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Act 1 大事な恋の壊し方(本編)
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しおりを挟む「あの、私たちと一緒にまわりませんか? かっこいいなぁってずっと思ってたんです!」
広いパーク内で歩き疲れ、休憩がてら入ったカフェテリアで。
智実と千華ちゃんが席を外した途端に、別の知らない女の子たちにナンパされていたりする。オレたちがというより、主に瀬川さんだけど。
「ごめんね、今日は連れがいるんだ」
「えー、そんなぁ。じゃあ連絡先だけでも交換してくれません?」
「ごめんね、今日は駄目かな」
慣れた様子で女の子たちに断りを入れている瀬川さんだけど。……なんていうか、ええと、気になる部分があるといいますか。
「千華との出会いもほぼナンパなんだよ。大学の帰りにいつも寄るカフェで、連絡先を渡されたんだ」
女の子たちを軽くあしらって、振り向きざまに瀬川さんが機嫌よく教えてくれる。紙カップに口をつける姿さえもどこぞの有名メーカーの広告のようだ。
瀬川さん的には惚気なのかもしれないけど……ああ、千華ちゃん、本当にこの男で良かったの?
出会って半日にも満たないが、オレは瀬川さんという人のモテっぷりにだいぶ引いていた。この人の彼女なんて絶対苦労するよ。千華ちゃんが本気で心配だった。
「真野君こそモテるだろう? きれいな顔をしているし」
即座に否定しようとした言葉を──ついうっかり、オレの唇は音にし忘れてしまう。
こちらに伸びてきた瀬川さんの長い指がオレの髪をつまみ、そのままひと房を耳にかけて、ゆっくりと離れていく。
「ごめん、ゴミが気になって」
苦笑とともに、瀬川さんが謝罪をやさしく声にした。机越しの、印象的な淡褐色の瞳に包まれてドキリとする。
すぐにハッとしたオレは、途切れた会話の糸口を慌てて探した。
「ああ、いえ、ありがとうございます。……ええと、オレは瀬川さんほどモテないので」
「そんなことないでしょ?」
「モテませんよ。かろうじて好きな子には振り向いてもらえましたけど、それだけです」
「じゃあ君たちは真野君から?」
「ええ、付き合ってもうすぐ一年になりますね」
動揺する自分を誤魔化しながら、当たり障りのない会話を繋いでいく。なんだか今、超絶イケメンの魔法にあてられた気がしたんだけど。……ゴミなんだよね?
しっかりと身体ごとこちらを向いてニコニコと話をきいてくれる瀬川さんの眼差しは、女の子にとっては赤面ものでも、オレにとっては不思議とどうしてか逃げ出したいほどに居心地の悪いものになってしまって困る。
ちょうどその時、瀬川さんの背後に、店の奥から戻ってくる智実たちの姿を見つけてオレは心底安堵した。片手を上げてひらひらと振れば、それに気付いた智実が小さく振り返してくれる。
「ただいま~。二人でなんの話をしてたの?」
何も知らない千華ちゃんが無邪気に寄ってきて、瀬川さんの椅子の背凭れに軽く手をかけた。
女の子たちにナンパされて、お互いの馴れ初めを聞きあっていたんだよ、なんてことは……もちろん言えるわけがない。
「おかえり、千華。真野君との秘密だよ。さあ行こうか。次はどこに行くんだっけ?」
瀬川さんの美しい指先が今度は、空になったオレの紙カップを攫っていった。
四人分のカップを乗せたトレーを店員さんに素早く預けると、瀬川さんはそっと千華ちゃんの背中に手を添えて、紳士らしくエスコートをしはじめる。
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