カウルさん異世界に呼ばれる

つくもイサム

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第三章

十八話 砂の異界

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 「……此処が神域指定地?」

転送された先。神の住まうとされる大地。
荒れる空気は砂埃にまみれ、一面の砂漠にレンガブロックで積み上げられた廃墟群が立ち並ぶ景色。

「なんて寂しい場所なの。此処に居るだけで気が滅入りそう……」

まるで世界の終わりを感じさせ、僕の心をざわつかせた。

「確かに、長居は無用だ。早く事をすまそう」

セイラさんも顔をしかめ、言い知れぬ何かを感じ取ってるようでした。

(セイラさんの言う通り。目的を達成して早く帰ろう)

 そう決心した僕は早速受け取った方位磁針を取り出した。
すると針が南東を示しながら輝き出した。

「セイラさん見て、反応があります。早く行きましょう」
「……!待ってカウルさん!」

歩き出そうとした僕の前にセイラさんがばっと腕を伸ばす。

「どうしたのですか?」
「私の感知が反応してる……あれを見て」

セイラさんが指さす先、遠くの崩れかけた廃墟の角からそれがゆっくりと現れた。

 地面と同じサンドカラーの大人の立像。
その表面は体動する砂で覆われ、まるで人の形をした砂嵐でした。
さらに砂の顔の中心は真っ赤な発光体がグリグリと全方位に動き、まるで索敵するレーダーのようでした。

 それが廃墟の角、廃墟の二階、別の廃墟の一階、此方に伸びる道路の中央と、これから僕達の行き先に少なくとも四体はいた。

「……まるで僕達を探してるみたい」
「えぇ、さらに巡回してるあの『砂人形』達からは明確な敵意を感じる」
「それじゃ、もし見つかったら……」
「確実に此方を襲ってくる」
「そんな!あの方角は僕達の行き先ですよ、他に隠れているかもしれないし……うぅ、やだ、どうしよう……」

追いかけられる、襲われる……そう思考するだけでトラウマになってしまった記憶が蘇り、ゾクリと体に悪寒が走った。

「落ち着いてカウルさん」

きゅっと優しく握られた手。セイラさんの力強い熱が伝わってくる。

「私のスキルを使って奴らの行動を先読みしてみる」
「もし見つかったら私がカウルさんの盾になる」
「だから安心して私の傍から離れないで」
「……はい!セイラさん」

体の震えは安堵に包まれ、替りに僕の心はドキドキと、ときめいてた。

 が徘徊する視界不良の風塵の中、僕達は瓦礫を背に息を潜めながら慎重に足を進ませた。

「はぁ、はぁ……く、苦しい……歩きずらい」

重くの伸し掛かる緊張感の中、マスク越しの浅い呼吸に底へ沈み込むおぼつかない足取りは心身の体力を容赦なく削る。
ですが常にスキルを使い、敵意を探りながら先導するセイラさんの疲労は、僕の比ではありません。
時より此方を振り向く彼女の顔からは、明らかな疲労の色が伺えました。

「……何処か隠れそうな場所を探して休みますか?」
「……平気。気を緩めたら奴らを見逃してしまうかもしれない」
「でも……とても辛そう」
「心配してくれてありがとう……は!止まって、こっち!」

 セイラさんの合図で僕は体を止めると、崩れかけの壁に身を隠した。

「しゃがんで近くに居る。口を閉じて」

するとザ、ザ、ザと足音が聞こえ、僕達を纏う空気が一気に張り詰める。
音は段々と大きくなり、それと共にぞくっと背が凍る感覚が押し寄せる。

(殺気!すぐ近くに……やだ、お願い気づかないで……)

すると砂人形がギョロっと赤い視線を突きつけた。

「ひぃ!」

僕は吐き出しそうな声を必死に抑える為、思わずセイラさんの背中にしがみつき顔を埋めた。

「大丈夫落ち着いて……」
「はぁ!はぁ……」

庇うように添えられた腕。僕はセイラさんの安心をぎゅっと引き寄せた。

「…………」

ザァ、ザァ……ザァ…………と砂人形の足音は遠ざかって行く。

「行ったか……此方には気づいてないみたい」

それを合図に僕は、ぶはぁ!と深海から顔を出すかの如く深呼吸した。

「ご、ごめんなさいモンスターに、み、見られたと思って……取り乱しちゃって」
「やっぱり……足手まといだ」

ガクガクと痛感する己の弱さ。
ですがしょんぼりする僕の頭を、ポンとセイラさんは撫でました。

「気にする事ないよ。あのモンスターの殺気は野生の猛獣並みだ」
「それをよく声を抑える事が出来たね」

僕を気にかけてくれてるセイラさんの慈愛が手から伝わって来るようでした。

「奴らの気配は遠くなった。今の内に進もう」
「セイラさん。ありがとう……」
(でも今の僕はセイラさんの足を引っ張るお荷物だ)
(このままじゃ……駄目だ。セイラさんの役に立たないと!)

そう思いながら僕は勇敢な彼女の後を行きました。

 そこから更に砂人形達の目を掻い潜り、歩き続けて一時間。

「はぁ、はぁ……あぁ!見て下さいセイラさん!」

廃墟群が遠ざかり、辺り一面砂に覆われた世界で、方位磁針の宝石がより一層強く輝いた。
光の指し示す先に、一体の巨石像があった。

 石像は首を垂れるように鎮座し、頭部は爬虫類を思わせる狂暴な顔で、側頭部からは禍々しく巨大な角が生えてた。
また筋骨隆々の背中からは蝙蝠の羽が生え、それは正に空想上に存在する悪魔のようでした。

 「方位磁針の反応……これがラミの求めるアイテムなのか?」
「こんな大きい物どうしようもありあせん。だけど必ず何かあるはずです……あ!セイラさん来て下さい」

石像を見上げた先にある物が目に飛び込んだ。

「何か見つけたの?」
「はい!石像の首を見て下さい」

其処には一本の剣が突き刺さってた。

次回 『狂剣』
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