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6 みんなで楽しく過ごしたいだけなんです②
しおりを挟む見渡す限りの人、人、人。
王都に来るのは初めてだが、さすがは王家のお膝元。建物はどれも立派で美しく、街並みも綺麗に整えられている。道行く人々も心なしかオシャレな感じがする。俺の領地で一番栄えている街よりも、当たり前だが都会的である。
加えて一年で一番賑わうというお祭りが催されているとあって、王都は各地から集まった人たちでとにかくごった返していた。
「はぁ~これぞ年末って感じですね、ジェイミー様! どこから見ます? やっぱり食べ物ですかね。えーっと屋台街はどっちだったかな」
「みんなー。はぐれないようにちゃんと……って、うわ、あっちでヴィンテージもののアウトレット市やってる! ……行きたいなぁ」
「うへぇ……すげえ人……。は、吐きそう……」
「おい、ちゃんと前を見ながら歩かんか、お前ら!」
ヘイデン様が先導する形で、俺たち一行は人波にもまれながら王都の街を練り歩いていた。
まず最初に訪れたのは屋台街だ。ずらっと並ぶ広場には、定番の串や一口サイズにカットして揚げた芋、砂糖をこれでもかってくらいまぶしたパンに、ココアやクラムチャウダー、ホットワインなんかもあった。俺とお友達ーズたちはとりあえず串を、巻き毛の少年はココア、ヘイデン様はホットワインを頼んでいた。
他にも雑貨を扱う露店ブースもあり、王都の街並みを描いた絵はがきや、陶器でできた置き物やマグカップといったお土産品もたくさんあって、見ているだけでも楽しかった。
とある雑貨屋では、見たことのあるおもちゃも見つけた。この前、ヘイデン様のお部屋で見たものにすごく似ていた。
ヘイデン様の思い出コレクション。ここで買ったやつなのかな? 手に取ってまじまじと眺めてみる。
ヘイデン様にもこういうヒーローに憧れるような、いたいけな子供時代があったんだな……と、その騎士を模した人形に想いを馳せていると、いつの間にか俺のすぐ横に立っていたヘイデン様がぼそりとつぶやいた。
「……まだ売っていたんだな、それ」
「ヘイデン様も同じの持ってたよな。……こういうのに憧れてた時代もあったんだね~。今はこんな堅物男に育っちゃったけど」
「お前にせがまれて買ったものだ。断じて僕がほしがったわけじゃない」
「へいへい。あ、じゃあ俺と来たことあったんだ、この祭り」
「……昔にな。ここに来るのは僕も数年ぶりだ」
あ、そうなの? まあでも、ある程度の年齢を越えたら行事イベントって行かなくなったりするし、そんなもんだよな。
それよりも、だ。仲が良かった頃の二人が連れ立ってお祭りに来ている姿を想像すると思わず頬が緩んでしまうのはどうしたらいい。俺の萌え心を刺激しないでくれ、ニヤニヤしてしまうから! 人形を眺めながら、ふふっ、と息がもれてしまったではないか。
横からはヘイデン様の視線を感じるが、無視無視! 気持ち悪いことは自覚してますから!
結局、俺はその人形を買った。もしかしたら家に同じものがあるかもしれないが、これは今日の思い出の品だ。俺にとって、の。
会計を済ませ出入口へ向かうと、ヘイデン様が腕を組んで待っていた。軽く壁にもたれかかるようにして、気持ち遠くを見つめている。俺に気付くと、腕を下ろしコートのポケットに手を入れた。
悔しいくらいに、所作が様になっている。若い女性やマダムたちもチラチラ見ているぞ。はいはい、格好いいですね。仕方ないから認めてやる、こんちくしょー。
他の面々はどうしたのかと聞くと、各々見たい物があるからと自由行動になったらしい。数時間後に待ち合わせ場所に合流する予定だそうだ。なんだよ、みんなとわいわいしながら歩きたかったのにな。
俺はヘイデン様とペアを組まされ、特に会話が弾むでもなく辺りを見て回った。
……しかしヘイデン様よ。さっきから物言いたげにこっちを見てるけど、なんか言いたいことでもあるのか? さすがに気になるから聞いてみた。
「なに?」
「いや……」
「あいつと一緒がよかった~とか思ってるんだったら、そっちに行けばよかっただろ。俺と一緒が嫌なのは重々承知ですけど、あからさまにそうやってソワソワされると傷つくんですが」
「誰もそんなこと言ってないだろう。くだらん妄想で突っ走るな」
「……じ、じゃあ何なんだよ。言いたいことあるなら……」
「今のお前に言ったところで記憶が戻れば忘れてしまうかもしれないから、言うべきかどうかと逡巡していたんだ」
──何それ。俺は訝しげにヘイデン様に目をやった。
「……僕は別に家同士の縁談話が持ち上がったからお前と仲良くしたわけでも、両親に言われたから結婚を承諾したわけでもない」
「ああ。分かってるよ。一番落ち着く形で折れてくれたんだろ。そんな改めて言わなくてもちゃんと感謝してるよ」
「だから、ちゃんと聞け!」
「うっ……」
大きい声でたしなめられた。いつからだろう。ヘイデン様の真面目なトーンが怖いと感じ出したのは。ヘイデン様の気持ちを聞くことに拒否反応が出るようになったのは。
「お前がどんなに救いようのない馬鹿な奴だったとしても、間抜けな奴だったとしても、お前を拒むことは僕にはできないだろう。だからもし記憶が……」
「頑張って思い出すよ。努力する。あ、それよりあのくりくり頭が一人で寂しがってるんじゃない? 辛気くさい話はやめてさ、あいつ探しにでも行こうぜ」
「彼とは……」
俺はヘイデン様の言葉を遮って、明るく取り繕った。
これ以上、気持ちをかき乱さないでくれ。俺は推しを応援するだけの、どこにでもいる一人のモブでいい。
「はぁ~楽しかったあ! この日のために貯めてたお小遣いで奮発しちゃったよ!」
待ち合わせ場所には両手に荷物を持った巻き毛の少年が待っていた。中身は本や洋服、お土産のお菓子や雑貨でパンパンだった。聞けば王都まで来られない遠方の親戚や、妹や弟へのプレゼントらしい。
「くそぅ……なんでこいつの……くりくり頭なんかの荷物持ちを僕たちがしなきゃならないんだよっ……! ううっ……ジェイミーさまああ~」
「悪かったよ、もう泣くなってば! でもお前らがほしがってた物も、ちゃんと値切ってやっただろ」
「まあ、それは、そうですけど……」
どうやら、あいつらはあいつらで楽しめたようだ。お友達ーズたちの腕には大きな紙袋が収まっていた。
「──で、そっちはどうだった?」
俺とヘイデン様はあの後、色々と立ち寄ってはみたが、人の多さで結局、巻き毛の少年を見つけることはできなかった。
俺は無理にでも明るく振る舞っていた。それでヘイデン様の表情が晴れることはなく、むしろどんどん不機嫌になっていったけど。
「まあ……その険悪なムードを見たら、なんとなく察したけどね……」
「てゆうかさ、ペア決めおかしいだろ。なんで俺がヘイデン様となの!?」
「なんでって……」
くりくり頭は、ちらっとヘイデン様を盗み見た。
ヘイデン様はムスッとした顔で足を組みながらベンチに座っていた。まさに不遜な態度極まれりだが、そんな姿も絵になっちゃう不思議なオーラを放っていた。
「……まだ言ってなかった……というか言おうとするタイミングで逃げられるから言えなかったんだけど、別れてるから、僕たち」
「……へ?」
別れて、る……?
えええええー!? そ、そうなの!?
それってもしかして、もしかしなくても俺のせいだったりしない!?
「へ、ヘイデン様が、了承したの……?」
「了承もなにも、ヘイデン様から切り出されたんだから」
──ちょっと待ってくれ。
容赦なく退路を断っていくヘイデン様の行動力に脱帽しちゃうよ。いや俺がヘタレなのは言うまでもないのだ。それは分かっている。
でも、こうして逃げ道がなくなった先にあるのは、俺が見たくないもの……一番向き合いたくないもののような気がする。
『お前も、腹を決められるか』
ヘイデン様の言葉がここぞとばかりに、心に重くのしかかってきた。
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