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「来たか。」
座っている肘掛つきの椅子をくるりと回して、一条は入り口に立つ拓海と翔を見た。
扉を閉めて入ってきた二人は、拓海は一条の前に置かれた椅子に、翔はベッドに座った。
「一条先輩、わかるんですか?」
「わかるとは?」
拓海が恐る恐る聞くと、一条は不信げな顔をして翔を見た。翔は肩をすくめた。
「お前達二人が入れ替わっているのは、朝食の時から気づいている。二人は気が正反対と言っていいほど違うからな。」
「き、って?」
首をかしげる拓海に、一条はため息をついた。
「詳しく言ってもわからないだろうが・・・。この世界の物質がそれぞれ持っている個々を識別するものだ。・・・。まったく違うが、個人を識別するということだけ考えればDNAと同じといえなくもない。」
「・・・つまり、種を意味する大別ができ、なおかつ個を区別することができるもの・・・ですか?」
翔の言葉に、一条は概ね合っていると頷いた。
「き・・・って、気功とかの気?」
「知っているのか?」
珍しく目を見張った一条に、拓海は驚きながら言った。
「漫画で読みました。」
「・・・。漫画か・・・。」
あからさまに一条は肩を落とした。
「一条先輩・・・って、そんなものが見えるんですか?」
一条は当然だというように肩眉を上げた。
「僕の実家は陰陽道の家系で、僕は本家当主の長男だからな。呪術などは専門分野だ。」
拓海は頭を抱えた。まるでラノベの世界だ。
(今の流行は異世界ものだったよなぁ~。)
拓海は少し現実逃避をした。彼は現実主義者で、オカルトが大嫌いだった。見るのも聞くのも、その存在自体が嫌いで、そのような企画のテレビ番組も嫌悪していた。それを知っている翔は、苦笑いをしながら拓海の頭を軽くなでた。
「その様なことより、お前たちにとって、もっと有意義な話をするために来たのではないのか?」
呆れたような一条の言葉に、拓海ははっと顔を上げた。
「そうだ。一条先輩、僕たちどうなっているのかわかりますか?・・・元に戻れますか?」
「そうでなければ、藍田に話しかけたりはしない。」
普段どおり淡々と話す一条が、拓海にはとても頼もしく見えた。
「では、二人が入れ替わった、詳しい状況を話してくれないか?」
「「入れ替わった?」」
拓海と翔の声が重なった。
一条の話では、拓海と翔は、自分自身の姿が変わったのではなく、お互いの体に精神、つまり魂だけが入れ替わって入ってしまっているということだった。
「あ、やっぱり。」
「そんなことって、あるんですか?」
翔の呟きは、拓海の声によって二人の耳には届かなかった。
「現実になっているだろう?」
肩をすくめた一条がそう言うと、拓海は再び頭を抱えた。これでは昨日の冗談が現実になってしまったことになる。
「・・・なるほど。だからか・・・。」
「翔、何か知っているの!?」
掴みかからんばかりの勢いで叫ぶ拓海に、翔はやはりのほほんと答えた。
「朝、言っただろ?予想ではって。目が覚めたら、昨日の俺たちの立場が反対になっていたから。」
「反対?」
「俺が拓海に腕枕をしていたのに、俺が腕枕をされて目が覚めたから。」
(そういえば、起きた時、右腕が少しだけ痺れていたような気がするなぁ。)
腕を組んで首をかしげている拓海をよそに、一条は翔に語りかけた。
座っている肘掛つきの椅子をくるりと回して、一条は入り口に立つ拓海と翔を見た。
扉を閉めて入ってきた二人は、拓海は一条の前に置かれた椅子に、翔はベッドに座った。
「一条先輩、わかるんですか?」
「わかるとは?」
拓海が恐る恐る聞くと、一条は不信げな顔をして翔を見た。翔は肩をすくめた。
「お前達二人が入れ替わっているのは、朝食の時から気づいている。二人は気が正反対と言っていいほど違うからな。」
「き、って?」
首をかしげる拓海に、一条はため息をついた。
「詳しく言ってもわからないだろうが・・・。この世界の物質がそれぞれ持っている個々を識別するものだ。・・・。まったく違うが、個人を識別するということだけ考えればDNAと同じといえなくもない。」
「・・・つまり、種を意味する大別ができ、なおかつ個を区別することができるもの・・・ですか?」
翔の言葉に、一条は概ね合っていると頷いた。
「き・・・って、気功とかの気?」
「知っているのか?」
珍しく目を見張った一条に、拓海は驚きながら言った。
「漫画で読みました。」
「・・・。漫画か・・・。」
あからさまに一条は肩を落とした。
「一条先輩・・・って、そんなものが見えるんですか?」
一条は当然だというように肩眉を上げた。
「僕の実家は陰陽道の家系で、僕は本家当主の長男だからな。呪術などは専門分野だ。」
拓海は頭を抱えた。まるでラノベの世界だ。
(今の流行は異世界ものだったよなぁ~。)
拓海は少し現実逃避をした。彼は現実主義者で、オカルトが大嫌いだった。見るのも聞くのも、その存在自体が嫌いで、そのような企画のテレビ番組も嫌悪していた。それを知っている翔は、苦笑いをしながら拓海の頭を軽くなでた。
「その様なことより、お前たちにとって、もっと有意義な話をするために来たのではないのか?」
呆れたような一条の言葉に、拓海ははっと顔を上げた。
「そうだ。一条先輩、僕たちどうなっているのかわかりますか?・・・元に戻れますか?」
「そうでなければ、藍田に話しかけたりはしない。」
普段どおり淡々と話す一条が、拓海にはとても頼もしく見えた。
「では、二人が入れ替わった、詳しい状況を話してくれないか?」
「「入れ替わった?」」
拓海と翔の声が重なった。
一条の話では、拓海と翔は、自分自身の姿が変わったのではなく、お互いの体に精神、つまり魂だけが入れ替わって入ってしまっているということだった。
「あ、やっぱり。」
「そんなことって、あるんですか?」
翔の呟きは、拓海の声によって二人の耳には届かなかった。
「現実になっているだろう?」
肩をすくめた一条がそう言うと、拓海は再び頭を抱えた。これでは昨日の冗談が現実になってしまったことになる。
「・・・なるほど。だからか・・・。」
「翔、何か知っているの!?」
掴みかからんばかりの勢いで叫ぶ拓海に、翔はやはりのほほんと答えた。
「朝、言っただろ?予想ではって。目が覚めたら、昨日の俺たちの立場が反対になっていたから。」
「反対?」
「俺が拓海に腕枕をしていたのに、俺が腕枕をされて目が覚めたから。」
(そういえば、起きた時、右腕が少しだけ痺れていたような気がするなぁ。)
腕を組んで首をかしげている拓海をよそに、一条は翔に語りかけた。
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