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 ラドリア国が用意してくれた馬車は内部もとても立派だった。金と赤の豪華なベルベットの布が使われていて、ツルツルとした手触りがうっとりするほど優雅だ。
「わたくしなんかのためにこんなに豪華な馬車で迎えに来てくれるなんて⋯⋯。ほんとうにいい人たちなのね。それを騙すなんて⋯⋯」
 動き出した馬車の中で考え悩んでいるときに、ザーッという音が馬車の外から聞こえ始める。
 雨だ——。

*****

 フウルが行く先々で雨が降る。
 フウルが持っている『ギフト』が雨雲を呼び寄せるからだ。
 その雨には塩が混じっていて、農作物がことごとく枯れたので、フウルはみんなに嫌われていた。国民に石を投げられたこともあるほどだ。
 そしてこのラドリア国でも、とうとう雨を降らせてしまった。
「ああ、どうしよう!」
 焦っても雨を止める力は持っていない。フウルが持っている『ギフト』は、雨を降らせてしまうだけの能力なのだ。
 両手を握ったり閉じたりしながら、「どうしよう、どうしよう⋯⋯」と繰り返した。
 馬車は雨の中をゆっくりと城へ向かって進んでいく。
 城には夫となるリオ・ナバ国王が待っていることだろう。残虐で醜くて冷酷という噂の国王だ。
 その残忍な王が、土と石だらけのこの国を豊かな緑の国にできるギフトを持ったオメガの花嫁を、首を長くして待っているのだ。
 ——このままでは、ラドリア国はますます荒れ果ててしまう。わたくしの『塩の雨』のせいで草すら生えない場所になってしまう。
 義母のエリザベート王妃は、フウルに、「他国民は『ギフト』のことをよくわかっていない。おまえさえ黙っていれば、おまえのギフトが役立たずの能力だということは誰にもわからない。いいですか、フウル。王女として、我が国の繁栄のために嘘を突き通すのですよ!」と念を押した。
 もしもフウルが「自分は偽者だ」と真実を言えば、ラドリア国王はものすごく怒るだろう。両国の間に戦争が起こるかもしれない。
 ——戦争なんて絶対にダメだわ。
 自分のせいで、たくさんの人が死んでしまうなんて、そんなことは考えるだけでも耐えられなかった。
「だけどどうしたらいいのかしら?」
 嘘をつき続けたら塩の雨のせいで損害を与えるし、ほんとうのことを言ったらナリスリア国とラドリア国との関係が壊れてしまうだろう——。
「やっぱり偽の花嫁として嫁ぐしかないのかしら⋯⋯。だめよ、だめ! そんなことをしたら塩の雨が降り続けるわ」
 必死で考えても答えは出ない。
 雨は、しだいに激しくなっていく⋯⋯。
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