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「なるほど・・・。昨夜二人がしたという、入れ替わるという会話が引き金になったようだな。」
事実のみを端的に翔が話すと、一条は頷きながら言った。拓海は可愛そうなほど全身を真っ赤に染め上げていた。それを可愛いと思いつつ、翔は不思議に思い一条に尋ねた。
「何故です?ただの冗談だし、想像だけなら、俺、いつもして・・・。」
ばきっ!
昨夜と同じように、翔は赤くて涙目の拓海に殴られた。
「想像。それがキーワードだ。植松。」
ふいに一条が拓海を見た。
「藍田がその冗談を言った時、入れ替わる想像をしなかったか?」
「・・・。確かに、しました。」
拓海はぶすっとした声で呟くように答えた。翔はびっくりしたように拓海を見た。その視線に、拓海は更に憮然とした顔になった。
「それだな。」
「だからそれが・・・。」
再び右手を上げて、一条は拓海の言葉を遮った。
「心も体も一番近い関係の二人が、同じ事を同時に思う。それだけで一つの呪ができる。片方の人物が言葉にしているからな。まぁ、詳しい原因はお前らには関係ないだろう?それよりも、元に戻るほうが重要なのではないか?」
「は、はい。どうすればいいんですか?何でもします!」
拓海は慌てて言った。一条は淡々と事務的に言った。
「とりあえず、二人は離れてはいけない。この寮からも出てはいけない。私を含めて、他の人間ともできるだけ会わないほうがいいだろう。」
その言葉に、拓海ははっとして翔を見た。それを見た翔はばつが悪い顔をして目をそらした。
「一条先輩、翔は一度寮を出ています。」
「何時だ?」
「僕が寝ているときです。パンとミルクティーと雑誌を買いにコンビニに行きました。」
その拓海の言葉に、一条はほっとした表情をした。一条のそんな感情が出た表情を見るのは二人とも初めてだったので、思わず目を見開いた。
「その買い物は、私が行った。」
「は?」
「植松の食料を買いに行くと聞かなかったから、私が買いに行き、部屋にいさせた。それぞれの距離が離れているほど、その時間が長いほど、戻すのが困難になるからな。」
(それに、隠していたが、足元がふらついていたからな。)
そんなことを考えた一条は、翔をちらりと見た。その視線の意味に気づいた翔は、必死な目でこれ以上言うなと訴えかけた。
一方拓海は、呆れかえっていた。
「・・・。」
(本気で心配したんだけど?僕は。)
一条は基本的に、このような相談の場合は嘘をつかないと言われている。明かせない事はきちんとそう言うからだ。
「翔?どういうこと?」
本気で怒っている拓海の呟きに、翔はとっさに反応できなかったが、慌てて口を開いた。
「ご、ごめん。でも、一条先輩に買いに行かせたって言っても信じなかっただろ?」
(・・・確かに。)
頷く拓海を見て、翔はほっとした顔をした。
「では、話を元に戻してもいいか?」
二人が同時に頷いたのを見て、一条は続けた。
「これから部屋に戻り、夕食時にも外には出るな。食料は私が買ってある。パンだが・・・それは諦めてほしい。」
ビニール袋を翔に渡しながら、一条はそう言った。再び二人は同時に頷いた。
「それと、部屋の中でも、できるだけ離れない方がいい。体の一部を繋げているのが効果的だろうな。」
この言葉に二人は再び頷いた。
「トイレも一緒に行くように。風呂は・・・、今日は諦めろ。」
今度は二人とも情けない顔をした。翔は長くつかるほうではないが、風呂が好きだし、拓海は長風呂で有名なほどの風呂好きだ。
「最後に、これが肝心だか・・・。」
一条は何故か少し口を閉ざし、拓海を見た。
「昨夜とまったく同じ事を今夜もやったほうがいい。同じ事を、同じ体でだ。」
「・・・?」
二人とも一瞬何のことだかわからなかったが、同時に気づき、一人は顔をほころばし、一人は叫んだ。
「一条先輩~!!!!!」
「いや。冗談ではない」
いたって真剣な顔で、一条は続けた。
「昨夜の会話の前にお前達が取っていた行動と、その会話の二つが今回の現象を引き起こした鍵になっている」
「!!!!!」
声も出せない拓海は、顔を真っ赤にして涙目で一条を睨んだ。
「つまり、拓海の体である俺が、俺の体である拓海に抱かれろってことですよね。昨夜とまったく同じシチュエーションのほうがいんですか?」
嬉しそうに声を弾ませる翔を、拓海は殴り損ねた。
(同じシチュエーション・・・って、そんなことまで要求されるの?!)
もう泣いていいかなと考えている拓海と、頬を染めつつ嬉しそうな翔を見て、一条は小さく首を横に振り言った。
「まったく同じである必要は無い。中に入っている人物が違うのだから、まったく同じにしても意味は無い。それよりも、お互いが普段と同じ心持でいることが大切だな。」
「普段と同じ心持・・・ですか?」
翔が聞くと、一条はやはり真剣に答えた。
「普段、お前達はいやいや抱き合っているのか?違うだろう?そう言う意味だ。
わかったか?植松。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
げっぞりとした顔をしたが、結局拓海は小さく頷いた。
事実のみを端的に翔が話すと、一条は頷きながら言った。拓海は可愛そうなほど全身を真っ赤に染め上げていた。それを可愛いと思いつつ、翔は不思議に思い一条に尋ねた。
「何故です?ただの冗談だし、想像だけなら、俺、いつもして・・・。」
ばきっ!
昨夜と同じように、翔は赤くて涙目の拓海に殴られた。
「想像。それがキーワードだ。植松。」
ふいに一条が拓海を見た。
「藍田がその冗談を言った時、入れ替わる想像をしなかったか?」
「・・・。確かに、しました。」
拓海はぶすっとした声で呟くように答えた。翔はびっくりしたように拓海を見た。その視線に、拓海は更に憮然とした顔になった。
「それだな。」
「だからそれが・・・。」
再び右手を上げて、一条は拓海の言葉を遮った。
「心も体も一番近い関係の二人が、同じ事を同時に思う。それだけで一つの呪ができる。片方の人物が言葉にしているからな。まぁ、詳しい原因はお前らには関係ないだろう?それよりも、元に戻るほうが重要なのではないか?」
「は、はい。どうすればいいんですか?何でもします!」
拓海は慌てて言った。一条は淡々と事務的に言った。
「とりあえず、二人は離れてはいけない。この寮からも出てはいけない。私を含めて、他の人間ともできるだけ会わないほうがいいだろう。」
その言葉に、拓海ははっとして翔を見た。それを見た翔はばつが悪い顔をして目をそらした。
「一条先輩、翔は一度寮を出ています。」
「何時だ?」
「僕が寝ているときです。パンとミルクティーと雑誌を買いにコンビニに行きました。」
その拓海の言葉に、一条はほっとした表情をした。一条のそんな感情が出た表情を見るのは二人とも初めてだったので、思わず目を見開いた。
「その買い物は、私が行った。」
「は?」
「植松の食料を買いに行くと聞かなかったから、私が買いに行き、部屋にいさせた。それぞれの距離が離れているほど、その時間が長いほど、戻すのが困難になるからな。」
(それに、隠していたが、足元がふらついていたからな。)
そんなことを考えた一条は、翔をちらりと見た。その視線の意味に気づいた翔は、必死な目でこれ以上言うなと訴えかけた。
一方拓海は、呆れかえっていた。
「・・・。」
(本気で心配したんだけど?僕は。)
一条は基本的に、このような相談の場合は嘘をつかないと言われている。明かせない事はきちんとそう言うからだ。
「翔?どういうこと?」
本気で怒っている拓海の呟きに、翔はとっさに反応できなかったが、慌てて口を開いた。
「ご、ごめん。でも、一条先輩に買いに行かせたって言っても信じなかっただろ?」
(・・・確かに。)
頷く拓海を見て、翔はほっとした顔をした。
「では、話を元に戻してもいいか?」
二人が同時に頷いたのを見て、一条は続けた。
「これから部屋に戻り、夕食時にも外には出るな。食料は私が買ってある。パンだが・・・それは諦めてほしい。」
ビニール袋を翔に渡しながら、一条はそう言った。再び二人は同時に頷いた。
「それと、部屋の中でも、できるだけ離れない方がいい。体の一部を繋げているのが効果的だろうな。」
この言葉に二人は再び頷いた。
「トイレも一緒に行くように。風呂は・・・、今日は諦めろ。」
今度は二人とも情けない顔をした。翔は長くつかるほうではないが、風呂が好きだし、拓海は長風呂で有名なほどの風呂好きだ。
「最後に、これが肝心だか・・・。」
一条は何故か少し口を閉ざし、拓海を見た。
「昨夜とまったく同じ事を今夜もやったほうがいい。同じ事を、同じ体でだ。」
「・・・?」
二人とも一瞬何のことだかわからなかったが、同時に気づき、一人は顔をほころばし、一人は叫んだ。
「一条先輩~!!!!!」
「いや。冗談ではない」
いたって真剣な顔で、一条は続けた。
「昨夜の会話の前にお前達が取っていた行動と、その会話の二つが今回の現象を引き起こした鍵になっている」
「!!!!!」
声も出せない拓海は、顔を真っ赤にして涙目で一条を睨んだ。
「つまり、拓海の体である俺が、俺の体である拓海に抱かれろってことですよね。昨夜とまったく同じシチュエーションのほうがいんですか?」
嬉しそうに声を弾ませる翔を、拓海は殴り損ねた。
(同じシチュエーション・・・って、そんなことまで要求されるの?!)
もう泣いていいかなと考えている拓海と、頬を染めつつ嬉しそうな翔を見て、一条は小さく首を横に振り言った。
「まったく同じである必要は無い。中に入っている人物が違うのだから、まったく同じにしても意味は無い。それよりも、お互いが普段と同じ心持でいることが大切だな。」
「普段と同じ心持・・・ですか?」
翔が聞くと、一条はやはり真剣に答えた。
「普段、お前達はいやいや抱き合っているのか?違うだろう?そう言う意味だ。
わかったか?植松。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
げっぞりとした顔をしたが、結局拓海は小さく頷いた。
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