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三
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町外れの広場にひっそりとそれは建っていた。薄茶色の布で作られた簡易的なテントが旅商人のテントを思わせる。スタスタと二人が入っていくのを見ると、ここが目的地なのかとコカロは思った。
「いらっしゃいませ、双子さん」
三人が入っていくとポーンとチャイムのような音がして、商品棚の裏からひょこっと少女が顔を出した。
「スーさん、俺たち旅に出ることになったんだ!」
ルラキが少女に駆け寄る。抱えていた魔法書と思われるものたちを台に置き、こちらを見た。
「弟さん、あちらは?」
少女の近くで魔法具を物色していたレウンに話しかけ、コカロを指した。
「紹介がまだでしたね、あの子はコカロです」
レウンが丁寧に返す。
「コカロです、よろしくお願いします」
反射的にコカロが挨拶をすると、少女はニコッと笑って返してくれた。
「私はストルートル。長いから双子にはスーって呼ばれてるよ」
ストルートルが何か気がついたように奥へと入っていく。しばらくして戻ってくるとその手には魔法具が握られていた。
「君はいい運命をしているね、私からの応援代わりだ」
カチャッと音を立ててコカロの手のひらに魔法具が落とされる。それは翼を模したブローチだった。
「ありがとうございます、大切にしますね」
コカロは早速服の襟にブローチをつける。テントの中の照明に反射してキラッと光る。
「双子にも色違いのやつをあげてるんだ。君は白、双子は黒だよ」
しばらく二人で話していると、ルラキが会話に入ってきた。
「スーさん、あっちの魔法具見てきていい?」
ルラキが店の隅を指差すと、ストルートルがうなずく。ここから見える範囲では水晶玉や何かの液体の入った瓶、魔法をかけられた武器や服などがある。
「奥には入らないでくださいね」
それだけ言うとストルートルはコカロの方に向き直る。
「今言った通りだけど、奥に入らなければ好きなところ見て回って。私は他の作業があるから、じゃあね」
ストルートルが奥に消えていく。コカロは周りを見ると、気になるところから行こうと歩き出した。
▲▽
テントを出ると、もう日が傾き始めていた。ストルートルのテントが建てられている広場にあるベンチに座ると、それぞれ買ったものを確認した。
「俺はねー」
ルラキが荷物袋の中をごそごそと漁る。取り出したのは武器や服、旅に役立つ魔法具などだった。コカロとレウンも自分の持ち物を出す。
コカロの持ち物は鉄で出来た魔法剣に赤い液体の入った回復ポーション、旅の途中に読める魔法書などだ。
ルラキは木で出来た短い魔法杖に水色の液体の入った身体能力強化のポーション、何をするのか、紙と筆記用具を買ってきた。
レウンは魔法がかかった弓矢と魔法具作成のキット、コカロと同じく暇潰しの魔法書などを持っている。
三人が荷物を仕舞い終えた頃、テントからストルートルが出てきた。
「お三方、旅の仕度はできましたか?」
ストルートルが首を傾げて問う。揺れる赤髪が太陽に照らされて光った。
「はい、今日中には発つつもりです」
コカロが振り向いて答える。
「そう、じゃあこの本を持っていって」
ストルートルはコカロに一冊の古い本を渡す。表紙の文字は剥げていて読めないが、所々の金刺繍から元は綺麗だっただろうと予測する。
「あれ、それスーさんが一番大事にしてたやつじゃん。タダで貰って良いの?」
ルラキが横から口を出す。それもそのはず。ルラキやレウンがいくら欲しい、見せてと言っても触らせてさえ貰えなかった物をコカロに手渡しているのだ。
「ええ、この本の役目を果たさせてあげてください」
ストルートルは本を持ったコカロの手をしっかりと両手で握り、真剣な顔でそう言った。
「――わかりました。スーさんの思い受け取ります」
コカロも真剣な顔で返し、顔を見合わせて二人で笑いあった。
「それでは、行ってらっしゃい。コカロさん」
ストルートルがテントの前で手を振る。その表情は少し寂しそうだが笑顔だった。行ってらっしゃい、にはまた戻ってきて欲しいという願いも込められていた。
「はい、行ってきます!」
コカロが満面の笑みで返事をする。
「スーさんも体には気を付けてねー」
ルラキが両手を振って叫ぶ。ストルートルから、ルラキさんこそ!という声が返ってきた。
「また用があれば戻ってきます」
レウンがぺこりと頭を下げる。そんな下手じゃ駄目ですよ、とストルートルが頬笑む。
夕日に照らされてオレンジ色に染まった顔を見合わせて四人は笑い、一人はテントに戻り、後の三人は次の町へと向かって歩いて行くのだった。
「いらっしゃいませ、双子さん」
三人が入っていくとポーンとチャイムのような音がして、商品棚の裏からひょこっと少女が顔を出した。
「スーさん、俺たち旅に出ることになったんだ!」
ルラキが少女に駆け寄る。抱えていた魔法書と思われるものたちを台に置き、こちらを見た。
「弟さん、あちらは?」
少女の近くで魔法具を物色していたレウンに話しかけ、コカロを指した。
「紹介がまだでしたね、あの子はコカロです」
レウンが丁寧に返す。
「コカロです、よろしくお願いします」
反射的にコカロが挨拶をすると、少女はニコッと笑って返してくれた。
「私はストルートル。長いから双子にはスーって呼ばれてるよ」
ストルートルが何か気がついたように奥へと入っていく。しばらくして戻ってくるとその手には魔法具が握られていた。
「君はいい運命をしているね、私からの応援代わりだ」
カチャッと音を立ててコカロの手のひらに魔法具が落とされる。それは翼を模したブローチだった。
「ありがとうございます、大切にしますね」
コカロは早速服の襟にブローチをつける。テントの中の照明に反射してキラッと光る。
「双子にも色違いのやつをあげてるんだ。君は白、双子は黒だよ」
しばらく二人で話していると、ルラキが会話に入ってきた。
「スーさん、あっちの魔法具見てきていい?」
ルラキが店の隅を指差すと、ストルートルがうなずく。ここから見える範囲では水晶玉や何かの液体の入った瓶、魔法をかけられた武器や服などがある。
「奥には入らないでくださいね」
それだけ言うとストルートルはコカロの方に向き直る。
「今言った通りだけど、奥に入らなければ好きなところ見て回って。私は他の作業があるから、じゃあね」
ストルートルが奥に消えていく。コカロは周りを見ると、気になるところから行こうと歩き出した。
▲▽
テントを出ると、もう日が傾き始めていた。ストルートルのテントが建てられている広場にあるベンチに座ると、それぞれ買ったものを確認した。
「俺はねー」
ルラキが荷物袋の中をごそごそと漁る。取り出したのは武器や服、旅に役立つ魔法具などだった。コカロとレウンも自分の持ち物を出す。
コカロの持ち物は鉄で出来た魔法剣に赤い液体の入った回復ポーション、旅の途中に読める魔法書などだ。
ルラキは木で出来た短い魔法杖に水色の液体の入った身体能力強化のポーション、何をするのか、紙と筆記用具を買ってきた。
レウンは魔法がかかった弓矢と魔法具作成のキット、コカロと同じく暇潰しの魔法書などを持っている。
三人が荷物を仕舞い終えた頃、テントからストルートルが出てきた。
「お三方、旅の仕度はできましたか?」
ストルートルが首を傾げて問う。揺れる赤髪が太陽に照らされて光った。
「はい、今日中には発つつもりです」
コカロが振り向いて答える。
「そう、じゃあこの本を持っていって」
ストルートルはコカロに一冊の古い本を渡す。表紙の文字は剥げていて読めないが、所々の金刺繍から元は綺麗だっただろうと予測する。
「あれ、それスーさんが一番大事にしてたやつじゃん。タダで貰って良いの?」
ルラキが横から口を出す。それもそのはず。ルラキやレウンがいくら欲しい、見せてと言っても触らせてさえ貰えなかった物をコカロに手渡しているのだ。
「ええ、この本の役目を果たさせてあげてください」
ストルートルは本を持ったコカロの手をしっかりと両手で握り、真剣な顔でそう言った。
「――わかりました。スーさんの思い受け取ります」
コカロも真剣な顔で返し、顔を見合わせて二人で笑いあった。
「それでは、行ってらっしゃい。コカロさん」
ストルートルがテントの前で手を振る。その表情は少し寂しそうだが笑顔だった。行ってらっしゃい、にはまた戻ってきて欲しいという願いも込められていた。
「はい、行ってきます!」
コカロが満面の笑みで返事をする。
「スーさんも体には気を付けてねー」
ルラキが両手を振って叫ぶ。ストルートルから、ルラキさんこそ!という声が返ってきた。
「また用があれば戻ってきます」
レウンがぺこりと頭を下げる。そんな下手じゃ駄目ですよ、とストルートルが頬笑む。
夕日に照らされてオレンジ色に染まった顔を見合わせて四人は笑い、一人はテントに戻り、後の三人は次の町へと向かって歩いて行くのだった。
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