ブレイクソード

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第二十三話 VS山龍 2

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山龍の体内に入ってから何日が経ったのだろうか。

日にちがいつ変わったのかが分からない。

しっかりと寝たのは四回くらいだ。

ここから考えると、優に一週間は超えているだろう。

飯はとっくに尽きている。なら、どうして活動できているかって?

簡単なことだ。肉壁を削って食料にしている。初めは抵抗があった。

だけど今は、生きるためと割り切って食べている。

味は酷いものだ。硬くて臭い、寄生虫?のようなものもうじゃうじゃ出てくる。

最悪だ。でも、嬉しいこともあった。虫に驚いているブランが見れたことだ。

今はもう見れなくなったが、「キャ!」と飛んで、俺の後ろに隠れるブランには、

萌えるものがある。アクセルも「ぶひぃ!」と言って倒れていた。

こんなかわいいのが見れるのはここに居る俺たちの特権だな。

話が逸れそうだから戻そうか。探索を続けてはいるが次の心臓が見つからない。

道なりとは、いくつも分かれ道があったからな。ちょっと不安になる。

「本当にあっているのか?」探索を始めて、初めてアクセルに聞く。

「あっていますよ。鼓動も大きくなってきていますし」

爽やかな笑顔で答えてくれた。

そんな顔を見たら、頷くしかないだろぉ!?

「ていうか、音が大きくなっているなんてよく分かるな。俺なんて同じにしか聞こえないぞ。これがアハ体験ってやつか?」

「違うわよ」

ブランから鋭い突っ込みが入った。ま、慣れたもんだから?い、痛くないし?

「盗賊ですから。むしろ分からなかったら失格ですよ」

結構厳しい世界なんだな。

本当にいい仲間を持ったよ。

「ところで、二つ名狩りをしているそうですが、進捗のほうはどうですか?」

「残念ながらゼロ。俺たちが倒した深淵樹も。俺が倒した黒月も駄目だった。

文句をつけられてな」

首を振りながら教える。

「そうですか,,,なんか悔しいですね」

顔を伏せて、拳を強く握っていた。

そうだよな、あんな死闘を繰り広げたってのに、認めてもらえないのは嫌だよな。

「でも今回山龍を倒せば認めてくれるさ。長い間猛者の座に座っているみたいだし、この巨体だぜ?認めざるを得ないだろ」

肩を叩いて、フォローに回る。ブランも、

「そうよ、私たちの旅は始まったばかりなんだから!」

と励ましている。

「ありがとうございます。僕なんかにこんな言葉をかけてくれて,,,」

嫌な言葉が聞こえた。僕なんて、私なんてという言葉が俺は大嫌いなんだ。

自分を下げるなんて意味が分からない。そいつにしかできないことがあるのに。

アクセルは気づいていない。この機会に教えるか。

こいつがどれだけ凄いやつなのかを。

「僕なんかなんて言葉は使うな。お前がいなかったら死んでいた場面が何回もあった。それに、今もお前の探索を頼りに動いている。お前の変わりはいないんだ。理解してくれ。それに仲間だろ?支えあうのは当然だろ?」

肩を掴み、黒い眼をまっすぐに見て、俺の考えを伝える。

伝わらなくても言っておきたかった。日にちはまだ浅いがもう立派な仲間だから。

「ブレイク、強く掴みすぎよ。アクセルが泣いているじゃない」

ブランが俺の手をアクセルから離す。

「あ,,,悪い」そっと、肩から手を避ける。

アクセルの肩には俺の手形がくっきりと残っていた。

「いえ、大丈夫です。それよりもさっきの言葉、しっかりとここに刻んでおきます」

胸を拳で叩きながら笑っていた。

その笑いには、悲しみが混ざっていたように見えた。

「なんかいい感じにまとまったわね。先を急ぎましょ。ここに居るのもなんだか疲れてきちゃった」笑いながら、彼女が急かす。こんな風に補っていけばいいんだ。まだまだ先は長いからな。

「そういえば、黒月を倒したのってブレイクさんなんですね」

歩き始めてすぐに、アクセルが話しかけてきた。

「一応な。さっきも言ったが、認められなかったが」苦笑しながら言うと、

「凄いですね。あそこの近くで話題になっていましたから。黒月が何者かに討伐されたって。戦利品とかってあるんですか?」

なんか、グイグイ来るようになったな。壁を感じるよりはいいか。

「ほら、黒月の頭と体毛」

魔法空間から、頭と毛を出して渡す。

「おぉ、これが数多の人間を殺してきたモンスターですか。死んでいても迫力がありますね」まじまじと頭を見たり、毛を触ったりしている。

深淵樹のときよりも食いつきがいいな。

やっぱり男は、こういうTHE怪物ってものが好きなんだろうな。

キラキラと顔を輝かせているアクセルを見ているとそう思う。

「はぁ、男ってそういうことになると、行動が早いんだから」

呆れたようにブランがこっちを見ている。

「なんだブランも見たいのか?アクセル、ブランにも見せてやってくれ!」

「いいわよ!そんなもの見たくないわ!」

速足で俺らから遠ざかった。そんなに拒絶しなくてもいいじゃないか。

「ブレイクさん。ブランさんはこのモンスターの良さを分かっていませんね」

挑発をするように、大きな声で俺に行ってきた。

ここはひとつ、芝居を打つか。

「本当だな。天下の魔法使い様は、モンスターの良し悪しくらいは分かるものじゃないのかなー?」

笑いをこらえながら、会話を始める。

「そうですよね!狼系の変異種で、さらに進化を重ねているのに。この素晴らしさを分かるのは、魔法使いではなく、僕たちのような人達なんでしょうか」

アクセルはこっちの意図に気づいてるのだろうか。どっちでもいいか。ブランが食いついてくれたし。

「はあぁ!?私だってそのくらい分かるわよ!馬鹿にしないでくれる?」

やばい。ブランの顔に今までにないくらいの怒りの感情がこもっている。

この辺で引き上げないと。

「じゃあどの辺がどう凄いんですか?」

馬鹿野郎!なんで気づいてないんだよ!こいつ本当に目ついてるのか!?

ブランの顔を見ろよ、阿修羅みたいになっているぞ。

「あんたは言わないと分からないの?」こめかみに青筋が浮き出ている。

まじで引いてくれ。死人が出るから。

「ブランさんが分からなそうだから聞いたんですけど?」

まーじで命知らず。俺が止めないとだめか。

「その辺にしてくれよ。心臓も近くにあるだろうしさ、見逃したりしたら大変じゃないか」

言い合いに割り込んで、探索を真面目にやるように提案をする。

「そうですね、この素晴らしい語り合いは別の機会にしましょうか」

「そうね、アクセルが供用を身に着けるまで待ってあげるわ」

なんで最後までいがみ合ってるんだよ。

落ち着いたからいいか。ていうか、原因て俺じゃね?

黒月の頭とか出したの俺だし。

気づかなくてもいいことに気づいたのかもしれない。

ま、黙っておけばいいか。

そうして俺たちはまた、探索に戻った。

そこから、三日くらいだろうか。

やっと、二つ目の心臓を見つけることが出来た。

「やっとあったな」

「長かったですね」

「これで終わりね」

どくどくと脈を打つ大きな心臓を目の前に、思い思いの言葉を言う。

「ブランは破壊に撤退してくれ。アクセルはブランの護衛とできれば攻撃を、それ以外は俺が担当する。

目の前に現れた抗体を前に指示を出す。

前回とは見た目が違うな。今回は蜘蛛のような見た目をしている。

気色悪いからさっさと倒してしまおう。

「戦闘開始!」

俺は言葉と共に前へと駆ける。

俺の目的は、ブランにヘイトが向かないようにすること。

ひたすらに攻撃をして、気を引き付ける。

向こうはこちらの意図に気づいている。

俺のことを無視して、ブランのほうに跳躍をした。

「アクセル!」二人の方向に行ったことを伝えようとする。

熟練の二人はこのことを見越して、回避行動に移っていた。

「すまん!スキルを使う!少しだけ待ってくれ!」

「分かりました!」アクセルがヘイトを買うように攻撃を始めてくれた。

俺のスキルは溜めが必要なんだ。この戦いは短期で終わらせたい。

だから、この一撃に賭ける。

「避けろおおぉぉぉ!!」

巻き込まないように大声で叫ぶ。

「自由の咆哮!!」

大剣を下から上へと振り上げる。

同時に、青色の斬撃が周りを巻き込みながら、驀進していく。

「ギギギイイィ!,,,」抗体に完全に当たった。

それどころか、心臓まで飲み込んで進んでいく。最終的には俺の直線上には、

何も残っていなかった。流石主人公補正。ところで二人は,,,無事なようだ。

「呆気なかったわね,,,」

彼女の一言で、戦いは幕を下ろした。
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