術師と、私を一緒にするな。」
『え?』
香山はきょとんとした顔をした。
「光が見えるか?」
問いかけられ。香山はあたりをきょろきょろと見回し、ある一点で視線を止めた。
『・・・うん。』
虚空を見つめる香山の目には、かすかだがやわらかい光が見える。
「それに向かって行け。今度転生した時は、悔いの無い人生を送るのだぞ。」
『僕、生まれ変われるの?』
目を見張る香山に、一条は普段は絶対にしない優しい笑顔を向けて頷いた。
『僕、行くよ。ありがとう。・・・えっと・・・。』
「一条。一条茂だ。」
『茂。今度生まれ変わったら、あなたみたいな人を好きになるよ・・・。』
「物好きだな。」
そんな一条の言葉に笑いながら、香山はゆっくりと消えていった。
『ありがとう、茂。拓海と翔に謝っといて・・・。』
(その必要はないだろう)
そう思いつつ、香山が消えた空間を見ていた一条は、ふと身体の力を抜き、指を一回鳴らした。サッカー部の寮全体を覆っていた結界が音も無く解かれた。
彼は身を翻して屋上を去っていった。
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