ブレイクソード

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七十六話 VS嵐斧

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二つ名を討伐する計画からずれてる気がするな。こんなにイレギュラーが重なってくるとは思っていなかった。でかい肉も食えなかったし散々だな。



今は嵐斧がいるところに向かって蒼を使って走っている途中だ。調停者から逃げる方向と同じだったのは奇跡に近いだろうな。



しかしアクセルがあそこまで力を付けているとは想像していなかったな。俺も遅れを取らないように鍛錬に励まないとな。ていうかあれはアクセル,,,じゃないよな。見た目はそっくりだが、別の軸から来ているような感じがする。



俺が攻撃をした瞬間に見えたアクセルの顔は絶望した人間の様な顔をしていた。頬はやつれて、目には光が無くて、心の底から人を拒んでいるように見えた。



少なくとも俺の知っているアクセルはあんな顔をするような人間じゃなかった。希望に満ち溢れて,,,とまではいかないが、現状に満足している顔をしていた。



俺が出会ったアクセルに何があったのかは知らないが、いつも通りに話して、笑って、冗談を言い合おうと考えている。



「目標発見」いろんなことを考えている間に嵐斧が数百メートル先に居るのが確認できた。依頼内容とは風貌がかなり違うな。生存者が極端に少ないから無理もないか。



体長は三メートル程で両手にはバトルアックスを握りしめている。そしてミノタウロスにあるはずの角が無い。恐らくは戦いの中で削り取られたのだろう。後は背中に金色の斧を担いでいる,,,?



「目が痛くなってきたな。ここからは戦いながら確認するか」望遠のスキルは便利なんだが、目がありえないくらいに疲労する。あんまり情報が無いが、何とかなるだろう。



「先手必勝、だな」蒼を纏って全力疾走する。魔法空間から使い捨ての大剣を取り出して大きく振りかぶり、頭をたたき割りに行く。



「もおおぉぉ!!!!」あと数メートルのところで嵐斧は俺に反応して、斧で反撃をしてきた。



マジか。音速に近いとは思っていたんだが,,,ってこいつ攻撃に風魔法が付与されている!情報適当すぎるだろ。もっと精査してから依頼を貼ってくれ。



離脱しようとした俺は魔法に足を取られて転んでしまった。嵐斧はこの瞬間を逃すまいと担いでいた金の斧を素早く取り出し振り下ろした。



「テレポート!!」攻撃が当たる寸前のところで魔法による瞬間移動をして回避した。精度は終わっているから地面に半分埋まっている。早くブランに教わらないとな。ていうか俺は魔法の才能が無いのかも,,,それだけは勘弁してほしい。



「ぶるるぅぅうぅ!!!」嵐斧は地面に叩きつけた斧を巻き上げるように振り上げ、竜巻を起こした。もちろん地面に埋まっている俺は回避することができない。



「ぐああぁぁ!!」視界の端で俺の左腕が空中を舞っているのは見える。竜巻単体とはいえ、このダメージはやばいな。早めにケリをつけておかないとやばい。



「ふぅぅぅ!!!」何て考えているうちに追撃が飛んでくる。上下左右。嵐と呼ぶにふさわしい連続攻撃に俺はただ耐えることしかできない。愛剣があればもうちっと対抗できるかもしれないが、今は使い捨ての大剣しか持ち合わせていない。今は好機を探し出すのに精いっぱいだ。



キィン!カァン!ガギィン!激しく金属が衝突する音で森中がざわめく。向こうは攻撃し放題に対して俺は防戦一方。地面に突き刺さった大剣は幾数本。全ては風によって巻き取られたものだ。



時間が経つにつれて戦況は向こうに有利な状態を作り上げる。足場は俺の靴には不向きな凹凸の激しい地面に。ミノタウロスの様な蹄の持ち主には力が入りやすい。



また、嵐が通った様な後には金の斧が反応して火力が上がっている。恐らくは魔斧で風魔法で鋭さや肉体にバフがかかるのだろう。魔剣じゃないだけましか。剣だったら戦闘スタイルが急変して対応しずらくなる。ここだけは救いだ。



それにしても牛の怪物に苦戦するなんてどこかの物語みたいだな。っていかんいかんこんなことを考えている余裕なんて俺には無いんだ。目の前のことに集中して死なないようにしていかなければ。



なんでこんな英雄みたいなことしてるんだろうな。自分で英雄って言うのは違うか。皆が認めてくれてのものだろう。俺にはそんな資格もないしあったとしても捨てている。だって俺にそんなものいらない。



俺が必要としているのはブランとアクセルといられる力。それだけでいい。そのほかなんておまけに過ぎない。この戦いも俺が強くなる過程に過ぎない。でも俺は全てに感謝している。強くなれたのはこのおまけのおかげなのだから。



「俺もマジで戦るぜ!!」蒼を纏って自身が出せる百パーセントの力を出して対峙する。俺が求めているのは生半可な戦いじゃない。研鑽できる戦いで、成長できる戦いってことだ。



そのためには強い相手、そして全霊をもって戦う己の強い意志が無いといけない。今までの俺にはそれが足りなかった。でもそれに今気が付いた。誰も俺を止められない。



「もおおぉぉぉぉぉ!!!!」向こうも本気で闘ってくれるみたいだ。感謝するぜ。



剣戟が森に響く。次第に大きくなっていく威力。そして闘志は世界を焼く松明のように燃え上がっていた。まるであの日戦った龍をなぞるように。



渦巻く風に対抗するように蒼が地面から舞い上がる。俺の意思とは関係なくただただ自由を求め、天に向かって奔っていた。



「うおおぉぉ!!!」大剣を振りかぶり、相手のカウンターを待つ。今までの俺の戦い方じゃ絶対に負ける。学習して強くなる。それが生き物の本能だ。



そうやって学習して進化し続けた果てが人間。学習を全て強さに捧げ続けた果てがモンスターだと俺は考えている。



「ぶるうぅぅ!!」やはりカウンターをしてきた。横一文字に振るわれた斧を躱し、片手で魔法を撃つ。詠唱は上手く出来ないが、時間稼ぎには丁度いいだろう。



「ブラスト!!」風の魔法に対して風の魔法を撃つ。魔力が強い方が勝つと思っていたら大間違いだ。魔力にも流れがある。そこを突けば威力は何倍にも跳ね上がるし、相手の魔法を崩すことができる。



「ふうぅぅ!???」俺の魔力の流れに乗せられた牛の怪物は握りしめていたはずの金の斧を落とし驚愕していた。今までからめ手に対して暴力が勝ってきたからだろう。こんな事なんて想像なんて出来はしないだろう。



「お前の斧は俺が活用してやる!!」地面に刺さった斧に向かって走り引き抜く。思っていたよりも軽いな。バトルアックスよりも威力があるとは思っていたんだが,,,魔力のおかげか。



「エンチャント・ブラスト!!」持っている斧に風魔法のバフをかける。俺の予想が正しければこれで威力が増大するだろう。



キィン!斧が神々しい光と共に、何かと共鳴したような音を出した。成功したみたいだな。これだから未知との戦いはやめられない。



「これで終わりだ!!」金の斧に蒼を纏わせて大地を抉るように下段から大きく振り上げる。



「ぶおおおぉぉ!!!!」対抗するように上段から二つのバトルアックスが空気を切り裂きながら振り下ろされる。



砕けていく地面。抉れていく木々。震える大気。虚空に放たれる獣の一吼え。俺は嵐斧との戦いに勝利した。あっけなかったな。



というか勝手に強くなってくれた蒼のおかげなんだが,,,困るよそういうの。主人の分からないところで強くなっちゃうの。



まぁ、結果オーライだな。蒼が強くなってくれなかったら俺は苦戦してただろうし。秘策はあったからここで見せられないのは残念だな。取りあえず使えそうな素材を持って行くか。後は二つ名と証明できるもの,,,この金の斧とバトルアックスくらいかな。



角は生えていなかったし、体毛で我慢するか。最悪ギルドの戦闘体験装置で確認して貰えばいいか。



戦闘の後始末を終えた俺はラック・ロック・ブレイン向かって走った。時間にして一時間くらい。早く動けるってのは最高だな。
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