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1 恋愛の、スイッチ

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「あ~んなっ☆」

 小学の頃からの幼馴染の雫が、私を見つけて満員電車に飛び込んで来た。
私が入っただけでキツキツな状態なのに、そこへダイブするように飛びこんで来たからたまらない。


むぎゅわああっ!!

 私の後ろ……背後にいる誰だか知らない人が「ぐえはあ!」と、なんか漫画のやられ役のような悲鳴を上げたので反射的に謝りながら、飛びついて来た雫が電車のドアに挟まれないよう、抱きかかえるようにして引っ張り込んだ。


「し~ずぅ~~くぅ~~~っ……貴女ねえ……いい歳なんだから、も少し落ち着きを、だねえ?」
「え~?!朝っぱらから、おせっきょーですかあ?杏奈ちゃん?」

 満員電車の中、夏場の車内はクーラもたいして効かない。
 汗の臭いとオーデコロンや香水、ヘアスプレーの残り香、化粧品、衣類ニオイ消し消毒スプレーなどなど、様々なワンダーワールド的な鼻を突く香りに悩まされつつ、ギュウギュウの状態があと6駅分……続くのだ。

 これを、月曜から金曜まで、桑名方面へ毎日続けながら私達は通勤している。



 高校生の時は逆方向。員弁方向へ通学していたがここまで非道いラッシュにはならなかったから……平日の反対側の通勤なんて、考えたことも無かったし……
 高校生の時はこの北勢線の、なろうゲージという、普通の電車より小さくて可愛い黄色の電車が大好きだったんだけど……満員状態になるとここまで地獄絵図になるなんて、考えもしなかった。



「そうだよね~…。そりゃあ、こんな地獄にいたら、気持ち悪くなったりもするよ、ねえ?」


 だから、夏場は特に女性が貧血状態になったり、気持ち悪くなったりして…
西桑名駅に電車が着いた時の、ドアが開いた瞬間に……ホームへ倒れ込む人がいる……
なんてことはたいして珍しいことでは無かった。



「……これから、仕事するってーのに、ほんと仕事する前に疲れ切っちゃうよ」

「……杏奈ちゃん…なんか、疲れてんの?顔色、あんまし良くなさそーやけど?」

 私の胸の中で(さっき引きよせた結果こうなったゃったんだけども(汗))私を見上げるように雫はまじまじとこちらを見ていた。


「……そりゃ、貴女にボディープレスをされて、お腹に膝がめり込んだんだよ?お腹いっぱい朝ごはんしてきたからさぁ・・・」

「あ…あんな、ちゃん??」

(・・・・・・や、やば……考えたら余計具合が悪くなってきちゃっ…た)


あと、一駅……

がまん……して……



・・・あ…………。



ぐにゃん……



一瞬、私の視界が歪んだ……気がしたら……

ぷわあぁ~~んっ……


耳鳴りが聞こえ始めて、次にさ~~~…っ……
と眼の前にモヤがかかってきて。

 頭の中で音が聞こえるくらい、一気に血の気が引いた。



「…ごめ……貧血…みた…い」

自分で話す言葉まで、遠くから聞える音のようにしか聞こえなくなった私は・・・


 かくん……と、雫にもたれかかるようにして、脚の力が抜けて倒れ込むのをかろうじて防いだんだけど………
雫に私の体重をかけてしまう事になってしまって
、多分彼女も息が出来なく……


「あ、杏奈ちゃんっ?!しっかり……」


『ぼふぉおふぁはひはほぅふぉわいんはひわぁ…にひふわわあん…にひふわわへほはひわふん……』

 車内アナウンスらしい声が、すんごいエコーがかかったマイクから流れて来ているように聞こえ、しばらくしないうちに電車がゆっくり停まった。

ーー プシュー…っ

ががかっ……

 ドアが開き、私と雫は駅のホームに転がるように放り出され……じゃなく、開放された時ドアにもたれ掛かっていたから、私とそれを支えていた雫はドアが開いたと同時に、ホームへ倒れ込んでしまったのだ。




・・・なんだか……私達の周りで何人かが騒いでいる……気がする・・・。

身体の感覚もおかしくなっていて、誰かに運ばれている感じはするけど……目の焦点が合わない。

世界がぼやけて見える・・・

周りがよく見えない・・・。






「……君っ!大丈夫か?!」

突然耳がクリアになったかと思うほど、急に聴覚が戻って来た。

目が回っていたような感覚も収まって、モヤがゆっくり晴れてきた。


……どうやら貧血のピークは過ぎたらしかった。




「……大丈夫かい?自分の名前、言えるかな?」

「安堂杏奈…です」

駅員さんの問い掛けに答えながらゆっくり体を起こす。
…どうやら私は駅員さんに抱きかかえられて、待合室まで運ばれ、この長椅子に寝かされたらしかった。


「……良かった~…。杏奈ちゃんが、復活した」

 私が寝かされた長椅子のすぐ脇で、雫が私を見て安堵のため息をついている。


「……私…雫と一緒に………ホームへ倒れ込んじゃったんじゃ……?」

その辺りまでの記憶はなんとなく記憶にあるんだけど・・・


「……え?あ、うん。大丈夫☆
倒れ込む瞬間、杏奈ちゃんが私を抱き抱えて、自分が下になるようにして倒れてくれたおかげで雫ちゃんは無傷なのです」



・・・え?私…そんな事してたの??
いや……多分、ドアが開く際にドアに体を預けていたから・・・開く時に、ドアに回転を掛けられてそうなっちゃっただけだろう。うん。


……まあ、なんにしても雫を怪我させなくって良かったよ、ほんっとに!



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