カウルさん異世界に呼ばれる

つくもイサム

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第三章

二十一話 新たな力

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 砂人形達の足元が瞬くと、強烈な爆風が巻き起こった。
ある者はその勢いに吹き飛び、またある者は尻もちを付きながら倒れ、辺りは騒然となった。
舞い上がった砂煙の爆心地に視線が集まる。
そして中から現れたのは、セイラを抱きかかえるカウルの姿だった。

 腕の中で気を失い浅い呼吸を繰り返すセイラは、埃と砂にまみれで体中から鮮血を滲ませていた。

「こんなにも傷ついて……セイラさんごめんなさい。僕がもっと早く自身を理解してれば……」

彼女の無残な姿を見た僕の瞳から、懺悔の涙が零れた。

「此処から逃げよう。今度は……僕が護るから」

 僕を支える足先は真紅のホイールタイヤに変形していた。

『部位変形』

それが新たに目覚めた僕のスキルだった。

 「はぁ、あぐぅ……カ、ウル……さ……ん」

彼女の手には狂剣の柄がしっかりと握られてました。

「……そうだよね。これは僕達の希望だから……」
(でも抜き身の剣のまま動くなんて危険すぎる……どうすれば)
『鞘には聖王女の加護付与されてる』
『それを飛躍させ邪気を払うタリスマンにすれば、道中の安全に役立つと思うよ』

ふと過る魔女からの助言。

「それなら……リフル様どうか奇跡を!――」

僕は祈り、柄を握り絞める手を上から取ると、タリスマンの鞘口へ刃を無理やり押し込んだ。
その瞬間。ガシン!と狂剣が白く輝いた。

「うぅ!この光は!?……あぁ!剣が……入った!」

驚く事に禍々しい刃が鞘にがっしりと収まり、柄を硬く握ってた手がぱさっと開きました。

 「これならいける!」

無謀と言える幸運に歓喜する僕でしたが、辺りからザァ、ザァと砂の擦れ音が耳に響く。

(周囲の砂人形達が態勢を立て直してる……でも)

依然置かれてる状況は深刻でしたが、僕の心は波一つない水面のように落ち着いてた。
迫りくる砂人形達の魔の手。
僕は砂人形達に背を向け、心のエンジンをフル回転させた。

 「行くぞ強硬突破だ!」

砂の手が僕に触れる刹那。
爆発的な初速で掻い潜りその場から飛び出した。
ザァ!と砂人形達はおののき、パチパチと赤い目を点滅させるが、僕を止めようと次々と襲い掛かって来た。

「絶対に捕まるものか!」

僕は小回りの利くタイヤで左右にステップを踏み、まるで踊るように寸前で魔の手を避け続ける。
そんな僕に業を煮やした砂人形達は、数珠つなぎの包囲網を組もうとした。

「お願い。もう追いかけて来ないで!」

僕はありったけの燃料を心に送り、体を疾風に変えた。
砂地に高回転の気持ち良い高音が響く、次に大量の砂埃が巻き上がり、茫然と此方を見つめる人形達を彼方へ置き去りにした。


 「安全を確保した後治療するから、もう少しだけ我慢して」

僕は気を失ってるセイラさんに声を掛けながら、砂地を走り抜ける。
走破音が辺りに響く中、遠くに廃墟群が見えた。

 「これで……一安心」

僕は上階がある廃墟に隠れ、セイラさんの治療を終えると、隣に腰かけふぅと一息ついた。

「前もそうだったけど僕達追い回されてばかりだ」
「でも目的のアイテムは見つけたし、後はラミさんの元へ帰るだけだ」

僕は胸に付いてるブローチを手にその時を待った。

 「……おかしい何も起きない」

ラミさんの話では既に条件は達成されてるはずだった。
しかし肝心の魔道具は反応せず、何時になっても転送魔法は発動しなかった。

(待って……逃走と治療の事だけ考えてたから気にしなかったけど……)
「もしかして壊れた!?」

僕は慌てながらブローチの状態を隈なく確認した。

(外観に大きな傷は無い。でも道具って突然故障するからな……)

僕はそれを一旦懐にしまうと、うぅ~んと首を傾げた。
そこで、ふと視線がある物へ吸い寄せらた。
セイラさんの脇に置いてある鞘に収まった禍々しい剣。
その柄頭の真紅の宝石がぎらりと鈍く輝いた。

「うわあぁ!?」

焦りや疲れから来る幻覚だったのか。
柄頭はぐにゃりと形を歪ませ、まるで赤色の瞳が此方を嘲笑うように見えた。
だが同時に最悪の予測が脳裏で閃き、ぞわっと全身に悪寒が駆け巡った。

「も、もしかして……この剣は違うから……条件を満たしてない!?」

額から冷汗が噴き出し、漏れる疑心と不安に思わず頭を抱えてしまった。
すると頬にちりっと砂がかすめた。

「……風が……流れてる……」
(さっきまで無風だったのに……)

朽ち果てた建築物の表面を風砂がザラ……ザラと擦る。
その不快な音色は襲い掛かってきた砂人形達を連想させる。

「……気味が悪い……駄目だ気持ちが落ち着かない」

僕は居ても立っても居られず外へ飛び出した。
キョロキョロと辺りを見回ったが砂人形の気配は無い。
しかし気がかりを拭えない僕は索敵範囲を広げるため見通しの良い上階へ行った。

そして僕の瞳に絶望が映った。

次回 【絶望からの逃走】
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