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しおりを挟む夕食と呼ぶには随分と早い時間だったけれども、ダイニングテーブルに酒と軽食とチョコレートを並べて、圭人に食べさせたり、食べさせてもらったりしながら腹を満たした。
二人の理性を援護してくれていた抑制剤の効果は確実に切れてきていた。
食事をするあいだも、ちいさな情欲の火に身体を焦がされていた。圭人の甘いフェロモンの匂いもどんどんと濃くなっている。
そろそろ頃合いだろうかと、片付けもそこそこに二人で一緒にシャワーを浴びた。
圭人は恥ずかしいと嫌がっていたけれど、香倉がちょっとだけ強引にバスルームに押し入った。
この時にはもうアルファとしての獣性が顔を出してきていて、ひと時だって最愛の恋人から目を離していたくなかったのだ。
二人で入るには狭い浴室で生まれたままの姿を晒しあったら、理性が悲鳴を上げながら急激にすり減っていった。
狭い空間では互いのフェロモンも濃密になる。
バスルームで一度抱いてしまいたかったけれど、今夜は長期戦になるだろうことを考えて我慢を選んだ。
圭人の身体はまだ抱かれることに慣れていない。こんな場所で無理をして、余計な負担を与えたくない。
時間はたっぷりとあるのだから、最初くらいは大切に、ゆっくりと愛でてあげたかった。
くらりくらりと激しく理性を揺さぶられながら互いの身体を洗いあった。
ボディソープの泡を掌にのせ、向かいあって相手の肌の上を撫でていく。
「……っ、そこ……やめて……っ」
泡を纒わせた指先で恋人の胸の尖りに触れていると、あえかな声で抗議をされた。
悩ましげに眉を寄せ、息をつめる圭人はひどく色っぽい。
「ふふ、感じてるきみも可愛いね」
「俺もう、……だいぶ、きてるかも」
発情しかけている圭人はすでに感度が上がってきているらしく、さっきから甘い吐息を漏らしてはびくびくと身体を震わせている。
二人のあいだでゆるやかに立ち上がっているそれぞれのものは、確実に質量を増していた。
「ああ、早く終わらせて気持ちよくなろうか。……シャワーかけるよ?」
泡まみれの互いの身体を手早く洗い流し、足元がおぼつかない圭人の腕を引いて浴室を出た。
脱衣所の棚から白いバスタオルを取り出して、大まかに水気を拭っていく。
圭人の動きは緩慢になってきていた。ぼんやりとしていて、今もちっともタオルを掴む手が動いていない。
香倉はちいさく笑ってから恋人の身体を優しく拭ってあげて、それが終わると同時に彼を抱きあげた。
寝室に直行し、愛おしい存在をベッドの上に横たえる。
そのままたまらず覆い被さって、桃色の唇を自分のもので塞いだ。
我慢していた衝動を解き放つ。彼の口内に侵入し、舌を絡め、柔らかく吸い上げた。
唾液に含まれる互いのフェロモンが媚薬のように官能を引き出していく――。
「ァ……ん、……っ」
圭人は抵抗するでもなく、されるがままに応じてくれる。
ベッドの周囲には濃厚なオメガフェロモンが漂っていた。
蜜を求める春の虫のように、いつだって自分は甘美な香りに誘われていく。
キスの合間に甘い吐息をこぼした圭人は、とろんとした瞳で香倉を見上げて、「……ここ、史仁さんの匂いが濃いみたい」と微笑んだ。
「ねえ、史仁さん……今度こそちゃんと、俺を史仁さんのオメガにしてくれる?」
華奢な、骨ばった指先が香倉の頬を撫でてくる。
「もちろん。圭人が迷ってても、いま後悔していても、もう待ってあげられない。今夜こそ必ずおれの番になってもらうよ」
伸ばされた薄い掌に頬を擦りつけてそう言うと、圭人はひとつ頷いて。
「史仁さんも、俺のものだね」と嬉しそうに笑みを蕩けさせた。
性衝動をギリギリまで飲み込んで、満ち足りた時間の中を漂いながら、優しく丁寧に、丹念に、最愛のオメガの身体を慈しんでいった。
首筋に何度も唇を押し付けて、まっさらな身体に赤い花びらを散らしていく。
首輪の周囲、鎖骨、薄い胸、肩や脇、しなやかな腕、手の甲、臍の周り、白い太腿……圭人の身体のすべてに愛を誓うように、唇と舌先を這わせていく。
オメガとしては遅咲きの彼を、これから香倉が手折るのだ。
触れるたびに圭人は小さく吐息を漏らし、刺激に敏感に反応する。
彼の中心は、すでにほろほろと涙をこぼしてそそり立っている。
健気なそこにもチュ、とキスを与えた。
……オメガの精液が甘いだなんて、以前の自分は信じてなかった。
自分の唇に付着した液体を舌先で舐めとって、味わう。蜜のように甘くて恍惚となる。
清らかな色をしている屹立を少しだけ撫でてやってから、圭人の身体を反転させた。
無垢なくせに淫らな圭人の身体はどこもかしこも美しくて魅惑的だ。
――早く喰らいついてしまいたいと唸る本能を叱咤して、愛を込めて撫でていく。
白くてなめらかな背中に花びらを幾枚か落としてから、細い腰、双丘にも手を這わした。
圭人が身を委ねてくれているのをいいことに、彼の恥ずかしい部分を両手で割り開く。
気付いた圭人が慌てる気配があって、だけど制止するように宙に浮いた左手は力なくシーツに落ちた。
香倉の耳に嬌声まじりの抗議が届く。
「ァ、……そんなとこ、やだっ、……史仁さんってば、んぅ、ああ……っ!」
愛する人のすべてを堪能したくて、トロトロと蜜を零しているオメガの部分に何度も舌先を伸ばす。
「ふふ、圭人ってどこまでも甘いんだね。運命のオメガは特別甘いって聞いたことがあるけど、事実なんだな。おれ圭人のこと、丸ごと全部喰らい尽くしてしまいそうだよ」
「ああぁ……ん、……っ、はぁ……ッ」
シーツに縋りつく恋人の姿を見下ろしているだけで、ゾクゾクとしたものが背筋を這い上がっていく。
圭人は声も匂いも身体も甘い。
香倉を受け入れてくれる場所を指で慣らしていく。
すでに自分の下半身は痛いほど張り詰めていた。
すぐにでもこの身体を貫きたくて仕方がないが、彼は香倉だけの特別な天使だ。
傷つけたり、ぞんざいに扱うつもりはない。――せめて、自分に理性があるうちは。
蜜液を溢れさせ、ひくひくと蠢いては誘う男オメガの窄まりにもう一本指を差し入れる。
難なく受け入れてくれたそこを押し拡げるように指を動かして、涙を流す愛らしい陰茎も左手で擦ってあげた。
「ああっ……ん、ああ、あ……史仁さ、もういいよ……ッ」
最初は耐え忍ぶようだった甘やかな声。次第に羞恥が消えていき、圭人が淫らに大胆に香倉を求めてくる。
彼も本能に流されてきていることを察した。
眩暈がするほど、フェロモンも濃い。――自分も本格的に限界が近い。
(こんなものかな)
指を引き抜き、圭人の腰を掴んだ。
「史仁さん……も、きて……っ、早く欲し……ッ」
「ああ、――待たせてごめん、すぐにあげるよ。力を抜いていて。……いい?」
「ん……」
許しをもらって、後孔のふちに先端を押し当てた。ぐ、と力を入れる。
「ァ、っ……あっ、ああぁ…っ」
圭人の壮絶な色香に煽られる。奥歯をぐっと噛み締めて凶悪な衝動をやり過ごした。
ゆっくりと腰を進めて、絡みついてくる肉壁に香倉は嘆息した。
(こんな身体を知ってしまったら、もう戻れない)
繋がった部分から快感に蕩けていく。とても気持ちいい。
頭の中までとろとろに溶かされて、興奮と多幸感が全身を巡っていく。
――オメガとのセックスはまるで麻薬だ。
こんなにも中毒性のあるセックスを味わってしまったら、もう他の相手とのセックスなんてできっこない。
もとよりそんな気など微塵もなかったけれど、圭人のせいで、自分は圭人以外の人間を性対象として見ることが完全にできなくなってしまった。
香倉がゆるゆると腰を動かすと、恋人の口からは喜悦の声が溢れ落ちていく。
(一生、圭人だけでいい)
(だからきみも、おれだけにして)
腕を伸ばして、彼の首筋に触れた。
オメガの首を守っていた黒い輪が外れて、ベッドに落ちる。
状況に気付いていないのか、それともすでに我を忘れているのか、圭人は淫らに腰をくねらせて「もっと頂戴……?」と香倉を見上げてくる。
数回強く突き上げてやると、香倉だけの無垢なオメガは甘く啼いた。
それがオメガというものだと知っていても、普段との余りのギャップにくらくらする。――もっと啼かせてやりたい、と凶暴な欲が沸々とわいてくる。
激しく揺さぶって彼を支配したい。自分を刻み付けたい。
だけど最後の気力を振り絞って、香倉は圭人に優しく声をかけた。
後ろから恋人の身体を抱きしめて、耳許で囁く。
「圭人。――――今からきみを完全に発情させるよ。おれもきっとすぐにラットに入る。……いい?」
「ん……いい。いいからもっと頂戴、激しくしてよ、史仁さん……っ」
「ふふ、強欲だね。――そんなきみも愛してるよ、圭人」
淫らな天使に、香倉は微笑んだ。
番関係が成立したと確信を得られるまでは、彼をこの部屋から出すつもりはない。
……今夜こそ、番になろう。唯一無二の二人に。
香倉は本能のままに発情香を放出した。
自分のフェロモンが彼を狂わせ、彼のオメガフェロモンに自分も狂わされていく。
濃密な夜がやってくる。
途方もない快楽に酔いしれながら、二人で高みを目指していく――――。
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