ブレイクソード

遊者

文字の大きさ
上 下
83 / 113

八十三話 連綿狩り1

しおりを挟む
「殺したりないな」地面に転がるのは無数の龍の死体。それも最強と謳われていた黒龍の死骸。二つ名の黒龍とは程遠いが、それでも神に傷は与えらる強さの龍がこのありさまだ。



「つまんないな」大剣に付いた血を振り払い、魔法空間に収納する。体に付着した血は気にならない。むしろ、勲章として落としていない。



彼はジェノサイド軸のブレイク。気が付けば、神にも届きえる力を有していた。それでも神には成ろうとしなかった。理由は簡単で神に成れば目標を達成できないからだ。



自分以外の存在をすべて消すということ。そして自分のことを殺してくれる存在を探すということを。神に成れば束縛され、不老になり今までの様な虐殺は出来ない。



彼にとってはこんな悪逆非道なことも遊戯に過ぎなかった。死とは隣り合わせでは無くて、玩具で遊んでいる気分だった。



「人間も弱いしな」彼は同じ人間から二つ名を付けられていた。モンスターと同じように。『緋剣』と。



この世界では勲章として二つ名を付けられることがあるがその人物が成し遂げた事や、携わったことに関わる長いものが付けられるのが多い。



グロリア王国のオーバー家であれば『不動の爆発要塞』なんかだ。これは王国を守ってきたことや、純血魔法に関連付けされて付けられた。



それに対して緋の髪に、緋のオーラを纏い血まみれの彼はモンスターと同等の扱いを受けていた。そんな風に扱った人間はもういないのだが、名前だけが独り歩きしている。



「特級盗賊でも狙うか」自分を殺してくれる存在を考えた結果、自分と同じような行動をしている人間がいるというのに行き着いた。自分さえよければなんでもいいという利己的な考え。ブレイク自身それは分かっていた。



「陽炎か、連綿か」数ある盗賊の中でも悪名高いのがこの二つだ。陽炎は思い市民を狙い、連綿は王族などの要人を狙う国家転覆を狙う。



「どっちの方が殺してくれっかな。いや、楽しませてくれるかな」いくら特級といっても集団でつけられたものだ。個で見てみれば大したことのない集まりかもしれない。



「陽炎はネメシアに一回やられてるからな。連綿にするか」緋を纏って空中に飛び出す。龍の死体は蹴りだけで砕け散り、後には塵だけが残った。



連綿はいまだに壊滅の報告が上がっていない唯一の盗賊団だ。前までは傑物揃いだった盗賊世界も今ではこそこそと生きる世界になってしまった。



それでも連綿はど派手に活躍をして、世界中を震撼させている。老若男女問わず畏怖の対象になっているほどだ。



「どこに隠れてんだ?アクセルでも生かしておくべきだったか」ジェノサイド軸とは言え、索敵スキルには長けてはいない。理由はオリジン自体が索敵スキルを持っていないからだ。それでも自力で習得しているのは努力の賜物だろう。



「探すのは嫌いなんだよ。呼び出すか?顔を知らないから無理だ。仕方ない、禁断の魔法でも使うか」どの軸に行っても面倒くさいことは嫌いなブレイク。楽するためなら自分の体を差し出せる。



「探せ、理を飛び越えて。『面倒ごとが嫌いな愚者』」

自分の左腕を代償として斬り落として、魔法を発動させる。何が起こるのかを分からない禁断の魔法を最小のリスクで発動させる方法は自ら代価を出すことだ。



腕を媒体にして緑色のムカデが連綿がいるであろう方向に向かって這い始めた。大きさは数センチメートルほどで、注意深く見ていないと見逃してしまうくらい高速で動いていた。



「これなら早く戦えるな」ムカデを追いながら戦いの想定をする。何人いるのか。どういった攻撃をしてくるのか。どうすれば最適解なのか。自身の脳みそをフル活用して展開していく。



連綿は数人で構成された精鋭集団。各団員に番号が振られていて、入るためには団員を殺す必要がある。こんなのはどうでもいいか。



一番強いとされているのは団長ではなく、タッグを組んだ侍と魔法使いという異色の構成らしい。番号は2と3。その他の団員の情報は表には出てこない。知っている人間は殆ど消されているからな。



なんで俺はこの情報を知っているのか。どの世界においても情報網を常に張っている人間がいる。そいつとコンタクトが取れ、尚且つ情報を引き出すことができた。時間はかかってしまったが。



とはいっても引き出せたのはこれくらいの情報しかない。それ以外の情報は噂の域を出ないものだった。



「久しぶりに滾るな」流血している左腕があった部分を見る。これくらいのハンデは別にあってもいいな。俺が一番強い。それに殺せば傷口は治る。これは俺に与えられた固有のスキルだ。全力で活かしていかないとな。



「っ!」一時間以上走った辺りで突然ムカデが地面の中を掘り始めた。どうやら俺の獲物は地面の下で待っているようだ。土葬は呪われるから、しっかり俺の緋で燃やし尽くさねェとな。



「ここら辺か?壊せば出てくるか」魔法空間から大剣を取り出す。これは殺した人間から奪った逸品だ。血を与えれば与えるほど鋭さが上がる。魔剣の類だろう。時折この剣から悲鳴が聞こえるのが鬱陶しいくらいで文句は無い。



「はぁ!」緋を纏わせた大剣を地面に思いっきり叩きつける。凄まじい爆発音と土砂が巻き上がり降り注ぐ音がうるさい。



「さぁ、俺と殺し合オウゼ?」目の前にいるのは七人。俺のことを楽しませてくれるよな?



「どこから来たんですか?まぁ折角です。一対一で闘いましょう。僕の名はドッペル」奥の方に居た仮面をつけた中性的な声をした人間が出てきた。こいつら俺のことを甘く見ているな。六人は後ろの方に下がって観戦状態になっている。見せしめで殺さないとな。



「自信があるみたいだナ。いいぜ受けて立つ。名は冥土の土産に聞かせてやるよ」大剣を構え緋を纏わせて攻撃をする。この程度の攻撃、軽くいなしてくれないと困る。



「なかなかいい攻撃じゃん。貰おうかな」仮面人間は左の腕を出し自傷した。なんの目的があるのかは分からないが、俺の神経を逆撫でしたということはよくわかった。



「痛いなぁ,,,」無くなった自分の腕を見ながら笑っていた。俺の攻撃を喰らったあいつは仮面が無くなり、素顔を見せていた。中性的な顔立ちで、金髪。それに目の下に5という番号が黒色で彫られていた。骨格的には男だろう。女でも容赦はしないがな。



「自滅か?それともハンデか?甘くみてんなぁ!」緋を空気中に散りばめ爆発させる。威嚇もあるがこの攻撃に乗せた緋が生物に触れれば反応を起こし、爆発をする。そしてその爆発はまた緋を乗せるという連鎖反応ができる。



「それも欲しいけど,,,やめておこうかな。みんなは逃げてた方がいいよ」ドッペルは手を振りかざすと、俺と同じ攻撃を繰り出し、緋を振り払った。それどころか緋の特性を完全に理解し団員に被害がないようにして、避難を促していた。



こいつの固有能力なのか?だとしたら厄介だな。俺が攻撃した分だけ不利になる

。短期決戦に持ち込みたいが、どんな技を隠しているか分からない。おとなしく見に移るか。緋は無しで純粋な体技で殺してやろう。



「見に移るのが早いね。熟練者と戦うのは久しぶりだよ」ドッペルは地面に手を突き刺し、影から人型の人形を作り出した。これも恐らくは貰った能力だろう。



俺の予想だと、『相手の能力をコピーできる能力』だな。制限があるのかは分からないが、上限が無いのだとしたら、アイツのもち札はとんでもないことになっていそうだ。それに体にも目立った外傷がない。身体を治癒する能力もあるのだろう。



条件が詳しく分からないし、能力も確定したわけじゃない。変に手を出して、相手の土俵に上がったら終わりだな。純粋な攻撃も控えておくか。



いや、一撃で終わらせるのもありか。攻撃を受けてコピーまでが条件だとしたら、一撃で終わらせればコピーなんてできないはずだ。



「その時間も終わりだぜ?」~緋の鳥~

緋を一点に集め、爆発させる。影で出来た人形は砕け、地面は抉れた。爆発した後には鳥の翼の様な跡が残っていた。これを耐えれたらマジでやるか。



砂塵が降り注いで視界が悪い。この技閉所で使うのは良くないんだよな。俺もダメージ喰らうしな。死にはしないから鬱陶しいだけだ。



「けほっ!けほ,,,今のは,,,効くね,,,」ふらふらになりながら立っている人影が見えた。これを耐えるのか。流石は世界に名を連ねる極悪集団の一人だな。



「これも耐えるか。これはどうだ?」~緋人~

周囲に散らばっていた力を具現化し、人の形に変えていく。細かい操作は出来ないが強いのは間違いない。作れば作る程戦闘力は下がってしまうが、爆発の威力は低下しない。何体も錬成して特攻させるのが最大火力だ。



「壊せ」緋人に命令をして、ドッペルに向かって突撃させる。その数は数十体程度。まともに近づけないかもしれないが、緋が広がればそれでいい。俺にとって有利な状況が出来上がるだけだ。



ドォン!バァン!爆音と凄まじい熱気、そして赤色の光が地下空間を包み込む。俺をここまで楽しませてくれるなんてな。他の団員と戦うのが楽しみになってきた。



「何勝った気になってんの?まだ勝負は始まったばっかだよ」目の前には球体のバリアの中にドッペルが入っていた。それも傷が完全に癒えた状態で。



「そうだよなぁ!俺もやっと温まってきたところだからよぉ!」緋が俺の感情にシンクロして爆発をしていく。俺の空間まであと一歩。それまで耐えててくれよな。
しおりを挟む

処理中です...