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魅惑のバレンタインデー(前編)
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ここはウィンザー侯爵家のとっても居心地のいいリビングルーム。
金髪に青い目の美しい姉妹たちはさっきからソワソワとバレンタインの計画を話している。
「一年に一度のバレンタインデーよ、他の令嬢たちに負けるわけにはいかないわよ」
「ジェラルド騎士団長に直接チョコレートを渡さなきゃだめよ。門兵の方に預けるなんて絶対にしてはだめ」
「ええ、そうよ。頑張りましょう!」
末っ子のリリアンは四人の姉たちのまわりでぴょんぴょんと跳ねていた。
なんとか仲間に入れてもらおうと頑張っているが話の中に入れてもらえないのだ。
「ねえねえ、お姉様、なんの話をしているの?」
「六歳にはわからない話よ」
ほーらまた仲間外れだ、プンプンだ!
リリアンはあきらめてお友達のマリアンヌたちとお茶会をしようと思った。
だけどリビングルームから出て行こうとした時に姉たちに呼び止められる。
「ねえ、リリアン。そういえばあなたは騎士団の陣営に入れるわよね?」
「ええ、入れるわ」
リリアンと騎士団長は友達だからもちろん入れるに決まっている。
どうしてそんなことを聞くのだろうと思っていると姉たちはびっくりするような提案をしてきた。
「お願いを聞いてくれたらあなたが欲しいものをあげるわ。私たちはジェラルド騎士団長様にチョコレートを渡したいの。だけど騎士団長様は王都の令嬢たちの憧れのまとだから直接お渡しするのが難しいの。もしもあなたが渡してくれたらなんでもあげるわ」
「なんでも?」
「ええ、なんでもよ」
リリアンには欲しいものがあった。
一番上の姉のフリフリのピンクのパラソルと二番目の姉のレースの手袋と三番目の姉の水色のビーズの巾着バックだ。
だからそれを欲しいと言うとなんと驚くことに姉たちは全部くれると約束した。
「ほんとうにくれるの?」
「ええ、ほんとうよ。そのかわり手紙も渡して欲しいの。そしてお返事ももらってきてね。それから騎士団長が汗を拭いたハンカチも手に入れてくれるとすごく嬉しいわ」
「ふうん⋯⋯」
最後の『汗を拭いたハンカチ』だけはなんだか意味がよくわからない。
だけどものすごくいい条件だということはよーくわかった。
「リリアンには難しいかしら?」
「いいえ、できるわ!」
というわけで、リリアンはジェラルド騎士団長にチョコを渡しに行くことになったのだった。
**
ピンクのパラソルをクルクル回してさあ出発だ。
スキップしながら屋敷を出る。
もちろん水色のビーズの巾着バックも持っている。姉たちから預かったチョコと手紙はこのバックの中だ。
真っ白なレースの手袋もつけている。ちょっと大きいけれどルンルンだ!
姉たちに金髪をクルクルに巻いてもらって白粉もパタパタとほっぺにつけてもらった。
どうやら姉たちはリリアンが子供じゃないとやっとわかったらしい。
ご機嫌で陣営に着くとなんだかいつもとようすが違う⋯⋯。
騎士団の陣営の門前にはたくさんの令嬢たちが集まっている、みんなチョコを渡そうとしているのだ。
だけど姉たちが言っていたように騎士団長にチョコを直接渡すことはできないらしい。
門番が「チョコはここで預かります!」と大声で叫ぶとブーイングが起きている。
「⋯⋯通してくださいますかしら?」
リリアンは丁寧に言いながら人の波をかき分けた。
みんなの腰までしか身長がないのでちょっとでも押されるとものすごく苦しい。
すると急に令嬢たちが「きゃー♡」と叫び出したではないか!
騎士団が国境警備の仕事から戻ってきたのだ。
「きゃあ~! 騎士団長さまー!!」
耳をつんざくようなものすごい歓声が響き渡った。
騎士団の先頭には白馬に乗ったジェラルド騎士団長がいる。
黒い騎士服姿だ。背中で揺れる長くて美しい金色の髪が太陽の光を受けてキラキラと眩(まぶ)しく輝いている。
切れ長の目に春の空のような澄(す)んだ青い目、あいかわらず彫像のように完璧な美貌だ。
騎士団長が目の前にやってくると令嬢たちはますます興奮した。
リリアンはぎゅーっと押しつぶされそうになった。
「お⋯⋯、押さないでくださいませ⋯⋯」
その時だ——。
「リリアン様、危ない!」
声が聞こえたと同時にたくましい腕が伸びてきた。
「あら?」
と思った時には誰かの腕の中⋯⋯。
ジェラルド騎士団長が助けてくれたのだ。
しかもこれはお姫様抱っこじゃないか!
絵本の中の王子様とお姫様とおんなじだ!!
——騎士団長様、すっごくかっこいいわ⋯⋯。
ものすごくハンサムな顔がすぐ近くに見えるし、ものすごくたくましい体が抱き抱えてくれている。
それになんだかすごくいい香りまでするではないか⋯⋯。
リリアンはうっとりしてこのままずーっと抱っこしてて欲しいと思った。
「⋯⋯あの、⋯⋯ありがとうございます、騎士団長様。押しつぶされるかと思いましたわ」
「ご無事でよかったです。⋯⋯今日はどんなご用ですか、リリアン様?」
「姉たちからチョコレートを預かりましたの」
「ああ、なるほど——」
リリアンはそのまま白馬に乗せてもらった。そして騎士団と一緒に門の中へ入っていく。
白馬からおろしてもらうとすぐにピョコンと膝を折って挨拶をした。
「お元気ですか、騎士団長様?」
「ええ元気にしております。リリアン様はお元気でいらっしゃいましたか?」
騎士団長はいつものように丁寧にリリアンの右手を取って唇をそっとつけて挨拶をしてくれた。
金髪に青い目の美しい姉妹たちはさっきからソワソワとバレンタインの計画を話している。
「一年に一度のバレンタインデーよ、他の令嬢たちに負けるわけにはいかないわよ」
「ジェラルド騎士団長に直接チョコレートを渡さなきゃだめよ。門兵の方に預けるなんて絶対にしてはだめ」
「ええ、そうよ。頑張りましょう!」
末っ子のリリアンは四人の姉たちのまわりでぴょんぴょんと跳ねていた。
なんとか仲間に入れてもらおうと頑張っているが話の中に入れてもらえないのだ。
「ねえねえ、お姉様、なんの話をしているの?」
「六歳にはわからない話よ」
ほーらまた仲間外れだ、プンプンだ!
リリアンはあきらめてお友達のマリアンヌたちとお茶会をしようと思った。
だけどリビングルームから出て行こうとした時に姉たちに呼び止められる。
「ねえ、リリアン。そういえばあなたは騎士団の陣営に入れるわよね?」
「ええ、入れるわ」
リリアンと騎士団長は友達だからもちろん入れるに決まっている。
どうしてそんなことを聞くのだろうと思っていると姉たちはびっくりするような提案をしてきた。
「お願いを聞いてくれたらあなたが欲しいものをあげるわ。私たちはジェラルド騎士団長様にチョコレートを渡したいの。だけど騎士団長様は王都の令嬢たちの憧れのまとだから直接お渡しするのが難しいの。もしもあなたが渡してくれたらなんでもあげるわ」
「なんでも?」
「ええ、なんでもよ」
リリアンには欲しいものがあった。
一番上の姉のフリフリのピンクのパラソルと二番目の姉のレースの手袋と三番目の姉の水色のビーズの巾着バックだ。
だからそれを欲しいと言うとなんと驚くことに姉たちは全部くれると約束した。
「ほんとうにくれるの?」
「ええ、ほんとうよ。そのかわり手紙も渡して欲しいの。そしてお返事ももらってきてね。それから騎士団長が汗を拭いたハンカチも手に入れてくれるとすごく嬉しいわ」
「ふうん⋯⋯」
最後の『汗を拭いたハンカチ』だけはなんだか意味がよくわからない。
だけどものすごくいい条件だということはよーくわかった。
「リリアンには難しいかしら?」
「いいえ、できるわ!」
というわけで、リリアンはジェラルド騎士団長にチョコを渡しに行くことになったのだった。
**
ピンクのパラソルをクルクル回してさあ出発だ。
スキップしながら屋敷を出る。
もちろん水色のビーズの巾着バックも持っている。姉たちから預かったチョコと手紙はこのバックの中だ。
真っ白なレースの手袋もつけている。ちょっと大きいけれどルンルンだ!
姉たちに金髪をクルクルに巻いてもらって白粉もパタパタとほっぺにつけてもらった。
どうやら姉たちはリリアンが子供じゃないとやっとわかったらしい。
ご機嫌で陣営に着くとなんだかいつもとようすが違う⋯⋯。
騎士団の陣営の門前にはたくさんの令嬢たちが集まっている、みんなチョコを渡そうとしているのだ。
だけど姉たちが言っていたように騎士団長にチョコを直接渡すことはできないらしい。
門番が「チョコはここで預かります!」と大声で叫ぶとブーイングが起きている。
「⋯⋯通してくださいますかしら?」
リリアンは丁寧に言いながら人の波をかき分けた。
みんなの腰までしか身長がないのでちょっとでも押されるとものすごく苦しい。
すると急に令嬢たちが「きゃー♡」と叫び出したではないか!
騎士団が国境警備の仕事から戻ってきたのだ。
「きゃあ~! 騎士団長さまー!!」
耳をつんざくようなものすごい歓声が響き渡った。
騎士団の先頭には白馬に乗ったジェラルド騎士団長がいる。
黒い騎士服姿だ。背中で揺れる長くて美しい金色の髪が太陽の光を受けてキラキラと眩(まぶ)しく輝いている。
切れ長の目に春の空のような澄(す)んだ青い目、あいかわらず彫像のように完璧な美貌だ。
騎士団長が目の前にやってくると令嬢たちはますます興奮した。
リリアンはぎゅーっと押しつぶされそうになった。
「お⋯⋯、押さないでくださいませ⋯⋯」
その時だ——。
「リリアン様、危ない!」
声が聞こえたと同時にたくましい腕が伸びてきた。
「あら?」
と思った時には誰かの腕の中⋯⋯。
ジェラルド騎士団長が助けてくれたのだ。
しかもこれはお姫様抱っこじゃないか!
絵本の中の王子様とお姫様とおんなじだ!!
——騎士団長様、すっごくかっこいいわ⋯⋯。
ものすごくハンサムな顔がすぐ近くに見えるし、ものすごくたくましい体が抱き抱えてくれている。
それになんだかすごくいい香りまでするではないか⋯⋯。
リリアンはうっとりしてこのままずーっと抱っこしてて欲しいと思った。
「⋯⋯あの、⋯⋯ありがとうございます、騎士団長様。押しつぶされるかと思いましたわ」
「ご無事でよかったです。⋯⋯今日はどんなご用ですか、リリアン様?」
「姉たちからチョコレートを預かりましたの」
「ああ、なるほど——」
リリアンはそのまま白馬に乗せてもらった。そして騎士団と一緒に門の中へ入っていく。
白馬からおろしてもらうとすぐにピョコンと膝を折って挨拶をした。
「お元気ですか、騎士団長様?」
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騎士団長はいつものように丁寧にリリアンの右手を取って唇をそっとつけて挨拶をしてくれた。
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