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第二章
十一話 セイラの聖王女
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私はカウルさんにリフル様について語る中、自身と彼女の回想が心の奥から沸き上がっていた。
王族警護を主な任務とする護衛騎士。
その家系に生まれた当時十歳の私は、国王の専属の護衛騎士を務める父と共に王室の謁見の間に呼ばれていた。
それは将来護衛騎士として仕える私と未来の主君である王女との顔合わせの為であった。
その場におわせたモデラ王国の王女達。
第一王女サハキ様。
第二王女カスイ様。
そして眩しい程の純白のドレスを優雅に靡かせる当時八歳の第三王女リフル様と私は初めてお会いしました。
艶のある白緑の長髪に自身の行く末を真っすぐに前を見つめる黄色のグラデーションがかかった紅鶸色の瞳。
幼さいながら純真で穏やかな表情で、暖かな日の光を感じさせる笑みを見せるリフル様は誰よりも先に私と同じ目線へ降り立ち言いました。
「私の力は救われるべき者に手を差し伸べる為にあるのです」
「どうか貴方もお心を共に」
気が付いた時には差し伸べられた王女の手を取っていた。
私の使命はこの時定められた。
父に計らってもらいリフル様のお傍に置いて下さる許可を得た私は彼女の行く末を近くで見続けた。
リフル様は回復系魔法に高い適正を持ち、回復魔法の神童と呼ばれていた。
だが彼女は己の才能にかまけず、厳しい修行の末十七歳にして『聖回復魔法』を修め聖女の称号を得た。
私もこの世界から決して失ってはならないと思わせる彼女を守護する為、必死に武技や魔法の研鑽に励んた。
そして私達は成長と共に主従の関係ならが時に姉妹の様に寄り添い、困難に対し互いを信頼し支え立ち向かう強い絆で結ばれていた。
「セイラ。貴方の折れる事の無い鋼の心で、私だけでなく多くの者をお守り下さい」
十九歳の私は最年少で正式なリフル様直属の護衛騎士となり彼女から誓いの聖剣を賜った。
その後リフル様は王族の儀礼『王族奉仕』を行う事となった。
王族奉仕は王族が民の為に行う奉仕業務である。
その行いによってより多くの民に貢献し信望を得た者は、次期国王選出に大きな影響を与える大事な儀礼であった。
リフル様は自身の力を生かし、貧者救済組織『リフルスミカ』を組織し、その長『歩みの聖王女』として国の医療機関と連携しながら、医療を受けられない貧者達の救済活動を行い、国内だけでなく時には外国にも出向き奉仕を行った。
そのおかげで国内における貧困による病死、死傷率は大きく減少し、また外交にも大きな影響を与えた。
無論私もリフル様と同行し、彼女だけでなく組織の信者や訪れる患者を悪鬼から守り続けた。
それから三年の月日が流れた。
「リフル様……高潔で素敵な方なんですね」
「でもまぁ、聖女のやる事は大体似たり寄ったりだけどね」
「……だがある日。我々の活動拠点である聖殿に……奴が現れた」
奴を見た者は皆驚きそして恐れ嫌悪した。
何故なら奴の体は今にも腐り落ちそうな程崩壊し、死を感じさせる腐臭を漂わせていたからだ。
「よくここまで……貴方を見つける事が出来なくて……ごめんなさい」
奴を見たリフル様は涙を流しながら優しく抱きとめるとすぐに回復魔法による治療を始めた。
奴が患った病は深刻を極めていた。
リフル様は付きっ切りで看病し病の進行は抑えたが、原因が分からす病が治まる気配は全く無かった。
この様な事例は初めてだった。
それでもリフル様は賢明に奴を癒し続けた。
「だが奴は満身創痍のリフル様や、あの体ではまともに身動き一つとれないだろうと思い込んでいた我々の隙をついた」
「……あの時の慢心、後悔……悲鳴は今でも私の心身に残り続けてる……」
「いやああぁぁぁ!!!」
リフル様の悲鳴が建物中に響いた時には既に遅かった。
「遅かったな愚か者達よ」
「さぁ私の屍よこれが最後の命令だ!楔を解き存分に肉を食らえ!」
どの様な手を使ったか、奴はリフル様の肉体を乗っ取り完全に支配していた。
更に奴は禁術である『死霊魔法』を使い、潜ませてたアンデットをけしかけた。
リフル様の治療を待つ者がアンデッドに殺され、その者がアンデッド化し他者を襲う。
聖殿の内外は正に地獄の光景だった。
私を含む騎士達や兵士は人々を。
そしてリフル様を救う為闘い続けた。
長丁場の末、我らは視界に入る全てのアンデッドを殲滅した。
しかしその闘いで生き残ったのは私唯一人だけだった。
その間に奴はリフル様の肉体を使い、王族と事前に選定された者しか入る事を許されない特殊な魔法結界を発動させた。
それによって殆ど者は容易に聖殿内に立ち入る事が出来なくなった。
増援を見込めない中、私は一人奴と対峙した。
「どうするセイラよいまだ納める気の無いその聖剣で我を貫くつもりか?」
「くぅ……」
「頑固な奴よ……ならこれならどうだ?」
奴は短剣を抜くと自身の体でもあるリフル様の首に突き立てようとした。
「や、やめろ!それだけはやめてくれ!」
「そんなに大事がこの娘が?」
「貴様!……」
「……ふむ聞こえるぞ。この体の主の叫び……いや懇願が」
「リフル様!」
「ふん、愚者よこの体の主に免じて、聖剣を納めこの場から消えれば短剣は納めてやろう」
「それとも一部の望みにかけて我と交えるか?」
「さぁどうする愚かな愚かな護衛騎士よ?」
「リフル様……私は……」
リフル様を救う術を見出す事が出来ず、私は苦渋の逃走を余儀なくされた。
国に帰還した私はリフル様や信者を救出来なかった罪を問われた。
国内では責務を果たせなかった私は死罪も止む無しという情勢であった。
しかし普段から親密なつながりのあった第二王女カスイ様や高位の有識者の温情を受け最悪の事態は免れた。
肌に張り付く湿気と異臭の漂う地下の一室で私はカスイ王女の側近から王族特令を受領した。
「賜った聖剣に誓い第三王女リフルを救出せよ」
単独でのリフル様救出の続行命令。
それは同時に国外追放の処分であった。
「私はリフル様を救う方法を求め各地を放浪した」
「そして対価を払い試練を完遂すれば願いを叶えるダンジョンの管理者」
「魔女ラミの下へ辿りついた」
「そして最奥の祭壇で聖剣を捧げ願いを伝えた」
「その後は……カウルさんも知っての通りだ」
話終えた私の頬には悔しさと悲しみを滲ませた涙の後があった。
「セイラさんの過去にその様な事が……」
此処までのいきさつを僕は胸が裂ける思いで聞いてました。
(それ程に大切にしてた方を救えなかった……もしも僕がセイラさんの立場だったらと思うと……辛すぎる……でも)
しかし同時に僕の心の奥底から率直な疑問が浮かび上がってきました。
「どうして……僕がこの世界に呼ばれたの?」
その言葉を聞いたセイラさんはやり場の無い思いを必死に抑える様な暗く辛い表情を浮かべました。
「セイラさんのお話を聞いた限り僕に出来る事なんて――」
「試練のダンジョンに間違いなんて無いよ」
僕の言葉を遮る様に自信たっぷりとラミさんは答えました。
「答えを出せないのはまだ自身の役割を自覚してないだけさ」
「そう言われても……」
(セイラさんの力になりたいけど……ただの乗り物の僕に何が出来るの?……)
(重たい……あまりにも)
まるで無理やり大量の荷物を載せられた様な重圧を感じて僕の心と体は俯いてました。
「……また随分と空気がよどんてしまったね」
「そんなに悩んでもしょうがないよ。なるようにしてなった事だからね」
ラミさんは他人事の様にひょうひょうと言います。
「まぁ二人共色々あってさすがに疲れたろ?今日は我が城でゆっくりと休むが良い」
ラミさんの提案にセイラさんはゆっくりと頷きました。
「そうだな……カウルさん長丁場の話に付き合ってくれて……ありがとう」
「いえそんな、僕お二人の事を知る事が出来て嬉しいです」
「さて話も終わったし、良い時間だ」
「今から共に食卓を囲もうじゃないか」
そう言ってラミさんは軽い足取りで台所へ向かいました。
次回 『魔女の晩餐』
王族警護を主な任務とする護衛騎士。
その家系に生まれた当時十歳の私は、国王の専属の護衛騎士を務める父と共に王室の謁見の間に呼ばれていた。
それは将来護衛騎士として仕える私と未来の主君である王女との顔合わせの為であった。
その場におわせたモデラ王国の王女達。
第一王女サハキ様。
第二王女カスイ様。
そして眩しい程の純白のドレスを優雅に靡かせる当時八歳の第三王女リフル様と私は初めてお会いしました。
艶のある白緑の長髪に自身の行く末を真っすぐに前を見つめる黄色のグラデーションがかかった紅鶸色の瞳。
幼さいながら純真で穏やかな表情で、暖かな日の光を感じさせる笑みを見せるリフル様は誰よりも先に私と同じ目線へ降り立ち言いました。
「私の力は救われるべき者に手を差し伸べる為にあるのです」
「どうか貴方もお心を共に」
気が付いた時には差し伸べられた王女の手を取っていた。
私の使命はこの時定められた。
父に計らってもらいリフル様のお傍に置いて下さる許可を得た私は彼女の行く末を近くで見続けた。
リフル様は回復系魔法に高い適正を持ち、回復魔法の神童と呼ばれていた。
だが彼女は己の才能にかまけず、厳しい修行の末十七歳にして『聖回復魔法』を修め聖女の称号を得た。
私もこの世界から決して失ってはならないと思わせる彼女を守護する為、必死に武技や魔法の研鑽に励んた。
そして私達は成長と共に主従の関係ならが時に姉妹の様に寄り添い、困難に対し互いを信頼し支え立ち向かう強い絆で結ばれていた。
「セイラ。貴方の折れる事の無い鋼の心で、私だけでなく多くの者をお守り下さい」
十九歳の私は最年少で正式なリフル様直属の護衛騎士となり彼女から誓いの聖剣を賜った。
その後リフル様は王族の儀礼『王族奉仕』を行う事となった。
王族奉仕は王族が民の為に行う奉仕業務である。
その行いによってより多くの民に貢献し信望を得た者は、次期国王選出に大きな影響を与える大事な儀礼であった。
リフル様は自身の力を生かし、貧者救済組織『リフルスミカ』を組織し、その長『歩みの聖王女』として国の医療機関と連携しながら、医療を受けられない貧者達の救済活動を行い、国内だけでなく時には外国にも出向き奉仕を行った。
そのおかげで国内における貧困による病死、死傷率は大きく減少し、また外交にも大きな影響を与えた。
無論私もリフル様と同行し、彼女だけでなく組織の信者や訪れる患者を悪鬼から守り続けた。
それから三年の月日が流れた。
「リフル様……高潔で素敵な方なんですね」
「でもまぁ、聖女のやる事は大体似たり寄ったりだけどね」
「……だがある日。我々の活動拠点である聖殿に……奴が現れた」
奴を見た者は皆驚きそして恐れ嫌悪した。
何故なら奴の体は今にも腐り落ちそうな程崩壊し、死を感じさせる腐臭を漂わせていたからだ。
「よくここまで……貴方を見つける事が出来なくて……ごめんなさい」
奴を見たリフル様は涙を流しながら優しく抱きとめるとすぐに回復魔法による治療を始めた。
奴が患った病は深刻を極めていた。
リフル様は付きっ切りで看病し病の進行は抑えたが、原因が分からす病が治まる気配は全く無かった。
この様な事例は初めてだった。
それでもリフル様は賢明に奴を癒し続けた。
「だが奴は満身創痍のリフル様や、あの体ではまともに身動き一つとれないだろうと思い込んでいた我々の隙をついた」
「……あの時の慢心、後悔……悲鳴は今でも私の心身に残り続けてる……」
「いやああぁぁぁ!!!」
リフル様の悲鳴が建物中に響いた時には既に遅かった。
「遅かったな愚か者達よ」
「さぁ私の屍よこれが最後の命令だ!楔を解き存分に肉を食らえ!」
どの様な手を使ったか、奴はリフル様の肉体を乗っ取り完全に支配していた。
更に奴は禁術である『死霊魔法』を使い、潜ませてたアンデットをけしかけた。
リフル様の治療を待つ者がアンデッドに殺され、その者がアンデッド化し他者を襲う。
聖殿の内外は正に地獄の光景だった。
私を含む騎士達や兵士は人々を。
そしてリフル様を救う為闘い続けた。
長丁場の末、我らは視界に入る全てのアンデッドを殲滅した。
しかしその闘いで生き残ったのは私唯一人だけだった。
その間に奴はリフル様の肉体を使い、王族と事前に選定された者しか入る事を許されない特殊な魔法結界を発動させた。
それによって殆ど者は容易に聖殿内に立ち入る事が出来なくなった。
増援を見込めない中、私は一人奴と対峙した。
「どうするセイラよいまだ納める気の無いその聖剣で我を貫くつもりか?」
「くぅ……」
「頑固な奴よ……ならこれならどうだ?」
奴は短剣を抜くと自身の体でもあるリフル様の首に突き立てようとした。
「や、やめろ!それだけはやめてくれ!」
「そんなに大事がこの娘が?」
「貴様!……」
「……ふむ聞こえるぞ。この体の主の叫び……いや懇願が」
「リフル様!」
「ふん、愚者よこの体の主に免じて、聖剣を納めこの場から消えれば短剣は納めてやろう」
「それとも一部の望みにかけて我と交えるか?」
「さぁどうする愚かな愚かな護衛騎士よ?」
「リフル様……私は……」
リフル様を救う術を見出す事が出来ず、私は苦渋の逃走を余儀なくされた。
国に帰還した私はリフル様や信者を救出来なかった罪を問われた。
国内では責務を果たせなかった私は死罪も止む無しという情勢であった。
しかし普段から親密なつながりのあった第二王女カスイ様や高位の有識者の温情を受け最悪の事態は免れた。
肌に張り付く湿気と異臭の漂う地下の一室で私はカスイ王女の側近から王族特令を受領した。
「賜った聖剣に誓い第三王女リフルを救出せよ」
単独でのリフル様救出の続行命令。
それは同時に国外追放の処分であった。
「私はリフル様を救う方法を求め各地を放浪した」
「そして対価を払い試練を完遂すれば願いを叶えるダンジョンの管理者」
「魔女ラミの下へ辿りついた」
「そして最奥の祭壇で聖剣を捧げ願いを伝えた」
「その後は……カウルさんも知っての通りだ」
話終えた私の頬には悔しさと悲しみを滲ませた涙の後があった。
「セイラさんの過去にその様な事が……」
此処までのいきさつを僕は胸が裂ける思いで聞いてました。
(それ程に大切にしてた方を救えなかった……もしも僕がセイラさんの立場だったらと思うと……辛すぎる……でも)
しかし同時に僕の心の奥底から率直な疑問が浮かび上がってきました。
「どうして……僕がこの世界に呼ばれたの?」
その言葉を聞いたセイラさんはやり場の無い思いを必死に抑える様な暗く辛い表情を浮かべました。
「セイラさんのお話を聞いた限り僕に出来る事なんて――」
「試練のダンジョンに間違いなんて無いよ」
僕の言葉を遮る様に自信たっぷりとラミさんは答えました。
「答えを出せないのはまだ自身の役割を自覚してないだけさ」
「そう言われても……」
(セイラさんの力になりたいけど……ただの乗り物の僕に何が出来るの?……)
(重たい……あまりにも)
まるで無理やり大量の荷物を載せられた様な重圧を感じて僕の心と体は俯いてました。
「……また随分と空気がよどんてしまったね」
「そんなに悩んでもしょうがないよ。なるようにしてなった事だからね」
ラミさんは他人事の様にひょうひょうと言います。
「まぁ二人共色々あってさすがに疲れたろ?今日は我が城でゆっくりと休むが良い」
ラミさんの提案にセイラさんはゆっくりと頷きました。
「そうだな……カウルさん長丁場の話に付き合ってくれて……ありがとう」
「いえそんな、僕お二人の事を知る事が出来て嬉しいです」
「さて話も終わったし、良い時間だ」
「今から共に食卓を囲もうじゃないか」
そう言ってラミさんは軽い足取りで台所へ向かいました。
次回 『魔女の晩餐』
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