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第四章
二十六話 怒りの騎士
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「どうして私を呼ばなかった!この大馬鹿者!」
意識を取り戻し事の顛末を聞いた私は、へらへら顔のラミに迫り大声を上げた。
目の前にあるのは昨日と変わらない風景。
だが傍に彼女の存在を感じとれない今、まるで胸に大きな風穴を開けられたように私の心身を揺さぶった。
「あぁ、くそ!どうして奴がカウルさんを?……いや待て!」
(この違和感は何だ?それに何故奴は此処へたどり着けた?……)
私はそれに答えを与えようと、カウルさんが攫われた居間を入念に見回った。
(争った痕跡は見当たらない。カウルさんは抵抗も出来なかったのか)
(……いや違う、それはおかしい。彼女が出来なくても近くにラミが……)
その瞬間。脳裏に光が走った。
(根城を襲撃されたはずなのに、カウルさんが攫われたのにこの体たらくは何だ?……まさか!)
私の視線が引き寄せられるように、真相を知るであろう者に向かって行く。
「カウルさんが連れて行かれるの……わざと見逃したのか?」
ラミはやれやれと私の視線を受け流し物怖じせず言った。
「怒りたい気持ちはわかるけど、まずは落ち着きなさい」
「ラミ!どうなんだ!言え!」
「はぁ……完全に血が上っちゃって……」
「しょうがない子だな」
違和感から確信の糸が紡がれ私を答えに導く。
「あぁ、そうか……否定も言い訳も無しか」
そして私の理性の糸がブチ切れた。
「この、裏切り者が!」
机の上に置かれていた鞘を素早く取り、敵意を持って構えた。
「おっとセイラ君。それを抜いたら」
「終わりだよ」
ミラも構えると、場の空気が一気に凍り付いた。
「……冷静になりな。君は二つの勘違いしてる」
「何がだ!!」
「ます一つ。私達は対等な関係であって、君が私の行動に口出しする言われはない」
「だがお前だってカウルさんの事を……それなのに彼女を渡し、逃がすような事をして!」
言葉を吐きながら、私の脳裏に奴の本職がネクロマンサーであった事実が過った。それだけであらゆる悲劇が駆け巡る。
「そして二つ。これは正しい順番なんだ」
「順番だと!?」
「リディア君も私を頼り、君より先に対価のダンジョンを攻略したって事さ」
「なぁ!そ、そんな奴も!?」
そのような事考えもしなかった。ラミが淡々と口にする内容に私の根底が揺らぐ。
「……な、ならば奴はダンジョンを経て何を得た?」
「それは装着者の魂を心の奥底へ封印する異形のネックレスさ」
その発言に思い出したくもない記憶の底から、あの時のリフル様の姿が鮮明に映し出された。
「……あのネックレスでリフル様を……くぅ!」
その場に居ながら見抜けなかった己の不甲斐なさに、悲痛のマグマが濁流となって全身の血管を駆け巡る。
「だが何故カウルさんを攫った?彼女は関係ないだろ!」
「いやセイラ君にも関わる大事があるよ」
(私に関係ある事?これより先がまだあるのか)
「言えラミ!すべて話せ!」
額に冷や汗が流れるのを感じなら、私は枯れかかった声で叫んだ。
「結論を言うとね。セイラ君。」
「君はリディア君に利用されたのさ」
私が奴に……利用された!?
「リディア君の本願はまだ成就されてない」
「彼女は生きる為に手を出した禁止魔法の秘技、肉体に残された僅かな時間を捧げた」
「しかし願いに対する対価が足りず、求める物は手に入らなかった。彼女相当なショックを受けてたよ」
「でもリディア君は諦めず、本願を達成する為に作戦を立て狡猾に実行した」
「まずは命を繋ぐ時間稼ぎと後の布石を兼ねて聖王女を襲った」
「更に護るべき主君を失った可哀そうな騎士が縋りたくる情報を意図的に流した」
「肉体を奪われた哀れな聖王女を救いたいという願いを利用する為に」
「そしてリディア君の狙いは見事的中した」
「『神聖』を備える神の肉体をこの世界に召喚したのさ」
私の心界が陽炎に揺れ、守るべき者の姿が浮かぶ。
(時間稼ぎ!?それに私の願いを利用して……し、神聖?……か、神の肉体だと!?)
そして後光を背に笑顔で振り向くカウルさんの姿が映った。
「理解したかい?リディア君は己の願いを叶える為の部品を取りに来たのさ」
私は茹で上がる頭で次々と驚愕の内容を聞かされ、思わず膝を折りそうになった。
「彼女の世界では『付喪神』と言う名の神が言い伝えられてる」
「簡単に説明すると、長い年月をかけて神聖と魂を得た古道具の事ね」
「道具の神……カウルさんがそれだと言うのか!?」
「結論を言うとカウル君は付喪神と同等の能力を持つ存在だった」
「彼女は生産され、人間に使われてだしてからせいぜい十年」
「その程度の年月では魂、ましてや道具が神聖を得る事は出来ない」
「だけど外部から力を付加されていれば話は別」
「ただの乗り物であった彼女に与えらえたもの」
「それは『人の想い』」
「人の想いは時に天に通じ奇跡を起こす」
「持ち主の強すぎる想い入れが、ただの乗り物にカウル君と言う自我を芽生えさせた」
「物が自我、魂を得た事実」
「そして彼女が神である決定的な証拠はこれだ」
ラミが取り出したものは、見た事が無い白く美しい花だった。
「な、何だそれは?」
「神聖樹の花。君達が持ち帰った物だよ」
「これは神域指定地の天上……神の住まう慎の聖域に根ずく巨木の花さ」
「神聖樹?天上だと!?」
「神域指定地はあくまでも我等人間が決めた理。そんな話聞いたことない!」
「だろうね、慎の聖域は神聖と言うパスポートが無いと入れないし、存在を知る者もほんの一部だけだ」
「その上で君達が聖域に入れたという事実は、私達の世界でカウル君は神聖を持ってるという証明になる」
「カウルさんが……神」
もう訳が分からないとふらつく体を、私は机に手を置き何とか支えた。
まだ……膝をつくわけにはいかない。
私は知らなければならない。
リディアという者の真相を。
次回 『リディア』
意識を取り戻し事の顛末を聞いた私は、へらへら顔のラミに迫り大声を上げた。
目の前にあるのは昨日と変わらない風景。
だが傍に彼女の存在を感じとれない今、まるで胸に大きな風穴を開けられたように私の心身を揺さぶった。
「あぁ、くそ!どうして奴がカウルさんを?……いや待て!」
(この違和感は何だ?それに何故奴は此処へたどり着けた?……)
私はそれに答えを与えようと、カウルさんが攫われた居間を入念に見回った。
(争った痕跡は見当たらない。カウルさんは抵抗も出来なかったのか)
(……いや違う、それはおかしい。彼女が出来なくても近くにラミが……)
その瞬間。脳裏に光が走った。
(根城を襲撃されたはずなのに、カウルさんが攫われたのにこの体たらくは何だ?……まさか!)
私の視線が引き寄せられるように、真相を知るであろう者に向かって行く。
「カウルさんが連れて行かれるの……わざと見逃したのか?」
ラミはやれやれと私の視線を受け流し物怖じせず言った。
「怒りたい気持ちはわかるけど、まずは落ち着きなさい」
「ラミ!どうなんだ!言え!」
「はぁ……完全に血が上っちゃって……」
「しょうがない子だな」
違和感から確信の糸が紡がれ私を答えに導く。
「あぁ、そうか……否定も言い訳も無しか」
そして私の理性の糸がブチ切れた。
「この、裏切り者が!」
机の上に置かれていた鞘を素早く取り、敵意を持って構えた。
「おっとセイラ君。それを抜いたら」
「終わりだよ」
ミラも構えると、場の空気が一気に凍り付いた。
「……冷静になりな。君は二つの勘違いしてる」
「何がだ!!」
「ます一つ。私達は対等な関係であって、君が私の行動に口出しする言われはない」
「だがお前だってカウルさんの事を……それなのに彼女を渡し、逃がすような事をして!」
言葉を吐きながら、私の脳裏に奴の本職がネクロマンサーであった事実が過った。それだけであらゆる悲劇が駆け巡る。
「そして二つ。これは正しい順番なんだ」
「順番だと!?」
「リディア君も私を頼り、君より先に対価のダンジョンを攻略したって事さ」
「なぁ!そ、そんな奴も!?」
そのような事考えもしなかった。ラミが淡々と口にする内容に私の根底が揺らぐ。
「……な、ならば奴はダンジョンを経て何を得た?」
「それは装着者の魂を心の奥底へ封印する異形のネックレスさ」
その発言に思い出したくもない記憶の底から、あの時のリフル様の姿が鮮明に映し出された。
「……あのネックレスでリフル様を……くぅ!」
その場に居ながら見抜けなかった己の不甲斐なさに、悲痛のマグマが濁流となって全身の血管を駆け巡る。
「だが何故カウルさんを攫った?彼女は関係ないだろ!」
「いやセイラ君にも関わる大事があるよ」
(私に関係ある事?これより先がまだあるのか)
「言えラミ!すべて話せ!」
額に冷や汗が流れるのを感じなら、私は枯れかかった声で叫んだ。
「結論を言うとね。セイラ君。」
「君はリディア君に利用されたのさ」
私が奴に……利用された!?
「リディア君の本願はまだ成就されてない」
「彼女は生きる為に手を出した禁止魔法の秘技、肉体に残された僅かな時間を捧げた」
「しかし願いに対する対価が足りず、求める物は手に入らなかった。彼女相当なショックを受けてたよ」
「でもリディア君は諦めず、本願を達成する為に作戦を立て狡猾に実行した」
「まずは命を繋ぐ時間稼ぎと後の布石を兼ねて聖王女を襲った」
「更に護るべき主君を失った可哀そうな騎士が縋りたくる情報を意図的に流した」
「肉体を奪われた哀れな聖王女を救いたいという願いを利用する為に」
「そしてリディア君の狙いは見事的中した」
「『神聖』を備える神の肉体をこの世界に召喚したのさ」
私の心界が陽炎に揺れ、守るべき者の姿が浮かぶ。
(時間稼ぎ!?それに私の願いを利用して……し、神聖?……か、神の肉体だと!?)
そして後光を背に笑顔で振り向くカウルさんの姿が映った。
「理解したかい?リディア君は己の願いを叶える為の部品を取りに来たのさ」
私は茹で上がる頭で次々と驚愕の内容を聞かされ、思わず膝を折りそうになった。
「彼女の世界では『付喪神』と言う名の神が言い伝えられてる」
「簡単に説明すると、長い年月をかけて神聖と魂を得た古道具の事ね」
「道具の神……カウルさんがそれだと言うのか!?」
「結論を言うとカウル君は付喪神と同等の能力を持つ存在だった」
「彼女は生産され、人間に使われてだしてからせいぜい十年」
「その程度の年月では魂、ましてや道具が神聖を得る事は出来ない」
「だけど外部から力を付加されていれば話は別」
「ただの乗り物であった彼女に与えらえたもの」
「それは『人の想い』」
「人の想いは時に天に通じ奇跡を起こす」
「持ち主の強すぎる想い入れが、ただの乗り物にカウル君と言う自我を芽生えさせた」
「物が自我、魂を得た事実」
「そして彼女が神である決定的な証拠はこれだ」
ラミが取り出したものは、見た事が無い白く美しい花だった。
「な、何だそれは?」
「神聖樹の花。君達が持ち帰った物だよ」
「これは神域指定地の天上……神の住まう慎の聖域に根ずく巨木の花さ」
「神聖樹?天上だと!?」
「神域指定地はあくまでも我等人間が決めた理。そんな話聞いたことない!」
「だろうね、慎の聖域は神聖と言うパスポートが無いと入れないし、存在を知る者もほんの一部だけだ」
「その上で君達が聖域に入れたという事実は、私達の世界でカウル君は神聖を持ってるという証明になる」
「カウルさんが……神」
もう訳が分からないとふらつく体を、私は机に手を置き何とか支えた。
まだ……膝をつくわけにはいかない。
私は知らなければならない。
リディアという者の真相を。
次回 『リディア』
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