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4  私の、戦い(お預けと戦う私(苦笑))

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「……ここじゃあ、なんだから……場所、変えよっか?」

軽く頭をコリコリと掻きながら、雫は私の顔をちょっとだけ見ると、

きゅっ!

・・・私医の腕の裾を握り、軽く引っ張ってきた。


「……場所を変えるって……どこいくの?」

 戸惑いながらも雫のするまま、引っ張られながら駅の改札口を出て、右の方向へ歩いていく。

横断歩道を渡り、東急インホテルの前を通り…



「・・・トヨタレンタリース?」

「とりあえず、車、借りるね」

・・・・・そりゃまあ、ここに来たらレンタカーを借りるくらいの事は誰だって解るけれど。
 今、車を借りて、どうするつもりなんだろ?


「喫茶店とかで話す話じゃないし、かといって今から家に帰っていたんじゃあ間が持たないもん。大丈夫、私がお金出すし、運転するから」

いつになく積極的なのはいいけど……
喫茶店で話せない、話??


 平日だし、朝もまだ早くて、お客さんは私達だけで。だからあっという間に手続きが終わって車を借りることが出来た。
 運が良かったのは、普通予約がなければ朝は9時からの営業で、その時間まで待たなきゃいけないところだったのだけど、今週は夏休みサービス週間というイベントが行われていて、朝8時からの営業になっていたことだ。
 さらに、会員登録してあるおかげで店員さんが気を利かせてくれて、早い時間だったにもかかわらず車を出してくれたおかげで……。

 8時ちょっと過ぎには、私達は名四バイパスに乗ることが出来ていたのだった。


「・・・・・ねえ、雫?何処に向かっているの?」

 カーラジオが朝の番組を流しているくらいで会話の無かった車内の空気に耐えられず、私は雫の横顔を見ながら話しかけてみた。


「とりあえず、二人でお話できるところ、行こう」

いつになく真剣な顔の彼女が、ポツリとそれだけ話した。




・・・・・。

そういえば。


 私、この子が運転する車に乗るの……初めてじゃなかったっけ?


いや。


何時も私が運転していたし。

免許は、二人で仲良く取りに行って、ふたりとも一発合格ではあるけれども。


この子が喋らない理由って。



・・・・・。



ちょっと、たんま。


「雫……」
「話しかけないで!気が散っちゃうっ!!」


 私の顔から引き潮のようにさーーーっと血の気が引いた。



 名四バイパスを四日市方面へひた走る車の中で、私はいつにない緊張感に包まれていた。
…いや、包まれていた、なんて言い方は正しくない。

何を話して良いのか戸惑うのもそうだけど、それよりもなによりも。

 いつもの猫を被っているかのような可愛らしさは彼女から消え去り、代わりにカーレースアニメの音楽がピッタリ合いそうな豪快な彼女の雰囲気と運転に、私はビビりまくっていた。


 名4名物の朝の交通渋滞のおかげでスピードこそそんなに出ていないが、クイックでトリッキーなハンドル操作、男性顔負けの車線変更の正確さと素早さに舌を巻きながら、険しい目つきでバックミラーを睨んだりしている雫は明らかに別人だったのだ。
こんなん、話す余裕なんて無い。


「ね、ねえ、しずくちゃん?らじおいれていいかなぁ?こうつうじょおほうがしりたいわあわたしぃ」

 彼女がなにか答えるより早く、私はナビのコンソールにあるスイッチに手を伸ばす。




『・・・ミッシェルスピカの星占い…』



 FMラジオから、ちょうどタイミングよく彼女が好きそうなものが流れ始めて私はほっと息をついたけど……。




『・・・おうし座の方。思わぬハプニングにはご用心。車の運転など、慣れないことには要注意。思わぬハプニングに見舞われるかも?ラッキーカラーはワインレッド。ラッキーナンバーは7・・・』


・・・・・ぅをい!
わたし、おうし座なんですけどっ!!
なんか、コアな部分までめっちゃ当たってない?!これっ!



『・・・獅子座の方。告白するにはいいタイミングかも?意中の方が側にいる時間が長い時は、告白チャンス!思い切ってチャレンジしてみては?思いが通じるかも?ラッキーカラーはグレー、ラッキーナンバーは4』


・・・雫はしし座。
だけど私といるってことは、想いの方とのチャンスってのは来ないわけで。

うわ~…(汗)こういうの信じるタイプだから、この子、これからますます機嫌が悪くなるんじゃないの?!



渋滞に巻き込まれること1時間あまり。

 私達はようやく四日市を抜け、鈴鹿市に入った。
渋滞も和らいで、私達はコンビニへトイレ休憩に入る。


 駐車場へ車を押し込むように停めた雫はサイドブレーキをギュッと掛け、エンジンを切ってから


「ぷっはああぁあ~~~~っ!」

と、めちゃくちゃ大きな息を吐いて私をびっくりさせた。


「…あ~……めっちゃキンチョーしたあ!つ、つかれたあぁ!」

 そのセリフを聞いた私も急に脱力してしまい、ダッシュボードに両腕を付いてがくんと頭をうなだれながらふうぅ~っ!と息を吐く。
とりあえず、、命の危機は過ぎ去ってくれたみたいだ。


「ごめんね、杏奈ちゃん。私、メッチャ久しぶりの運転だったからすんごく緊張してて、話す余裕が無かったぁ」



・・・で、しょうね。


 とても余裕のある運転スタイルには見えなかったよ、雫……(汗)


「ぷっ……あ、あはははははっ☆」

 緊張感から開放されて、今までの雫の運転する姿を思い出し、私は笑いがこみ上げて来るのを押さえきれずに笑いだしてしまった。


「んもう!なによぉ!笑うこと、無いじゃない!」
「ごめんごめん。だって…あははははは……」


 もちろん、いつにない真剣すぎる雫の顔を思い出していたのもあるんだけど、それよりも私が今まで緊張していたことが可笑しくて仕方なかったんだ。

 この子は…何時もと変わりがない、いつもの彼女だったんだ。
それなのに、私と来たら……。





「笑ったお詫びに、ここからは運転代わってあげる。それでいい?」

 私がそ言うと、雫は満面の笑みを浮かべながら大きく頷いた。

 
「運転かわりま~す☆じゃ、ちょっとお手洗い行こっか?」



足取り軽く、私達はコンビニの中へ入っていったのだった。

         
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