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最終話・とってもとっても幸せ⋯⋯。
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「フウル王子さま、もうしわけありませんでした!」
赤い髪をかきむしるようにしてミゲルが大声で謝った。
「ミゲルのせいじゃないよ、僕が悪いんだ」
フウルは慌ててそう言った。
フウルとミゲルは寝室にいた。暖炉の前に座っている。雨に濡れた体を温めているのだ。
「いいえ、僕のせいです!」
ミゲルは、フウルが「処刑はいつ?」と聞いた時に曖昧に答えてしまったことを後悔しているらしい。そのせいでフウルが「自分は処刑される」と思い込んでしまったからだ。
ミゲルの子鹿のような可愛い丸い目に涙が浮かび、そばかすが浮かんだ頬を涙が濡らしていく。
「泣かないで、ミゲル」
「許していただけますか?」
「最初から怒っていないよ。僕が、『偽者だ』と告白したから驚いただろう?」
「はい。大広間で王子さまがそうおっしゃったときは、ひっくり返るほど驚きました。だけどそのあとで陛下が僕たちに、『王子は旅の疲れで心が乱れておいでだから、なにを言われても受け流して、お疲れが取れるように大事にして差し上げろ』と命じられたのです。だから僕、王子さまに『処刑はいつだ?』と聞かれたとき、どう答えていいかわからなくて⋯⋯」
「いいんだよ。そうか⋯⋯。そうだったんだね、心遣いが嬉しいよ、ミゲル。ありがとう」
話していると、扉にノックが聞こえて、ほっそりとした赤毛の青年が入ってきた。
国王に使える侍従長のカルラだ。長い赤毛を後ろに垂らした姿は中性的でオメガと見間違うほどだが、ベータだった。
「あ、兄さん!」
ミゲルがパッと椅子から立ち上がった。
「城では侍従長と呼べと言っただろう?」
カルラはミゲルの兄だ。弟は子鹿のような雰囲気だが、兄の方はもっと落ち着いた静かな雰囲気をしている。
弟を厳しい視線でチラリと見ると、すぐに視線をやわらげてフウルに一礼した。
「フウルさま、お湯の用意が整いました。どうぞ、お入りください。さあ、ミゲル、フウルさまをご案内して——」
「はい、兄さん——、じゃなかった⋯⋯侍従長!」
「まったくおまえは⋯⋯」
ため息をついてカルラは出ていった。
「お兄さんと仲がいいんんだね」
ミゲルに案内されて廊下を歩きながら聞くと、ミゲルは大きくうなずいた。
「はい! いつも叱られてばかりですが、とても優しい兄です」
湯浴みの部屋は、城の中庭を通り抜けたところにあった。壁と天井がガラスでできている。温室になっているらしい。
扉を開けて中に入ると暖かい空気に一気に包まれた。大きな葉の南国の木々が茂り、赤い花々が咲き乱れている。
「わあ、すごくきれいだね!」
思わず感嘆の声を上げた。ほんとうにとても華やかで美しい部屋だ。まるで夢の中に出てくる理想の楽園のようだ。
「陛下がお作りになったんですよ。陛下は、我が国にもっと木々や花々を茂らせたいと思っていらっしゃるんです。僕の国は、きっといつか、この温室のような緑に包まれた場所になりますよ、きっと美しい緑がいっぱいになります!」
「ああ、そうだね。きっとそうなるよ⋯⋯」
「お風呂は奥にあるんですよ! こっちです!」
ミゲルが走っていく。その後をついていくと、目の前に大きくて真っ白な大理石の湯船が現れた。
大きな円形で、風呂というよりまるで人工の泉のようだ。絶え間なく湯が流れ込んでいる。水音がサラサラと耳に心地いい。
「地下から熱い湯が噴き出しているそうです。この仕組みも陛下が考えられたんですよ! すごいでしょう?」
「うん、ほんとうにすごいね」
ガラスの天井からは明るい太陽の光が落ちてきて、温室全体がキラキラと眩しいほど明るかった。ぼんやりと見惚れていると、「クシュン⋯⋯」と小さなくしゃみ。雨に濡れた体が冷えてしまったらしい。
「お風邪をひかれたら大変です!」
慌てるミゲルに服を脱がされ、押し込まれるようにして湯船につかる。
心地よい温度だった。体の力が抜けて、とろけてしまいそうだ⋯⋯。
「あっ! お着替えを持ってくるのを忘れました! すぐに戻ります」
ミゲルが慌ててガラス張りの湯浴みの部屋を出ていく。
「急がないでいいからね! 転ばないように気をつけて!」
「はい、王子さま! お気遣いありがとうございます!」
「⋯⋯かわいいなあ」
くすりと笑って湯に浸かりながら思い出すのはリオ・ナバ王の言葉だ。
——俺に任せてくれ。
その言葉に心が軽くなっていた。
「力強いお言葉だったなあ⋯⋯」
その言葉のおかげで、『きっと大丈夫』と心を強く持つことができている。
ミゲルの明るさと心地いいお湯も、すべてが、暗い気持ちを吹き飛ばしてくれる。
「陛下を信じよう——」
深く湯に浸かって、緑の木々や赤い花をじっと見つめながらそう思った。
口元には自然に笑みが浮かんでくる。こんなに気持ちがいい時間を持ったことは今まで一度もなかった。
「なんて気持ちがいいんだろう」
ほんとうに、ほんとうに幸せな時間が訪れた瞬間だった。
(終わり)
お読みいただきありがとうございました。このお話しにはAmazonにタイトル『偽花嫁と溺愛王』著者・美咲アリスすとして続きがあります。濡れ濡れオメガのエッチ短編『初夜編』と、ほのぼの子育て編も収録中ですので、もしよかったら読んでみてください。エッチ度最高のリオ・ナバ王がいます!感想ボタンの下のリンクをクリックして覗いてみてください!
赤い髪をかきむしるようにしてミゲルが大声で謝った。
「ミゲルのせいじゃないよ、僕が悪いんだ」
フウルは慌ててそう言った。
フウルとミゲルは寝室にいた。暖炉の前に座っている。雨に濡れた体を温めているのだ。
「いいえ、僕のせいです!」
ミゲルは、フウルが「処刑はいつ?」と聞いた時に曖昧に答えてしまったことを後悔しているらしい。そのせいでフウルが「自分は処刑される」と思い込んでしまったからだ。
ミゲルの子鹿のような可愛い丸い目に涙が浮かび、そばかすが浮かんだ頬を涙が濡らしていく。
「泣かないで、ミゲル」
「許していただけますか?」
「最初から怒っていないよ。僕が、『偽者だ』と告白したから驚いただろう?」
「はい。大広間で王子さまがそうおっしゃったときは、ひっくり返るほど驚きました。だけどそのあとで陛下が僕たちに、『王子は旅の疲れで心が乱れておいでだから、なにを言われても受け流して、お疲れが取れるように大事にして差し上げろ』と命じられたのです。だから僕、王子さまに『処刑はいつだ?』と聞かれたとき、どう答えていいかわからなくて⋯⋯」
「いいんだよ。そうか⋯⋯。そうだったんだね、心遣いが嬉しいよ、ミゲル。ありがとう」
話していると、扉にノックが聞こえて、ほっそりとした赤毛の青年が入ってきた。
国王に使える侍従長のカルラだ。長い赤毛を後ろに垂らした姿は中性的でオメガと見間違うほどだが、ベータだった。
「あ、兄さん!」
ミゲルがパッと椅子から立ち上がった。
「城では侍従長と呼べと言っただろう?」
カルラはミゲルの兄だ。弟は子鹿のような雰囲気だが、兄の方はもっと落ち着いた静かな雰囲気をしている。
弟を厳しい視線でチラリと見ると、すぐに視線をやわらげてフウルに一礼した。
「フウルさま、お湯の用意が整いました。どうぞ、お入りください。さあ、ミゲル、フウルさまをご案内して——」
「はい、兄さん——、じゃなかった⋯⋯侍従長!」
「まったくおまえは⋯⋯」
ため息をついてカルラは出ていった。
「お兄さんと仲がいいんんだね」
ミゲルに案内されて廊下を歩きながら聞くと、ミゲルは大きくうなずいた。
「はい! いつも叱られてばかりですが、とても優しい兄です」
湯浴みの部屋は、城の中庭を通り抜けたところにあった。壁と天井がガラスでできている。温室になっているらしい。
扉を開けて中に入ると暖かい空気に一気に包まれた。大きな葉の南国の木々が茂り、赤い花々が咲き乱れている。
「わあ、すごくきれいだね!」
思わず感嘆の声を上げた。ほんとうにとても華やかで美しい部屋だ。まるで夢の中に出てくる理想の楽園のようだ。
「陛下がお作りになったんですよ。陛下は、我が国にもっと木々や花々を茂らせたいと思っていらっしゃるんです。僕の国は、きっといつか、この温室のような緑に包まれた場所になりますよ、きっと美しい緑がいっぱいになります!」
「ああ、そうだね。きっとそうなるよ⋯⋯」
「お風呂は奥にあるんですよ! こっちです!」
ミゲルが走っていく。その後をついていくと、目の前に大きくて真っ白な大理石の湯船が現れた。
大きな円形で、風呂というよりまるで人工の泉のようだ。絶え間なく湯が流れ込んでいる。水音がサラサラと耳に心地いい。
「地下から熱い湯が噴き出しているそうです。この仕組みも陛下が考えられたんですよ! すごいでしょう?」
「うん、ほんとうにすごいね」
ガラスの天井からは明るい太陽の光が落ちてきて、温室全体がキラキラと眩しいほど明るかった。ぼんやりと見惚れていると、「クシュン⋯⋯」と小さなくしゃみ。雨に濡れた体が冷えてしまったらしい。
「お風邪をひかれたら大変です!」
慌てるミゲルに服を脱がされ、押し込まれるようにして湯船につかる。
心地よい温度だった。体の力が抜けて、とろけてしまいそうだ⋯⋯。
「あっ! お着替えを持ってくるのを忘れました! すぐに戻ります」
ミゲルが慌ててガラス張りの湯浴みの部屋を出ていく。
「急がないでいいからね! 転ばないように気をつけて!」
「はい、王子さま! お気遣いありがとうございます!」
「⋯⋯かわいいなあ」
くすりと笑って湯に浸かりながら思い出すのはリオ・ナバ王の言葉だ。
——俺に任せてくれ。
その言葉に心が軽くなっていた。
「力強いお言葉だったなあ⋯⋯」
その言葉のおかげで、『きっと大丈夫』と心を強く持つことができている。
ミゲルの明るさと心地いいお湯も、すべてが、暗い気持ちを吹き飛ばしてくれる。
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深く湯に浸かって、緑の木々や赤い花をじっと見つめながらそう思った。
口元には自然に笑みが浮かんでくる。こんなに気持ちがいい時間を持ったことは今まで一度もなかった。
「なんて気持ちがいいんだろう」
ほんとうに、ほんとうに幸せな時間が訪れた瞬間だった。
(終わり)
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