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第二章 回収部の日常

第22話 自己紹介

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 フェリエッタは、一人緊張きんちょうしていた。扉の前にいるフェリエッタのことを、部屋の中にいる人たちが見ている。

 この部屋は、かなり広く、家具も様々さまざまなものが置いてあった。会議に使われるような大きな机の他にも、ソファやテレビなどもある。その様子から見るに、この部屋は単なるミーティングルームだけではなく、共有のいこいの場として活用かつようされているのだろう。

「えーと。それじゃ、自己紹介からしてもらおうか。」

 着物姿の少女の拘束こうそくからやっとのことで逃れた笹平ささひらが、フェリエッタのそばに立ち、彼女にそううながした。

「え? あ、はい! 私、フェリエッタ・ウィリアムズと言います。新しくこのここに入ることになりました。よ、よろしくお願いします。」

「おぉ! おぬしが、宇奈月うなづきの言っておったわしらの新たな朋輩ほうばいとなる者じゃな。」

 フェリエッタは、一歩前に出て、上ずったような声で挨拶をすると、着物姿の少女がフェリエッタに話しかけてきた。

 少女のぴょんぴょんと跳ねている様子が、可愛らしい。

「わしの名は、枸橘からたちキコクじゃ。よろしゅう頼むぞ。」

「私は音沢おとざわさやよ。よろしくー。」

「…江良川えらがわ涼乃りの。」

 着物姿の少女が名乗ったのを皮切かわきりに、部屋の中にいる人々が、次々つぎつぎと自己紹介をする。それをこわばった顔のフェリエッタが聞いている。

「フェリエッタさんだっけ? いろいろと活躍かつやくは聞いてるよー。こっちの世界に来たばかりなのに大変だったね。こっちの世界には、もう慣れた?」

 音沢と名乗ったスーツを着た女性が、身を乗り出しながら、フェリエッタにやさしく問いかけてきた。その身体からだは、細身でありながら、出るところは出ており、少し色目いろめかしさを感じる。

「えーと、ま、まだよくわからないこともたくさんあって、正直しょうじき慣れないことも多い、です。」

「ま、そうかー。もし困ったことがあれば、気軽に、ね。」

「あ、ありがとうございます。」

「わしも、いろいろ聞いておったぞ! おぬし、巨大な牡鶏おんどりあやかしを討ったらしいの。」

「え? は、はい。」

「おぉ、うらやましいの。わしも、そやつとうてみたかったぞ。」

 枸橘は、フェリエッタの話を聞き、さらなる強敵へと思いをはせていた。その目は、きらきらと輝いている。

「そ、そうなんですね。」

 魔物との戦いに目を輝かせる枸橘を見て、少々ひるんでしまうフェリエッタだった。



「フェリエッタさんは、黒薙とバディを組むんだよね。」

 枸橘に迫られてしまい、戸惑とまどっているフェリエッタを見かねた音沢が、再び彼女に話しかける。

「は、はい。」

「そっか、黒薙も一人前の回収部かいしゅうぶのエージェントになったのか。なんか感慨かんがい深いなー。最初の頃は、あんなに…。」

「音沢さん! そ、それ以上は。」

「あれ、ダメ? 私、結構あの頃の黒薙のこと、好きなんだけどなー。」

 自分の話が出た途端、フェリエッタの隣にいた黒薙が、慌てた様子で音沢の話をさえぎった。

 黒薙のほほは、気恥きはずかしさからか赤く染まっている。そんな慌てる彼女の姿を見て、微笑ほほえましく感じたフェリエッタは、この部屋に入る前に黒薙が言っていた話を思い出した

「そういえば、皆さんは、私と同じように別の世界から来た方々かたがたなんですか?」

「私は、残念ながら違うね。今いるメンバーだと、枸橘さんとそこの江良川は、フェリエッタさんと同じように、別の世界から来た人かなー。」

「え!? それでは、皆さんもこの世界に召喚しょうかんされて来たんですか?」

「あー、んー、それはちょっと違う。そもそも、枸橘さんと江良川は、フェリエッタさんがいた世界とは別の世界から、やって来たの。それにね、フェリエッタさんのように、誰かにこっちの世界に連れてこられた人は、珍しいんだ。」

 フェリエッタの話を、音沢がやんわりと否定する。
 


「わしらがここに来たのは、世界渡せかいわたりのせいなのじゃ。」

 枸橘が、低い背を頑張ってフェリエッタの目線にあわせようと、背伸びをしながら、そう言ってきた。

「せかいわたり、ですか?」

「世界渡りとは、テクスチャ―上に存在している無数の宇宙ひもが、らぎの影響で接触することで、宇宙間を実体が移動してしまう現象のこと。”ワールドシフト”とも呼ばれていて、私たちの世界では、結構起きてるの。」

「えーと、てくすちゃー? うちゅうひも? わーるどしふと?」

「ま、ようするにこっちの世界じゃ、アンタみたいに別の世界から来たのは、珍しくないってことだ。」

 音沢の説明を聞き、さらに頭を混乱させたフェリエッタに、笹平が補足ほそくをかけた。

「私たちの仕事は、そんな物や人たちを、秘密裏ひみつりに回収し、保護すること。枸橘さんと江良川には、その仕事に協力してもらってる感じかな。」

「そ、そこは少し聞いています。私の仕事は、バディのクロナギさんと一緒に任務に出て、別の世界の方や物を一緒に連れてくればいいんですよね。」

「うん。別の世界に来たことを、急に言われても納得できない人も多くて。世界渡りした人が一緒に状況を説明してくれた方が、効率がいいんだよ。それに、よくわからない能力を持ってることがあるから、そういうのに知識がある人が一緒にいた方がいいからねー。フェリエッタさんみたいな別の世界から来た人に、バディを組んで、協力してもらっているのは、そういうこと。」

「な、なるほど。」

「ちなみに、江良川のバディは私ねー。君も、黙ってないで何か言いなよ。」

「…うす。」

 音沢は、江良川と名乗っていた少年を、子肘こひじつつくと、突かれた江良川は、ちらっとフェリエッタを見て返事をする。だが、彼は、その後にすぐに目線を下ろしてしまった。



「わしのばでぃは、そこに居る笹平じゃ。」

 枸橘が、フェリエッタの目の前で、むねを張りながら話しかける。その枸橘の話を聞いて、フェリエッタは首をかしげる。

「あれ? ササヒラさんは、クロナギさんとバディではなかったんですか?」

「あ、あぁ。枸橘は、ついこの前まで任務で別のサイトに行っていたんだ。その間だけ、俺と黒薙が組んでいたんだよ。」

 フェリエッタの質問に対して、傍にいる笹平が答える。

「こやつは、修行をおこたるようなうつけじゃが、なかなかすじは良いからのぉ。はっはっ。」

「…お手柔てやわらかに頼みますぜ。」

 高笑いをする枸橘を見ながら、笹平は死にそうな顔で言うのであった。
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