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第一章
四話 人の体
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「…………」
「…………」
沈黙が続く部屋の空気は相変わらず重く、息苦しさがずっと続いてました。
(はぁ……辛い)
僕の心はそれにぎゅっと押し潰され、まるで不安という成分が体の中で広がっていく様でした。
そっとセイラさんの様子を覗くと、彼女は体育座りのまますっと俯いてました。
そして髪の隙間から見える彼女の横顔は本当に辛そうな表情をしてました。
(セイラさんはずっとふさぎ込んでるし……そんな顔してたら僕も辛いよ)
(はぁ……今日は楽しみだったのに……僕どうしてこんな思いをしなきゃいけないの?)
(元の世界に帰りたい)
(ご主人と一緒にツーリングしたい――)
「うぅ……」
いつの間にか僕の目が水分で滲みぽろりと頬を流れました。
その時でした。
ぐぅ~。
静まり返った部屋に気の抜けた空腹音が響きました。
「…………」
「…………」
僕はセイラさんの様子を伺いました。
彼女の顔は真赤に染まり、唇をつぼませ溢れそうな感情を必死に抑えようとプルプルしてました。
「あのセイラさん……何か食べませんか?僕お弁当持ってますよ」
(本当はご主人が食べる予定だったものだけど)
「………」
「……食べます」
僕の問にセイラさんは消えそうなほど小さな声で答えました。
「僕はお弁当の蓋をお皿の代わりにして……はいどうぞ」
「待って私の方多い」
「元々は貴方が持ってた物。こんなに貰っては申し訳ない」
お腹が空いてるはずなのに遠慮するセイラさん。
「気にしないで下さい。僕あまりお腹空いてないし」
「さぁ、一緒にご飯食べましょう」
「え、えぇ……それじゃあ遠慮なく……」
「はい。頂きます」
僕は弁当箱の中にある厚焼き卵を口に入れた。
「美味しい……」
僕の口からその言葉が自然と出てきました。
(これが人の食べ物なんだ)
それを口にするまで僕は分かりませんでした。
体の奥にある本能。エネルギーを求める欲求の強さを。
「本当に美味しい」
セイラさんの顔からふっと笑顔がこぼれてました。
「ふふっ」
食事を取る彼女が元気になっていくのが分かります。
「ご主人普段そればっかり作ってるか上手なんですよ」
「野菜も食べて下さい。ご主人の家で取れた新鮮な物ですよ」
「これもさっぱりとして美味しい」
「はい。僕もキャベツって初めて食べましたがこのシャキ、シャキって歯ごたえがとっても楽しいです」
「この肉の揚げ物もジューシーだ」
「唐揚げは冷凍食品です。出来物ですが最近のは美味しいらしいですよ」
「冷凍食品?これは凍ってないけど」
「確か出来立ての食べ物を直ぐに凍らせて長期保存出来る様にした物の事です」
「そうか……カウルさんの世界は魔法と言う概念は無いが、変わりに別の技術が発達してるのか」
「はい。ですが魔法の方がすごいかも」
「簡単なものであれば見せられるよ」
「本当ですか!是非見せて下さい」
この時は先ほどの空気が嘘の様に和やかな時間でした。
「ご馳走様。ありがとうとても美味しかった」
「はい。お粗末様でした」
(まさか原付の僕が人とおしゃべりしながら食事をする時が来るなんて……人の体も悪くないかも)
(それにセイラさん元気になってくれた)
(……今はこれで良いのかもしれない)
(まずは此処から脱出しなくちゃ)
「セイラさん。僕達は此処から出られるのですか?」
「出口はあるがしかし……」
セイラさんは言葉を詰まらせ再び深刻そうな顔を浮かべてしまいました。
「あのロボット……いえモンスターの事ですか?」
「えぇ、あのモンスターはこのダンジョンで対価を求める者に試練を与える存在」
「私は奴から逃走しながら祭壇で対価を捧げ、脱出しなけらばならない」
そこで僕はずっと疑問に思ってた事を言いました。
「どうしてモンスターはこの部屋に入って来ないのですか?」
「この部屋は避難所として用意され、モンスターは入ってこないとダンジョンの管理者が言ってた」
「管理者……そうなんですか」
(本当にゲームみたい)
「だけど……管理者は私の様な弱い人間の本質を見抜いていた……」
そう言ってセイラさんは頭を抱えてしまいました。
「何か問題があるのですか?」
「私のスキル『直感』が囁いてる」
「このスキルのお陰である程度奴の居場所を感知する事が出来る」
「すごいセイラさん!じゃモンスターが離れてる間にこの部屋から出ましょう」
セイラさんは再び深刻な表情を浮かべました。
「……だめなんだ」
「奴はずっと扉の前で私達を待ち構えている」
「そんな!――僕達は罠にはめられたのですか?!」
それを聞いた僕はあの時の恐怖が蘇り、血の気が引きました。
次回 『小さな小さな希望』
「…………」
沈黙が続く部屋の空気は相変わらず重く、息苦しさがずっと続いてました。
(はぁ……辛い)
僕の心はそれにぎゅっと押し潰され、まるで不安という成分が体の中で広がっていく様でした。
そっとセイラさんの様子を覗くと、彼女は体育座りのまますっと俯いてました。
そして髪の隙間から見える彼女の横顔は本当に辛そうな表情をしてました。
(セイラさんはずっとふさぎ込んでるし……そんな顔してたら僕も辛いよ)
(はぁ……今日は楽しみだったのに……僕どうしてこんな思いをしなきゃいけないの?)
(元の世界に帰りたい)
(ご主人と一緒にツーリングしたい――)
「うぅ……」
いつの間にか僕の目が水分で滲みぽろりと頬を流れました。
その時でした。
ぐぅ~。
静まり返った部屋に気の抜けた空腹音が響きました。
「…………」
「…………」
僕はセイラさんの様子を伺いました。
彼女の顔は真赤に染まり、唇をつぼませ溢れそうな感情を必死に抑えようとプルプルしてました。
「あのセイラさん……何か食べませんか?僕お弁当持ってますよ」
(本当はご主人が食べる予定だったものだけど)
「………」
「……食べます」
僕の問にセイラさんは消えそうなほど小さな声で答えました。
「僕はお弁当の蓋をお皿の代わりにして……はいどうぞ」
「待って私の方多い」
「元々は貴方が持ってた物。こんなに貰っては申し訳ない」
お腹が空いてるはずなのに遠慮するセイラさん。
「気にしないで下さい。僕あまりお腹空いてないし」
「さぁ、一緒にご飯食べましょう」
「え、えぇ……それじゃあ遠慮なく……」
「はい。頂きます」
僕は弁当箱の中にある厚焼き卵を口に入れた。
「美味しい……」
僕の口からその言葉が自然と出てきました。
(これが人の食べ物なんだ)
それを口にするまで僕は分かりませんでした。
体の奥にある本能。エネルギーを求める欲求の強さを。
「本当に美味しい」
セイラさんの顔からふっと笑顔がこぼれてました。
「ふふっ」
食事を取る彼女が元気になっていくのが分かります。
「ご主人普段そればっかり作ってるか上手なんですよ」
「野菜も食べて下さい。ご主人の家で取れた新鮮な物ですよ」
「これもさっぱりとして美味しい」
「はい。僕もキャベツって初めて食べましたがこのシャキ、シャキって歯ごたえがとっても楽しいです」
「この肉の揚げ物もジューシーだ」
「唐揚げは冷凍食品です。出来物ですが最近のは美味しいらしいですよ」
「冷凍食品?これは凍ってないけど」
「確か出来立ての食べ物を直ぐに凍らせて長期保存出来る様にした物の事です」
「そうか……カウルさんの世界は魔法と言う概念は無いが、変わりに別の技術が発達してるのか」
「はい。ですが魔法の方がすごいかも」
「簡単なものであれば見せられるよ」
「本当ですか!是非見せて下さい」
この時は先ほどの空気が嘘の様に和やかな時間でした。
「ご馳走様。ありがとうとても美味しかった」
「はい。お粗末様でした」
(まさか原付の僕が人とおしゃべりしながら食事をする時が来るなんて……人の体も悪くないかも)
(それにセイラさん元気になってくれた)
(……今はこれで良いのかもしれない)
(まずは此処から脱出しなくちゃ)
「セイラさん。僕達は此処から出られるのですか?」
「出口はあるがしかし……」
セイラさんは言葉を詰まらせ再び深刻そうな顔を浮かべてしまいました。
「あのロボット……いえモンスターの事ですか?」
「えぇ、あのモンスターはこのダンジョンで対価を求める者に試練を与える存在」
「私は奴から逃走しながら祭壇で対価を捧げ、脱出しなけらばならない」
そこで僕はずっと疑問に思ってた事を言いました。
「どうしてモンスターはこの部屋に入って来ないのですか?」
「この部屋は避難所として用意され、モンスターは入ってこないとダンジョンの管理者が言ってた」
「管理者……そうなんですか」
(本当にゲームみたい)
「だけど……管理者は私の様な弱い人間の本質を見抜いていた……」
そう言ってセイラさんは頭を抱えてしまいました。
「何か問題があるのですか?」
「私のスキル『直感』が囁いてる」
「このスキルのお陰である程度奴の居場所を感知する事が出来る」
「すごいセイラさん!じゃモンスターが離れてる間にこの部屋から出ましょう」
セイラさんは再び深刻な表情を浮かべました。
「……だめなんだ」
「奴はずっと扉の前で私達を待ち構えている」
「そんな!――僕達は罠にはめられたのですか?!」
それを聞いた僕はあの時の恐怖が蘇り、血の気が引きました。
次回 『小さな小さな希望』
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