カウルさん異世界に呼ばれる

つくもイサム

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第四章

三十話 『狂喜の破壊神』

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 私はカウルさんとのリンクを頼りに無音の聖殿を駆け抜け、忌まわしき記憶の現場となった礼拝堂に辿り着いた。
全身が燃えてる。息が切れ額の汗が顔を下り顎から床に落ちる。
精神を整えようにも先の一戦で二人を救えるのではという期待と、もう手遅れかもしれないという不安が、私の心をどうしようもなく暴れさせる。
それでも私は背筋を伸ばし、礼拝堂の最奥を見上げた。

「……セイラ?」

数段上がった台の聖女の座に、声の主が肘をつきもたれかかってた。
首に漆黒のネックレスを掛け、邪悪な笑みを零す。護るべき者。

「何しに来た無能な騎士よ」

カウルさんの姿があった。

 「きぃ……貴様あああぁぁぁ!!!」

またも主君を奪われた事実に、腹の底から怒りが噴火した。

「はは、負け犬の遠吠えか。安心しろ、ほれ愛しの王女はそこだ」

奴が示す先、台へ続く中央通路の真下に、リフル様が力無くが横たわっていた。

「リフル様!」

体が反射的に動き、私は直ぐにリフル様の元へ近寄った。
息は……してる。

 「あぁ……リフル様……私、うぅ……」

主君の顔を見ると目からボタボタと涙が零れ落ちた。

 「用済みの体だ。衰弱しているがまだ生きているぞ。良かったな願いが叶って」

奴はカウルさんの浮かれ声でペラペラと語り始めた。

「そやつに感謝してるぞ。朽ちた我を魔物だと言い、石を投げられた事は幾度とあった」
「だが手を差し伸べ抱きしめれた事は初めてだった」
「誇れ無能よ。そやつは慎の聖女だったぞ」
「……あぁ、それにしても軋まぬ、崩れぬぞ!」
「これが神の肉体!本当に素晴らしい!」
「お前達にはわかるまいただ此処に存在出来る喜びを……」

奴はカウルさんから奪った体に無我夢中なのか、足元の私達から既に興味を失ってた。

 「くぅ、うぅ……」
「……めそめそと鬱陶しい」
「私の気分が変わらぬ前にこの場から去れ」

私は震える体に力を入れ立ち上がると奴を見据えた。

 「……カウルさんを……返せ」
「……はぁ?」

私の正気を疑ったのか、奴の素っ頓狂な声が部屋に響く。

「お前は何を言ってる?我らの願いは成就されたのだ」
「お前の願いは王女の救出した」
「我は望む体を手に入れた」
「これで話は終わりだ」
 「違う!!!」

爪が肉に食い込み鮮やかな血が滲む手で、私は全てを解き放つように狂剣を引き抜いた。

「私はセイラ・パシヴァル!歩みの聖王女リフル・モデラ!」
「そして!神聖カウルを守護する護衛騎士!」
「返してもらうぞ私の主君を!」
 「ふ……ふざけるなああぁぁ!」

目を見開き台座から立ち上がった奴は、憤怒で練り上げた魔力を爆発させた。

「こ、これ程の……阿呆だとは、ならば王女もろともこの世から消し去ってくれるわぁ!!!」

魔力が凝縮された手を天に掲げ、此方に向け振り下ろす。
ズン!と空気が弾け、強烈な破壊の力を乗せた衝撃波が押し寄せた。

「…………」

私はセイラ様の前に立ち剣を構えた。

「馬鹿め直撃だ!」

絶対絶命の衝撃が刻一刻と迫る。
カウルさんを救う。
想いを吐き出した私の確固たる鋼の決意は集中の限界点を超え、感知のスキルが先の未来を予言した。

「はあぁぁ!!!」

後半歩、死の衝撃が到達しようとした刹那。
渾身の力を込め振り抜いた刃が、眼前の破壊の衝撃波を斬!!!と真っ二つに切り払った。
分かれた余波は左右に飛び建物を破壊する。
 
 「そんな!我の力が!?」

予想外の出来事に奴は驚きの声を上げた。

「この!壊れろ!壊れろ!」

奴は慌てふためきながら、次々と衝撃波を放つ。
だが襲い掛かるそれらを、私は狂剣の斬撃で全て払いのけた。

「なぁ、何だそれ!?我の力を受けて壊れないだと!?」

予想外の受け入れがたい現実を前に、奴は戸惑いの声を荒げる。

(奴の攻撃は同じ力を持つ剣でかき消せる。更に奴は戦闘の素人、ならば!――)
「これで討つ!」

私は勝機を胸に奴の元へ一気に走った。

「くぅ、来るな!」
「これで……終わりだ!!」

奴の前に立った私は、ネックレス目掛け渾身の斬撃を放った。

次回 『決着』
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