魅了転生 純正聖女と堕落の魔物

過去編

過去編第１話 ムジナと最後の一日前編

「うぅん……」

窓から差し込む朝の陽ざしを感じとり僕はあの悪夢から目を覚ました。

「また見たのか……はぁ……気持ち悪い……」

（いつもこうだ……夢の内容は殆ど思い出せないけど……）

身体を起こそうにも頻繁に見る様になってしまった悪夢の切れ端が脳裏にべたつき僕の動作を鈍らせた。
フラフラと危うい足取りで洗面所へ行き、顔を洗うと自信を失った垂れ眼を隠す為に伸ばした髪を整えた。

「早く……準備しないと……」

細身の体に務め先の作業着を通し軽い朝食をすませると、僕は単身用の小さな平屋を出た。

「おはようムジナ！」

扉を開けた処で隣から爽やかな声で女性が挨拶してきた。
整った顔付に自信に満ち溢れた爽やかな笑顔で、赤の強い桃色の艶やかなツインテールを靡かせていた。
学園の制服に包まれた豊満な胸にキュッと引き締まった腰、すらっと伸びる健康的な足。
その様な正に美女と呼べる彼女は同郷の出で幼なじみの『クリス』であった。

「おはようクリス……その恰好これから学園かい？」
「えぇ、今日はお世話になった先生達に挨拶」
「その後は友達と遊んで～」
「次の日は夢の『聖女宮』へお引っ越し！」

クリスは弾ける様な笑顔を僕に見せる。
彼女は魔法の才能を見出され上京し都内にある魔法学園『ルシフ上級魔法学園』へ進学し主席の成績を収めていた。
そして先日『聖女候補選抜試験』を突破し聖女宮へ内参りが決まっていた。

「…………」
「あれ？何寂しいの？」
「そう……だね……そうなのかな？」
「……どうしたのムジナ？なんだか調子悪そう？」

グッと近づく彼女から甘い香りが立ち上り鼻をくすぐる。

「う、うん大丈夫……仕事の疲れが残ってるのかな」
「そう……余り無理しちゃだめよ沢山食べてしっかり寝なさい」
「……ありがとうクリス」
「それで良し……あ！まずい！じゃあねムジナまた後で！」

時計を見たクリスは慌ててタッタッタッとツインテールをなびかせながら学園へと駆け出した。

（クリス……君は本当にすごいよ僕と違って……）

靄が掛かった心情で彼女を見送ると僕は自身の職場へ向かった。


「ムジナ！積み荷の作業は終わってるか？」
「はい！」

職場の所長の大声に僕は精いっぱいの返事を返す。

「良し！安全運転で行ってらっしゃい！」
「はい行ってきます！」

物資を積んだ馬車を走らせ僕は集積所を後にする。
集積所に集められた物資をルシフ内の商業施設へ配達する。
それが僕の今の仕事だ。


「はぁ……はぁ……」

集積所と首都の商業施設を何度も往復し、業務終了を告げる日没の頃には汗だくのヘトヘトになった。

「お疲れ様でした……うぅ、疲れた」

ふらつく足取りで自宅へ帰ると僕は冷水で体を清め部屋着のままドサっとベットに倒れ込んだ。

「あぁ、だめだ……夕飯の準備はもう少し休んでからにしよう」
「…………」

カラン！カラン！

「…………」

カラン！カラン！

「……誰だ？」

どっこいしょと体を起こし僕は呼び鈴が鳴る玄関を開いた。